労働者は、窃盗・詐欺行為を行ったことを理由として懲戒処分されることはあるのでしょうか。また、懲戒処分が許されるとした場合に、懲戒解雇などの重い処分は許されるのでしょうか。
今回は、窃盗・詐欺行為を理由とする懲戒処分について解説します。
窃盗・詐欺とは
窃盗とは、「他人の財物を窃取」することをいいます(刑法235条)。
詐欺とは、「人を欺いて」、「財物を交付させ」若しくは「財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させ」ることをいいます(刑法246条)。
就業規則では、以下のような懲戒規定が置かれている会社が多く見られます。
第〇条(懲戒の事由)
1 労働者が次のいずれかに該当するときは、情状に応じ、けん責、減給又は出勤停
止とする。
①素行不良で社内の秩序及び風紀を乱したとき。
②…
2 労働者が次のいずれかに該当するときは、懲戒解雇とする。ただし、平素の服務態度その他情状によっては、第〇条に定める普通解雇、前条に定める減給又は出勤停止とすることがある。
①素行不良で著しく社内の秩序又は風紀を乱したとき。
②会社内において刑法その他刑罰法規の各規定に違反する行為を行い、その犯罪事
実が明らかとなったとき(当該行為が軽微な違反である場合を除く。)。
③…
刑法235条(窃盗)
「他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。」
刑法246条(詐欺)
1「人を欺いて財物を交付させたものは、10年以下の懲役に処する。」
2「前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。」
業務上における窃盗・詐欺
総論
懲戒処分は、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」は、その権利を濫用したものとして無効となります(労働契約法15条)。
では、業務上における窃盗・詐欺行為については、どのような懲戒処分が相当なのでしょうか。
これについて、使用者が解雇の予告なく労働者を解雇できる「労働者の責に帰すべき事由」(労働基準法20条1項但書)として認定すべき事例として、行政通達は(昭和23年11月11日基発1637号、昭和31年3月1日基発111号)は、以下の例を挙げています。
「原則として極めて軽微なものを除き、事業場内における盗取、横領、傷害等刑法犯に該当する行為のあった場合、また一般的に見て『極めて軽微』な事案であつても、使用者があらかじめ不祥事件の防止について諸種の手段を講じていたことが客観的に認められ、しかもなお労働者が継続的に又は断続的に盗取、横領、傷害等の刑法犯又はこれに類する行為を行つた場合」
また、国家公務員に関するものですが、人事院が作成した「懲戒処分の指針について(平成12年3月31日職職-68)」が参考になります。これによると公金の窃取・詐取行為については、以下のように規定されています。
2 公金官物取扱い関係
⑵ 窃取
公金又は官物を窃取した職員は、免職とする。
⑶ 詐取
人を欺いて公金又は官物を交付させた職員は、免職とする。
業務上における窃盗を理由とする懲戒処分
窃盗行為についての懲戒処分は、以下の要素を考慮し判断します。
① 窃取した金額・回数・期間
② 窃取行為を行った者の地位
業務上における窃盗行為については、原則として、懲戒解雇事由に該当すると考えられます。ただし、被害金額が極めて軽微であるような場合には、使用者による指導監督や行為の継続性等についても考慮し判断するべきでしょう。
東京地判平成15.12.22労経速1862号23頁[東武トラベル事件]】
