労働災害

【誰でもわかる】うつ病や適応障害で労災が認められる6つのケース

 うつ病や適応障害などの精神疾患で労災は適用されるのでしょうか。精神疾患の場合には、特にそれが業務により生じたものなのかどうかが問題となります。
 今回は、うつ病や適応障害で労災が認められる6つのケースを紹介します。

精神障害の労災補償状況

 厚生労働省による「精神障害に関する事案の労災補償状況」をみると、「請求件数」は、「平成27年度」が「1515件」、「平成28年度」が「1586件」、「平成29年度」が「1732件」、「平成30年度」が「1820件」、「令和元年度」が「2060件」となっており、毎年上昇し続けております
 うち支給決定件数をみると、「平成27年度」は「472件」、「平成28年度」は「498件」、「平成29年度」は「506件」、「平成30年度」は「465件」、「令和元年度」は「509件」となっており、上昇傾向にあります。
出典:厚生労働省 精神障害に関する労災補償状況

労災が認められるケース

 労災が認められるには、うつ病や適応障害の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められることが必要です。
 具体的には、以下のような場合に業務起因性が認められやすい傾向にあります。

ケース1:事故や災害の体験

例1 長期間(おおむね2か月以上)の入院を要する、又は労災の障害年金に該当する若しくは原職への復帰ができなくなる後遺障害を残すような業務上の病気やケガをした場合

例2 業務上の傷病により6か月を超えて療養中の者について、当該傷病により社会復帰が困難な状況にあった、死の恐怖や強い苦痛が生じた

例3 業務に関連し、本人の負傷は軽度・無傷であったが、自らの死を予感させる程度の事故等を体験した

例4 業務に関連し、被害者が死亡する事故、多量の出血を伴うような事故等特に悲惨な事故であって、本人が巻き込まれる可能性がある状況や、本人が被害者を救助することができたかもしれない状況を伴う事故を目撃した

ケース2:仕事の失敗、過重な責任の発生等

例1 業務に関連し、他人に重度の病気やケガ(長期間(おおむね2か月以上)の入院を要する、又は労災の障害年金に該当する若しくは原職への復帰ができなくなる後遺障害を残すような病気やケガ)を負わせ、事後対応にも当たった

例2 他人に負わせたケガの程度は重度ではないが、事後対応に多大な労力を費した(減給、降格等の重いペナルティを課された、職場の人間関係が著しく悪化し等を含む)

例3 会社の経営に影響するなどの重大な仕事上のミス(倒産を招きかねないミス、大幅な業績悪化に繋がるミス、会社の信用を著しく傷つけるミス等)をし、事後対応にも当たった

例4 「会社の経営に影響するなどの重大な仕事上のミス」とまでは言えないが、その事後対応に多大な労力を費やした(懲戒処分、降格、月給額を超える賠償責任の追及等重いペナルティを課された、職場の人間関係が著しく悪化した等を含む)

例5 重大な事故、事件(倒産を招きかねない事態や大幅な業績悪化に繋がる事態、会社の信用を著しく傷つける事態、他人を死亡させ、又は生死にかかわるけがを負わせる事態等)の責任(監督責任等)を問われ、事後対応に多大な労力を費やした

例6 重大とまではいえない事故、事件ではあるが、その責任(監督責任等)を問われ、立場や職責を大きく上回る事後対応を行った(減給、降格等の重いペナルティが課された等を含む)

例7 会社の経営に影響するなどの特に多額の損失(倒産を招きかねない損失、大幅な業績悪化に繋がる損失等)が生じ、倒産を回避するための金融機関や取引先への対応等の事後対応に多大な労力を費やした

例8 経営に影響するようなノルマ(達成できなかったことにより倒産を招きかねないもの、大幅な業績悪化につながるもの、会社の信用を著しく傷つけるもの等)が達成できず、そのため、事後対応に多大な労力を費やした(懲戒処分、降格、左遷、賠償責任の追及等重いペナルティを課された等を含む)

例9 経営に重大な影響のある新規事業等(失敗した場合に倒産を招きかねないもの、大幅な業績悪化に繋がるもの、会社の信用を著しく傷つけるもの、成功した場合に会社の新たな主要事業になるもの等)の担当であって、事業の成否に重大な責任のある立場に就き、当該業務に当たった

例10 通常なら拒むことが明らかな注文(業績の著しい悪化が予想される注文、違法行為が内包する注文等)ではあるが、重要な顧客や取引先からのものであるためこれを受け、他部門や別の取引先と困難な調整に当たった

ケース3:仕事の量・質

例1 仕事量が著しく増加して時間外労働も大幅に増える(倍以上に増加し、1月当たりおおむね100時間以上となる)などの状況になり、その後の業務に多大な労力を費やした(休憩・休日を確保するのが困難なほどの状態となった等を含む)

