使用者は、労働者の借金問題を理由として、懲戒処分をすることはできるのでしょうか。また、懲戒処分が許されるとした場合に、懲戒解雇などの重い処分をすることは許されるのでしょうか。
今回は、借金問題を理由とする懲戒処分について解説します。
債権者が会社に取り立てに来た場合
労働者が、サラ金などで借り入れた金銭を返還することができないと、会社に取り立ての電話が来ることがあります。
このような場合、他の従業員も不安に感じ業務に支障が生じることもあるため、懲戒処分が問題となることがあります。
もっとも、使用者は、労働者が私生活において金銭を借り入れること自体を制限することはできません。また、貸金業法上、「正当な理由がないの、債務者等の勤務先…に電話をかけ、電報を送達し、若しくはファクシミリ装置をお用いて送信し、又は債務者等の勤務先…を訪問する」ことは禁止されています(貸金業法21条3号)ので、債権者が会社に電話をしたり、訪問したりすることについて、労働者に非があるとはいえません。
従って、労働者が借り入れた金銭を返還しないため、会社にサラ金が取り立てに来たとしても、これを理由に懲戒処分をすることは、「客観的に合理的な理由なく、社会通念上相当であると認められない場合」として、懲戒権の濫用として無効になるものと考えられます(労働契約法15条)。
ただし、労働者が債権者からの取り立て行為を止める合理的な手段を取り得る状況にあり、会社からもこれを求められているのに、相当期間にわたり何らの措置を講じないような場合には、懲戒処分が有効とされる余地があります。
給与が差し押さえられた場合
では、労働者の給与が差し押さえられた場合には、使用者は、当該労働者に対して懲戒処分をすることはできるのでしょうか。
確かに、給与債権が差し押さえられることにより、使用者も対応に追われ煩雑ですし、労働者との信頼関係も崩れる場合があります。
しかし、給与債権が差し押さえられたとしても、これにより、企業秩序が侵害されたり、その具体的な危険が生じるとまではいえません。
従って、労働者が給与を差し押さえられても、これを理由に懲戒処分をすることは、「客観的に合理的な理由なく、社会通念上相当であると認められない場合」として、懲戒権の濫用として無効になるものと考えられます(労働契約法15条)。
自己破産した場合
労働者が自己破産した場合についても、給与が差し押さえられた場合と同様、これにより、企業秩序が侵害されたり、その具体的な危険が生じるとまではいえません。
従って、労働者が自己破産をしても、これを理由に懲戒処分をすることは、「客観的に合理的な理由なく、社会通念上相当であると認められない場合」として、懲戒権の濫用として無効になるものと考えられます(労働契約法15条)。
従業員間での金銭貸借があった場合
では、従業員間での金銭貸借については、どうでしょうか。
従業員間の金銭貸借については、就業規則等の服務規律で禁止している場合があり、その違反が懲戒事由とされていることがあります。
従業員間での金銭の貸し借りは、純然たる私的な領域におけるものとはいえず、トラブルになった場合には業務に支障が出る可能性もあります。そのため、このような就業規則の規定も有効でしょう。
従って、使用者は、上記禁止に違反して従業員間で金銭貸借がなされたような場合には、当該労働者に対して懲戒処分をする余地があると考えられます。
特に、暴行や脅迫を用いて金銭を借り入れた場合や、上司がその地位を利用して部下の自由意思を抑圧して金銭を借り入れたような場合には、懲戒解雇等の重い処分も有効とされる可能性があります。