未払残業代・給料請求

60時間を超える時間外労働をした場合の割増率

 労働基準法及び割増賃金令では割増賃金の割増率が定められていますが、60時間を超える時間外労働については、割増率が高く設定されています。
 もっとも、60時間を超える時間外労働をした場合の割増率は、従来、中小企業への適用が猶予されていました。
 これについて、2018年の働き方改革法案によって、適用猶予が廃止されることとなりましたので、改めて多くの企業や労働者からの関心が高まっています。
 今回は、60時間を超える時間外労働をした場合の割増率について解説していきます。

60時間を超える場合の割増率

 使用者は、時間外労働については、基礎賃金の2割5分以上の時間外割増賃金を支払わなければなりません(労働基準法37条1項本文、割増賃金令)。
 もっとも、60時間を超える時間外労働については、基礎賃金の5割以上の割増賃金を支払わなければならないとされています(労働基準法37条1項但書)。

労働基準法37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)
1「使用者が、第33条又は前条第1項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の2割5分以上5割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。ただし、当該延長して労働させた時間が1箇月について60時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の5割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。」
割増賃金令
「労働基準法第37条第1項の命令で定める率は、同法第33条又は第36条第1項の規定により延長した労働時間の労働については2割5分とし、これらの規定により労働させた休日の労働については3割5分とする。」

会社の計算は正確?5ステップで簡単にできる残業代の正しい計算方法残業代の計算方法は、労働基準法で決められていますので、会社がこれよりも不利益な計算ルールを定めても無効です。今回は、残業代を計算する方法を5つのステップで誰でも分かるように簡単に説明します。...

代替休暇

代替休暇とは

 代替休暇とは、1か月について60時間を超えて時間外労働を行わせた労働者について、労使協定により、法定割増賃金率の引上げ分の割増賃金の支払に代えて、有給の休暇を与えることができる制度です(労働基準法37条3項)。
 労働者の健康を確保する観点から、特に長い時間外労働をさせた労働者に休息の機会を与えることを目的としています。

労働基準法37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)
3「使用者が、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者と書面による協定により、第1項ただし書の規定により割増賃金を支払うべき労働者に対して、当該割増賃金の支払に代えて、通常の労働時間の賃金が支払われる休暇(第39条の規定による有給休暇を除く。)を厚生労働省令で定めるところにより与えることを定めた場合において、当該労働者が当該休暇を取得したときは、当該労働者の同項ただし書に規定する時間を超えた時間の労働のうち当該休暇に対応するものとして厚生労働省令で定める時間の労働については、同項ただし書の規定による割増賃金を支払うことを要しない。」

労使協定

 労使協定では、以下の事項を定める必要があります。

⑴ 代替休暇の時間数の具体的な算定方法
⑵ 代替休暇の単位
⑶ 代替休暇を与えることができる時間
⑷ 代替休暇の取得日の算定方法、割増賃金の支払日

 なお、この労使協定は、労働基準監督署へ届け出る必要がありません。
【書式例:代替休暇の労使協定】
※厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署:改正労働基準法のあらまし18頁参照

労働基準法施行規則19条の2
1「使用者は、法第37条の第3項の協定(労使委員会の決議、労働時間等設定改善委員会の決議及び労働時間等設定改善法第7条の2に規定する労働時間等設定改善企業委員会の決議を含む)をする場合には、次に掲げる事項について、協定しなければならない。」
一「法第37条第3項の休暇(以下「代替休暇」という。)として与えることができる時間の時間数の算定方法」
二「代替休暇の単位(1日又は半日(代替休暇以外の通常の労働時間の賃金が支払われる休暇と合わせて与えることができる旨を定めた場合においては、当該休暇と合わせた1日又は半日を含む。)とする。)」
三「代替休暇を与えることができる時間(法第33条又は法第36条第1項の規定によつて延長して労働させた時間が1箇月について60時間を超えた当該1箇月の末日の翌日から二箇月以内とする。)」
2「前項第1号の算定方法は、法第33条又は法第36条第1項の規定によつて1箇月について60時間を超えて延長して労働させた時間の時間数に、労働者が代替休暇を取得しなかつた場合に当該時間の労働について法第37条第1項ただし書の規定により支払うこととされている割増賃金の率と、労働者が代替休暇を取得した場合に当該時間の労働について同項本文の規定により支払うこととされている割増賃金の率との差に相当する率(次項において「換算率」という。)を乗じるものとする。」
3「法第37条第3項の厚生労働省令で定める時間は、取得した代替休暇の時間数を換算率で除して得た時間数の時間とする。」

当該労働者による取得の申請

 代替休暇の取得をするか否かは、個々の労働者の意思により決定されます。そのため、個々の労働者に対して代替休暇の取得を義務づけるものではなく、使用者が一方的に代替休暇を付与することはできません。

就業規則への規定

 代替休暇の制度を設ける場合には、就業規則にその内容を規定する必要があります。労働基準法89条第1項第1号の「休暇」に該当するためです。
【書式例:代替休暇に関する就業規則】
※厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署:改正労働基準法のあらまし18頁参照

