不当解雇・退職扱い

会社から不正に住宅手当の支給を受けた場合に解雇されるのか

 労働者が、住居として利用していないのに住居として利用している旨を会社に申告したり、賃料について実態と異なる金額を会社に申告したりした場合には、不正に住宅手当を受給したものとして、解雇の理由とされることがあります。
 このように住宅手当を不正に受給することは解雇の理由になるのでしょうか。
 今回は、会社から不正に住宅手当の支給を受けた場合に解雇されるのかについて解説します。

住宅手当とは

 住宅手当とは、住宅に要する費用に応じて算定される手当をいいます。
 住宅手当については、労働基準法37条5項に規定があり、割増賃金の算定基礎から除外するとされています。
 支給されている手当が住宅手当に該当するかどうかについては、以下の平成11年3月31日基発170号が参考になります。

①割増賃金の基礎から除外される住宅手当とは、住宅に要する費用に応じて算定される手当をいうものであり、手当の名称の如何を問わず実質によつて取り扱うこと。
②住宅に要する費用とは、賃貸住宅については、居住に必要な住宅(これに付随する設備等を含む。以下同じ。)の賃借のために必要な費用、持家については、居住に必要な住宅の購入、管理等のために必要な費用をいうものであること。
③費用に応じた算定とは、費用に定率を乗じた額とすることや、費用を段階的に区分し費用が増えるにしたがつて額を多くすることをいうものであること。
④住宅に要する費用以外の費用に応じて算定される手当や、住宅に要する費用にかかわらず一律に定額で支給される手当は、本条の住宅手当にあたらないものであること。
イ 本条の住宅手当に当たる例
(イ)住宅に要する費用に定率を乗じた額を支給することとされているもの。例えば、賃貸住宅居住者には家賃の一定割合、持家居住者にはローン月額の一定割合を支給することとされているもの。
(ロ)住宅に要する費用を段階的に区分し、費用が増えるにしたがつて額を多くして支給することとされているもの。例えば、家賃月額五~十万円の者には二万円、家賃月額十万円を超える者には三万円を支給することとされているようなもの。
ロ 本条の住宅手当に当たらない例
(イ)住宅の形態ごとに一律に定額で支給することとされているもの。例えば、賃貸住宅居住者には二万円、持家居住者には一万円を支給することとされているようなもの。
(ロ)住宅以外の要素に応じて定率又は定額で支給することとされているもの。例えば、扶養家族がある者には二万円、扶養家族がない者には一万円を支給することとされているようなもの。
(ハ)全員に一律に定額で支給することとされているもの。

労働基準法第37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)
5「第一項及び前項の割増賃金の基礎となる賃金には、家族手当、通勤手当その他厚生労働省令で定める賃金は算入しない。」

住宅手当の支給状況

 住宅手当の支払いについては、法律上、義務付けられているわけではありません。そのため、労働者が、使用者に対して、住宅手当を請求できるかどうか、請求できる金額については、就業規則や雇用契約書等に従うことになります。
 就業規則においては、例えば、以下のような規定が置かれています。
 人事院が調査した「民間給与実態(平成30年職種別民間給与実態調査の結果)」を見ると、住宅手当を「支給」している企業は「50.6%」となっており、そのうち「借家・借間」に対する支給は「94.7%」にのぼっているものの、「自宅(持家)」に対する支給は「63.1%」にとどまっています。
出典:民間給与実態(平成30年職種別民間給与実態調査の結果)表13住宅手当の支給状況 ア住宅手当の支給状況

不正に住宅手当を受給したことを理由とする解雇

 では、住宅手当の不正受給を理由として解雇されることはあるのでしょうか。
 多くの会社では、例えば、以下のような規定が置かれています。
 もっとも、形式的に上記事由に該当する場合でも解雇が常に許されるわけではありません。解雇は、「客観的に合理的な理由なく、社会通念上相当であると認められない場合」には、濫用として、無効となります(労働契約法15条、16条)。
 住宅手当の不正受給を理由とする解雇が濫用に該当するかについては、以下のような事情を考慮して判断することになります。

