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名ばかり管理職の判例22選!マクドナルド判決等の重要事例を完全整理

名ばかり管理職の判例22選!マクドなる判決等の重要事例を完全整理

名ばかり管理職についての判例を知りたいと悩んでいませんか

たくさんの判例がありますので、どの判例を押さえておけばいいのか困ってしまいますよね。

この記事では「名ばかり管理職についての判例」を厳選して実務傾向を理解するうえで知っておいていただきたい重要なものとして、以下の22個に絞りました。

名ばかり管理職の判例⑴名ばかり管理職の判例⑵名ばかり管理職につき労働基準法は、「監督若しくは管理の地位にある者」については「労働時間、休憩及び休日に関する規定…は適用しない。」としているだけです。

具体的に、どのような場合に名ばかり管理職に該当するのか、管理監督者に該当するにはどのような条件が必要かは蓄積した判例を分析することで探っていくことになります

実は、法律上の管理監督者に該当するためには、とても厳格なハードルがあり、容易にはこれに該当しません

つまり、多くの管理職の方は、いわゆる名ばかり管理職に該当するというのが現状です

そのため、管理監督者に該当する(=名ばかり管理職には該当しない)とした判例の数は非常に少なく、これらの判例を見ていくことにより判例の相場観も見えてきます

判例の相場観を知ることにより、あなたが名ばかり管理職に該当するのか、あなたが名ばかり管理職であると主張するにはどのような事実や証拠が重要なのかがわかってきます。

今回は、名ばかり管理職に関する重要な判例を22個に厳選して、現在の実務傾向をわかりやすく説明していきます。

具体的には、以下の流れで説明していきます。

この記事を読めば名ばかり管理職の判例の傾向がよくわかるはずです。

管理職の残業代については、以下の動画でも分かりやすく解説しています。

 

 

 

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目次

名ばかり管理職の判例と法律

名ばかり管理職について、法律は、判断基準や判断要素を明確に規定していません

法律上は、以下の規定があるのみです。

労働基準法第41条(労働時間等に関する規定の適用除外)
この章、第六章及び第六章の二で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。
二 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者

一般に、名ばかり管理職とは、管理職と扱われているのに、労働基準法上の「監督若しくは管理の地位にある者」には該当しない方のことをいいます。

「監督若しくは管理の地位にある者」の判断基準や判断要素については、判例の蓄積により具体化してきています

そのため、名ばかり管理職に該当するかどうかを知るにあたっては、判例を分析していく必要があります。

判例で見る!名ばかり管理職の判断基準・判断要素

裁判例は、管理監督者に当たるかどうかは、その従業員が、①雇用主の経営に関する決定に参画し、労務管理に関する指揮監督権限を認められているかどうか、②自己の出退勤を始めとする労働時間について一般の従業員と同程度の規制管理を受けているかどうか、③賃金体系を中心とした処遇が、一般の従業員と比較して、その地位と職責にふさわしい厚遇といえるかどうかなどの具体的な勤務実態に即して判断すべきとしています。
(参考判例1:札幌地判平成14年4月18日労判839号58頁[育英舎事件])

つまり、裁判例では、以下の3つが名ばかり管理職かどうかの判断基準とされています。

①経営者との一体性
②労働時間の裁量
③対価の正当性

これら①~③につき、具体的にどのように判断されるのかについては、実際にいくつかの判例の判示内容を見ていくとわかりやすいです。

以下の3つの裁判例を参考に見ていきましょう。

・東京地判平成20年1月28日労判953号10頁[日本マクドナルド事件](参考判例2)
・東京地判平27.6.24労判ジャーナル44号35頁[学生情報センター事件](参考判例3)
・東京地判平成23年12月27日労判1044号5頁[HSBCサービシーズ・ジャパン・リミテッド事件](参考判例4)

それでは順番に説明していきます。

東京地判平成20年1月28日労判953号10頁[日本マクドナルド事件]

