パワハラを理由にクビにされてしまい困っていませんか?
いきなりパワハラと言われても、身に覚えがない方や言い分がある方も多いでしょう。
パワハラについても、その程度次第ではクビにされてしまうことがあります。
しかし、パワハラによるクビは、基準を満たしていなければ、不当解雇となります。
もし、労働者がパワハラを理由に解雇になった場合には、安易な発言や態様は控え、焦らずに冷静に対処していく必要があります。
実は、昨今、パワハラと言えないような事情を解雇理由としてきたり、被害者とされる方の発言のみを信じて解雇してきたりする会社が増えてきています。
コンプライアンス意識の高まりに乗じて、パワハラが解雇をするための方便として使われているように見受けられる事例も増えてきました。
この記事をとおして、パワハラを理由にクビにされてしまった場合に是非知っておいていただきたい知識や注意点をわかりやすく説明していくことができれば幸いです。
今回は、パワハラでクビになった場合について、不当解雇の基準や判例と簡単な対処法4つを解説していきます。
具体的には、以下の流れで説明していきます。
この記事を読めば、パワハラでクビになった場合にどうすればいいのかがよくわかるはずです。
目次
パワハラでクビになる?
パワハラについても、その程度次第では、クビにされてしまうことがあります。
コンプライアンスについての意識が高まってきており、それに伴い、パワハラを行う従業員の雇用を継続することが難しいと判断されてしまうことがあるためです。
例えば、よくあるのが部下から、人事部やハラスメント窓口に、パワハラをされているとの申告がされるケースです。
あまり関係がよくなかったり、恨みをかっていたりすると、報復目的で告発をされてしまうことも珍しくありません。
このような報告があると会社側は調査を行い、その調査結果に基づいて、処分や対応を検討することになります。
そのため、重大なパワハラ行為があったとの認定がされれば、解雇に至ってしまうこともあります。
ただし、昨今では、パワハラを解雇するための方便として言っているにすぎないような会社も見受けられます。
会社は、退職させると決めた労働者について、部下や関係者から、解雇する理由がないかヒアリングを行うこともあります。
その際に、部下から、あなたへの不満などがあると、パワハラとしてこじつけようとするのです。
パワハラによるクビと不当解雇の基準
パワハラによるクビは、基準を満たしていなければ、不当解雇となります。
会社が労働者を解雇するには厳格な規制があり、客観的に合理的な理由がなく社会通念上相当といえなければ、解雇は不当となるためです。
具体的には、パワハラによるクビと不当解雇の基準について整理すると以下のとおりです。
犯罪行為に該当するパワハラ|有効となりやすい
繰り返される執拗なパワハラ|有効となりやすい
嫌味を言った程度の初回のパワハラ|無効となりやすい
適正な業務指導|無効となりやすい
それでは、これらについて順番に説明していきます。
犯罪行為に該当するパワハラ|有効となりやすい
犯罪行為に該当するようなパワハラについては、解雇は有効となりやすいです。
企業秩序への悪影響が著しく、業務への支障も大きいためです。
例えば、部下を殴ったり、叩いたりと言った行為は、暴行や傷害として犯罪に該当するパワハラになりますので、解雇が有効となりやすいでしょう。
また、「次にミスしたらそこの窓から飛び降りてもらう」などの発言も、脅迫として犯罪に該当するパワハラになりますので、解雇が有効となりやすいでしょう。
繰り返される執拗なパワハラ|有効となりやすい
繰り返される執拗なパワハラについては、解雇は有効となりやすいです。
嫌がらせや強い叱責などの犯罪行為とは言えないようなパワハラは、注意や改善指導がされた後も、繰り返し行われるような場合には解雇が有効となる可能性があります。
嫌がらせや強い叱責が行われると職場環境が悪くなり業務に支障が生じますし、注意しても治らないようであれば、雇用を継続することが難しい場合も出てくるためです。
例えば、ミスをした部下に対して大声で怒鳴りつけたり、ミスをした部下に1日中シュレッダーだけを行っているように命じたりした場合などです。
会社から態度を改めるように注意された後も、同じようなことを繰り返すと、降格や異動を検討されることが多く、これが困難だと解雇される傾向にあります。
嫌味を言った程度のパワハラ|無効となりやすい
嫌味を言った程度の初回のパワハラについては、解雇は無効となりやすい傾向にあります。
会話をしていれば、意図せずとも言い方が嫌味っぽくなってしまうことはありますし、業務への支障も大きいとは言えないためです。
例えば、「新人の方がまだ仕事ができる」、「何のために会社が給料を払っていると思っているんだ」等の発言をした場合です。
