地方公務員の方は、副業をすることはできるのでしょうか。また、副業をするために許可等は必要なのでしょうか。
今回は、地方公務員の副業について解説します。
目次
地方公務員とは
地方公務員とは、普通地方公共団体、特別地方公共団体または特定地方独立行政法人に勤務し、その事務処理に従事することによって、給与、報酬あるいは手当といった対価を得ている者すべてをいうものと解されています。
地方公務員には、特別職と一般職があります。特別職には、地方公務員法が適用されませんので、以下では一般職を前提に説明します。
営利企業への従事等の制限
職員は、任命権者の許可を受けなければ、①営利企業を営むことを目的とする会社その他の団体の役員その他人事院会規則で定める地位を兼ね、若しくは②自ら営利企業を営み、又は③報酬を得ていかなる事業若しくは事務にも従事してはならないとされています(地方公務員法38条1項)。地方公務員の副業や兼業が制限されるというのは、これが理由です。
このような制限が設けられている目的は、以下の3点にあると言われています。
①職員が営利企業等に従事すると、これに注意と関心を奪われ公務に対する集中心が欠け、その職務専念義務に違背するおそれがあることから、これを抑止する。
②自らが関与する営利企業等に特殊の利益を与え、もって職務の公正を害するおそれがあることからこれを防止する。
③その従事する営利企業等の性質によっては職の信用と名誉を害するおそれがあるからこれを阻止する。
地方公務員法38条(営利企業への従事等の制限)
1「職員は、任命権者の許可を受けなければ、商業、工業又は金融業その他営利を目的とする私企業(以下この項及び次条第1項において「営利企業」という。)を営むことを目的とする会社その他の団体の役員その他人事院規則(人事委員会を置かない地方公共団体においては。地方公共団体の規則)で定める地位を兼ね、若しくは自ら営利企業を営み、又は報酬を得ていかなる事業若しくは事務にも従事してはならない。」
2「人事委員会は、人事委員会規則により前項の場合における任命権者の許可の基準を定めることができる。」
許可を要する場合
総論
地方公務員が副業や兼業をするのに許可を要するのは、①営利企業を営むことを目的とする会社その他の団体の役員その他人事院会規則で定める地位を兼ね、若しくは②自ら営利企業を営み、又は③報酬を得ていかなる事業若しくは事務にも従事する場合です。
もっとも、「許可を要する兼業の範囲が明確ではないため、本来許可を要しない行為までもが抑制されているのではないかと」の疑問が呈されているのが現状です。
「営利企業への従事等に係る任命権者の許可等に関する調査(勤務条件等に関する附帯調査)」の結果等について(令和2年1月10日総行公第1号)別添2
①営利企業を営むことを目的とする会社等の役員
地方公務員が営利企業を営む会社等の役員に就任する場合、癒着が起きやすく、その就任は制限されています。かかる趣旨から、営利企業を営む会社等の役員に就任することは、無報酬の場合でも、許可を要します。
ただし、以下の団体は、非営利の団体であり、営利企業を営むことを目的とする会社等には当たりません(行実昭26・5・14地自公発203号)。
⑴ 農業協同組合
⑵ 水産協同組合
⑶ 森林組合
⑷ 消費生活協同組合
②自ら営利企業を営む場合
以下の範囲であれば、営利企業を営む場合には該当しないとされます。
⑴ 自家用の米や野菜等を生産する兼業農業
⑵ 冠婚葬祭等の費用のために立木を伐採するなどの小規模な山林経営
⑶ 家族が経営する飲食店の手伝いや賃貸駐車場の自己管理
③報酬を得て事業もしくは事務に従事する場合
職員は、営利を目的としない団体からであっても、報酬を得て事業や事務に従事する場合には、許可を要します。
以下の場合には、報酬には該当しないとされますが、⑵については異論があるとされています。
⑴ 講演料、原稿料等
⑵ 寺社の住職として受け取る布施(行実昭26・6・20地自公発255号)
⑶ 国家公務員やほかの自治体の地方公務員である特別職や一般職を兼ね、報酬ではなく実費弁償を受けること