東京地判平成20年1月28日労判953号10頁[日本マクドナルド事件](参考判例2)は、以下のように認定して、名ばかり管理職に該当するとしています。

【経営者との一体性】
同裁判例は、店長会議への参加について、会社から企業全体の営業方針、営業戦略、人事等に関する情報提供が行われるほかは、店舗運営に関する意見交換が行われるというものであって、その場で被告の企業全体としての経営方針等の決定に店長が関与するというものではないとしました。
また、労務管理について、アルバイト従業員であるクルーを採用する権限等はあるもののアシスタントマネージャーや店長に昇格していく社員を採用する権限はないこと、一時評価者として人事考課に関わっていたものの、その後に二次評価や三者面談が予定されていること等から、労務管理に関し、経営者と一体とはいえないとしました。

【労働時間の裁量】
同裁判例は、店長は、自らのスケジュールを決定する権限を有し、早退や遅刻に関して、上司であるOCの許可を得る必要はないなど、形式的には労働時間に裁量があるといえるとしたうえで、
実際には、店長として固有の業務を遂行するだけで相応の時間を要するうえ、店舗の各営業時間帯には必ずシフトマネージャーを置かなければならないという会社の勤務態勢上の必要性から、自らシフトマネージャーとして勤務することなどにより、法定労働時間を超える長時間の時間外労働を余儀なくされるのであるから、かかる勤務実態からすると、労働時間に関する自由裁量性があったとは認められないとしています。

【対価の正当性】
同裁判例は、店長全体の10パーセントに当たるC評価の店長の年額賃金は、下位の職位であるファーストアシスタントマネージャーの平均年収より低額であるということになり、また、店長全体の40パーセントに当たるB評価の店長の年額賃金は、ファーストアシスタントマネージャーの平均年収を上回るものの、その差は年額で44万6943円にとどまっているとしました。
また、店長の週40時間を超える労働時間は、月平均39.28時間であり、ファーストアシスタントマネージャーの月平均38.65時間を超えていることが認められるところ、店長のかかる勤務実態を併せ考慮すると、上記検討した店長の賃金は、労働基準法の労働時間等の規定の適用を排除される管理監督者に対する待遇としては、十分であるといい難いとしています。

東京地判平27.6.24労判ジャーナル44号35頁[学生情報センター事件]

東京地判平27.6.24労判ジャーナル44号35頁[学生情報センター事件](参考判例3)は、以下のように認定して、名ばかり管理職に該当するとしています。

【経営者との一体性】
同裁判例は、その担当する部署の部下に対して指導監督を行うことは、上司として当然のことである上、顧客や人脈の開拓という点も、営業に関わる者の営業活動の一環といい得る性格のものであって、いずれも会社における経営方針等の決定に関して職務権限を有していたことを直ちに裏付けるものではないとしました。

また、個別の案件において、一部原告が独自の判断で処理したものがあったとしても、そのことから直ちに会社の経営に関する決定に参画していたことを基礎づけるものではないとしました。

企画の立案について、結果的には実施されなかったこと、会社の代表者らからの指示ないし提案で行ったものであることから、これらの施策ないし方針を立案・実行できるだけの権限、裁量を有していたことを裏付けるものとはいえないとしました。

更に、役員部長会議の上位の会議である経営会議に参加したことはない場合において、経営の決定に参画していたとは認められないとしました。

【労働時間の裁量】
執行役員を除く他の従業員と同様、出退勤した際にタイムカードソフトを起動し、表示された出退勤ボタンを押下して時刻を入力することを義務づけられており、直行直帰する場合も同ソフト上で申請し、上司の承認を得ることとされていたことが認められるのであって、一般の従業員同様の出退勤の管理を受けていたものといえるとしました。

会社側からのタイムカードは健康管理目的で行っているとの反論については、長時間の時間外労働が継続されたことが記録されており、被告も当然認識していたものと解されるのに時間外労働を減少させるような何らかの施策を検討、実行したような形跡はうかがわれないこと、執行役員以上の者に対してはタイムカードの打刻を求めていないことから、反論は認められないとしました

