労働一般

社会保険料等の未払いと使用者の責任-使用者に差額保険料や慰謝料等の請求はできるのか-

 給与明細を見ると、社会保険への加入が必要であるにもかかわらず、社会保険料の控除がされていないケースが見受けられます。このような場合、労働者は、使用者に対して、どのような請求をすることができるのでしょうか。

社会保険等の加入義務

雇用保険の加入義務

 雇用保険は、労働者を1人でも雇用する全ての事業に適用されます(雇用保険法5条1項)。ただし、当分の間は、常時5人未満の労働者を雇用する農林の事業、畜産、養蚕又は水産の事業は任意適用とされています(雇用保険法附則2条、同法施行令附則2条)。
 雇用保険の適用事業で働く労働者は、原則、その意思にかかわらず強制的に被保険者となります(雇用保険法4条1項)。なお、一定の者は、被保険者から除外されています。
 例えば、所定労働時間が週20時間未満である場合(雇用保険法6条1号)や同一の事業主の適用事業に継続して31日以上雇用されることが見込まれない場合(雇用保険法6条2号)につき、被保険者とならないとされていますので、パートタイム労働者の方などは注意が必要です。
 事業主は、労働者を雇用したときは、事業所を管轄するハローワークの長に、雇用保険被保険者資格取得届提出しなければなりません(雇用保険法7条)。

健康保険の加入義務

 国、地方公共団体、又は法人の事業所であって、常時従業員を使用する者は、健康保険が適用されます(健康保険法3条3項)。
 法人でなくても、法定16業種の事業所であって、常時5人以上の従業員を使用するものについては、健康保険が適用されます(健康保険法3条3項)。
 適用事業所に使用される者は、原則として、法律上当然に被保険者となります。使用される者の範囲は概ね「労働者」と同じですが、法人の代表者や業務執行者も含まれます。なお、一定の者は、適用が除外されています(健康保険法3条1項但書)。
 パートタイム労働者については、次の二つの要件を満たす場合には、被保険者とされます。

①1日又は1週の所定労働時間が、その事業所で同種の業務を行う通常の労働者の所定労働時間の概ね4分の3以上であること
②1か月の所定労働日数が、その事業所で同種の業務を行う通常の労働者の所定労働日数の概ね4分の3以上あること

 概ね、週30時間以上の労働時間であり、1月に16日以上勤務する場合であれば、これに該当するとされます。
 また、平成28年10月からは、週30時間以上働く方に加えて、従業員501人以上の会社で働く方や、労使の合意がある会社で働く方については、一定の場合に、加入対象になるとされています(健康保険法3条1項9号)。
平成28年10月から厚生年金保険・健康保険の加入対象が広がっています!(社会保険の適用拡大)
 適用事業所の事業主は、厚生労働大臣又は健康保険組合に、被保険者資格取得届を提出しなければなりません(健康保険法48条、同法施行規則24条)。

厚生年金の加入義務

 国、地方公共団体、又は法人の事業所であって、常時従業員を使用する者は、厚生年金保険が適用されます(厚生年金保険法6条1項2号)。
 法人でなくても、法定16業種の事業所であって、常時5人以上の従業員を使用するものについては、厚生年金保険が適用されます(厚生年金保険法6条1項1号)。
 適用事業所に使用される70歳未満の者は、原則として、法律上当然に被保険者となります(厚生年金保険法9条)。使用される者の範囲は概ね「労働者」と同じですが、法人の代表者や業務執行者も含まれます。なお、一定の者は、適用が除外されています。
 パートタイム労働者については、健康保険の場合と同様とされます。
 適用事業所の事業主は、日本年金機構に、被保険者資格取得届を提出しなければなりません(厚生年金保険法27条、98条1項)。

遡及加入

 会社が社会保険の届出をしない場合に、労働者が、事後的に過去に遡って加入する手続きです。

雇用保険への遡及加入

 原則最大2年まで遡って加入手続をすることができます(雇用保険法14条2項2号、74条)。
 遡及加入に当たっては、雇用保険料の労働者負担分を支払わなければなりません。

健康保険への遡及加入

 会社が健康保険に加入していない場合、労働者は確認請求をすることができ(健康保険法51条)、最大2年まで健康保険に遡って加入できます(健康保険法193条)。
 遡及加入に当たっては、健康保険料のうち、労働者負担分を支払わなければなりません。

