未払残業代・給料請求

割増賃金(残業代)と遅延損害金-民法改正による影響-

 平成29年5月26日、民法の一部を改正する法律が成立しました。今回の改正は、一部の規定を除き、令和2年(2020年)4月1日から施行されます。これにより、割増賃金の遅延損害金は、どのような影響を受けるのでしょうか。また、賃金の支払の確保等に関する法律は、退職労働者の賃金に係る遅延利息を規定しております。今回は、割増賃金と遅延損害金について解説します。

民法改正後の遅延損害金の額

 改正前は、民事法定利率は年5%(旧民法404条)、商事法定利率は年6%(旧商法514条)で固定されていました。
 これに対して、改正後は、商事法定利率を定めた規定は削除され、民事・商事いずれについても法定利率は年3%とされます(新民法404条2項、民法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律第3条)。民法の法定利率の改正、商事法定利率の削除、いずれについても、施行日は令和2年(2020年)4月1日です(民法の一部を改正する法律の施行期日を定める政令、民法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律附則)。
 もっとも、改正後の法定利率については、3年を1期として、1期ごとに変更されます(新民法404条3項乃至5項)。
 遅延損害金についても、原則として、この法定利率によって定めることになります(新民法419条1項)。

新民法404条(法定利率)
1「利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは、その利率は、その利息が生じた最初の時点における法定利率による。」
2「法定利率は、年3パーセントとする。」
民法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律第3条(商法の一部改正)
「商法の一部を次のように改正する。…第514条を次のように改める。」
「第514条 削除」
旧民法404条(法定利率)
「利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは、その利率は、年5分とする。」
旧商法514条(商事法定利率)
「商行為によって生じた債務に関しては、年6分とする。」

法定利率の変動(令和5年4月1日以降の法定利率)

 現在(令和2年4月1日時点)において、確定しているのは、第1期(令和2年4月1日から令和5年3月31日まで)の法定利率3%のみであり、第2期以降(令和5年4月1日以降)の法定利率は確定していません
 法定利率については、3年を1期として、期ごとに市中の金利水準を踏まえた基準割合を算出し、この基準割合が一定程度以上変動した場合には、これと連動して法定利率が変動することになります。
 基準割合とは、各期が始まる年の6年前の1月から前々年の12月まで、5年分(60か月分)の短期貸付の平均利率の平均値をいいます。各期の初日の1年前までに、法務大臣が官報で告示します。第2期の基準割合は、令和4年3月31日までに官報で告示されることになります。
 第1期の基準割合は、年0.7%と告示されています(民法第404条第5項の規定に基づき令和2年4月1日から令和5年3月31日までの期における基準割合を告示する件)
 第2期以降の基準割合が上記の0.7%から1%以上変動した時は、その差と同じだけ法定利率も変動します(ただし、1%未満の端数は切り捨てます)

第2期の法定利率の計算例

例1 第2期の基準割合が2.0%
→基準割合が1.3%上昇しているので、法定利率は年4%となる。
例2 第2期の基準割合が1.3%
→基準割合が0.6%上昇しているに過ぎないので、法定利率は年3%となる。

第3期の法定利率の計算例

例1 第2期の基準割合が1.3%、第3期の基準割合が2.0%
→第2期の基準割合は0.6%上昇しているに過ぎないので、法定利率は年3%となる。その後、第3期の基準割合は、第1期の0.7%から1.3%上昇しているので、法定利率は年4%となる。
例2 第2期の基準割合が2.0%、第3期の基準割合が3.5%の場合
→第2期の基準割合が1.3%上昇しているので、第2期の法定利率は年4%となる。第3期の基準割合が第2期の基準割合から1.5%上昇しているので、第3期の法定利率は年5%となる。