【対価の正当性】
毎月15万円の役職手当を支給され、年収が約1000万円で、執行役員と同水準の待遇を受けていたことを考慮しても、職務権限が限定的で、労働時間の裁量がないことから、名ばかり管理職であるとしました。

東京地判平成23年12月27日労判1044号5頁[HSBCサービシーズ・ジャパン・リミテッド事件]

東京地判平成23年12月27日労判1044号5頁[HSBCサービシーズ・ジャパン・リミテッド事件](参考判例4)は、以下のように認定して、名ばかり管理職に該当するとしています。

【経営者との一体性】
職務の内容権限について、当該労働者には部下がいなかったことが認定されています。

【労働時間の裁量】
労働時間管理の対象外とされており、タイムカード等による管理を受けておらず、遅刻、早退、欠勤等についても賃金が減額されるような取扱いにはなっていなかったと認定されています。

【対価の正当性】
当該等労働者の年俸は、契約書上1250万円と定められており、これに賞与を含めると、年間の報酬総額は1450万円程度になることが予定されていた。これは、上場企業の部長クラスの平均年収(約1044万円)を上回っており、当該企業においてBand 5以上に位置付けられていた人員の割合は約28パーセントであった。

以上につき、労働時間管理を受けていなかったこと、原告の報酬が相当に高額であったことを考慮したとしても、管理監督者にふさわしい職務内容や権限を有していなかったとしました。

~コラム1:職務内容は企業全体を統括する立場である必要があるか~

職務内容は企業全体を統括する立場である必要があるのか、部門全体を統括する立場で足りるのかについては、裁判例によって判示が異なっています。

当初は、裁判例上、企業全体の統括する立場であることが必要とも読める判示のものもありました。

例えば、東京地判平成20年1月28日労判953号10頁[日本マクドナルド事件](参考判例2)は、「具体的には、〈1〉職務内容、権限及び責任に照らし、労務管理を含め、企業全体の事業経営に関する重要事項にどのように関与しているか、〈2〉その勤務態様が労働時間等に対する規制になじまないものであるか否か、〈3〉給与(基本給、役付手当等)及び一時金において、管理監督者にふさわしい待遇がされているか否かなどの諸点から判断すべきであるといえる。」と判示しています。

しかし、近年では、以下のように部門全体の統括的立場にあることで足りると読める判示をするものが多くなっています。

東京地判平成20年9月30日労判977号34頁[ゲートウェイ21事件](参考判例5)と東京地判平成21年3月9日[労判981号21頁[東和システム事件](参考判例6)は、管理監督者性とは、「具体的には、〈1〉職務内容が、少なくともある部門全体の統括的な立場にあること、〈2〉部下に対する労務管理上の決定権等につき、一定の裁量権を有しており、部下に対する人事考課、機密事項に接していること、〈3〉管理職手当等の特別手当が支給され、待遇において、時間外手当が支給されないことを十分に補っていること、〈4〉自己の出退勤について、自ら決定し得る権限があること、以上の要件を満たすことを要すると解すべきである。」と判示しています。

~コラム2:監督者の地位と管理職の地位~

労働基準法では、「監督若しくは管理の地位にある者」と規定しているため、監督の地位と管理の地位を区別して議論する考え方があります。

例えば、東京地判平成9年8月1日労判722号62頁[株式会社ほるぷ事件](参考判例7)は、労働基準法41条2号の判断基準につき、「経営方針の決定に参画し、あるいは労務管理に関する指揮命令権限を有する等経営者と一体的な立場にあるか否か」と判示しています。