これらの発言を受けた部下は不快に感じるでしょうし、このような発言が繰り返されれば雰囲気も悪くなります。
しかし、このような発言を理由に解雇をすることは難しいでしょう。
適正な業務指導|無効となりやすい
適正な業務指導の範囲内の発言や態様については、無効となりやすいです。
業務指導を行う際には、ときに言い方が厳しくなってしまうこともあるでしょう。
指導を行うに至った経緯や指導の内容によっては、厳しい言い方であったとしても、業務指導の範囲内としてパワハラには該当しないとされることもあります。
例えば、危険な作業を行う現場度では、ミスをすることに大きな事故につながるようなこともあります。
このような場合には指導をする際の口調が強くなってしまったとしても、業務指導の範囲内とされることが多いでしょう。
パワハラによる解雇の判例(事例)
パワハラによる解雇の判例については、一定の蓄積が見られます。
実際にパワハラによる解雇の有効性が争われた事案を見ることで、判例がどのような事情を重視しているかが分かってきます。
以下では、パワハラによる解雇の裁判例について3つ厳選して紹介していきます。
大阪地判平19.8.30労判957号65頁[豊中市不動産事業協同組合事件]
【事案】
被告(会社)の事務局長である原告が、事務職員Bに対し、暴行や侮辱的な言動を行い、職場での秩序を著しく乱したとして、懲戒処分として諭旨退職を命じられました。
具体的には、原告は勤務中にBの肩を突き、大声で怒鳴り続け、さらにBに向かって蹴り掛かる暴行を加えた結果、Bに打撲傷を負わせました。
本件において、原告が懲戒処分を受けるに至る行為の適法性や処分の妥当性が争点となりました。
【結論】
原告の行為は就業規則に定められた懲戒事由に該当し、諭旨退職の懲戒処分は客観的に合理的な理由を有し、社会通念上相当性を欠くものではないと判断されました。
したがって、懲戒処分は有効であると認められました。
【理由】
[原告の行為の重大性]
・原告は事務局長として他の職員を指導する立場にありながら、Bに対して複数回の暴行(肩を突く、蹴り掛かる)を加え、大声で怒鳴り続けるという言動を行いました。この行為により、Bは身体的な傷害(打撲)を負い、さらに精神的苦痛や恐怖心を抱くに至りました。
・原告の行為は、就業規則の懲戒事由である「素行不良、及び風紀秩序を乱す行為」「刑法に触れる行為」に該当すると認定されました。
[Bの言動に非がないこと]
・原告の暴行や怒鳴り声に対して、Bが「本音を吐いたわね」と発言しましたが、この発言が原告の暴行を正当化する理由にはならないと判断されました。
[過去の問題行動]
・原告はこれまでも複数回、同僚に対して怒鳴りつけたり罵倒したりする行為を繰り返しており、職場の秩序を乱しておりました。また、事務局長就任時に理事長から注意を受けていたにもかかわらず、改善が見られなかったことが認められました。
[反省の欠如]
・本件事件直後、原告は理事長らに暴行を認める趣旨の話をしていたものの、その後否定に転じました。また、被害者Bに対して事件後も謝罪の意を示しておりません。
[処分の妥当性]
原告は3年以上勤務し、職務能力が高く評価されておりましたが、本件の暴行や過去の問題行動を考慮すれば、諭旨退職処分は懲戒権の濫用とはいえません。処分は客観的に合理的であり、社会通念上も相当性を欠いていないと認められました。
東京地判平15.9.22労判870号83頁[グレイワールドワイド事件]
【事案】
原告は、就業時間中に取引先や競合会社の従業員を含む友人らに対し、私用メールを送信していました。
そのメールには、被告の人事への不満や、「アホバカCEO」や「気違いに刃物(権力)」といった上司への批判が含まれており、これが被告の対外的信用を損ねかねない内容であったとされました。
【結論】
本件解雇は解雇権の濫用にあたり無効と判断されました。
【理由】
私用メールの送受信行為自体は直ちに職務専念義務違反には該当しないものの、その内容が使用者に対する誠実義務に反する点で問題視されました。
しかし、原告が約22年間被告で勤務し、特段の非違行為もなく、良好な勤務実績を挙げていたことが考慮されました。
この点から、本件解雇は客観的合理性及び社会的相当性を欠き、解雇権の濫用にあたると評価されました。
東京地判平28.11.16労経速2299号12頁[ディーコープ事件]
【事案】
原告は、部下4名に対して業務指導を超える人格や尊厳を傷つける言動を繰り返し、精神的苦痛を与えました。
その行為により、1名が適応障害を発症し傷病休暇を取得し、他の1名は異動を余儀なくされました。
原告は過去にも同様のハラスメント行為で厳重注意を受けたにもかかわらず、再び問題行動に及びました。
【結論】
原告の一連の行為は、就業規則に違反し、懲戒処分および解雇の対象となるものであり、本件解雇は客観的に合理的であり、社会通念上も相当であると判断されました。