新民法404条(法定利率)
3「前項の規定にかかわらず、法定利率は、法務省令で定めるところにより、3年を1期とし、1期ごとに、次項の規定により変動するものとする。」
4「各期における法定利率は、この項の規定により法定利率に変動があった期のうち直近のもの(以下この項において「直近変動期」という。)における基準割合と当期における基準割合との差に相当する割合(その割合に1パーセント未満の端数があるときは、これを切り捨てる。)を直近変動期における法定利率に加算し、又は減算した割合とする。」
5「前項の規定する『基準割合』とは、法務省令で定めるところにより、各期の初日の属する年の6年前の年の1月から前々年の12月までの各月における短期貸し付けの平均利率(当該各月において銀行が新たに行った貸付け(貸付期間が1年未満のものに限る。)に係る利率の平均をいう。)の合計を60で除して計算した割合(その割合に0.1パーセント未満の端数があるときは、これを切り捨てる。)として法務大臣が告示するものをいう。」

民法改正後の遅延損害金の基準時点

 遅延損害金を算定する際の法定利率の基準時は、「債務者が遅滞の責任を負った最初の時点」とされています。
 割増賃金については、確定期限がある債務として、使用者は、各支払い日の到来した時から遅滞の責任を負うことになります(民法412条1項)。そのため、「債務者が遅滞の責任を負った最初の時点」は、各賃金の支払日となります。従って、割増賃金の法定利率の基準時は、各賃金の支払日になると考えられます
 なお、不法行為を理由とする損害賠償債務については、法定利率の基準時は、不法行為時となります。後遺障害による逸失利益等が生じる場合についても、これは損害項目及び額の算定方法において意味を持つにすぎないので、法定利率の基準時は障害の原因となった不法行為時と考えられます。

新民法419条(金銭債務の特則)
「金銭の給付を目的とする債務の不履行については、その損害賠償の額は、債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率によって定める。ただし、約定利率が法定利率を超えるときは、約定利率による。」
旧民法419条(金銭債務の特則)
「金銭の給付を目的とする債務の不履行については、その損害賠償の額は、法定利率によって定める。ただし、約定利率が法定利率を超えるときは、約定利率による。」

退職労働者の賃金に関する遅延利息

 退職労働者に係る賃金(退職手当を除く)については、退職後の遅延利息は年14.6%とされています(賃金の支払いの確保等に関する法律6条1項)。
 もっとも、賃金支払いの遅滞がやむを得ない事由で以下のものによる場合には、その事由の存する期間の遅延利息は、通常の民事法定利率とされます(同条2項)。

① 天災地変
② 事業主が破産手続開始の決定を受け、又は賃金の支払の確保等に関する法律施行令第2条第1項各号に掲げる事由のいずれかに該当することとなったこと。
③ 法令の制約におり賃金の支払に充てるべき賃金の確保が困難であること。
④ 支払が遅滞している賃金の全部または一部の存否に係る事項に関し、合理的な理由により、裁判所又は労働委員会で争っていること。
⑤ その他前各号に掲げる事由に準ずる事由

 ④「合理的な理由により…争っていること」とは、法律解釈若しくは事実認定に争いがあり、使用者の主張する解釈や事実が不合理ではないことと解釈される傾向にあり(東京高判平26.2.27労判1086号5頁[レガシィほか1社事件])、雇用主が当初より争いのない部分について支払う意向を示している場合には「合理的な理由」を肯定する事情となります(東京地判平25.3.27)。ただし、天変地異と同視しうる程度の合理性が必要と厳格に解釈する裁判例もあります(大阪地判平22.7.15労判1023号70頁[医療法人大寿会事件])。

【東京高判平26.2.27労判1086号5頁[レガシィほか1社事件]】
 「賃確法6条2項は,賃金の支払遅滞が『天災地変その他のやむを得ない事由で厚生労働省令で定めるものによるものである場合』に同条1項を適用しないとしていて,これを受けた賃確法施行規則6条は,厚生労働省令で定める遅延利息に係るやむを得ない事由として,天災地変(1号),事業主が破産手続開始の決定を受け,又は賃金の支払の確保等に関する法律施行令2条第1項各号に掲げる事由のいずれかに該当することとなったこと(2号),法令の制約により賃金の支払に充てるべき資金の確保が困難であること(3号),支払が遅滞している賃金の全部又は一部の存否に係る事項に関し,合理的な理由により,裁判所又は労働委員会で争っていること(4号),その他前各号に掲げる事由に準ずる事由(5号)を規定している。」
 「本件では,被控訴人の時間外労働の割増賃金支払の前提問題として,専門業務型裁量労働制が被控訴人に適用されるか否かが争点の一つとなっていて,その対象業務の解釈が争われているところ,この点に関する当事者双方の主張内容や事実関係に照らせば,控訴人らが被控訴人の割増賃金の支払義務を争うことには合理的な理由がないとはいえないというべきである。したがって,被控訴人の未払割増賃金に対する遅延損害金については,商事法定利率によるべきこととなる。」

