不当解雇・退職扱い

兼業の許可制と違反した場合の解雇

 現代社会においては、働き方も多様化しています。それに伴い、兼業(兼職)や副業が問題となることが増えてきています。今回は、兼業や副業を規制することは許されるのか、許可のない兼業を理由とする解雇の有効性について解説します。

就業規則上の規定

 労働者が許可なく兼業をしたことを理由に懲戒解雇される場合があります。就業規則などでは、以下のような規定がおかれている会社があります。

規定例

第〇条(懲戒解雇)
 労働者が次のいずれかに該当するときは、懲戒解雇とする。ただし、平素の服務態度その他情状によっては、第〇条に定める普通解雇、前条に定める減給、出勤停止とすることがある。
許可なく他社において就労することによって、労務提供に支障が生じた場合若しくは企業秩序を侵害した場合
②…

裁判例の判断基準

懲戒権濫用法理

 懲戒解雇は、①「懲戒することができる場合」において、②「客観的に合理的な理由を欠き」、③「社会通念上相当であると認められない場合」は、懲戒権の濫用として無効となります(労働契約法15条)。
 許可なく兼業したことを理由とする懲戒解雇については、そもそも兼業に対して規制をすることが許されるのかが問題となります。

解雇の有効性-クビと言われたらどうすればいいのか-突然会社から解雇された場合には、どうすればいいのでしょうか。解雇はどのような場合に有効であり、解雇が無効な場合の慰謝料や解決金の相場はどうなっているのでしょうか。今回は、解雇について解説していきます。...

兼業に対する規制の可否

⑴ 禁止できる兼業の範囲

 就業規則上、許可のない兼業を懲戒解雇事由としたり、許可なく他人に雇い入れられることを禁止しその違反を懲戒事由としているものが多くみられます。
 裁判例は、勤務時間外に労働者が他社で働くことについても、原則として許可しなくてはならないとしたうえで、「労働者が兼業することによって,労働者の使用者に対する労務の提供が不能又は不完全になるような事態が生じたり,使用者の企業秘密が漏洩するなど経営秩序を乱す事態が生じることもあり得るから,このような場合においてのみ,例外的に就業規則をもって兼業を禁止することが許されるものと解するのが相当である。」として、就業規則等の許可性の規定を限定的に解釈しています(京都地判平成24.7.13[マンナ運輸事件])。
 具体的には、使用者は、①労務提供に支障が生じる場合、②企業の経営秩序を害する場合(競業避止義務違反等)、③企業の対外的信用・体面を侵害する場合であれば、就業時間以外の兼業を禁止できるとされています(東京地決昭和57.11.19[小川建設事件])。
 禁止に該当する例は、以下のとおりです。

例1 労務提供に支障をきたす程度の長時間の二重就職(東京地決昭57.11.19労民33巻6号1028頁)
例2 競業会社の取締役への就任(名古屋地判昭47.4.28判時680号88頁[橋元運輸事件])
例3 使用者が従業員に対し特別加算金を支給しつつ残業を廃止し、疲労回復・能率向上に努めていた期間中の同業会社における労働(福岡地判昭47.10.20判タ291号355頁[昭和室内装備事件])、
例4 病気による休業中の自営業経営(東京地八王子支判平17.3.16労判893号65頁)

【京都地判平成24.7.13労判1058号21頁[マンナ運輸事件]】
 「労働者は,雇用契約の締結によって一日のうち一定の限られた勤務時間のみ使用者に対して労務提供の義務を負担し,その義務の履行過程においては使用者の支配に服するが,雇用契約及びこれに基づく労務の提供を離れて使用者の一般的な支配に服するものではない。労働者は,勤務時間以外の時間については,事業場の外で自由に利用することができるのであり,使用者は,労働者が他の会社で就労(兼業)するために当該時間を利用することを,原則として許されなければならない。」
 「もっとも,労働者が兼業することによって,労働者の使用者に対する労務の提供が不能又は不完全になるような事態が生じたり,使用者の企業秘密が漏洩するなど経営秩序を乱す事態が生じることもあり得るから,このような場合においてのみ,例外的に就業規則をもって兼業を禁止することが許されるものと解するのが相当である。」
 「そして,労働者が提供すべき労務の内容や企業秘密の機密性等について熟知する使用者が,労働者が行おうとする兼業によって上記のような事態が生じ得るか否かを判断することには合理性があるから、使用者がその合理的判断を行うために,労働者に事前に兼業の許可を申請させ,その内容を具体的に検討して使用者がその許否を判断するという許可制を就業規則で定めることも,許されるものと解するのが相当である。ただし,兼業を許可するか否かは,上記の兼業を制限する趣旨に従って判断すべきものであって,使用者の恣意的な判断を許すものでないほか,兼業によっても使用者の経営秩序に影響がなく,労働者の使用者に対する労務提供に格別支障がないような場合には,当然兼業を許可すべき義務を負うものというべきである。」