【理由】
[ハラスメントの悪質性]
・原告の行為は業務指導の範疇を逸脱し、人格や尊厳を傷つけるもので、重大な精神的苦痛を部下に与えました。短期間に複数の部下に対してハラスメントを繰り返した点も悪質です。
[反省の欠如と再発可能性]
・原告は自身の行動を正当化し、全く反省の態度を示しておらず、今後も同様の行為を繰り返す可能性が高いと認められます。
[職場環境への影響]
・被告は職場環境を守る信義則上の義務を負っており、原告の継続雇用が職場全体の健全性に悪影響を及ぼす可能性があると判断されました。
パワハラでクビになった場合の対処法
もし、労働者がパワハラを理由に解雇になった場合には、安易な発言や態様は控え、焦らずに冷静に対処していく必要があります。
よく考えずに会社の言われるままに対応していると、不利な証拠を作られてしまい、解雇が有効であることを前提に退職手続きを進められてしまうことが多いためです。
具体的には、パワハラでクビになった場合には、以下の手順で対処していきましょう。
手順1:弁護士に相談する
手順2:証拠を保全する
手順3:交渉する
手順4:労働審判・訴訟を提起する
それでは、これらの手順について順番に説明していきます。
手順1:弁護士に相談する
パワハラでクビになった場合の対処手順の1つ目は、弁護士に相談することです。
パワハラの有無や内容を踏まえて、見通しやリスクを分析して慎重に対応していくべきだからです。
会社に対して一度発言した内容や態様は後から撤回することは容易ではありません。
とくにハラスメントの事案については、ハラスメントを指摘された後の自分自身の発言や態様が自身に不利な証拠として提出されるケースが圧倒的に多いのです。
私が多くのハラスメント解雇の相談を受ける中でも、もっと早く相談していただきたかったと感じることが少なくなりません。
そのため、パワハラでクビを言い渡されても、その場では何も回答せず、「弁護士に相談したうえで回答します。」とだけ答えて、一度持ち帰るべきなのです。
手順2:証拠を保全する
パワハラでクビになった場合の対処手順の2つ目は、証拠を保全することです。
パワハラによる解雇に関しては、何月何日にあなたが、どこで、誰に対して、どのようなことを行ったのかということを1つずつ審理していくことになります。
会社側は、あなたの行動や発言の一部のみを切り取って、証拠としてくることもよくあります。
解雇された後になってしまうと、メールやチャットを確認することが難しくなってしまい、正確な記憶に基づいて前後の文脈を説明することなども難しくなっていきます。
そのため、自分自身の身を守るためには、指摘される可能性がある出来事について、その日どこで何をしていたか、どのような発言をして、それはどのような文脈だったのかなどを説明できるように準備しておくべきなのです。
また、被害者とされる従業員と親しいやり取りなどをしていた場合は、良好な人間関係を築けていた証拠になりますので、LINEなどは削除しないよう注意しましょう。
ただし、事案によって集めるべき証拠も変わってきますので、弁護士にどのような証拠があるといいのか確認しておくといいでしょう。
手順3:交渉する
パワハラでクビになった場合の対処手順の3つ目は、交渉することです。
まずは、会社に対して、解雇が不当であるとの通知書を送付しましょう。併せて、解雇理由証明書の交付を求めるといいでしょう。
解雇理由が具体的に明らかになれば、労働者としてもどのような主張や証拠を準備すればいいのかが分かるためです。
そのうえで、一度、会社側と話し合いにより折り合いをつけることが可能かどうか協議してみるといいでしょう。
示談が成立すれば、早期に少ない負担で良い解決をすることができる可能性があるためです。
手順4:労働審判・訴訟を提起する
パワハラでクビを言い渡された際の対処手順の4つ目は、労働審判又は訴訟を提起することです。
話し合いにより解決することが難しい場合には、裁判所を用いた解決を検討することになります。
労働審判は、全三回の期日で調停による解決を目指す手続きであり、調停が成立しない場合には労働審判委員会が審判を下します。迅速、かつ、適正に解決することが期待できます。
労働審判については、以下の記事で詳しく解説しています。
労働審判については、以下の動画でも詳しく解説しています。
訴訟は、期日の回数の制限などは特にありません。1か月に1回程度の頻度で期日が入ることになり、交互に主張を繰り返していくことになります。解決まで1年程度を要することもあります。
解雇の裁判については、以下の記事で詳しく解説しています。
パワハラによるクビとよくある疑問4つ
パワハラによるクビについて、よくある疑問としては以下の4つがあります。
Q1:パワハラによるクビは懲戒解雇となる?