【東京地判平25.3.27】
1 賃確法施行規則6条4号の解釈
 「賃確法6条1項の趣旨は,退職労働者に対して支払うべき賃金(退職手当を除く。)を支払わない事業主に対して,年14.6%という高率の遅延利息の支払義務を課すことにより,賃金の支払を確保し,かつ,事前に賃金未払が生じることを防止しようとする点にあり,金銭を目的とする債務の不履行に係る損害賠償について規定した民法419条1項本文の利率(民法404条に規定する年5%又は商法514条に規定する年6%)に関する特則を定めたものである。」
 「そして,賃確法6条2項,同法施行規則6条は,遅延利息の利率に関する特則規定である賃確法6条1項の適用をはずし,民法404条又は商法514条に規定される原則的な利率に戻すための要件を定めた規定である。」
 「ところで,賃確法6条1項で定める利率は年14.6%であり,民法404条又は商法514条で規定されている原則的な利率に比しても非常に高率の利率を定めている。」
 「また,賃確法施行規則6条5号においては,除外事由として『その他前各号に掲げる事由に準ずる事由』と定めてその適用範囲を広げる規定が置かれているところでもある。」
 「以上からすれば,賃確法施行規則所定の除外事由については,これを柔軟かつ緩やかに解すべきといえ,賃確法6条2項,同法施行規則6条4号にいう『合理的な理由により裁判所・・・で争っていること』とは,事業主が一応の証拠に基づいて賃金の全部又は一部の存否を争っており,かかる事業主の対応が不合理とはいえない場合を含むと解するのが相当である。」
2 当該事案への当てはめ
⑴ 主張に争いがあること
 「これを本件についてみるに,原告らの時間外及び深夜割増賃金の請求に対し,被告は,就業規則…,労使協定…,労働基準監督署への届出…などをもって,1週間単位の非定型的変形労働時間制が採用されていると主張し,また,深夜の時間帯は利用客が減少するという業務の実態から原告らが午前2時から午前5時までの間に原告らが少なくとも1時間の休憩時間を取れていたと主張し,さらに,同意書…をもって原告らが時間外及び深夜割増賃金を放棄したと主張し,原告らの請求を争っていたところである…。」
⑵ 支払うべきものは支払うとの意向を示していること
 「また,本件訴訟において,被告は,当初から支払うべきものは支払うという姿勢を明確にしており,裁判所が第3回弁論準備手続期日において提示した和解案…についてもこれを受け入れる姿勢を明確にしていた…。」
 「さらに,被告は,裁判所から上記和解案の提示後,本件訴訟係属中の平成25年2月1日,原告らに対し時間外及び深夜の割増賃金の元金全額及び各支払日の翌日から平成25年2月1日まで年6%の遅延損害金を支払った…。」
⑶ 小括
 「以上からすると,被告は,一応の証拠に基づいて原告らの時間外及び深夜割増賃金請求の全部又は一部の存否を争っており,また,その対応としても当初から支払うべきものは支払うという姿勢を明らかにし,実際にそのとおり行動していることからすると,その対応において不合理な点があるとはいいがたい。したがって,本件においては,賃確法6条2項,同法施行規則6条4号にいう,合理的な理由によって裁判所で争っているものということができ,賃確法6条1項の適用はないものと解するのが相当である。」

