会社で固定残業代性がとられている場合がありますが、その固定残業代が想定する残業時間が長時間にわたることがあります。
もっとも、法律が想定しないような長時間の残業を前提とすることは許されるのでしょうか。
今回は、長時間分の固定残業代の有効性について解説します。
残業時間の平均や生活、健康への影響については、以下の動画で詳しく解説しています。
固定残業代で想定される残業時間の実態
固定残業代とは、基本給の一部に定額の残業代を含めて支給したり、基本給とは別に低額の手当を残業代として支給したりするものです。みなし残業代と呼ばれる場合もあります。固定残業代自体は違法とはされていませんが、就業規則等による労使間の合意や固定残業代が明確に区分できることが必要とされており、固定残業代が有効な場合にも法律上支払うべき残業代に満たない場合にはその差額を清算する必要があります。
東京都産業労働局による「労働時間管理に関する実態調査」では、「一定時間数分を定額で支給し、これを超えた時間について支払う」際の「一定時間数」については、「40時間以上」との回答は「13.1%」となっています。
(出典:東京都産業労働局:「労働時間管理に関する実態調査」第3章従業員調査の集計結果)
長時間分の固定残業代の有効性
会社の支払う固定残業代が有効といえるには、先ほど説明したように、残業の対価であることについての合意があることと、通常の賃金部分と残業代部分が明確に区分できることが必要です。
そうであるとすれば、固定残業代で想定される残業時間が長時間にわたる場合であっても、就業規則などで固定残業代制度が規定されていて、残業代部分が通常の賃金部分と区別できるのであれば、有効であるとも思います。
しかし、会社が36協定で延長して労働させることができる限度時間は、1か月について45時間とされています(労働基準法36条4項)。
また、平成13年12月12日基発第1063号「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準について」によると、おおむね1か月あたり45時間を超えて時間外労働が長くなるほど、業務と脳・心臓疾患の発症との関連性が徐々に強まるとされています。
そのため、1か月あたり45時間を大きく超えるような残業時間分の固定残業代については、このような法令の趣旨に反し無効となる余地があります。
100時間分の固定残業代を無効とした裁判例
裁判例には、1か月あたり100時間分に相当する固定残業代の支払いを無効としたものがあります(東京高判平26.11.26労判1110号46頁[マーケティングインフォメーションコミュニティ事件])。
ガソリンスタンドに勤務する従業員(基本給月24万5000円程度、営業手当月18万円程度)が会社に対して残業代の請求をした事案について、会社は営業手当が固定残業代に該当すると反論をしました。
これについて、裁判所は、所定労働時間数を月173時間として算出すると、営業手当は、おおむね100時間の時間外労働に対する割増賃金の額に相当することになるとしたうえで、
法令の趣旨に反する恒常的な長時間労働を是認する趣旨で、営業手当の支払いが合意されていたと認めることは困難であるため、営業手当全額が割増賃金の対価と解釈することはできないとしました。
そのうえで、営業手当の内、割増賃金に相当する部分とそれ以外の部分についての区別が明確になっていないから、これを割増賃金の支払いと認めることはできないとしています。