しかし、多くの裁判例では、監督地位と管理の地位については区別されない傾向にあります。

東京地判平成20年1月28日労判953号10頁[日本マクドナルド事件](参考判例2)は、「当該労働者が他の労働者の労務管理を行うものであれば、経営者と一体的な立場にあるような者でなくても労働基準法の労働時間等の規定の適用が排除されるというのは、上記検討した基本原則に照らして相当でないといわざるを得ず、これを採用することはできない。」と判示しています。

 

職種別!名ばかり管理職に関する判例

名ばかり管理職かどうかについては、名称にとらわれずに実体的に判別すべきとされています(昭和22年9月13日基発17号)。

そのため、部長であっても管理監督者に該当するとは限りませんし、係長であっても名ばかり管理職であるとは限りません。

以下では、次の職種に分けて、それぞれ裁判例がどのような判断をしているかを紹介していきます。

・店長
・部長
・課長
・係長
・統括運行管理責任者

店長

店長につき名ばかり管理職に該当するかを判断した裁判例には、例えば以下のものがあります。

・東京地判平成21年10月21日労判1000号65頁[ボス事件](参考判例8)
・東京地判平成20年1月28日労判953号10頁[日本マクドナルド事件](参考判例2)

東京地判平成21年10月21日労判1000号65頁[ボス事件]

東京地判平成21年10月21日労判1000号65頁[ボス事件](参考判例8)は、コンビニエンスストアの店長の裁判例です。

人件費などの諸経費については一定の裁量があったこと労働時間につきシフトの原案を作成していたことを認定しつつ、

アルバイトの募集等についても本部の了解を不要とするような実質的な権限はなく、副店長の超勤について本部へ報告を要すること自らの出退勤もタイムカードで管理されていたこと、遅刻による不利益処分を受けること店長手当も含めて25~28万円が支払われていたものの勤務時間及び金額に照らすと役職や以外のものと比べて時間外手当を支払わなくても十分と言えるほどの厚遇とは言い難いことから、

名ばかり管理職であるとしました。

東京地判平成20年1月28日労判953号10頁[日本マクドナルド事件]

東京地判平成20年1月28日労判953号10頁[日本マクドナルド事件]は、すでに説明したとおりファーストフード店の店長に関する裁判例です。

アルバイトの採用決定や人事考課等の権限店舗従業員のシフトを決定する権限店舗の業績に応じて焼く580万~780万円の賃金を得ていることを認定しつつ、

社員の採用権限はないこと企業全体としての経営方針に関与するものではなく権限は店舗内に限られていること各時間帯に必ず置くとされるシフトマネージャーとして勤務する関係で30~60日の連続勤務をせざるを得ないこと賃金についても下位の職位(ファーストアシスタントマネージャー)との差は大きくなく(平均年40万円程度)、店長の平均労働時間はファーストアシスタントマネージャーを上回っていることから、

名ばかり管理職であるとしました。

部長

部長につき名ばかり管理職に該当するかを判断した裁判例には、例えば以下のものがあります。

・東京地判平成18年5月26日労判918号5頁[岡部製作所事件](参考判例9)
・東京地判平成19年3月22日労判938号85頁[センチュリーオート事件](参考判例10)

東京地判平成18年5月26日労判918号5頁[岡部製作所事件]

東京地判平成18年5月26日労判918号5頁[岡部製作所事件](参考判例9)は、工場の営業開発部部長に関する裁判例です。

経営会議のメンバーであること基本給として月額34万円、管理職手当11万円を支給されていたことを認定しつつ、

部下がいないこと経営会議では重要事項の決定はされないこと職務の内容は知識、経験、人脈等を動員して行う専門職的色彩が強いものであることから、

名ばかり管理職であるとしました。

東京地判平成19年3月22日労判938号85頁[センチュリーオート事件](参考判例10)

