近年、日本で働く外国人労働者が多く存在しており、日本企業も外国人の採用に積極的な姿勢をみせています。しかし、外国と日本では労働慣行が異なり、これにより様々な問題が生じる場合があります。
それでは、外国人労働者の解雇については、どのように考えていけばいいのでしょうか。日本人労働者の解雇の場合と同様に考えることはできるのでしょうか。
今回は、外国人労働者の解雇について解説します。
外国人労働者の雇用状況について
すべての事業主は、外国人労働者の雇入れ・離職時に、氏名、在留資格、在留期間などを確認し、厚生労働大臣(ハローワーク)へ届け出ることを義務付けられています(労働施策総合推進法28条1項)。
厚生労働省による「『外国人雇用状況』の届け出状況のまとめ【本文】(令和元年10月末現在)」によると、令和元年10月末現在、外国人労働者を雇用している事業所数は242,608か所、外国人労働者数は1,658,804人であり、平成30年10月末現在の216,348か所、1,460,463人に比べ、26,260か所(12.1%)、198,341人(13.6%)の増加となりました。外国人を雇用している事業所数及び外国人労働者数ともに平成19年に届出が義務化されて以降、過去最高の数値を更新しました。
(出典:厚生労働省『外国人雇用状況』の届け出状況のまとめ【本文】(令和元年10月末現在))
労働施策総合推進法第28条(外国人雇用状況の届出等)
1「事業主は、新たに外国人を雇い入れた場合又はその雇用する外国人が離職した場合には、厚生労働省令で定めるところにより、その者の氏名、在留資格(出入国管理及び難民認定法第二条の二第一項に規定する在留資格をいう。次項において同じ。)、在留期間(同条第三項に規定する在留期間をいう。)その他厚生労働省令で定める事項について確認し、当該事項を厚生労働大臣に届け出なければならない。」
2「前項の規定による届出があつたときは、国は、次に掲げる措置を講ずることにより、当該届出に係る外国人の雇用管理の改善の促進又は再就職の促進に努めるものとする。」
一「職業安定機関において、事業主に対して、当該外国人の有する在留資格、知識経験等に応じた適正な雇用管理を行うことについて必要な指導及び助言を行うこと。」
二「職業安定機関において、事業主に対して、その求めに応じて、当該外国人に対する再就職の援助を行うことについて必要な指導及び助言を行うこと。」
三「職業安定機関において、当該外国人の有する能力、在留資格等に応じて、当該外国人に対する雇用情報の提供並びに求人の開拓及び職業紹介を行うこと。」
四「公共職業能力開発施設において必要な職業訓練を行うこと。」
3「国又は地方公共団体に係る外国人の雇入れ又は離職については、第一項の規定は、適用しない。この場合において、国又は地方公共団体の任命権者は、新たに外国人を雇い入れた場合又はその雇用する外国人が離職した場合には、政令で定めるところにより、厚生労働大臣に通知するものとする。」
国際裁判管轄
では、外国人労働者が訴訟を行う場合には、日本の裁判所に管轄はあるのでしょうか。
労働関係に関する事項について労働者の事業主との間に生じた民事に関する紛争については、以下のとおり考えられています。
労働者と使用者が入社時に外国の裁判所にのみ提訴できるとの合意をしていた場合には、以下の場合のみ有効とされています。
①労働契約の終了の時にされた合意であって、その時における労務の提供の地がある国の裁判所に訴えを提起することができる旨を定めたもの(その国の裁判所にのみ訴えを提起することができる旨の合意については、次号に掲げる場合を除き、その国以外の国の裁判所にも訴えを提起することを妨げない旨の合意とみなす。)であるとき
②労働者が当該合意に基づき合意された国の裁判所に訴えを提起したとき、又は事業主が日本若しくは外国の裁判所に訴えを提起した場合において、労働者が当該合意を援用したとき
従って、労働者は、外国の裁判所のみに提訴できるとの合意をした場合であっても、労務の提供地が日本国内にあるときは、日本の裁判所に提訴することができます。
民事訴訟法第3条の4(消費者契約及び労働関係に関する訴えの管轄権)
2「労働契約の存否その他の労働関係に関する事項について個々の労働者と事業主との間に生じた民事に関する紛争(以下「個別労働関係民事紛争」という。)に関する労働者からの事業主に対する訴えは、個別労働関係民事紛争に係る労働契約における労務の提供の地(その地が定まっていない場合にあっては、労働者を雇い入れた事業所の所在地)が日本国内にあるときは、日本の裁判所に提起することができる。」
3「消費者契約に関する事業者からの消費者に対する訴え及び個別労働関係民事紛争に関する事業主からの労働者に対する訴えについては、前条の規定は、適用しない。」
民事訴訟法3条の2(被告の住所等による管轄権)
「裁判所は、人に対する訴えについて、その住所が日本国内にあるとき、住所がない場合又は住所が知れない場合にはその居所が日本国内にあるとき、居所がない場合又は居所が知れない場合には訴えの提起前に日本国内に住所を有していたとき(日本国内に最後に住所を有していた後に外国に住所を有していたときを除く。)は、管轄権を有する。」
民事訴訟法3条の7(管轄権に関する合意)
1「当事者は、合意により、いずれの国の裁判所に訴えを提起することができるかについて定めることができる。」
6「将来において生ずる個別労働関係民事紛争を対象とする第一項の合意は、次に掲げる場合に限り、その効力を有する。」