Q2:パワハラでクビにされると退職金はでない?
Q3:パワハラでクビになると再就職できない?
Q4:パワハラで解雇された場合の失業保険は?
それでは、これらの疑問について順番に解消していきましょう。
Q1:パワハラによるクビは懲戒解雇となる?
A.パワハラによるクビについては、懲戒解雇とされることもあります。
企業秩序を害するため非違行為として、懲戒事由とされていることが多いためです。
ただし、懲戒解雇の方が、普通解雇よりも厳格に解されることが多いので、不当と判断されやすいです。
最近では、懲戒解雇が不当とされた場合に備えて、懲戒解雇としつつ、予備的に普通解雇とされることもあります。
懲戒解雇が無効な場合に備えて、普通解雇もしておくという意味です。
Q2:パワハラでクビにされると退職金はでない?
A.パワハラでクビになった場合の退職金の扱いは、懲戒解雇か普通解雇かで異なることが多いです。
退職金については、会社ごとに退職金規程に従い処理されることになります。
多くの会社では、懲戒解雇となった場合には、退職金を不支給又は減額とする旨が規定されています。
そのため、パワハラで懲戒解雇された場合には、退職金が不支給又は減額されることが多いのです。
ただし、懲戒解雇の場合でも、永年の勤続の功を抹消してしまうほどの重大な不信行為がないと全額不支給は許されないとされています。
懲戒解雇と退職金については、以下の記事で詳しく解説しています。
Q3:パワハラでクビになると再就職できない?
A.パワハラでクビになったとしても、再就職できないということにはなりません。
履歴書については、職務経歴については「退職」との記載にとどめることが多いです。
ただし、採用面接で前職の退職理由を聞かれた際には、嘘をつくことは許されませんので、採用の可否に悪影響が生じる可能性はあります。
懲戒解雇と再就職については、以下の記事で詳しく解説しています。
Q4:パワハラで解雇された場合の失業保険は?
A.パワハラで解雇された場合には、会社都合となる可能性も、自己都合となる可能性もあります。
原則として、解雇については、失業保険上、会社都合退職との扱いになります。
ただし、例外的に、労働者の責めに帰すべき重大な理由による解雇とされる場合には、「重責解雇」にチェックされ、自己都合と扱われることがあります。
重責解雇は、刑法の規定違反、重大な就業規則違反などの場合にチェックされる項目ですので、これにチェックされるかはパワハラの内容等にもよるでしょう。
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まとめ
以上のとおり、今回は、パワハラでクビになった場合について、不当解雇の基準や判例と簡単な対処法4つを解説しました。
この記事の要点を簡単に整理すると以下のとおりです。
・パワハラについても、その程度次第では、クビにされてしまうことがあります。
・パワハラによるクビと不当解雇の基準について整理すると以下のとおりです。
犯罪行為に該当するパワハラ|有効となりやすい
繰り返される執拗なパワハラ|有効となりやすい
嫌味を言った程度の初回のパワハラ|無効となりやすい
適正な業務指導|無効となりやすい
・パワハラによる解雇の裁判例について3つ厳選して紹介していきます。
・パワハラでクビになった場合には、以下の手順で対処していきましょう。
手順1:弁護士に相談する
手順2:証拠を保全する
手順3:交渉する
手順4:労働審判・訴訟を提起する
この記事がパワハラを理由にクビにされてしまい困っている労働者の方の助けになれば幸いです。
以下の記事も参考になるはずですので読んでみてください。