① 不正受給の期間・金額
② 不正の悪質性
③ 反省の有無
④ 返還の有無・返還意思の有無

 手当の不正受給に関して、裁判例は、例えば、不正金額が100万円を超えるような高額な場合には、解雇を有効とする傾向にあります(東京地判平15.3.28労判850号48頁[アール企画事件]、東京地判平11.11.30[かどや製油事件])。
 また、不正金額が高額とはいえない事案であっても、不正の悪質性や反省・返還の有無等を考慮し、解雇が有効とされることがあります。

大阪高判平26.12.5労判1113号5頁[明石市・市公営企業管理者事件]

1 懲戒事由該当性
 「控訴人は本件各手当を不正に受給したものであるから,これは,全体の奉仕者である公務員の法令に従う義務(地方公務員法32条)に違反し,その職の信用を傷つけ,職員の職全体の不名誉となる信用失墜行為であり(同法33条),同法29条1項1号及び3号の懲戒事由にあたることが明らかである。」
2 懲戒処分の相当性
 「控訴人は,借家から持ち家に転居した際に,被控訴人の職員に要請されている住所・氏名変更届,通勤及び住居届兼認定書を提出せず,その後本件各手当の過支給を受けていることに気付いたにもかかわらず,これを申告せず,被控訴人が上記事実を把握するまで11年10か月の間合計300万円を超える本件各手当の過支給を受けたものであり,これらの行為は,地方公務員法32条及び33条に違反し,同法29条1項1号及び3号の懲戒事由に該当する。」
 「本件懲戒処分の懲戒事由には,控訴人の故意が生じた時期に誤認があり,控訴人の供述の評価等にも一部誤りがあるというべきである。」
 「しかし,上記のとおり,本件過支給の額は300万円を超える高額なものであり,控訴人は,過支給を受けていることに気付いた後も長年の間そのことを申告せずにその支給を受け続け,被控訴人においてその事実を把握して返還を求めたにもかかわらず,この求めに対して真摯な対応をせず,その事実が新聞報道される等したことによりその職の信用を大きく損ない,公務全体に著しい不名誉となる信用失墜をもたらしたものである控訴人が過支給を受けるため何らかの作為を加えた事実は認められず,控訴人には懲戒処分歴がなく,無事故無違反の表彰を多数回にわたり受けた等控訴人に有利に斟酌すべき事情も認められはするが上記のような本件非違行為の態様,その結果の重大性,公務員の職が被った信用毀損の程度,市民に与えた影響,非違行為発覚後の控訴人の対応等を考慮すると,停職6か月という処分は重い処分ではあるものの,これが停職にとどまっている以上,なお,処分権者の裁量権の範囲を逸脱した違法な処分であるとまで認めることはできない。また,他の処分事例と比較して,平等原則違反ということもできない。」
 「なお,控訴人は人事院懲戒指針に比すれば,本件懲戒処分は相当性を欠くとも主張するが,上記指針は,国家公務員に関する指針であり,非違行為の影響等について自治体毎に個別の考慮が必要になるものであるから,本件懲戒処分の相当性を考える上で,上記指針が示している標準例はあくまで参考にとどまるものというべきであるから,上記判断を左右しない。」

東京地判平28.7.8労経速2307号3頁[ドコモCS事件]