許可の基準
地方公務員
人事委員会は、人事委員会規則により、任命権者の許可の基準を定めることができます。
もっとも、「兼業許可に係る基準を設定している団体は、今般の調査結果によると、都道府県及び市区町村のうち4割程度にとどまる」とされ、「兼業許可に係る基準を内外に公表している団体は、今般の調査結果によると、都道府県及び市区町村のうち2割程度にとどまる」とされています(令和2年1月10日総行公第1号)。
以上のような状況から、総務省は、「『「職員の兼業の許可について」に定める許可基準に関する事項について(通知)』について(送付(平成31年4月26日事務連絡))等の既存の通知や国家公務員法、人事院規則等を踏まえ、各地方公共団体において詳細かつ具体的な許可基準を設定すべきと通知しています(令和2年1月10日総行公第1号)。
「営利企業への従事等に係る任命権者の許可等に関する調査(勤務条件等に関する附帯調査)」の結果等について(令和2年1月10日総行公第1号)
国家公務員:参考
⑴ 職員の兼業の許可に関する内閣官房令
職員の兼業の許可に関する内閣官房令(昭和41年総理府令第5号)第1条は、兼業の許可の申請があった場合においては、「その職員の占めている官職と国家公務員法…第104条の団体、事業又は事務との間に特別の利害関係がなく、又はその発生のおそれがなく、かつ、職務の遂行に支障がないと認めるときに限り」許可することができるとしています。
⑵ 職員の兼業の許可について(昭和41年2月11日総人局第97号)
同通知を昭和41年通知と言います。
昭和41年通知では、兼業の許可に関する基準を以下のとおりとしています。
第3 許可基準に関する事項
2 兼業の許可に関する申請が次の各号の一に該当する場合には、原則として、許可しない取扱いとされたいこと。
⑴ 兼業のため勤務時間をさくことにより、職務の遂行に支障が生ずると認められるとき。
⑵ 兼業による心身の著しい疲労のため、職務遂行上その能率に悪影響を与えると認められるとき。
⑶ 兼業しようとする職員が在職する国の機関と兼業先との間に、免許、認可、許可、検査、税の賦課、補助金の交付、工事の請負、物品の購入等の特殊な関係があるとき。
⑷ 兼業する事業の経営上の責任者となるとき。
⑸ 兼業することが、国家公務員としての信用を傷つけ、または官職全体の不名誉となるおそれがあると認められるとき。
⑶ 「職員の兼業の許可について」に定める許可基準に関する事項について(通知)(平成31年3月28日閣人人第225号)
ア 総論
同通知を平成31年通知と言います。
平成31年通知では、昭和41年通知の内容を以下のとおり具体化しています。
イ 「兼業による心身の著しい疲労のため、職務遂行上その能率に悪影響を与えると認められるとき。」(昭和41年通知第3の2⑵)の判断方法
兼業をしようとする職員の健康、兼業する事業又は事務の内容や兼業先の勤務時間数(以下「兼業時間数」という。)、官職における超過勤務時間を含めた勤務の状況等を考慮して判断されます。
兼業しようとする職員について、兼業時間数が、週8時間又は1箇月30時間を超えるとき、また、勤務時間が割り振られた日において1日3時間を超えるときは、原則として、第3の2⑵に該当することになります。
ウ 「兼業することが、国家公務員としての信用を傷つけ、または官職全体の不名誉となるおそれがあると認められるとき。」(昭和41年通知第3の2⑸)の判断方法
①兼業先、②兼業する事業又は事務及び⑶兼業することによって得られる報酬について、以下のとおりとされています。
① 兼業先について
ア)営利企業以外の団体(以下「非営利団体」という。)について
ⅰ)国、地方公共団体、独立行政法人、国立大学法人、地方独立行政法人等
これらの非営利団体については、原則として、第3の2⑸に該当しないとされています。
ⅱ)公益社団法人、公益財団法人、社会福祉法人、学校法人、更生保護法人、医療法人、特定非営利活動法人等
これらの非営利団体については、以下のいずれかに該当する場合に、原則として、第3の2⑸に該当するとされています。
