使用者は、服務規律や企業秩序を維持するために、労働者に対して、懲戒処分を行うことがあります。この懲戒処分には、様々な種類がありますが、それぞれどのような意味を持つのでしょうか。
今回は、戒告・譴責・減給・出勤停止・降格・諭旨解雇・懲戒解雇などの懲戒の種類について、それぞれの意味を説明します。
懲戒処分とは
懲戒処分とは、従業員の企業秩序違反行為に対する制裁罰としての、労働関係上の不利益措置をいいます。
懲戒の種類には、戒告・譴責・減給・出勤停止・降格・諭旨解雇・懲戒解雇などがあります。
JILPT「従業員の採用と退職に関する実態調査(2014年)」によると、懲戒処分制度の有無について、処分内容ごとに制度の「ある」割合は、①「注意・戒告・譴責」が「79.2%」、②「始末書の提出」が「78.0%」、③「出勤停止」が「72.6%」、④「一時的減給」が「72.2%」、⑤「降格・降職」が「60.7%」、⑥「諭旨解雇」が「60.8%」、⑦「懲戒解雇」が「84.5%」となっています。
(出典:JILPT「従業員の採用と退職に関する実態調査(2014年)」)
更に、同調査によると、ここ5年間で実施した懲戒処分(複数回答)について、「注意・戒告・譴責」が「33.3%」、「始末書の提出」が「42.3%」、「出勤停止」が「12.3%」、「一時的減給」が「19.0%」、「降格・降職」が「14.9%」、「諭旨解雇」が「9.4%」、「懲戒解雇」が「13.2%」、「いずれの懲戒処分も実施していない」が「39.0%」となっています。
(出典:JILPT「従業員の採用と退職に関する実態調査(2014年)」)
懲戒処分に関する就業規則については、以下のような規定をおいている会社が見られます。
第〇条(懲戒の種類)
会社は、労働者が次条のいずれかに該当する場合は、その情状に応じ、次の区分により懲戒を行う。
①けん責
始末書を提出させて将来を戒める。
②減給
始末書を提出させて減給する。ただし、減給は1回の額が平均賃金の1日分の5割を超えることはなく、また、総額が1賃金支払期における賃金総額の1割を超えることはない。
③出勤停止
始末書を提出させるほか、7日間を限度として出勤を停止し、その間の賃金は支給しない。
④降格
始末書を提出させるほか、職位を解任もしくは引き下げ、又は職能資格制度上の資格・等級を引き下げる。
⑤懲戒解雇
予告期間を設けることなく即時に解雇する。この場合において、所轄の労働基準監督署長の認定を受けたときは、解雇予告手当(平均賃金の30日分)を支給しない。
戒告・譴責
戒告とは、将来を戒めるのみで始末書の提出を伴わない処分をいいます。
譴責とは、始末書を提出させて将来を戒める処分をいいます。
戒告と譴責は、これ自体により労働者に対して経済的な実質上の不利益を課すものではありません。しかし、昇給や賞与の査定において不利益に評価される可能性があり、複数回重なることでより重い懲戒処分がなされることがあります。そのため、原則として、訴訟等において、これの無効を確認する利益があるといえます。ただし、既に退職済みの者が譴責処分の無効を確認した事案において、確認の利益を否定した裁判例があります(東京高判平2.7.19労判580号29頁[立川バス事件])。
始末書の提出を拒んだ場合にこれを理由に更に懲戒処分を行うことができるかについては裁判例が分かれていますが、労働者の人格までは支配できないため、その提出を強制することはできず、不提出を理由に更に懲戒することはできないとの考え方が優勢です。
減給
減給とは、労務遂行上の懈怠や職場規律違反に対する制裁として、本来ならばその労働者が現実になした労務提供に対応して受けるべき賃金額から一定額を差し引くことをいいます。
減給は、「1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が1賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならない」とされています(労働基準法91条)。
「1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え…てはならない」とは、1回の事案に対しては減給の総額が平均賃金の1日分の半額以内でなければならないという意味です。
「総額が1賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならない」とは、1賃金支払期に数事案に対する減給をなす場合には、その総額が当該賃金支払期における賃金総額の10分の1以内でなければならないという意味です(昭23.9.20基収1789号)。10分の1を超えて減給する場合には、その部分の減給は次期の賃金支払期に延ばす必要があります。
労働基準法91条(制裁規定の制限)
「就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が1賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならない。」
出勤停止
出勤停止とは、服務規律違反に対する制裁として労働契約を存続させながら労働者の就労を一定期間禁止する処分です。
通常、出勤停止期間中の賃金は支給されず、勤続年数にも算入されません。
出勤停止の期間については、法令上明示の制限はありません。ただし、著しく長期間にわたる場合には、公序良俗(民法90条)により制限される場合があります。多くの会社では7日以内や、10~15日とされています。
もっとも、会社によっては、懲戒休職として、より長期間の就労禁止を定めている場合があります。この場合、多くの会社では、期間は1~3カ月とされています。労働者への不利益が大きくなるため有効性も厳格に判断されます。
降格
降格とは、広義には、役職・職位・職能資格を引き下げる処分です。
これについて、職位を解き若しくは引き下げる処分を「降職」、職能等級制を採用している場合で従業員の職能資格や等級を引き下げる処分を「降格」と区別して呼ぶ場合もあります。
この処分は、一定期間で終了する出勤停止よりも重い処分と言われることもあります。
諭旨解雇
諭旨解雇とは、懲戒解雇事由がある場合でも本人が反省している場合に、解雇事由に関し本人に説諭して解雇する処分です。
諭旨解雇の場合には、懲戒解雇の場合と異なり、退職金を不支給とするのではなく、減額にとどめる会社などが多く見られます。
懲戒解雇
懲戒解雇とは、重大な企業秩序違反者に対する制裁罰としての解雇をいいます。
多くの会社は、懲戒解雇をする際に、解雇予告や解雇予告手当の支払いをしません。もっとも、懲戒解雇の場合、常に、解雇予告や解雇予告手当の支払いが不要ということではありません。
また、多くの会社は、懲戒解雇をした場合には、退職金の全部又は一部を支給しません。もっとも、懲戒解雇の場合、常に、退職金の全部又は一部の不支給が許されるということではありません。
従って、労働者は、懲戒解雇の場合であっても、解雇予告手当や退職金を請求できる場合があります。