「原告には、〔1〕旧会社の倉庫から百数十枚の使用済み旅行券を盗み出したこと、〔2〕数十枚の旅行券について、『引換日』欄を二重線で抹消し、訂正印を押印するなどして未使用の旅行券であるかのように改ざんしたこと、〔3〕原告が担当する個人または団体の顧客の旅行代金等の支払に充てるために、一〇五枚の旅行券を未使用のものであるかのように装って、旧会社の支店等の窓口に提出して使用するとともに、顧客から代金を受領し、または航空券の払戻手続を行い、その結果、旧会社に一〇二万円の損害を与え、ほぼ同額の金銭を不正に取得したことが認められる。原告の行為が『社金を窃取、着服および流用したとき』(懲戒規程六条六号)、『会社で販売している券類等を窃取または故意に不正発売、不正払戻しをしたとき』(同条七号)及び『その他前各号に準ずる不都合な行為があったとき』(同条一四号)の懲戒解雇事由に当たることは明らかである。」
「原告の一連の行為は、旅行券の窃取、改ざん、使用のいずれの点を見ても、多額の現金や旅行券を取り扱う旧会社の従業員としておよそ許容される余地のない不正行為であり、企業秩序を著しく損なうものである。その態様は、改ざんのための訂正印を準備するという点において計画的であり、使用の程度は長期間かつ多数回にわたっており、旧会社に与えた損害額は一〇二万円と多額である。事後の対応を見ても、原告は、不正行為が発覚するまで上司にその事実を申告せず、最初に事情聴取を受けた際には、『初対面の人物から依頼された』などと事実に反する説明をした。また、原告は、不正行為が発覚した当時、まだ一〇枚の使用済み旅行券を所持していたから(そのうち七枚は『引換日』欄が改ざんされている)、仮に不正行為が発覚しなければ、順次これらも使用したであろうことは容易に推察される。旧会社が被った損害は、その全額がてん補されているが、原告の一連の不正行為の態様、事後の対応、企業経営に与える影響の程度などを考慮すると、本件懲戒解雇は客観的に合理的な理由があり、社会的にも是認することができるものであり、重きに失するものとは認められない。」
大阪地判平24.11.2労経速2170号3頁[宮坂産業事件]
「原告P1の上記1(4)及び(5)の行為(解雇理由1〔1〕,解雇理由1〔2〕)は,被告の取引先リストや従業員の昇給に関するデータを被告のパソコンからプリントアウトして社外に持ち出したものであるところ,取引先リストについては,取引先の名前のみならず,これらの取引先を被告がどのように評価し,位置づけているかなどの情報が記載されているものであり,これが社外に漏れた場合,被告の業務に支障が生じる可能性が十分あり得るものであり,また,従業員の昇給に関するデータについても,従業員の昇給に関する情報は会社の人事情報であり,社外に持ちだされた場合には,当該従業員のプライバシーが害されるおそれのあるのみならず,被告における円滑な人事業務に支障を生じさせるおそれがあるものである。」
「以上によれば,原告P1が被告の取引先リストや従業員の昇給に関するデータをプリントアウトして社外に持ち出した行為は,被告就業規則74条8項『会社の機密情報を社外に漏洩しようとしたとき,あるいは現に漏洩させたとき又は事業上の不利益を計ったとき』に該当するものというべきである。」
「また,被告P1が前提事実(4)記載のとおり,上記事実によって窃盗罪の有罪判決を受けていることからすれば,原告P1の上記1(4)及び(5)の行為は,被告就業規則74条11項『会社内で横領,傷害などの刑法犯に該当する行為があったとき。』に該当することは明らかである。」
「そして,原告P1の上記行為は,第三者である組合の用に供するため,被告会社の重要な情報を社外に持ち出しており,これについて有罪判決を受けていることからすれば,懲戒処分の中でも懲戒解雇に相当するというべきである。」
業務上における詐欺を理由とする懲戒処分
詐欺行為についての懲戒処分は、以下の要素を考慮し判断します。
① 詐欺行為が行われた金額・回数・期間
② 詐欺行為が行われた経緯・目的
③ 詐欺行為を行った者の地位
業務上における詐欺行為についても、原則として、懲戒解雇事由に該当すると考えられます。ただし、被害金額が極めて軽微であるような場合には、使用者による指導監督や行為の継続性等についても考慮し判断するべきでしょう。
なお、通勤手当、家族手当、住宅手当、残業代の不正受給については、下記の記事を参照ください。
大阪地判平22.5.14労判1015号70頁[Y学園事件]】