 「懲戒解雇は,就業規則に懲戒解雇に関する根拠規定が存しても,当該懲戒解雇に係る労働者の行為の性質及びその他の事情に照らして,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合には,その権利を濫用したものとして無効となる(労働契約法15条,16条)。懲戒解雇は最も重い懲戒処分であり,雇用契約上の権利を有する地位の喪失のみならず,労働者の名誉に悪影響を与え,退職金の支給制限等の経済的不利益を伴うことが多いから,懲戒権の行使の中でも特に慎重さが求められる。」
 「前記2,3の認定判断によれば,被告らの住宅補助費申請は少なくともα建物に係るものは住宅補助費の支給要件を満たさない上,被告らは少なくとも未必の故意をもって,共謀の上,その居住実態を偽って住宅補助費を不正に受給しているその不正受給は,平成18年から平成25年まで7年以上,五百数十万円に及び…,過誤取扱通達で返納の対象となり,かつ,まだ返納されていないものだけでも金175万8400円となる。被告らのα建物に係る住宅補助費の申請は申請書,賃貸借契約書等を精査しても予想困難な居住関係及び権利関係を秘したものであるから,原告が長年これに気付かず,住宅補助費を支給していたことを被告らの有利に斟酌すべきではない。被告らが利得する一方,原告が受けた財産的被害は多額であり,両者間の信頼関係を著しく破壊するものといわなければならない。」
 「原告就業規則における懲戒事由…である『法令,または会社の業務上の規定に違反したとき』『社員としての品位を傷つけ,または信用を失うような非行があったとき』『その他著しく不都合な行為があったとき』にも該当する。」
 「労働者は自身の労働契約上の義務に違反する行為に関し,使用者が調査を行おうとするときは,その非違行為の軽重,内容,調査の必要性,その方法,態様等に照らして,その調査が社会通念上相当な範囲にとどまり,供述の強要その他の労働者の人格・自由に対する過度の支配・拘束にわたるものではない限り,労働契約上の義務として,その調査に応じ,協力する義務があると解される。その調査の過程において,芳しくない態度,ことに虚偽の供述など,積極的に調査を妨げる行為があった場合は,信頼関係をますます破壊し,反省,改善更生といった情状面の評価において,不利益に重視されることもやむを得ないというべきである。…被告P2は,原告の事情聴取において,事実関係に関する虚偽の供述を複数回にわたって繰り返しており,被告P3もこれに同調する態度を示し,自分たちの独自の見解に固執して,不法行為に基づく損害賠償及び不当利得の返還請求権からは大幅に減額されている過誤取扱通達の範囲内の返還…にも応じていない。」
 「…原告は,被告らに対し,慎重に調査を進め,事情聴取も少なからず実施し,被告らに弁明の機会も十分に与えて,慎重な検討を経て本件解雇を決定したと認められる。」
 「過誤取扱通達に関しては,平成26年1月通知では『自主返納』としてその制限の範囲を超える返納を求め,閲覧は許すも謄写や持ち出しまでは認めておらず,平成26年4月通知及び本訴請求でも解釈の誤りから一部過大な請求になった部分もあるが,〔1〕平成26年1月通知は,被告らの弁明を促し,返還方法等の相談に応じる用意があることを示しており…,一方的で強引な請求とまではいえないこと,〔2〕過誤取扱通達による返納の範囲の制限は,法令上の期間制限よりも社員をかなり有利に扱うもので,これに違反しても社員が法令上の期間制限よりも不利に扱われるわけではないこと…,〔3〕平成26年4月通知及び本訴請求における返納請求が過誤取扱通達の範囲を超えたのは,過誤取扱通達の解釈・適用における細部の問題で,超過した金額(25万1200円)や原告の返納請求全体における割合も大きくないこと,〔4〕被告らは,住宅補助費の受給に問題はなかったと主張して,平成25年11月分を除いて,住宅補助費返納の必要を全て争っており…,過誤取扱通達に基づく返納の範囲に関する見解の不一致で返納に至らなかったわけではないことに照らせば,本件解雇に至る経緯において,原告に著しく過大な返納を強引に請求する顕著な問題があり,それがため被告らが一切の返納を拒否する態度を誘発したということはできない。」
 「以上の認定判断を総合すると,…住宅手当又は住宅補助費の適否の点を判断するまでもなく,被告らのα建物に係る住宅補助費の不正受給は,その態様,期間,被害金額,発覚後の態度等に照らして悪質であり,未だ被害回復もされていない。本件解雇に至る経過を見ても,経過を全体的に見れば手続の適正に見るべき問題点があるとはいえない。」
 「したがって,懲戒解雇は懲戒権の行使の中でも特に慎重さが求められることを考慮しても,原告が被告らに対し本件解雇をもって臨んだことが客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合に当たるとはいうことはできない。」

東京地判平30.5.30労判1192号40頁[KDDI事件]