【名古屋地判昭47.4.28判時680号88頁[橋元運輸事件]】
 「元来就業規則において二重就職が禁止されている趣旨は、従業員が二重就職することによって、会社の企業秩序をみだし、又はみだすおそれが大であり、あるいは従業員の会社に対する労務提供が不能若しくは困難になることを防止するにあると解され、従って右規則にいう二重就職とは、右に述べたような実質を有するものを言い、会社の企業秩序に影響せず、会社に対する労務の提供に格別の支障を生ぜしめない程度のものは含まれないと解するのが相当である。」

⑵ 労務の提供に支障が生じるといえるかの基準

 裁判例は、労務の提供に支障が生じるといえるかについて、以下の要素を考慮し判断しています。

①兼業を行っているのが平日か休日か
②兼業の頻度(毎日か)
③時間数(本業と兼業を併せ1日15時間を超える場合には過労のおそれ)
④時間帯(深夜か、兼業終了後労務提供開始まで6時間を切るかどうか)
⑤本業の業種
⑥兼業の性質等

【東京地決昭和57.11.19労民集33巻6号1028頁[小川建設事件]】
 事務職の従業員が、就業時間終了後である午後6時から午前0時までマ一キャバレーのリスト係及び会計係の無許可兼業をしていたという事案について
 同裁判例は、「毎日」の勤務時間は「6時間」にわたりかつ「深夜」に及ぶものであり、労務の誠実な提供に何らかの支障を来す蓋然性が高いとして、普通解雇を有効としています。

【仙台地判平成元.2.16判タ696号108頁[辰巳タクシー事件]】
 タクシー会社の運転手である従業員が、会社の許可なしにガス器具の販売等を副業として営んでいたという事案について、
 同裁判例は、当該副業は、原告の生計にとって不可欠な規模に達しており、原告自身がその労務に従事することにより、心身の休養時間が少なくなるのみならず、経営上の悩みや心労を伴うため、事故防止というタクシー会社に課せられた使命の達成が危うくなり、従業員の会社に対する労務提供の確保という目的を達せられなくなるとして、懲戒解雇を有効としています。

【京都地判平成24.7.13労判1058号21頁[マンナ運輸事件]】
 トラック運転手の従業員(週5日午後1時から午前0時頃まで勤務)が4回にわたるアルバイト就労の許可申請をすべて不許可にされたことに対して会社に損害賠償を求めた事案について、
 同裁判例は、午前8時30分から午後0時までの他社での構内仕分け作業 につき(第1申請)、兼業終了後被告への労務提供開始までの休憩時間が「6時間」を切る場合には不許可とすることができるとしています。
 また、午前1時から午前5時までの他社での構内仕分け作業につき(第2申請)、1日当たり「15時間」もの労働をすることは社会通念上過労といえ不許可とすることができるとしています。
 更に、日曜日(法定休日)午前10時から午後2時までの他社での構内仕分け作業につき(第3申請)、週休2日であること等に照らすと、労務提供に支障が生じているとはいえず、不許可とすることはできないとしています。
 加えて、日曜日(法定休日)午後6時から午後9時までのラーメン店での接客、皿洗い等についても(第4申請)、不許可とすることはできないとしています。

