不当解雇・退職扱い

家族手当の不正受給を理由とする解雇

 労働者が事実と異なる扶養状況を会社に申告して家族手当を不正に受給していたとして、会社から解雇されることがあります。
 では、家族手当の不正受給は解雇理由となり得るのでしょうか。
 今回は、家族手当の不正受給を理由とする解雇について解説します。

家族手当とは

 家族手当とは、扶養家族のある者に対し、扶養家族の人数を基準として算出して支給する手当をいいます。
 家族手当については、割増賃金の計算となる賃金から除外するとされています(労働基準法37条5項)。
 行政通達(昭和22年11月5日基発231号)は、以下のように述べています。

 「昭和22年9月13日発基第17号通牒は扶養家族数又はこれを基礎とする家族手当額を基準として算出した手当は物価手当、生活手当その他名称の如何を問わず家族手当として取扱い、割増賃金の基礎となる賃金の計算においてはこれを除くという趣旨である。従つて本事案の如く家族手当以外のもので、扶養家族数又は家族手当額を基礎として算定した手当及び官庁職員の場合における家族手当を基礎として算出した勤務地手当の部分はこれを家族手当とみなし割増賃金の基礎となる賃金から除くものとする。」
 「右の場合独身者に対しても幾何かが支払われているときは、その手当は家族手当とは関連のないものであり、又扶養家族ある者に対し、その家族数に関係なく一律に支給されている手当は家族手当とはみなさない。従つてかかる手当は割増賃金の基礎に入れるべきである。」

労働基準法第37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)
5「第一項及び前項の割増賃金の基礎となる賃金には、家族手当、通勤手当その他厚生労働省令で定める賃金は算入しない。」

家族手当の支給実態

 家族手当は、法律上支払いが義務付けられているものではなく、福利厚生の一環として、使用者が支給するものです。そのため、家族手当の支払いについては、就業規則や雇用契約書等に従うことになります。
 就業規則では、例えば以下のように規定している会社が多く見られます。

規定例

第〇条(家族手当)
家族手当は、次の家族を扶養している労働者に対し支給する。
① 18歳未満の子
1人につき  月額   円
② 65歳以上の父母
1人につき  月額   円

 人事院による「民間給与実態(平成30年職種別民間給与実態調査の結果)」を見ると、「家族手当制度がある」企業は、「77.9%」となっています。そのうち「配偶者に家族手当を支給する」企業は「83.9%」となっており、更にその中で「配偶者の収入による制限がある」企業は「84.5%」となっています。「配偶者の収入による制限がある」企業の半数以上が、「収入制限の額」を「103万円」としています。
出典:民間給与実態(平成30年職種別民間給与実態調査の結果)表12家族手当の支給状況 ア家族手当の支給状況及び配偶者の収入により制限の状況

家族手当の不正受給を理由とする解雇

 家族手当の不正受給を理由とする解雇について、就業規則において、例えば以下のように規定している会社が多く見られます。

規定例

第〇条(懲戒解雇)
労働者が次のいずれかに該当するときは、懲戒解雇とする。ただし、平素の服務態度その他情状によっては、第〇条に定める普通解雇、前条に定める減給又は出勤停止とすることがある。
故意又は重大な過失により会社に重大な損害を与えたとき。
会社内において刑法その他刑罰法規の各規定に違反する行為を行い、その犯罪事実が明らかとなったとき(当該行為が軽微な違反である場合を除く。)。

 例えば、家族の収入を偽り扶養しているものとして家族に申告したり、扶養していない家族を扶養しているものとして会社に申告したりすることにより、不正に家族手当を受給した場合に、これらの事由に該当するものとして、解雇されることがあります。
 もっとも、解雇は、「客観的に合理的な理由なく、社会通念上相当であると認められない場合」には、濫用として、無効となります(労働契約法15条、16条)。
 具体的には、家族手当の不正受給を理由とする解雇が濫用として無効になるかは以下の事由を考慮し判断することになります。

① 不正受給の期間
② 不正受給の金額
③ 悪質性
④ 発覚後の対応(返還の有無・返還の意思の有無)

 交通費の不正受給の裁判例ですが、不正受給の金額が100万円以上の事案において解雇を有効としたものがあり(東京地判平15.3.28労判850号48頁[アール企画事件]、東京地判平11.11.30[かどや製油事件])、不正受給の金額35万円程度の事案において解雇を無効としたものがあります(東京地判平18.2.7労経速1929号35頁[光輪モータース事件])。
 これに対して、合計9200円の家族手当を不正受給した事案であっても、使用者の性格上金銭上の犯罪行為に対して厳格な態度をとっており、不正受給をした労働者の立場が管理職にあり、不正受給金額を返還せず、反省の態度も示さない場合において、懲戒解雇の判断は正当とした裁判例があります(名古屋高判昭45.10.29判時621号91頁[岐阜相互銀行事件])。