 「原告は,当初,練馬自宅において長女と同居し,被告より世帯主・同居家族有りの区分に応じた月額5万円の住宅手当を支給されていたところ,平成24年3月31日に長女がεに転居したことにより長女と別居し,同年4月以降,世帯主・同居家族無しの区分に応じた月額3万円の住宅手当を受給できるにとどまるはずであったにもかかわらず,被告に対し,必要とされていた本人・家族変更申請を行わず,上記月額5万円の住宅手当を受給し続け,同年12月までの間に被告に合計18万円(2万円×9か月)の損害を生じさせたものと認められる」。
 「原告は,本件各申請当時,長女と別居しており,単身赴任基準を満たしていなかったため,単身社宅の入居資格を有さず,また,単身赴任手当を受給できず,さらに,本人赴任手当についても独身者の場合の10万円を受給できるにとどまるはずであったにもかかわらず,被告に対し,本件各申請を行い,平成24年10月30日に単身社宅であるζ自宅に入居し,被告に同自宅の賃料月額8万6000円の全額(なお,独身社宅の賃料上限額は月額8万円であった。)を負担させ,自身は「単身社宅・入居日~退去まで」の場合の定額使用料である月額1万4500円(なお,「独身社宅・持家有りの者・入居日~5年以内」の場合の定額使用料は月額1万6000円であった。)を支払うにとどまるとともに,被告から単身赴任時の本人赴任手当15万円のほか,同月分から平成27年10月分まで毎月4万円の単身赴任手当を受給し,…被告に単身赴任手当に関し合計148万円(4万円×37か月),単身社宅入居に関し合計1万5500円(平成24年10月分500円(1月を30日とした場合の2日分),同年11月分7500円,同年12月分7500円),本人赴任手当に関し5万円の各損害を生じさせたものと認められる。」
 「原告は,平成24年12月からζ自宅において長女と同居を再開したため,被告に対し,住所・住居状況申請等を行い,単身社宅としての入居資格を欠くことになったζ自宅の返還,具体的には被告名義の賃貸借契約から原告名義の賃貸借契約への切替えを行い,平成25年1月以降,ζ自宅の賃料月額8万6000円の全額を負担する必要があったにもかかわらず,上記申請等を行わず,社宅使用料月額1万4500円を支払うのみで(平成27年10月分以降は社宅使用料も支払っていない。),ζ自宅に居住し続けることにより,前提事実(3)エのとおり,被告に同月末日までの間に合計244万5500円(8万6000円×34か月-1万4500円×33か月)の損害を生じさせたものと認められる。」
 「原告は,単身赴任基準を満たしていなかったため,帰省旅費の支給要件も満たしていなかったにもかかわらず,〔1〕ζ自宅に入居後17回にわたり練馬自宅に帰省した(うち2回は練馬自宅処分後のもの)とする単身赴任に伴う帰省報告書を,平成25年11月6日から平成26年2月4日まで3回にわたり提出し,帰省旅費2万8220円を受給するとともに,〔2〕その後16回にわたり高崎実家に帰省したとする単身赴任に伴う帰省報告書を,同年3月3日から平成27年3月24日まで9回にわたり提出し,帰省旅費13万3140円を受給し,被告に合計16万1360円の損害を生じさせたものと認められる。」
 原告は,被告の就業規則上の懲戒解雇事由に該当する各行為を行ったものであるところ,その具体的な内容をみても,3年以上の期間において,被告に対し,本来行うべき申請を行わなかったというにとどまらず,積極的に虚偽の事実を申告して各種手当を不正に受給したり,本来支払うべき債務の支払を不正に免れたりするなど,原告と被告が雇用関係を継続する前提となる信頼関係を回復困難な程に毀損する背信行為を複数回にわたり行い,被告に400万円を超える損害を生じさせたものである。」
 「これらの事情に加え,…原告は,…本件懲戒解雇がされるまで,被告に対して明確な謝罪や被害弁償を行うこともなかったことや,前記1(3)のとおりの本件懲戒解雇に至る経緯に照らして,同解雇の効力に疑義を生じさせるような手続上の瑕疵も認められないことからすると,原告が30年以上にわたり被告に勤務していたこと…といった原告が指摘する諸事情を考慮しても,本件懲戒解雇が客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められないものということはできない。」
 「以上によれば,本件懲戒解雇は有効であり,原告の主位的請求は理由がない。」

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