派遣労働者の解雇と雇止めは、正社員の場合と違いはあるのでしょうか。そもそも、派遣労働者の解雇や雇止めをする権限は誰にあるのでしょうか。今回は、派遣労働者の解雇と雇止めについて解説します。
目次
労働者派遣の種類
労働者派遣には、「登録型」と「常用型」があります。
「登録型」(一般労働者派遣事業)とは、派遣元において、派遣を希望する労働者をリストに登録しておき、派遣先が見つかると、上記リストに登録された労働者との間で、当該派遣先に対する派遣期間と同じ期間の労働契約を締結して、当該労働者を派遣先に派遣するものです。
「常用型」(特定労働者派遣事業)とは、派遣元において常時雇用する労働者を派遣先に派遣するものです。
従来は、登録型については雇用が不安定であるため厚生労働大臣の許可が必要であり、常用型については厚生労働大臣への届出で足りるとされていました。もっとも、常用型についても、「常時」には1年間を超えることを予定される短期間のものも含んでいたため、雇用が不安定という問題が存在していました。そのため、平成27年改正において、労働者派遣法においては、登録型と常用型を区別せず、すべての労働者派遣事業を許可性の下に置くこととされました。
派遣労働者の期間途中の解雇
派遣元企業と無期雇用契約を締結している場合
派遣元企業との間で無期雇用契約を締結している場合、派遣元企業による派遣労働者の解雇については、通常どおり、解雇権濫用法理が適用されます。そのため、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当といえる場合でなければ解雇することはできません(労働契約法16条)。
派遣元企業と有期雇用契約を締結している場合
派遣元企業との間で有期雇用契約を締結している場合において、期間途中に派遣元企業が行う派遣労働者の解雇については、「やむを得ない事由」が必要とされます(労働契約法17条)。
では、派遣元と派遣先との間で派遣契約が解消されたことは、派遣労働者を解雇する「やむを得ない事由」となるのでしょうか。
これにつき、派遣契約の解消のみをもって、「やむを得ない事由」があるということはできません。派遣契約の解消に伴う解雇が「やむを得ない事由」に該当するかは、①人員削減の必要性、②解雇回避努力、③被解雇者選択の合理性、④解雇手続の相当性を検討した上で、慎重に判断する必要があります。
派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針(平成11年労告137号)が、派遣元事業主は、労働者派遣契約に定められた派遣契約の途中において派遣労働者の責に帰すべき事由以外の事由によって派遣契約を解除された場合には、派遣先と連携して、派遣先の関連会社での就業をあっせんする等により派遣労働者の新たな就業機会の確保を図るものとしていることについては留意を要します。
なお、派遣労働者の解雇事案の特殊性として、派遣社員の労働実態に関する証拠を派遣先が有しており、派遣元がこれを有していないこと多く、立証に関して派遣先企業の協力が必要になる場合があります。
【福井地決平21.7.23労判984号88頁[ワークプライズ事件]】
派遣元と派遣先との間の派遣契約が解約され、従事させる業務がなくなったからというような理由で、派遣労働者を解雇することはできないとしました。
【宇都宮地栃木支決平21.4.28労判982号[プレミアムライン事件]】
派遣元と派遣先との間の派遣契約の解約に伴う期間途中の解雇につき、整理解雇の4要素に即して、派遣元における①人員削減の必要性、②解雇回避努力、③被解雇者選択の合理性、④解雇手続の相当性を検討した上、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当ともいえないため、「やむを得ない事由」があるとはいえないとしました。
派遣労働者の雇止め
使用者は、①「有期労働契約が…期間の定めのない労働契約…と社会通念上同視できる」場合(労働契約法19条1号)、若しくは②「労働者において…有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由」がある場合(労働契約法19条2号)には、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当といえなければ、労働者の更新の申し込みを承諾したものとみなされます(労働契約法19条)。
雇止めの対象となった派遣労働者が、「派遣先の事業所その他派遣就業の場所における同一の組織単位の業務について継続して一年以上の期間当該労働者派遣に係る労働に従事する見込みがある場合」には、使用者が派遣労働者の雇用安定のための措置を講じていなければ、雇止めが無効とされる可能性があります(労働者派遣法30条1項)。特に、「同一の組織単位の業務について継続して三年間当該労働者派遣に係る労働に従事する見込みがある」場合には、雇用安定のための措置が法的な義務となるため、これを怠ると、雇止めが無効とされる可能性が高まります(労働者派遣法30条2項)。
派遣契約の解消と賃金
派遣元と派遣先との間の契約が解消された場合、その後の賃金を請求することはできるのでしょうか。
これについて、労働者が労務の提供をできないのは、派遣元会社(使用者)の「責めに帰すべき事由」によるものであるため、賃金請求権は消滅しないと解すべきです(民法536条2項、東京地判平20.9.9労経速2025号21頁[浜野マネキン紹介所事件])。
もっとも、特段の事情のない限り賃金請求権は消滅するとして、平均賃金の60%以上の休業手当支払義務のみを認めた裁判例もあります(大阪地判平18.1.6労判913号49頁[三都企画建設事件])。