整理解雇とはどのようなものなのでしょうか。整理解雇は、通常の解雇とどこが違い、どのように有効性を判断していくのでしょうか。今回は、整理解雇について解説します。
整理解雇とは何かについては以下の動画でも詳しく解説しています。
整理解雇とは
整理解雇とは、企業の経営上必要とされる人員削減のために行われる解雇のことをいいます。整理解雇は、労働者に責めに帰すべき事由が存在せず、専ら使用者側の事情の基づいて行われることが特徴です。
整理解雇の有効性の判断方法
整理解雇の有効性については、以下の点を考慮して判断します。
①経営上の必要性(人員削減の必要性)
②解雇回避努力
③人選の合理性
④手続の相当性
上記①乃至④は、4点すべてが満たさなければ整理解雇が有効とならない要件であるとの見解(要件説)もありますが、近時の裁判例は、これら4点は整理解雇の有効性判断に当たって重要な考慮要素を類型化したに過ぎないとする傾向にあります(要素説)。このように①乃至④を要素と考えた場合には、整理解雇の有効性は、それぞれ他の要素との相関関係から判断されることになります。以下では、各要素に関する考え方や裁判例を説明しますが、これらは他の要素の内容や程度等により影響を受けることになります。
①経営上の必要性[人員削減の必要性]
経営上の必要性については、人員削減措置を講じなければ倒産の状況にあることまで必要とする裁判例があります(大阪地決平6.3.30労判668号54頁)。
しかし、近時の裁判例は、企業の経営判断を尊重し、債務超過などの高度の経営上の困難から人員削減措置が必要とされる程度で足りるとするものが多くみられます(東京地判平24.2.29労判1048号45頁[日本通信事件])。
これに対して、経営上の必要性を否定した以下の裁判例があります。
1 人件費の安い労働者を雇い直した場合
同裁判例は、「人件費削減の方法として、人件費の高い労働者を整理解雇するとともに、他方では人件費の安いほぼ同数の労働者を新規に雇用し、これによって人件費を削減することは、原則として許されないというべきである」としました(大阪高判平23.7.15労判1035号124頁[泉州学園事件])。
2 正社員から派遣社員への入替えを目的とした場合
同裁判例は、「正規社員や準社員から派遣社員等への従業員の入替えについては、会社として長期的にかかる構造転換の方針をとることそのものは、経営合理化の観点からみて理解できないではないが、本件解雇を有効たらしめるための要素としての人員削減の必要性の有無という観点から見た場合、かかる実態を安易に容認することはできない」としました(長野地諏訪支判平23.9.29労判1038号5頁[みくに工業事件])。
②解雇回避努力
使用者は、整理解雇をするには、配転・出向・一時帰休・労働時間の短縮(残業の調整)・希望退職者の募集(退職金の優遇措置を含む)等の解雇を回避する措置を講じるべき信義則上の義務を負うとされています(最一小判昭58.10.27裁判集民140号207頁[あさひ保育園事件])。
どの程度の措置を講じるべきかについては、整理解雇の目的、各企業の規模(経営規模・従業員数・支店や営業所の有無・子会社や関連会社の有無等)、経営状況(資金的な余裕等)、従業員の就労状況(総合職や専門職の相違、職種・勤務地限定の有無等)等を総合的に考慮の上判断するとされています。
③人選の合理性
人選の合理性が認められるには、①人選基準が客観的・合理的なものであること、②その適用が公正なものであることが必要です。
①は、人選基準が設定されず恣意的な人選がなされた場合や、人選基準の内容が具体性・客観性を欠いている場合や基準の一貫性を欠いている場合、公序良俗・強行法規に違反する場合(性別等)等には、整理解雇は無効とされる傾向にあります。
②は、特定の従業員に恣意的に不利に基準を適用したような場合に、整理解雇を無効とするものです。
同裁判例は、「整理解雇が有効であるためには、解雇の対象となる者の基準が客観的で合理性のあるものであり、かつ、使用者において、かかる基準を公正に運用したものでなければならないと解するのが相当である」と判示しています。
④手続の相当性
労働協約において、解雇につき労働組合との協議や労働組合の同意を必要とする条項がある場合には、協議が十分にされていない場合には、解雇は無効になります。
このような労働協約が存在しない場合であっても、使用者は、整理解雇に当たって、従業員や労働組合との間で十分に説明・協議する信義則上の義務を負います。
【神戸地決平23.11.14労判1042号29頁[東亜外業事件]】
同裁判例は、「整理解雇は労働者に何らの帰責事由がないにもかかわらず解雇されるものであるから、使用者は、雇用契約上、労働者の了解が得られるよう努力する雇用契約上の義務を負っているというべきであり、使用者は、整理解雇にあたり、労働者や労働組合に対し、整理解雇の必要性、規模、時期、方法等について説明し、十分に協議する義務があり、これに反する解雇は無効となるものというべきである」と判示しています。
不利益緩和措置としての代償措置
整理解雇に当たり、退職金が本来支払われない従業員に対しても慰労金等の名目で金銭を支払うことや、希望退職の募集に応じた場合に再就職先のあっせんを行う等の不利益緩和措置がなされる場合があります。不利益緩和措置を講じたことは整理解雇の有効性を基礎づける方向の考慮要素となります。
不利益緩和措置が、上記4要素のいずれかの問題なのか、それとは別の問題なのかは異なる考え方が存在しています。