「確かに,原告甲野は,長年にわたって,書道部の顧問を実質的に一人で担当していた者であること,客観的には負担する必要がなかった宿泊施設における大広間代金について,書道部で負担したかのように装って,PTAに対して施設費として請求していること,実際に請求手続を行ったのは,合宿に関する会計担当であったJ教諭やK教諭及び原告丙川ではあったものの,原告甲野は,上記の事実関係等を十分に認識理解した上で,かつ,平成14年以降,K教諭から施設費と記載された金銭在中の封筒を受領し,その金額が多かったにもかかわらず,漫然と受領し続けていたこと,平成18年度の合宿時には,原告丙川とともに,宿泊施設の担当者に要請して大広間代の領収書を発行させていること,上記のとおり,原告らの上記行為は,PTAから施設費を詐取したと評価することができること,原告らは,本件が発覚しそうになった段階で,被告高校とは全く関係のない自らが所属する書道団体の領収書を利用して,事実を隠蔽しようとしたこと,原告甲野が生徒に範を示す教員であること,以上の点を総合的に勘案すると,本件における施設費の申請に係る原告甲野の行為は,懲戒処分に値する不適切な行為であるといわざるを得ない。」
「しかし,上記認定したとおり,〔1〕書道部は,実際に合宿において大広間を使用して作品製作を行っていたこと,〔2〕原告甲野が,J教諭やK教諭及び原告丙川に対し,PTAからの施設費受給について個別具体的に指示したり,積極的にだまし取ろうという意図があったとまでは認められないこと,〔3〕原告甲野が同費用を個人的に利得していたことを認めるに足りる的確な証拠はなく,むしろ書道部の活動状況,生徒会予算,部費の額,原告甲野が立替払いや自己負担をしていた状況等にかんがみれば,PTAからの施設費は,書道部の活動資金に使用されていたと推認できること…,〔4〕被告では,平成19年度まで合宿費用等に関する領収書の提出を求めていないなど,PTAからの施設費等も含めたクラブ活動費用に関して会計処理等が適正に行われているか否かをチェックする体制になく…,また,クラブ活動費が不足しているか否か等についての実態調査を行ったことを認めるに足りる的確な証拠もないこと,〔5〕原告甲野に対する本件懲戒解雇処分に当たって参考とされたバレー部の顧問に関する事例については,必ずしもその全容が明らかであるとはいえないものの,本件における原告甲野の行為に比して,悪質な事案であることがうかがわれること…,以上の点が認められ,これらの点を総合的に勘案すると,原告甲野が生徒の範を示すべき立場にあることを考慮してもなお,原告甲野に対して,懲戒処分において最も重い免職(解雇)処分とすることについては,社会通念上相当であるとは認め難い。したがって,原告甲野に対する本件懲戒解雇処分は懲戒権ないし解雇権を濫用するものとして無効といわざるを得ない。」
大阪地判平11.1.25労経速1719号3頁[日本土地建物事件]】
「原告の行為は、長期間にわたって偽造の売渡証明書を提出して被告に対し不正に少なくとも一七万一二〇〇円の立替金の請求をするという悪質なものであり、被告がその行為を追及した後も不合理な弁解に終始するなど反省の色がみられないから、不正請求の金額が多額とはいえないことを考慮しても、被告のした本件懲戒解雇が著しく不合理であり、社会通念上相当なものとして是認することができないとはいえず、解雇権の濫用にはあたらない。」
東京地判平12.2.28労判796号89頁[メディカルサポート事件]
「本件解雇は、交際費使用明細書…等に係る費用(二〇万三六二〇円)の件、会議費使用明細書…等に係る費用(九二〇〇円)の件、交際費使用明細書…等に係る費用(一〇万五〇〇〇円)の件、交際費使用明細書…等に係る費用(二万五〇〇〇円)の件、交際費使用明細書…等に係る費用(五万二五〇〇円)の件、会議費使用明細書…等に係る費用(一万八四〇〇円)の件、会議費使用明細書…等に係る費用(九九八〇円)の件、会議費使用明細書…等に係る費用(二万六一一〇円)の件、交際費使用明細書…等に係る費用(七万五〇〇〇円)の件、会議費使用明細書…等に係る費用(二万二六〇〇円)の件、会議費使用明細書…等に係る費用(一万四六〇〇円)の件、会議費使用明細書…等に係る費用(二万六五〇〇円)の件及び会議費使用明細書…等に係る費用(二万三七〇〇円)の件がいずれも経費の不正請求又は不正精算であることを理由にされたものというべきであり、このような経費の不正請求及び不正精算は企業秩序維持の観点からは被告としては到底容認することができないものと考えられる。」