東京地判平成19年3月22日労判938号85頁[センチュリーオート事件](参考判例10)は、営業部長に関する裁判例です。

部下の従業員出欠勤の調整や出勤表の作成、出退勤の管理といった管理業務を担当していたことに加えて、経営会議やリーダー会議に出席していたこと

遅刻早退等を理由に基本給が減額されることのない立場にあること

賃金額(基本給37~38万円、役付手当、資格手当3万円、その他手当合計2万円)は、代表者、工場長2名に次ぐものであったことから、

名ばかり管理職ではなく、管理監督者であるとしました。

課長

課長につき名ばかり管理職に該当するかを判断した裁判例には、例えば以下のものがあります。

・大阪地判令元.12.20労判ジャーナル96号64頁[はなまる事件](参考判例11)
・東京地判令元.9.27労判ジャーナル95号32頁[エルピオ事件](参考判例12)

大阪地判令元.12.20労判ジャーナル96号64頁[はなまる事件]

大阪地判令元.12.20労判ジャーナル96号64頁[はなまる事件](参考判例11)は、中古自動車の買い取り及び販売等の事業を行う会社の管理本部情報システム部課長に関する裁判例です。

部下職員の候補者の採用面接に立ち会うなどしていたことを認定しつつ

主な業務内容は、コンピュータシステムに関しての問合せへの対応業務、コンピュータの基幹システムの保守管理等といったものであること採用面接への立ち合いは現場担当者として意見を述べる立場にすぎず採用権限はないこと当該労働者についての勤怠管理資料があることから、

名ばかり管理職であるとしました。

東京地判令元.9.27労判ジャーナル95号32頁[エルピオ事件]

東京地判令元.9.27労判ジャーナル95号32頁[エルピオ事件](参考判例12)は、各種燃料の卸売、販売等を目的とする株式会社の課長に関する裁判例です。

当該労働者の処遇が高水準であると認定しつつ

採用面接のうち一次面接までで採否を決することができる応募者に関する採否権限しかなかったこと労働時間に関する裁量もないことから、

名ばかり管理職であるしました。

課長の管理監督者性については、以下の記事で詳しく解説しています。

課長に残業代がでないのは違法?あなたの本当の残業代金額と請求方法課長も、法律上は、残業代をもらえることが多い傾向にあります。会社が「課長以上の者には残業代を支給しない」との独自ルールを作っていても法律上それが許されるとは限らないのです。今回は、課長に残業代がでないのは違法かについて解説します。...

係長

係長につき名ばかり管理職に該当するかを判断した裁判例には、例えば以下のものがあります。

京都地判平成4年2月4日労判606号24頁[彌栄自動車事件](参考判例13)
東京地判平成14年3月28日労判827号74頁[東建ジオテック事件](参考判例14)
大阪地判平成17年3月25日労経速1907号28頁[リゾートトラスト事件](参考判例15)

京都地判平成4年2月4日労判606号24頁[彌栄自動車事件](参考判例13)

京都地判平成4年2月4日労判606号24頁[彌栄自動車事件](参考判例13)は、タクシー会社営業センターの係長に関する裁判例です。

乗務員数や営業車両数、ノルマの決定過程に参画する機会もなかったこと自己の職務負担の軽減や員数増加を決定する過程で強い発言権を有していないため一定の労働時間を就労せざるを得ないこと将来営業所長等さらに社内で高い地位の従業員に出世するとの蓋然性が保証されていないことから、

名ばかり管理職であるとしました。

東京地判平成14年3月28日労判827号74頁[東建ジオテック事件]

東京地判平成14年3月28日労判827号74頁[東建ジオテック事件](参考判例14)は、地質調査等を行う株式会社の係長に関する裁判例です。

係長として部下の評価について意見を述べ、あるいは課長補佐以上の職にある者として自ら部下の評価を行うことはあったこと係長以上の者にあってはタイムカードによる厳格な勤怠管理は存在しないことを認定しつつ、

人事考課には上位者による考課がさらに予定されており最終的には支店長の評点が被考課者の総合評価とされていたこと社内文書により遅刻及び早退は慎むべきとの示達がされていること就業規則上係長以上の者についても勤怠管理下に置かれていること年収が高額なのは年齢給や勤続給が取り入れられるなど年功序列的な要素、職能資格及び職能給等において学歴が考慮される賃金制度の結果であることから、