効果

 代替休暇が取得された場合、使用者は、当該労働者の60時間を超えた時間の労働のうち、取得した代替休暇の時間数を換算率で除して得た時間数の時間については、5割以上の割増賃金が不要となります。もっとも、代替休暇を与えた場合でも、使用者は、通常の割増率による割増賃金を支払う必要があることには留意が必要です。

<代休との違い>
 代替休暇と似た概念として、代休があります。
 代替休暇は、60時間を超えて時間外労働をした場合において、休暇を与えるものです。これに対して、代休は、休日に労働をさせた場合に、事後的に代休日を与えるものです。前者は60時間を超えた時間外労働との関係において、後者は休日労働との関係において、問題となる概念です
 代替休暇の場合には、労使協定が必要であること、労働者が取得の申請をする必要があること、60時間を超える時間外労働の割増賃金の支払いをすることを要しないことに特徴があります。
 これに対して、代休の場合には、労使協定は不要であること、多くの場合には使用者が必要に応じて代休を付与すること、1日の所定労働時間に相当する賃金が基本給から控除されることに特徴があります。

中小企業

 中小事業主については、当分の間、上記60時間を超える場合の割増率の適用が猶予されています(労働基準法附則138条)。これに伴い、代替休暇の規定の適用もされないこととなります。
 中小事業主とは、①その資本金の額または出資の総額が3億円(小売業又はサービス業を主たる事業とする事業主については5000万円、卸売業を主たる事業とする事業主については1億円)以下である事業主及び②その常時使用する労働者の数が300人(小売業を主たる事業とする事業主については50人、卸売業又はサービス業を主たる事業とする事業主については100人)以下である事業主をいいます。

総務省:日本標準産業分類

労働基準法138条
「中小事業主(その資本金の額又は出資の総額が3億円(小売業又はサービス業を主たる事業とする事業主については5000万円、卸売業を主たる事業とする事業主については1億円)以下である事業主及びその常時使用する労働者の数が300人(小売業を主たる事業とする事業主については50人、卸売業又はサービス業を主たる事業とする事業主については100人)以下である事業主をいう。)の事業については、当分の間、第37条第1項ただし書の規定は、適用しない。」

適用猶予の廃止と適用開始時期

 2018年働き方改革関連法による労働基準法改正により、上記適用猶予が廃止されることとなりました。
 施行時期は、2023年4月1日となります。
 そのため、中小企業に60時間を超える場合の割増率が適用されることになるのは、2023年4月以降となります。

参考リンク

厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署:改正労働基準法のあらまし
厚生労働省:働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(平成30年法律第71号)の概要
働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律 新旧対照条文

【保存版】残業代請求を増額する全ポイント-弁護士が残業代請求のノウハウを公開-近年、残業代請求の事件数が増加傾向にあります。残業代を請求することに抵抗のある労働者もいるかもしれませんが、労働者の権利ですので躊躇する必要はありません。今回は、これまでの経験から、残業代請求を増額するポイントについて解説していきます。...
残業代の請求方法3つ!請求の流れや解決期間を5つの手順で簡単に解説残業代を請求する場合には、弁護士に依頼する方法や労基署に相談する方法、自分自身で請求する方法などがあります。今回は、残業代の請求方法につき、その流れや解決期間をわかりやすく解説します。...
ABOUT ME
弁護士 籾山善臣
神奈川県弁護士会所属。不当解雇や残業代請求、退職勧奨対応等の労働問題、離婚・男女問題、企業法務など数多く担当している。労働問題に関する問い合わせは月間100件以上あり(令和3年10月現在)。誰でも気軽に相談できる敷居の低い弁護士を目指し、依頼者に寄り添った、クライアントファーストな弁護活動を心掛けている。持ち前のフットワークの軽さにより、スピーディーな対応が可能。 【著書】長時間残業・不当解雇・パワハラに立ち向かう!ブラック企業に負けない3つの方法 【連載】幻冬舎ゴールドオンライン:不当解雇、残業未払い、労働災害…弁護士が教える「身近な法律」 【取材実績】東京新聞2022年6月5日朝刊、毎日新聞 2023年8月1日朝刊、区民ニュース2023年8月21日
365日受付中
メール受付時間:24時間受付中
電話受付時間:09:00~22:00

メールでの相談予約はこちら

お電話での相談予約はこちら

▼PCからご覧になっている方・お急ぎの方はこちらへお電話ください(直通)▼
090-6312-7359
※スマホからならタップでお電話いただけます。

▼LINEで相談予約はこちらから▼友だち追加
残業代に注力している弁護士に相談してみませんか?

・「残業代を請求したいけど、自分でやるのは難しそうだな…」
・「会社と直接やりとりをせずに残業代を請求する方法はないのかな?」
・「働いた分の残業代は、しっかり払ってほしいな…」

このような悩みを抱えていませんか。このような悩みを抱えている方は、すぐに弁護士に相談することをおすすめします。

残業代には時効がありますので、早めに行動することが大切です。

初回の相談は無料ですので、まずはお気軽にご連絡ください。

残業代請求の相談・依頼はこちらのページから