「そして、被告は、これらの費用のうち、交際費使用明細書…等に係る費用、会議費使用明細書…等に係る費用、交際費使用明細書…等に係る費用及び交際費使用明細書…等に係る費用の合計三四万二八二〇円については原告に支払ってはいないが、その余の合計二六万九三九〇円については原告に支払済みであって、支払済みの金額が少ないとは決していえない金額であり、原告が経費の不正請求をした回数及び不正精算をした回数も少ないとは決していえない回数であること、被告代表者は本件解雇に先立つ平成一〇年一一月二日に原告に対し、原告から提出された会議費使用明細書及び交際費使用明細書について飲食した相手方として記載された者と実際に飲食した相手方とが違っており、これは横領に当たることを指摘した上で、会議費使用明細書及び交際費使用明細書について飲食した相手方として記載された者と実際に飲食した相手方とが違っていないことが立証できるのなら立証するよう求めたが、原告はその場においてもその後も何の弁解もしなかったこと…、以上の点を総合すれば、被告が企業経営上の観点からもはや原告を雇用し続けることはできないと考えたとしても、それは無理からぬことというべきであって、被告が原告を解雇したことには客観的に合理的な理由があるというべきである。」
東京地判平23.3.25労判1032号91頁[NTT東日本事件]
「原告は,70万円を上回る額…の旅費の過大請求をして,その私的流用をしたものと認めることができる。」
「この行為は,就業規則76条1号(法令又は会社の業務上の規定に違反したとき),7号(業務取扱いに関し不正があったとき),11号(社員としての品位を傷つけ,又は信用を失うような非行があったとき)に該当するものというべきである。したがって,本件懲戒解雇は,懲戒事由の存在が認められる。」
東京地判平11.6.29労判768号18頁[博報堂事件]
「原告は、」B社「と共謀して、現実には行っていない『九一年ビルフィッシュ・トーナメント・パンフレット制作』の業務の請求書を同社から被告あてに提出させ、」B社「に被告から支払を受けさせ、その金員の内金一四七万円を」B社「から受け取ってこれを着服していたというのであり、また、被告が」B社「に支払った本件海外視察旅行の費用には原告が個人で旅行した分として合計金一三七万九五三六円及び二重取りした分として合計金一八万九〇〇〇円が含まれていたというのであって、これらが本件就業規則六九条二号にいう『業務上の地位を利用して、不当に私利をはかった場合』及び同条三号にいう『故意または重大な過失により、会社に著しい損害を与えた場合』に当たることは明らかであるというべきである。」
「そして、原告がビルフィッシュ・トーナメントの件で着服した金員の金額は金一四七万円と多いこと、原告が金員の着服の発覚を防ぐために行った経費の付け替えによって被告は信用問題を招来しかねない状況に置かれることになったのであって,原告が行った金員の着服はこれを隠ぺいするために執られた措置も含めて考えれば、その非違の程度は極めて大きいというべきであること、原告が個人で旅行した費用を本件海外視察旅行の経費として計上した分の合計は金一三七万九五三六円で、原告が本件海外視察旅行の経費から二重取りした分は金一八万九〇〇〇円で、その合計は金一五六万八五三六円と多いこと、原告が個人で旅行した費用を本件海外視察旅行の経費として計上したり本件海外視察旅行の経費から二重取りしたことによって、被告は同額の損害を被ったこと、原告はビルフィッシュ・トーナメントの件で金員を着服したことが発覚するのを防ぐために関係者に虚偽の請求書や領収書を作成させてこれを監査室に提出したが、監査室から提出