名ばかり管理職であるとしました。

大阪地判平成17年3月25日労経速1907号28頁[リゾートトラスト事件]

大阪地判平成17年3月25日労経速1907号28頁[リゾートトラスト事件](参考判例15)は、ホテル・レストランの経営会社の係長に関する裁判例です。

部下を有することから係責の役責を付与されており、タイムカードによる厳格な勤務時間の管理を受けていなかったこと係責職給(給与明細上はライン職給名目)として月額四万円の支給を受けていたことを認定しつつ、

担当する職務は日常的な経理事務の処理であり、部下もアルバイトを含めて三人又は四人にすぎないこと出勤簿と朝礼時の確認により一応勤怠管理を受けていたこと就業規則上係責給は「時間外勤務手当相当分として」支給されるものと明記されていることから、

名ばかり管理職であるとしました。

係長の管理監督者性については、以下の記事で詳しく解説しています。

係長で残業代が出ないのは少数派!管理職の条件3つと簡単な請求手順
係長で残業代が出ないのは少数派!管理職の条件3つと簡単な請求手順残業代の支給を受けることができていない係長の方たちも、未払いの残業代を請求することができる可能性があります。今回は、係長への残業代の支給状況について説明したうえで、管理監督者該当性やこれまでの残業代を取り戻す方法について解説します。...

統括運行管理責任者

東京地判平成25年4月9日裁判所ウェブサイト(参考判例16)は、統括運行管理者に関する裁判例です。

当該従業員が統括運行管理責任者として選任され、継続してその地位にあり、乗務員の交番表の作成(他の運行管理者が作成した場合にはその確認)、運行指示書の取りまとめ、運行管理者ミーティングの司会進行、点呼業務、乗務記録簿や安全運転日報等の保管等を行っていたことを認定しつつ、

部長と異なり、宿直業務や乗務など、一般の運行管理者と同様の業務にも従事していたこと等から、

名ばかり管理職であるとしました。

スタッフ管理職に関する判例

指揮命令のライン上にないスタッフ管理職にも、管理監督者性を肯定する考え方があります。

行政通達において、「スタッフの企業内における処遇の程度によっては、管理監督者と同様に取り扱い、法の規制外においても、これらの者の地位からして特に労働者の保護に欠けるおそれがないと考えられ、かつ、法が監督者のほかに、管理者も含めていることに着目して、一定の範囲の者については、同法第41条第二号該当者に含めて取扱うことが妥当であると考えられること」とされているためです(昭和22年9月13日基発17号、昭和63年3月14日基発150号、婦発47号)。

しかし、裁判例は、スタッフ管理職の管理監督者性はとくに厳格に解しています。

東京地判平成23年12月27日労判1044号5頁[HSBCサービシーズ・ジャパン・リミテッド事件])(参考判例4)は、「被告の援用する各通達は、当該スタッフ職が組織内部において相当に高次の地位にあって、上長等から長時間の残業を強いられることはないといえる客観的な状況にあることが前提となっているものと解される。」と判示しています。

 

管理監督者性を認めた数少ない判例7つ

管理監督者性を認めた判例は極めて少なく、その数は限られています。

管理監督者性を認めた判例を見ていくことで、名ばかり管理職かどうかの分水嶺を探ることができます。

以下では、数少ない判例のうち次の7つの判例を紹介していきます。

・東京高判平成20年11月11労判1000号10頁[ことぶき事件](参考判例17)
・東京地判平成19年3月22日労判938号[センチュリーオート事件](参考判例10)
・大阪地判昭和62年3月31日労判497号65頁[徳洲会事件](参考判例18)
・福岡地判平成19年4月26日労判948号41頁[姫浜タクシー事件](参考判例19)
・大阪地判平成20年2月8日労経速1998号3頁[日本ファースト証券事件](参考判例20)
・京都地判平成24年4月17日労判1058号69頁[セントラルスポーツ事件](参考判例21)
・東京地判平成24年5月16日労判1057号96頁[ピュアルネッサンス事件](参考判例22)