一「労働契約の終了の時にされた合意であって、その時における労務の提供の地がある国の裁判所に訴えを提起することができる旨を定めたもの(その国の裁判所にのみ訴えを提起することができる旨の合意については、次号に掲げる場合を除き、その国以外の国の裁判所にも訴えを提起することを妨げない旨の合意とみなす。)であるとき。」
二「労働者が当該合意に基づき合意された国の裁判所に訴えを提起したとき、又は事業主が日本若しくは外国の裁判所に訴えを提起した場合において、労働者が当該合意を援用したとき。」
準拠法
公法や絶対的強行規定とされている以下の法については、日本において労務が提供されている限り、労働者が日本人であるか外国人であるかを問わず適用されます。
① 労働基準法
② 最低賃金法
③ 労働安全衛生法
④ 労働者派遣法
⑤ 雇用保険法
⑥ 労災保険法
⑦ 健康保険法
⑧ 厚生年金保険法
これに対して、上記以外の使用者と労働者の関係を規律する労働関係の法については、入社時に選択された地がない場合には、当該労働契約において労務を提供すべき地の法を当該労働契約に最も密接な関係がある地の法と推定され、これに従うことになります(法の適用に関する通則法12条1項、2項)。
入社時に当該契約に最も密接な関係がある地の法以外の方が選択された場合であっては、労働者が当該労働契約に最も密接な関係がある地の法中の特定の強行規定を適用すべき旨の意思を使用者に対し表示したときは、当該強行規定も適用されます(法の適用に関する通則法12条3項)。
法の適用に関する通則法第12条(労働契約の特例)
1「労働契約の成立及び効力について第七条又は第九条の規定による選択又は変更により適用すべき法が当該労働契約に最も密接な関係がある地の法以外の法である場合であっても、労働者が当該労働契約に最も密接な関係がある地の法中の特定の強行規定を適用すべき旨の意思を使用者に対し表示したときは、当該労働契約の成立及び効力に関しその強行規定の定める事項については、その強行規定をも適用する。」
2「前項の規定の適用に当たっては、当該労働契約において労務を提供すべき地の法(その労務を提供すべき地を特定することができない場合にあっては、当該労働者を雇い入れた事業所の所在地の法。次項において同じ。)を当該労働契約に最も密接な関係がある地の法と推定する。」
3「労働契約の成立及び効力について第七条の規定による選択がないときは、当該労働契約の成立及び効力については、第八条第二項の規定にかかわらず、当該労働契約において労務を提供すべき地の法を当該労働契約に最も密接な関係がある地の法と推定する。」
解雇権濫用
労働契約法16条は、解雇が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、解雇権の濫用として無効になるとしています。
外国人労働者であっても、労働契約法16条が適用される場合には、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」に解雇が許されないことは、日本人の場合と同様です。
また、労働基準法3条は、労働者の国籍を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をすることを禁止しています。そして、ここでいう「その他の労働条件」には、解雇に関する条件も含まれます(昭和23.6.16基収1365号、昭和63。3.14基発150号)。
従って、使用者は、労働者の国籍のみを理由として解雇することは許されません。
労働基準法第3条(均等待遇)
「使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない。」
【昭和23.6.16基収1365号、昭和63.3.14基収150号】
「その他の労働条件」には解雇、災害補償、安全衛生、寄宿舎等に関する条件も含む趣旨である。
<新型コロナウイルスと外国人労働者の解雇>
新型コロナウイルスにより会社の経営が悪くなっているときでも、外国人であることを理由として、外国人の労働者を、日本人より不利に扱うことは許されません。
このような場合であっても、会社が外国人の労働者を解雇しようとするときは、日本人の労働者と同じルールを守らなければなりません。
厚生労働省:外国人の皆さんへ(新型コロナウイルス感染症に関する情報)
解雇を争う方法
では、解雇を争うためには、どのような方法をとればいいのでしょうか。
労働者は、解雇を争うには、解雇された理由を知らなければなりません。そのため、まずは、使用者に対して解雇理由証明書の交付を請求することになります。使用者は、労働者から解雇理由証明書の交付を請求された場合には、これを交付しなければなりません(労働基準法22条)。
次に、労働者は、解雇を争う場合には、使用者に対して、就労の意思を明確に示しておくべきです。解雇された後に、長期間これを争わなかったり、生活のために他社で働いていたりすると就労の意思を争われる場合があるためです。具体的には、就労の意思があることを示し、解雇の撤回及び解雇日以降の業務の指示を求めることになります
解雇を争っている期間の生活費を確保する方法は、失業保険の仮給付の受給、賃金の仮払い仮処分、他社への再就職などがあります。どの方法が適切かは事案により異なり、それぞれ留意すべき点があります。
使用者が解雇の撤回に応じない場合には、労働審判や訴訟の提起など裁判所を用いた手段についても検討することになります。