した請求書や領収書が虚偽であり原告の説明が真実ではないことを指摘されるや、原告は新たな言い訳を主張し始め、関係者に指示してその言い訳に沿う虚偽の請求書や領収書を作成させてこれを監査室に提出するということを繰り返しており、監査室から新たな言い訳について真実でないことを指摘されても、原告はビルフィッシュ・トーナメントの件で金員を着服したことを認めようとはしなかったのであって、このように原告にはしんしに反省するという態度が全く見られないのであり、このような態度の原告をこのまま被告の従業員として雇用し続ければ原告が今後も同様の行為を繰り返すであろうという懸念はおよそ全く払拭できないのであって、被告としては今後も原告を被告の従業員として雇用し続けることはできないというべきであること、以上の点に照らせば、那覇支社在任中の原告が那覇支社の売上げに相当に貢献していたこと…を勘案しても、被告が原告との雇用契約を打ち切るという選択をすることが原告に対する懲戒処分として重きに失するということはできないのであって、本件解雇が解雇権の濫用に当たるということはできない。」
東京地判平22.11.9労判1016号84頁[ダイフク事件]
「…原告Aの一連の行為(工事代金の架空請求等による詐欺,虚偽申請のうえでの海外旅行,宿泊費の不正請求)は,いずれも刑事上の犯罪を構成するか,それに匹敵するものもの(原文ママ)であり,就業規則58条2項の懲戒解雇事由(故意または重大な過失により会社に重大な損害を与えた場合,業務に関し,不正不当に金品その他を授受した場合,職務外における私的な素行,言動が大きく会社の信用を失墜し,または不利益を及ぼした場合等)に該当することが明らかである。そして,本件懲戒解雇を無効というべき証拠はないから,原告Aの本訴請求は,いずれも理由がない。」
「また,原告Aの詐欺行為の結果として,被告は,平成20年3月31日の後,使用者責任に基づき,」M技工「に対して270万9464円,」M工業「…に対して1649万8098円,」Y「に対して260万9000円の合計2181万6562円の損害賠償をした。そうすると,被告は,原告に対し,その求償権を行使することができる。上記のとおり,原告Aの架空請求等は,刑法の詐欺に該当する犯罪行為であり,懲戒解雇事由に該当するから,同原告は,信義則上求償金の支払いを拒むことができないというべきである。」
業務外における窃盗・詐欺
私生活上の非行については、当該行為の性質、情状のほか、会社の事業の種類、態様・規模、会社の経済界に占める地位、経営方針及びその従業員の会社における地位・職種等諸般の事情から総合的に判断して、当該行為により会社の社会的評価に及ぼす悪影響が相当重大であると客観的に評価される場合には、懲戒処分の対象となることがあります(最判昭49.3.15民集28巻2号265頁[日本鋼管事件])。
これについて、使用者が解雇の予告なく労働者を解雇できる「労働者の責に帰すべき事由」(労働基準法20条1項但書)として認定すべき事例として、行政通達は(昭和23年11月11日基発1637号、昭和31年3月1日基発111号)は、以下の例を挙げています。
「事業場外で行われた盗取、横領、傷害等刑法犯に該当する行為であつても、それが著しく当該事業場の名誉もしくは信用を失ついするもの、取引関係に悪影響を与えるもの又は労使間の信頼関係を喪失せしめるものと認められる場合」
また、国家公務員に関するものですが、人事院が作成した「懲戒処分の指針について(平成12年3月31日職職-68)」が参考になります。これによると公務外における窃取・詐取行為については、以下のように規定されています。
3 公務外非行関係
⑺ 窃盗・強盗
ア 他人の財物を窃取した職員は、免職又は停職とする。
⑻ 詐欺・恐喝
人を欺いて財物を交付させ、又は人を恐喝して財物を交付させた職員は、免職又は停職とする。
以上より、業務外における窃盗・詐欺行為については、当該犯罪行為の悪質さの程度、会社の事業の種類、態様・規模、会社の経済界に占める地位、経営方針及びその従業員の会社における地位・職種等を考慮して、それが著しく当該事業場の名誉もしくは信用を失ついするもの、取引関係に悪影響を与えるもの又は労使間の信頼関係を喪失せしめるものである場合には、懲戒解雇などの重い処分が許されることがあると考えられます。