東京高判平成20年11月11労判1000号10頁[ことぶき事件]

東京高判平成20年11月11労判1000号10頁[ことぶき事件](参考判例17)は、美容室等を経営する会社において、総店長として勤務していた方が、管理監督者に該当すると認めた裁判例です。

店舗の営業時間にあわせて出退勤しており営業時間に拘束されているとも受け取れるとしつつも、代表取締役に次ぐナンバー2の地位にあり、会社の経営する理美容店5店舗と各店長を統括するという重要な立場にあること代表取締役から各店舗の改善策や従業員の配置等につき聞かれていたこと毎月営業時間外に開かれる店長会議に代表取締役とともに出席していたこと

営業時間に拘束されていたように受けられるのは店舗において顧客に対する理美容業務を担当していたことからくる合理的な制約であること

他の店長の1.5倍程度の給与の支給を受けていたことから、

名ばかり管理職ではなく、管理監督者であるとしました。

東京地判平成19年3月22日労判938号[センチュリーオート事件]

前記のとおり、東京地判平成19年3月22日労判938号85頁[センチュリーオート事件](参考判例10)は、営業部長に関する裁判例です。

部下の従業員出欠勤の調整や出勤表の作成、出退勤の管理といった管理業務を担当していたことに加えて、経営会議やリーダー会議に出席していたこと

遅刻早退等を理由に基本給が減額されることのない立場にあること

賃金額(基本給37~38万円、役付手当、資格手当3万円、その他手当合計2万円)は、代表者、工場長2名に次ぐものであったことから、

名ばかり管理職ではなく、管理監督者であるとしました。

大阪地判昭和62年3月31日労判497号65頁[徳洲会事件]

大阪地判昭和62年3月31日労判497号65頁[徳洲会事件](参考判例18)は、医療法人の人事課長に関する裁判例です。

看護師の事務全般を任され、各病院の人事関係職員を指揮命令する権限、看護師の配置を決定する人事上の権限を有していたこと

労働時間を自らの責任により自由裁量で決することができたこと

役職に関する手当として、責任手当(月額2万5000円~3万円)、特別調整手当(月額3~5万円)が支給され、総支給額が月額24~28万円であったことから、

名ばかり管理職ではなく、管理監督者であるとしました。

福岡地判平成19年4月26日労判948号41頁[姫浜タクシー事件]

福岡地判平成19年4月26日労判948号41頁[姫浜タクシー事件](参考判例19)は、タクシー会社の営業次長に関する裁判例です。

終業、出庫点呼を通じ、多数の乗務員を直接に指導監督する立場で、自らの判断で乗務員の労務管理を行い、乗務員の募集についても重要な役割を果たしており、取締役や主要な従業画院が出席する経営協議会のメンバーでもあること

出退勤について上申の専務から何らの指示を受けず会社への連絡のみで出先から帰宅できること

700万円あまりの報酬を得ており従業員の中で最高額であったことから、

名ばかり管理職ではなく、管理監督者であるとしました。

大阪地判平成20年2月8日労経速1998号3頁[日本ファースト証券事件]

大阪地判平成20年2月8日労経速1998号3頁[日本ファースト証券事件](参考判例20)は、証券会社の支店長に関する裁判例です。

大阪支店長で30名以上の部下を統括する地位にあり、全社的に見ても重要な上位の職責にあったこと同支店の経営方針を定めて部下を指揮監督する権限を与えられ、人事考課を行い、係長以下の人事については自らの裁量で決することができ、社員の降格や昇格についても相当な影響力を有していたこと

