不当解雇の相談を受けていると、解雇を争った場合に、会社から仕返しをされないか不安に感じている方がいます。
しかし、不当解雇を争ったことを理由に労働者を不利益に扱うことは許されません。不当解雇を争うことは、労働者の権利であり、これを躊躇する必要はないのです。
今回は、不当解雇を争った場合に想定される6つの報復とその対処法を解説します。
目次
報復1:配転命令
労働者
不当解雇が無効とされた場合に、嫌がらせで遠方に配転されることはあるのでしょうか。
弁護士
確かに、人事権については、使用者に広い裁量が認められています。しかし、嫌がらせの目的で、労働者を遠方に配転することは許されません。最二小判昭61.7.14集民148号281頁[東亜ペイント事件]は、「業務上の必要性が存する場合であっても、配転命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき」を配転命令が濫用となる特段の事情の例として挙げています。
労働者
なるほど。嫌がらせ目的での配転は、「不当な動機・目的」といえますね。
弁護士
その通りです。そのため、嫌がらせ目的での配転は許されないのです。
労働者
でも、配転命令が嫌がらせ目的であることを立証するのは難しいのではないですか。
弁護士
そうですね、嫌がらせ目的かどうかは、使用者の主観に関わるため直接的な証拠があるとは限りません。もっとも、例えば、解雇が無効とされた直後に、これまでの労働者の経歴や能力と何ら関係ない遠方の部署に配転されたような場合には、嫌がらせ目的を推認する事情になるでしょう。
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報復2:損害賠償請求
労働者
解雇を争った場合に使用者から損害賠償請求をされることはあるのでしょうか。
弁護士
不当解雇を争うこと自体が損害賠償請求の理由になることはありません。そのため、使用者は、不当解雇を争ったことを理由として、労働者に対して、損害賠償請求をすることはできません。
労働者
では、不当解雇を争ったこと自体を理由とするのではなく、過去の私の業務上のミスなどを理由に損害賠償請求されることはありますか。
弁護士
確かに、労働者の業務上のミスを理由に債務不履行責任や不法行為責任を追及してくる使用者も稀にいます。しかし、裁判例は、使用者の労働者に対する損害賠償請求が認められる場合を限定しています。
労働者
具体的には、どのような場合に損害賠償請求が認められるのですか。
弁護士
裁判例の傾向としては、労働者に重大な過失がない場合には損害賠償請求を認めません。また、仮に、重大な過失が認められる場合であっても、宥恕すべき事情や会社側の非を考慮して、労働者の責任を4分の1や2分の1に軽減しています。
労働者
分かりました。ありがとうございます。
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報復3:賃金減額
労働者
不当解雇を争って会社に戻った後に賃金が減額されることはないでしょうか。
弁護士
賃金を減額するには法的根拠が必要となります。理由なく嫌がらせのために賃金を減額することは許されません。
労働者
賃金減額はどのような場合に許されるのですか。
弁護士
例えば、懲戒処分としての降格や減給があります。しかし、嫌がらせ目的で、懲戒処分を行う場合には、客観的に合理的とはいえず社会通念上相当性を欠くものとして、懲戒権の濫用となります。そのため、懲戒処分としての降格や減給は無効になります。
労働者
他に、賃金減額は、どのような場合にされますか。
弁護士
例えば、業務命令としての降格があります。どのような賃金制度がとられているかにより判断方法も異なってきますが、いずれにしろ嫌がらせ目的での降格を命じることはできません。
労働者
よく分かりました。
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報復4:自宅での待機を命じられて出社できない
労働者
解雇が無効とされても出社させてもらえず、自宅待機を命じられることはありますか。
弁護士
確かに、使用者によっては、解雇が無効とされた後も、労働者の会社復帰を認めない場合があります。
労働者
会社復帰を認めないことは許されるのでしょうか。
弁護士
労働者の就労請求権は原則として認められない傾向にあります。そのため、会社復帰を認めないことが直ちに違法になるとは限りません。もっとも、その場合、労働者が就労できないのは会社の責めに帰すべき事由によるものですから、労働者は、出社できない期間の賃金を請求することができます。
労働者
なるほど。自宅待機を命じられて出社できない場合でも、賃金を請求することができるのですね。
弁護士
その通りです。
報復5:いじめ・雑用指示
労働者
解雇が無効とされて会社に戻れたとしても、会社でいじめられたり、雑用を指示されたりすることはないでしょうか。