厚生年金保険への遡及加入

 会社が厚生年金保険に加入していない場合、労働者は確認請求をすることができ(厚生年金法18条)、最大2年まで厚生年金保険に遡って加入できます(厚生年金保険法92条)。
 遡及加入に当たっては、厚生年金保険料のうち、労働者負担分を支払わなければなりません。

社会保険等への加入手続を怠った場合の損害賠償請求の可否

雇用保険

 使用者が雇用保険への届出を怠っている場合には、損害賠償請求が認められる場合があります。
 その場合、損害額は、①失業保険相当額、②慰謝料、③弁護士費用について認められる傾向にあります。これに対して、教育訓練給付金については、これを否定した裁判例があります

【名古屋高判昭32年2月22日判時108号10頁】
 同裁判例は、使用者が届出を怠ったため、労働者が、その間、健康保険、失業保険をもらえなかったことについて、被保険者資格取得を届け出る私法上の義務違反であるとして、本来であれば労働者が受給できるはずだった失業保険相当額(16万円程度)の損害賠償請求を認めました。

【大阪地判平10年2月9日労判733号67頁[三庵堂事件]】
 同裁判例は、使用者が解雇を撤回した後も、その労働者の要請を無視して被保険者資格の届出を行わなかったことについて、その行為の内容、態様から違法として、精神的苦痛に対する慰謝料として30万円、弁護士費用として5万円の損害賠償請求を認めました。

【東京地判平18年11月1日労判926号93頁[グローバルアイ事件]】
 同裁判例は、使用者が、労働者の在職期間中、事業主が雇用保険相当額を控除しながら、加入手続をとっていなかったため、雇用保険の教育訓練給付金の受給をできなかったことについて、雇用契約に付随する義務の違反であるとして、教育訓練給付の支払いを受ける可能性を失ったことに対する慰謝料15万円の損害賠償請求を認めました。
 もっとも、教育給付金相当額については、労働者は受講も受講料の支払いもしていないのであれば、教育訓練給付金と受給見込み額が不明であり、具体的な経済的損害が発生していないとして、請求を認めませんでした。

健康保険

 使用者が健康保険への届出を怠っている場合には、本来事業主が負担すべき保険料の返還請求が認められる場合があります。

【大阪地判平10年2月9日労判733号67頁[三庵堂事件]】
 同裁判例は、使用者が健康保険の届出を行わなかったことにより、労働者が健康保険任意継続制度へ加入せざるを得なかったため、事業主が負担すべき保険料(11万4800円)を労働者が負担することとなったことについて、事務管理(民法702条)を理由に本来事業主が負担すべき保険料(11万4800円)の返還請求を認めました。

厚生年金保険

 使用者が、厚生年金保険への届出を怠っている場合には、損害賠償請求が認められる場合があります。
 その場合、損害額は、①届出をしていれば労働者が支払う必要のなかった保険料及び給付を受けられたはずの厚生年金から、届出をした場合に労働者が支払いをする必要がある自己負担保険料を控除した金額、②慰謝料、③弁護士費用について、認められる傾向があります。

【奈良地判平18年9月5日労判925号53頁[豊國工業事件]】
 同裁判例は、使用者が厚生年金への加入手続きを怠ったことから労働者(61歳)が国民年金等の保険料の支払いを余儀なくされ、厚生年金の給付額が減少したことについて、次のように判断をしました。
⑴ まず、使用者が法の要求する届出を怠ることは、被保険者資格を取得した労働者の法益を直接侵害する違法なものであるとしました。なお、加入手続きをしないことにつき労働者の合意があっても当然に届出義務の懈怠を正当化するものではないとしています。
⑵ 被保険者が確認請求を行わなかったことについて、使用者が社会保険加入の資格について事実に反する説明をしていたことが原因で労働者が加入を断念したこと、労働者が加入資格を知った後については使用者が給料の減額や退職など口にしていたこと等から、労働者の過失を認めず、過失相殺を否定しました。
⑶ 使用者が、被保険者資格の取得について届出をしていれば支払う必要のなかった保険料を合計308万円、給付を受けられたはずの厚生年金を合計333万円程度としたうえで、厚生年金保険に加入していた場合に労働者が支払いをする必要がある自己負担保険料合計254万円程度を控除した386万円程度を損害として認めました。
⑷ 使用者が事実に反する説明をしたり、解雇や給与の減額などを口にしたりしていたことが原因で、労働者が保険給付を得られなかったとして、慰謝料20万円を認めました。
⑸ また、本件に顕れた諸般の事情を総合すると弁護士費用は30万円をもって相当と認められました。

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