賃金には最低賃金額が定められており、労働者の賃金額が保障されています。この記事では、最低賃金額はいくらか、賃金が最低賃金額を下回る場合はどのように行動すればよいかを解説します。
最低賃金とは
最低賃金制度とは、国が労働契約における賃金の最低額を定めて、使用者に対して、その遵守を強制する制度をいいます。
最低賃金法は、賃金の低廉な労働者について、賃金の最低額を保障することにより、労働条件の改善を図り、もって、労働者の生活の安定、労働力の質の向上および事業の公正な競争の確保に資するとともに、国民経済の健全な発展に寄与することを目的としています(最低賃金法1条)。
最低賃金額は、時間によって定められます(最低賃金法3条)。従前は、日、週、又は月によっても定められていましたが、2002年度から時間に一本化されました。
最低賃金額の規制を受けるのは、1カ月を超えない期間ごとに支払われる、通常の労働時間または労働日の労働に対して支払われる賃金です。以下の賃金は、「最低賃金額に達しない賃金」であるかどうかを判断する際に、「賃金」には算入されません(最低賃金法4条3項柱書)。
①「一月をこえない期間ごとに支払われる賃金以外の賃金で厚生労働省令で定めるもの」(最低賃金法4条3項1号、最賃則1条1項)
例えば、賞与や一時金が挙げられます。
②「通常の労働時間又は労働日の賃金以外の賃金で厚生労働省令で定めるもの」(最低賃金法4条3項2号、最賃則1条2項)
例えば、割増賃金が挙げられます。
③「当該最低賃金において算入しないことを定める賃金」(最低賃金法4条3項3号)
地域別最低賃金
地域別最低賃金とは、一定の地域ごとの最低賃金をいいます(最低賃金法9条1項)。職種や産業を問いません。
地域別最低賃金は、厚生労働大臣又は都道府県労働局長が、中央最低賃金審議会又は地方最低賃金審議会の調査審議を求め、その意見を聴いて、決定、改正等しなければなりません(最低賃金法10条1項、12条)。そして、地域別最低賃金は、地域における労働者の生計費及び賃金並びに通常の事業の賃金支払能力を考慮して定められます(最低賃金法9条2項)。
派遣中の労働者の地域別最低賃金は、その派遣先の事業の事業場の所在地を含む地域について決定された地域別最低賃金において定める最低賃金額によるものとされています(最低賃金法13条)。
東京都と神奈川県の地域別最低賃金については以下のとおりです。
R1 | H30 | H29 | |
東京 | 1013円 | 985円 | 958円 |
神奈川 | 1011円 | 983円 | 956円 |
※厚生労働省webページ
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/minimumichiran/
特定最低賃金
特定最低賃金とは、労働者若しくは使用者に適用される一定の事業若しくは職業に係る最低賃金のことをいいます。
2007年の最低賃金法改正が施行された日に効力を有する小くくり産業別最低賃金は、一定の事業に関する特定最低賃金とみなされて効力が持続するものとされました(改正法附則5条)。特定最低賃金は、厚生労働大臣又は都道府県労働局長が、最低賃金審議会の調査審議を求め、その意見を聴いて、改正、廃止等しなければなりません(最低賃金法15条2項、17条)。
特定最低賃金は、当該特定最低賃金の適用を受ける使用者の事業場の所在地を含む地域について決定された地域別最低賃金において定める最低賃金額を上回るものでなければなりません(最低賃金法16条)。
東京都と神奈川の特定最低賃金については以下のとおりです。なお、特定最低賃金は、適用対象となる労働者などをそれぞれ詳細に定めています。詳しくは、都道府県労働局またはお近くの労働基準監督署にお問い合わせください。
注1 地域別最低賃金と特定最低賃金の両方が適用される場合には、高い方の最低賃金が適用されます。
注2 下表の「※」で示された特定最低賃金額については、地域別最低賃金額が適用されます。
令和元年12月16日現在
都道府県名 | 地域別最低賃金 | 特定最低賃金 | 時間額 | 発行年月日 |
東京 | 1013円
(R1.10.1)
|
鉄鋼業 | 871円(※) | H26.3.23 |
はん用機械器具、生産用機械器具製造業 | 832円(※) | H22.12.31 | ||
業務用機械器具、電気機械器具、情報通信機械器具、時計・同部分品、眼鏡製造業 | 829円(※) | H22.12.31 | ||
自動車・同付属品製造業、船舶製造・修理業、船用機関製造業、航空機・同付属品製造業 | 838円(※) | H24.2.18 | ||
神奈川 | 1011円 (R1.10.1) |
塗料製造業 | 894円(※) | H27.3.1 |
鉄鋼業 | 874円(※) | H26.3.15 | ||
非鉄金属・同合金圧延業、電線・ケーブル製造業 | 821円(※) | H22.12.20 | ||
ボイラ・原動機、ポンプ・圧縮機器、一般産業用機械・装置、建設機械・鉱山機械、金属加工機械製造業 | 857円(※) | H25.3.1 | ||
電子部品・デバイス・電子回路、電気機械器具、情報通信機械器具製造業 | 890円(※) | H27.3.1 | ||
輸送用機械器具製造業 | 855円(※) | H25.3.1 | ||
自動車小売業 | 842円(※) | H23.12.21 |
※厚生労働省webページ
https://www.mhlw.go.jp/www2/topics/seido/kijunkyoku/minimum/minimum-19.htm
最低賃金額の特例
以下の者については、使用者が都道府県労働局長の許可を受けたときは、当該最低賃金額に労働能力その他の事情を考慮して厚生労働省令で定める率(最賃則5条参照)を乗じて得た額を減額した額で最低賃金を支払うことができます(最低賃金法7条)。
➀精神または身体の障害により著しく労働能力の低い者
➁試みの使用期間中の者
➂認定職業訓練のうち厚生労働省令で定める基礎的な技能・知識を習得させるものを受ける者
➃軽易な業務に従事する者その他厚生労働省令で定める者
賃金が最低賃金を下回る場合
賃金が最低賃金を下回る場合は、労働契約はその部分につき無効となり、無効となった部分は最低賃金と同様の定めをしたものとみなされます(最低賃金法4条2項)。つまり、労働者は、最低賃金を下回る労働契約を締結した場合にも、最低賃金により算定した賃金を請求することができます。
また、地域別最低賃金については、この規定に違反した者は50万円以下の罰金に処せられます(最低賃金法40条)。特定最低賃金については、船員に係るものを除き(最低賃金法40条)、罰則はありません。
労働者は、事業場に最低賃金法の違反の事実があるときは、その事実を都道府県労働局長、労働基準監督署長または労働基準監督官に申告して、是正のための措置をとるように求めることができます(最低賃金法34条1項)。使用者は、この申告を理由に、労働者に対し、解雇その他不利益な取り扱いをしてはなりません(最低賃金法34条2項)。この不利益取扱いの禁止に違反した者は、6月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられます(最低賃金法39条)。