a)非営利団体がその設立目的に沿った活動実績があることを事業報告、活動計算書等により確認することができないとき。
b)非営利団体又はその役員もしくは役員であった者が、人事院規則21-0(国と民間企業との間の人事交流)第7条第1号に該当するとき。
ⅲ)一般社団法人、一般財団法人、自治会・町内会、マンション管理組合、同総会等
これらの非営利団体については、以下のいずれかに該当する場合に、原則として、第3の2⑸に該当するとされています。
a)定款等に記載されている非営利団体の目的が国家公務員としての信用を傷つけ、または官職全体の不名誉となるおそれがあると認められるとき。
b)非営利団体がその設立目的に沿った活動実績があることを事業報告、活動計算書等により確認することができないとき。
c)直近3年分の事業報告、活動計算書等の資料がHP等により国民に広く公表されていないとき。
d)非営利団体又はその役員もしくは役員であった者が、人事院規則21-0(国と民間企業との間の人事交流)第7条第1号に該当するとき。
イ)営利企業について
原則として、第3の2⑸に該当するとされています。
② 兼業する事業又は事務について
第3の2⑸に該当しないと認められる兼業先において、当該兼業先の定款に記載されている目的に沿った事業又は事務を行い、かつ、当該事業又は事務が国家公務員としての信用を傷つけ、または官職全体の不明となるおそれがないものと認められる場合には、第3の2⑸に該当しないものとされています。
③ 兼業することによって得る報酬について
兼業することによって得る報酬として、社会通念上相当と認められる程度を超える額である場合には、第3の2⑸に該当するものされています。
国家公務員倫理規程(平成12年政令第101号)第9条第2項に基づき、利害関係者からの依頼に応じて行う講演等については、倫理監督官により報酬基準が定められていることを踏まえ、利害関係者からの依頼に限らず、同様の事業又は事務を行う兼業においては、当該報酬基準を超える場合には、第3の2⑸に該当するものとされています。
「職員の兼業の許可について」に定める許可基準に関する事項について(通知)(平成31年3月28日閣人人第225号)
地方教育公務員の特例
教育公務員は、教育に関する他の職を兼ね、又は教育に関する他の事業若しくは事務に従事することが本務の遂行に支障がないと任命権者において認める場合には、給与を受け、又は受けないで、その職を兼ね、又はその事業若しくは事務に従事することができるとされています(教育公務員特例法17条1項)。
この場合、人事院会が定める許可の基準によることを要しません(教育公務員特例法17条2項)。
これは、地方公務員法38条1項が「報酬を得ていかなる事業若しくは事務にも従事してはならない」としていることの例外です。
地方教育公務員につき例外が定められている理由は、以下の3点とされています。
①授業時間以外においては兼業をしても本務の遂行に支障を生じない余裕があること
②教育に関する他の職、事業等に従事することは、本務の職務への熟達をもたらすこともありうること
③大学の教授については、一の大学では適格者を得られず、他の大学の教授の兼職を必要とする場合があること
教育公務員特例法17条(兼職及び他の事業等の従事)
1項「教育公務員は、教育に関する他の職を兼ね、又は教育に関する他の事業若しくは事務に従事することが本務の遂行に支障がないと任命権者…において認める場合には、給与を受け、又は受けないで、その職を兼ね、又はその事業若しくは事務に従事することができる。」
2項「前項の場合においては、地方公務員法第38条第2項の規定により人事委員会が定める許可の基準によることを要しない。」
許可の効果
任命権者の許可を受けることにより、職員は禁止されている兼業について自由を回復することになります。
もっとも、職員が、勤務時間中に、営利企業への従事をする場合には、別個に職務専念義務の免除を受ける必要があるとされています(行実昭27・10・10自行公発84号)。