【大阪地判平22.7.15労判1023号70頁[医療法人大寿会事件]】
 「原告Aが平成20年12月31日をもって,原告Cが平成21年3月31日をもって,それぞれ被告を退職したことは当事者間に争いがない。上記原告両名は,被告に対し,未払の割増賃金に対する退職日の翌日から支払済みまで賃金の支払の確保等に関する法律6条1項及び同法施行令所定の年14.6パーセントの割合による遅延損害金の支払を求めているところ,被告は,被告には,同条2項に定める事由があると主張して,同条1項の遅延利息の適用を争っている。」
 「しかしながら,同法6条2項において同条1項の遅延利息の適用の例外とされているのは,賃金の支払の遅滞が『天災地変その他のやむを得ない事由で厚生労働省令で定めるものである場合』であるところ,かかる規定の文言及び同法が賃金の支払の確保措置を通じて労働者の生活の安定に資することを目的としていること(同法1条参照)に照らすならば,同法施行規則6条にいう『合理的な理由により,裁判所(中略)で争っていること』とは,単に事業主が裁判所において退職労働者の賃金請求を争っているというのでは足りず,事業主の賃金支払拒絶が天災地変と同視し得るような合理的かつやむを得ない事由に基づくものと認められた場合に限られると解するべきである。
 「本件において,被告の原告A及び原告Cに対する賃金支払拒絶に上記のような合理的かつやむを得ない事由があるものとは本件全証拠によっても認めることができない。」
 「したがって,原告A及び原告Cは,被告に対し,それぞれの割増賃金に対する退職の日の翌日から支払済みまで年14.6パーセントの割合による遅延損害金の支払を請求することができる。」

賃金の支払の確保等に関する法律6条(退職労働者の賃金に係る遅延利息)
1「事業主は、その事業を退職した労働者に係る賃金(退職手当を除く。以下この条において同じ。)の全部又は一部をその退職の日(退職の日後に支払期日が到来する賃金にあつては、当該支払期日。以下この条において、同じ。)までに支払わなかつた場合には、当該労働者に対し、当該退職の日の翌日からその支払をする日までの期間について、その日数に応じ、当該退職の日の経過後まだ支払われていない賃金の額に年14.6パーセントを超えない範囲内で政令で定める率を乗じて得た金額を遅延利息として支払わなければならない。」
2「前項の規定は、賃金の支払の遅滞が天災地変その他のやむを得ない事由で厚生労働省令で定めるものによるものである場合には、その事由の存する期間について適用しない。」
賃金の支払の各法等に関する法律施行令1条(退職労働者の賃金に係る遅延利息の率)
「賃金の支払の確保等に関する法律(以下「法」という。)第6条第1項の政令で定める率は、年14.6パーセントとする。」
賃金の支払いの確保等に関する法律施行規則6条(遅延利息に係るやむを得ない事由)
「法第6条第2項の厚生労働省令で定める事由は、次に掲げるとおりとする。」

一「天災地変」
二「事業主が破産手続開始の決定を受け、又は賃金の支払の確保等に関する法律施行令(以下「令」という。)第2条第1項各号に掲げる事由のいずれかに該当することとなつたこと。」
三「法令の制約におり賃金の支払に充てるべき賃金の確保が困難であること。」
四「支払が遅滞している賃金の全部または一部の存否に係る事項に関し、合理的な理由により、裁判所又は労働委員会で争つていること。」
五「その他前各号に掲げる事由に準ずる事由」

法定重利

 重利(複利)とは、利息を元本に組み入れて、元本に組み入れられた利息についても利息を発生させることをいいます。
 民法上、一定の場合には、利息の元本への組み入れが認められています(民法405条)。そして、民法405条にいう「利息」には、約定利息のみならず遅延利息も含まれると解釈されています(大判昭和17・2・4民集21巻107頁)。
 具体的には、利息(遅延損害金)の元本への組み入れをするためには、以下の要件を満たす必要があります。

①利息の支払いが1年以上延滞していること
②債権者が催告をしたこと
③債務者がその利息を支払わないこと
④延滞している利息を元本に組み入れる旨の意思表示

 このように、利息を元本に充当するためには、催告をすることや、元本に組み入れる意思表示をすることが必要となります。割増賃金については、訴訟になると争いが長期化する場合もありますので、利息の金額が大きくなるようであれば、これについても元本に充当のうえ更に遅延損害金を請求することも考えられます

民法405条(利息の元本への組入れ)
「利息の支払が1年分以上延滞した場合において、債権者が催告しても、債務者がその利息を支払わないときは、債権者は、これを元本に組み入れることができる。」

参考リンク

法務省:民法の一部を改正する法律(債権法改正)について

法務省:民法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案

東京労働局:未払賃金とは

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