自らの出欠勤の有無や労働時間は報告の対象外とされていたこと

月25万円の職責手当を受け、職階に応じた給与と合わせると賃金は月額82万円となり、その額は部下である店長以下よりも格段に高いことから、

名ばかり管理職ではなく、管理監督者であるとしました。

京都地判平成24年4月17日労判1058号69頁[セントラルスポーツ事件]

京都地判平成24年4月17日労判1058号69頁[セントラルスポーツ事件](参考判例21)は、スポーツクラブ運営等を行う会社のエリアディレクターと店長を兼任している者に関する裁判例です。

6店舗を統括するエリアディレクターとある店舗の店長を兼任しており、人事権、人事考課、労務管理等の件を有しており、会社の機密事項にも一定程度接していること

就業規則上、遅刻、早退等による給与控除は行わないとされていること

エリアディレクターの基本年俸額は約640万円であり、執行役員、部長、室長、次長に次ぐものであり、一つ下の役職である副店長と比較してはるかに高額であることから、

名ばかり管理職ではなく、管理監督者であるとしました。

東京地判平成24年5月16日労判1057号96頁[ピュアルネッサンス事件]

東京地判平成24年5月16日労判1057号96頁[ピュアルネッサンス事件](参考判例22)は、美容サロンの経営や化粧品等の販売をする会社の従業員健取締役に関する裁判例です。

業務遂行に関し部下はいないことタイムカード上長時間労働した形になっていることを認定しつつ、

従業員健取締役で、取締役会、経営会議、役員会議に出席しており、イベントやサロンの開設等の重要業務に関して権限や責任を与えられていること

会社の意思決定に一定程度参画する機会を与えられており、労務担当として従業員等の勤務環境の整備、従業員の出退勤の管理等を行う権限を一定程度有していたこと

勤務実態は不明な点が多く、業務以外のことをしていた時間も多く、会社で定められた時間管理の手続きも取られていないこと

基本給として月額35万円、役職手当として月額5万円から10万円の給与を受けていたことから、

名ばかり管理職ではなく、管理監督者としました。

名ばかり管理職と認められた後の役職手当に関する判例

名ばかり管理職であるとされた場合において、役職手当を基礎賃金に含めるか、残業代の既払いとして扱うかが議論されることがあります。

大阪地判令元.12.20労判ジャーナル96号64頁[はなまる事件](参考判例11)は、役職手当が①就業規則上、基準内賃金の一部として規定されており、②役職ごとにその支給される金額が異なる事案において、残業代には当たらないとしています。

東京地判平21.12.25労判998号5頁[東和システム事件](参考判例6)、特励手当につき、①課長代理以上の職位にあるものに支給されており、②労働者自身も特励手当は超過勤務手当に代替してこれを補填する趣旨であると認識していた事案において、残業代の支払いがあったのと同様に扱っています

 

 

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まとめ

以上のとおり、今回は、名ばかり管理職に関する重要な判例を22個に厳選して、現在の実務傾向をわかりやすく説明しました。

この記事で紹介した裁判例は以下のとおりです。

名ばかり管理職の判例⑴名ばかり管理職の判例⑵

この記事が名ばかり管理職の判例を知りたいと考えている方の助けになれば幸いです。

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神奈川県弁護士会所属。不当解雇や残業代請求、退職勧奨対応等の労働問題、離婚・男女問題、企業法務など数多く担当している。労働問題に関する問い合わせは月間100件以上あり(令和3年10月現在)。誰でも気軽に相談できる敷居の低い弁護士を目指し、依頼者に寄り添った、クライアントファーストな弁護活動を心掛けている。持ち前のフットワークの軽さにより、スピーディーな対応が可能。 【著書】長時間残業・不当解雇・パワハラに立ち向かう!ブラック企業に負けない3つの方法 【連載】幻冬舎ゴールドオンライン:不当解雇、残業未払い、労働災害…弁護士が教える「身近な法律」 【取材実績】東京新聞2022年6月5日朝刊、毎日新聞 2023年8月1日朝刊、区民ニュース2023年8月21日
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