東京地判平26.1.30労経速2205号18頁[東京都(警察官懲戒処分)事件]
「原告は,平成21年11月24日から同年12月18日までの間,本件ICカードを使用していたところ,本件ICカードの占有は,同年11月19日の上記飲酒の機会にP5から原告に移転したものと推認できること,上記飲酒の機会において,原告とP5が互いの財布の中身を見せ合ったような事実はなく,P5から原告に対し本件ICカードの占有が移転した際の状況等に関する原告の供述を信用することができないこと,原告が本件ICカードを窃取したことを自認する旨の記載がある本件始末書を作成して,同書面に署名,押印し,同様の記載がある本件供述調書の末尾に署名,押印したことを総合考慮すれば,原告が上記飲酒の機会において本件ICカードを窃取し,本件ICカードがP5のものであることを知りながら,チャージ金を自己の用途に費消したことを認めることができるから,本件懲戒事由は存在するというべきである。」
「そして,『懲戒処分の指針』(平成20年5月29日警察庁丙人発第199号。乙11の別添)は,他人の財物を窃取した場合の懲戒処分の種類を『免職又は停職』と定めているところ,前記認定事実及び弁論の全趣旨によれば,警視総監は,P5が被害届を提出しなかったこと,原告が本件ICカードを窃取したことを認め,職を辞して責任を取る旨を本件始末書に記載し,本件辞職願を提出したことなどを考慮して,本件減給処分が相当であると決定したものと認められるから,その処分内容も相当であるというべきである。」
※警視庁巡査がICカードを窃取し減給処分とされた事案。
東京地判平23.10.31労経速2127号27頁[東京都教育委員会事件]
「本件処分における懲戒事由に該当する行為は,別表〔1〕ないし〔8〕の各不正入場行為とされているところ,これらの不正入場行為の事実がすべて認められることは前記1のとおりである。警察署での取調べは建造物侵入罪の被疑事実に基づくものではあるが…,別表〔1〕ないし〔8〕の各不正入場行為は,いずれも再入場を装って使用済みのチケットの半券を入口の係員に提示して正規のチケットによる入場であると誤信させ,チケット料金の支払を免れるものであって,構成要件的にみれば詐欺に該当するといえる。」
「これらの行為は各公演を鑑賞したいという動機に端を発するものであったとしても,公演料金の支払を免れるという利欲犯的性質を有していることは否定できない。使用済みチケットの記載内容を係員が注意して確認すれば別の公演のものであると容易に確認できたはずであるとしても,全体の印刷が似ているチケットぴあ発行のチケットの半券を用いており,しかも,コンサート会場においては短時間に大量の客の入場に対応することからすれば,そのような特質を利用した態様も巧妙かつ悪質であるといえる。各公演における財産的被害も合計で約18万円に及んでいる。しかも,原告は,別表〔1〕ないし〔8〕の各不正入場行為をわずか4か月足らずの間に繰り返し行ったものであり,その常習性も顕著であるといわざるを得ない。加えて,原告は,現行犯的な別表〔8〕の不正入場行為については一貫して認め,反省の言葉を述べてはいるものの,別表〔1〕ないし〔7〕の不正入場行為については,前記のとおり,本件処分後に一転して否認に転じ,不合理な弁解等を繰り返していることなどにかんがみれば,真摯な反省の態度を示しているとはいえない。」
「そうすると,被害届は出されていないこと…,原告に対する刑事上の処分はなされていないこと…,原告がこれまで約33年間にわたり小学校教諭として勤務し,一度も懲戒処分を受けたことがないこと,別表〔1〕ないし〔8〕の各不正入場行為はいずれも公務外での非違行為であることなどを考慮したとしても,上記の諸事情を総合すれば,懲戒免職とした本件処分が社会観念上著しく妥当を欠き,裁量権の範囲を逸脱しこれを濫用したものとはいえない。