弁護士
裁判例は、他人に心理的負荷を過度に蓄積させるような行為は、原則として違法になるとしています。そのため、解雇が無効とされて会社に戻った後に、いじめや雑用指示を行うことは許されません。
労働者
例外的にそのような行為が認められる場合はあるのですか。
弁護士
その行為が合理的な理由に基づいて、一般的に妥当な方法と程度で行われた場合には、正当な職務行為として、違法ではないとされることがあります。しかし、嫌がらせ目的で、いじめや雑用指示をする場合に、正当な職務行為とされることはないでしょう。
労働者
よく分かりました。
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報復6:悪い噂の流布
労働者
使用者から悪い噂を流されることはないでしょうか。あまり裁判で会社と争ったことなどを他の人に言わないでほしいのですが。
弁護士
使用者が、第三者にどのような発言をするのかにもよりますが、嫌がらせ目的で悪い噂を流布するというのは、名誉毀損等に該当しますので、許されません。仮に、このような行為が行われた場合には不法行為として損害賠償の対象となります。
労働者
なるほど。
弁護士
また、使用者と和解するような場合には、通常、守秘義務条項をいれます。そのため、労働者と使用者は、和解の内容や経緯を正当な理由なく口外することが禁止されます。
労働者
そうすると、いずれにせよ、使用者が、嫌がらせ目的で悪い噂を流すことは許されないのですね。
弁護士
その通りです。また、使用者は、そのような噂を流したとしてもメリットがない反面、損害賠償等のリスクがあるので、通常は嫌がらせのために悪いうわさを流そうとは考えません。
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報復への対抗策
対策1:弁護士に依頼する
労働者
不当解雇を争ったことに対する報復が許されないのは分かりました。ただ、実際に報復があった場合に備えてどのような対策を講じておけばいいのでしょうか。
弁護士
一番の対策は、弁護士に不当解雇の交渉を依頼することです。代理人弁護士が交渉すれば、仮に使用者から損害賠償請求をされたり、解雇の向こうが確認された後の報復を仄めかされたりしても、適切に対応することができます。
労働者
それはそうですね、仕返しが許されないことは分かっていても、自分では使用者を説得できる自信がありません。
対策2:報復をやめるように通知する
労働者
他には、何か対策はありますか。
弁護士
報復をされた場合や報復を仄めかされたりした場合には、報復をやめるように文書で通知するべきでしょう。
労働者
なるほど。口頭ではなく、文書の方がいいのですか。
弁護士
そうですね。使用者がこのような通知を受領しながら報復行為をやめなければ使用者の悪質性を基礎づける事情となるでしょうし、またこのような通知自体が報復行為を争う場合の証拠となります。また、使用者も文書で通知が届けば、多くの場合、顧問弁護士に相談します。そのため、使用者は、報復行為は法的に許されない旨を顧問弁護士から指導されることになる可能性が高いです。
労働者
分かりました。具体的には、どのような通知を送付すればいいのですか。
弁護士
以下のような通知を送る場合が多いでしょう。
【記載例】
対策3:証拠に残しておく
労働者
使用者からの報復について気を付けておくべきことはありますか。
弁護士
使用者による行為が「労働者への嫌がらせを目的」として行われたことを立証するための証拠を残しておくといいでしょう。
労働者
どのような証拠が考えられますか。
弁護士
まず、録音が考えられます。使用者が、「自分の権利ばかり主張しやがって。覚えていろよ。」などと発言していた場合には、報復行為が嫌がらせ目的であることを推認する証拠となります。
労働者
そういえば。似たようなことを使用者に言われました。もっとも、とっさのことで録音はできなかったのですが…。録音できなかった場合はどうすればいいですか。
弁護士
そのような場合には、日記や手帳にメモをすることが考えられます。期間が経った後に発言内容を思い出そうとしても、記憶は劣化してしまいますので、記憶が新しいうちに残しておくことが重要となります。
労働者
なるほど。他に考えられる証拠はありますか。
弁護士
例えば、使用者からのメールなどが考えられます。メールで上記発言と同様の文章を記載したような場合にも証拠となります。
労働者
よく分かりました。ありがとうございます。
対策4:法的手続を行う
労働者
使用者が通知などの対策を講じても、報復行為をやめない場合はどうすればいいですか。
弁護士
そのような場合には、法的手続きを取ることが考えられます。報復行為が濫用であるとして無効であることを確認したり、違法であることを理由として損害賠償請求をしたりすることになります。