例2 過去に経験したことがない仕事内容に変更となり、常時緊張を強いられる状態となった

例3 発病直前の連続した2か月間に、1月当たりおおむね120時間以上の時間外労働を行い、その業務内容が通常その程度の労働時間を要するものであった

例4 発病直前の連続した3か月間に、1月当たりおおむね100時間以上の時間外労働を行い、その業務内容が通常その程度の労働時間を要するものであった

例5 1か月以上にわたって連続勤務を行った

例6 2週間(12日)以上にわたって連続勤務を行い、その間、連日、深夜時間帯に及ぶ時間外労働を行った

ケース4:役割・地位の変化等

例1 退職の意思のないことを表明しているにもかかわらず、執拗に退職を求められた

例2 恐怖感を抱かせる方法を用いて退職勧奨された

例3 突然解雇の通告を受け、何ら理由が説明されることなく、説明を求めても応じられず、撤回されることもなかった

例4 過去に経験した業務と全く異なる質の業務に従事することとなったため配置転換後の業務に対応するのに多大な労力を費やした

例5 配置転換後の地位が、過去の経験からみて異例なほど重い責任が課されるものであった

例6 左遷された(明らかな降格であって配置転換としては異例なものであり、職場内で孤立した状況となった)

例7 転勤先は初めて赴任する外国であって現地の職員との会話が不能、治安状況が不安といったような事情から、転勤後の業務遂行に著しい困難を伴った

例8 業務を一人で担当するようになったため、業務量が著しく増加し時間外労働が大幅に増えるなどの状況になり、かつ、必要な休憩・休日も取れない等常時緊張を強いられるような状態となった

例9 仕事上の差別、不利益取扱いの程度が著しく大きく、人格を否定するようなものであって、かつこれが継続した

ケース5:対人関係

例1 部下に対する上司の言動が、業務指導の範囲を逸脱しており、その中に人格や人間性を否定するような言動が含まれ、かつ、これが執拗に行われた

例2 同僚等による多人数が結託しての人格や人間性を否定するような言動が執拗に行われた

例3 治療を要する程度の暴行を受けた

例4 業務をめぐる方針等において、周囲からも客観的に認識されるような大きな対立が上司との間に生じ、その後の業務に大きな支障を来した

例5 業務をめぐる方針等において、周囲からも客観的に認識されるような大きな対立が多数の同僚との間に生じ、その後の業務に大きな支障を来した

例6 業務をめぐる方針等において、周囲からも客観的に認識されるような大きな対立が多数の部下との間に生じ、その後の業務に大きな支障を来した

ケース6:セクシュアルハラスメント

例1 胸や腰等への身体接触を含むセクシュアルハラスメントであって、継続して行われた場合

例2 胸や腰等への身体接触を含むセクシュアルハラスメントであって、行為は継続していないが、会社に相談しても適切な対応がなく、改善されなかった又は会社への相談等の後に職場の人間関係が悪化した場合

例3 身体接触のない性的な発言のみのセクシュアルハラスメントであって、発言の中に人格を否定するようなものを含み、かつ継続してなされた場合

例4 身体接触のない性的な発言のみのセクシュアルハラスメントであって、性的な発言が継続してなされ、かつ会社がセクシュアルハラスメントがあると把握していても適切な対応がなく、改善がなされなかった場合

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労災が認められないケース

 もっとも、業務による強い心理的負荷が認められたとしても、発病前6か月の間に、以下のような業務以外の出来事がある場合には、労災が認められないことがあります。

・離婚又は夫婦が別居した
・自分が重い病気やケガをした又は流産した
・配偶者や子供、親又は兄弟が死亡した
・配偶者や子供が重い病気やケガをした
・親類の誰かで世間的にまずいことをした人が出た
・多額の財産を損失した又は突然大きな支出があった
・天災や火災などにあった又は犯罪に巻き込まれた

まとめ

  労働者
  労働者
会社の仕事が大変でうつ病になってしまったのですが、労災はどのような場合におりるのでしょうか。
弁護士
弁護士
労災が認められるには、発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められることが必要です。
 労働者
 労働者
どのような場合に認められるのでしょうか。
弁護士
弁護士
それについては、行政通達(平成23年12月26日基発第1226第1号「心理的負荷による精神障害の認定基準について」)が参考になります。①事故や災害の体験、②仕事の失敗、加重な責任の発生等、③仕事の量・質、④役割・地位の変化等、⑤対人関係、⑥セクシュアルハラスメントなど出来事の内、特に心理的負荷が重いものについて、心理的負荷の強度が「強」とされています。
  労働者
  労働者
なるほど。心理的負荷が強い出来事があれば、労災はおりるのですか。
弁護士
弁護士
必ず労災が適用されるわけではありません。業務以外でも、心理的負荷が重い事実があったような場合には、労災の適用が否定されることがあります。
  労働者
  労働者
よく分かりました。ありがとうございます。

参考リンク

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弁護士 籾山善臣
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