⑶ 企業の経営秩序を害するかの基準

 裁判例は、企業の経営秩序を害するかについて、以下の要素を考慮し判断しています。

①兼業先の業種が同一か
②兼業を禁止する会社における役職地位
③本業における役職地位
④兼業先における経営への関与の程度
⑤兼業先における就労の経緯等

【名古屋地判昭47.4.28判時680号88頁[橋元運輸事件]】
 「原告らは訴外会社の取締役に就任後、取締役として訴外会社の経営に直接関与することなく、被告の従業員として稼働していたというのであるから、原告らの被告に対する労務の提供に何ら支障を来さなかったことは明らかである。」
 「従って原告らの取締役就任が、被告に対する労務提供を妨げる事由とは認められない。また原告らは前記のとおり訴外会社の経営に直接関与していなかったのであるから、一見すれば、被告の企業秩序に対し影響するところはないとも考えられる。」
 「しかし、訴外Aは被告の取締役副社長に在任中に同一業種の別会社を設立することを企て、これを実行したのであり、原告らは訴外Aの右企てを同人から告げられ、その依頼を受けて訴外会社の取締役に就任することにより右企てに参加したものであること、訴外Aが別会社設立を理由に解任された後も、これを知りながら、いぜんとして取締役の地位にとどまり辞任手続等は一切しなかったこと、訴外Aは被告から解任された後は訴外会社の経営に専念していたのであり、訴外Aと原告らとの前記のような間柄からすれば、原告らは、訴外Aから訴外会社の経営につき意見を求められるなどして、訴外会社の経営に直接関与する事態が発生する可能性が大であると考えられること原告らは被告の単なる平従業員ではなく、いわゆる管理職ないしこれに準ずる地位にあったのであるから、被告の経営上の秘密が原告らにより訴外Aにもれる可能性もあることなどの諸点を考え併せると、原告らが被告の許諾なしに、訴外会社の取締役に就任することは、たとえ本件解雇当時原告らが訴外会社の経営に直接関与していなかったとしても、なお被告の企業秩序をみだし、又はみだすおそれが大であるというべきである。」
 「してみると、原告らの訴外会社取締役就任の所為は被告就業規則第四八条四号または七号に該当するというべきであるから、これを理由としてなされた本件解雇は有効である。」

小括

 以上のとおり、労働者が許可なく兼業したことを理由とする懲戒解雇については、勤務時間外に労働者が他社で働くことについても、原則として自由であることから、別会社において長時間にわたり勤務している場合など兼職の内容から労務提供に支障が生ずる場合や、競業会社の取締役に就任するなど企業秩序に違反する場合を除き、許されません

兼業の許可を出さないことが違法となる場合

 裁判例は、使用者による兼業の不許可につき、「執拗かつ著しく不合理なもので,単なる労働契約上の許可義務違反を超えて原告に対する不法行為に当たるというべきである」と判断したものがあります。
 この裁判例からも分かるとおり、兼業許可性の違反にあたらない業務について兼業許可を出さないことが直ちに不法行為に該当するわけではありません。もっとも、その態様等から悪質性が高い場合には、使用者は、不法行為として損害賠償責任を負う場合があります

【京都地判平成24.7.13労判1058号21頁[マンナ運輸事件]】
1 不法行為該当性
 「原告の第3申請及び第4申請に対する不許可は,『働き過ぎ』の基準となる時間について従前の交渉経過等と明らか異なる時間数を突然持ち出しており,恣意的な対応をうかがわせるものである。また,法定休日を持ち出す点も,週に2日休日がある中のわずか3時間ないし4時間就労するに過ぎないものであるにもかかわらず,本来理由となり得ない法定休日を理由として持ち出しているのであって(被告における労働から解放されるという意味では週2日ある休日は同じ価値を有し,被告においていずれとも定め得るものであって,法定休日であることを不許可の理由とするのであれば,休日におけるアルバイト就労を一切認めないことを事実上意味することにもなりかねない。),兼業による支障を真摯に検討するという姿勢を明らかに欠くものといわざるを得ずない。」
 「これらに照らすと,被告が行った不許可は,原告のアルバイト就労を不当かつ執拗に妨げる対応といわざるを得ない。」
 「以上のとおり,原告の第3申請及び第4申請に対する被告の不許可は,執拗かつ著しく不合理なもので,単なる労働契約上の許可義務違反を超えて原告に対する不法行為に当たるというべきである。」
2 損害額
⑴ 逸失利益
 「原告は,まず,就労できなかったことによって得られなかった利益を主張し,その利益として,平成21年5月から同年10月までD社で行っていたアルバイト就労における収入相当額の損害を主張する」。
 「しかしながら,原告がD社で行っていたアルバイト就労は,原告の第1申請と同内容のものであり,上記2(2)イ(ア)のとおり不許可とするのが合理的というべきものであったから,これによる収入相当額の損害があったということはできない(なお,原告の第3申請,第4申請を前提とした損害額の主張を原告はしておらず,この点は,次の慰謝料算定の一要素として考慮することとする。)」
⑵ 慰謝料
 「原告は,次に,被告による不合理かつ執拗なアルバイト就労の不許可がされたことにより,本件訴訟における追加的な主張立証を含めて対応を余儀なくされ,生活の足しとすべき収入が得られなかったなどの精神的苦痛を被ったことが認められる。」
 「そして,その苦痛に対する慰謝料額は,被告の対応の不合理性の程度,許可されるべきアルバイト就労によって得られた収入の程度,それが原告の収入に占める割合,原告が被告の不合理性の主張立証に要した労力等をはじめとする諸事情を総合的に考慮して,30万円とするのが相当である。」

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