名古屋高判昭45.10.29判時621号91頁[岐阜相互銀行事件]

 「控訴人は相互銀行たる性格上従来職員の金銭上の犯罪行為に対しては厳格な態度を堅持し、昭和三七年四月には金四万三〇〇〇円余を横領した職員を懲戒解雇に処すべく人事委員会に附議したが結局依願退職としたこともあつた。」
 「控訴人は名古屋西税務署長から昭和三八年一二月一〇日付書面をもつて被控訴人の昭和三七年分源泉所得税の徴収につき妻…が扶養家族であることを否認する旨の通知を受け、その頃他の二名の職員についても所轄税務署長から同様の通知を受けたので、各所轄税務署に係員を派遣して調査させたところ、被控訴人の妻…は」S「工業所から昭和三七年中に金一四万六七三一円、昭和三八年には金三〇万円余の各給与の支給を受け、両年とも所得税の源泉徴収を受けて、その旨同工業所から所轄税務署長に報告されている旨の調査報告を受けた…。」
 「扶養控除を否認された前記三名の内一名は控訴銀行の支店長であつた」。
 被控訴人は昭和三七、八両年度において前記妻…のほか長男および長女を扶養し、右三名を扶養家族として申告した結果前記給与規程細則により昭和三七年中は毎月金二五〇〇円、昭和三八年中は毎月金三九〇〇円の家族手当の支給を受けたが、」妻「は定職を持ち納税義務を負担していたから、同細則の規定により扶養家族とみなされず、長男および長女をそれぞれ第一、第二被扶養者として申告すべきであつたから、毎月金四〇〇円宛、合計金九二〇〇円(昭和三八年一一月分まで)の家族手当を不当に受給していたことになる。しかも被控訴人は同居の妻が定職を有し毎月給与の支給を受け年末に給与所得の源泉徴収票の交付を受けていたことを当然知つていたものと推定されるから、少なくとも昭和三七年末には同年度分の右家族手当の超過受給分を控訴人に返還すべきことを知つたにもかかわらず、これを返還しないのみか昭和三八年分扶養家族申告書にも妻…を第一被扶養者として申告したのであるから、少なくとも昭和三八年分の家族手当の超過受給分については詐欺罪が成立し、また昭和三九年分扶養家族申告書にも右同様の記載をして、これを控訴人に提出したが、前記のように事件が発覚したため控訴人の係員が同申告書中妻…に関する記載を抹消したため、同年一月分給与については詐欺未遂に終つたものである。したがつて右の行為は前記就業規程第五六条の四第二号に該当し、また前記所得税の扶養控除に関し妻…を扶養家族として申告し所得税の一部につき源泉徴収を免れた行為は、右同様少なくとも昭和三八年分につき当時施行の所得税法第六九条の二第一項第三八条に該当するから、右行為は前記就業規程第五六条の四第一〇号に該当する。」
 「被控訴人は控訴人本店の課長補佐として管理職の地位に在りながら、人事課担当係員から前記名古屋西税務署長から扶養家族否認の通知が来たことを告げられるや、同係員に対し『手当のことがあるから上司には内密にしておいてくれ』と依頼し、上司に対し謝罪の意を表したこともなく、所得税の調整額は昭和三九年一月一〇日頃、家族手当の不当受給分は同年二月五日頃、それぞれ控訴人側から請求を受けて始めて支払つたものであつて、その間全く反省の色を示したことはなかつた。」
 「控訴人の従業員の給与水準は岐阜県内の一般の給与水準はもとより、同県下の他の金融機関の給与水準に比しても高いことからも、また相互銀行法により大蔵省の監督を受ける金融機関としての立場からも、控訴人が所得税の源泉徴収および家族手当の支給のために従業員から徴する扶養家族の申告につき不正申告を黙認したことなどはなく、税務当局から従業員の源泉所得税につき扶養家族の否認を受けたこともかつてなかつた。」
 「以上認定の諸事実によれば、控訴人が被控訴人を懲戒解雇に処すべしとした判断は不当ということを得ず」。

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弁護士 籾山善臣
神奈川県弁護士会所属。不当解雇や残業代請求、退職勧奨対応等の労働問題、離婚・男女問題、企業法務など数多く担当している。労働問題に関する問い合わせは月間100件以上あり(令和3年10月現在)。誰でも気軽に相談できる敷居の低い弁護士を目指し、依頼者に寄り添った、クライアントファーストな弁護活動を心掛けている。持ち前のフットワークの軽さにより、スピーディーな対応が可能。 【著書】長時間残業・不当解雇・パワハラに立ち向かう!ブラック企業に負けない3つの方法 【連載】幻冬舎ゴールドオンライン:不当解雇、残業未払い、労働災害…弁護士が教える「身近な法律」 【取材実績】東京新聞2022年6月5日朝刊、毎日新聞 2023年8月1日朝刊、区民ニュース2023年8月21日
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