労働者は、労災保険によりどのような給付を受けることができるのでしょうか。また、使用者が労災の申請に協力してくれないときは、どうすればよいのでしょうか。今回は、労災保険について、解説していきます。
労災保険とは
「労災保険」とは、業務上の事由又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等に対して迅速かつ公正な保護をするため、必要な保険給付を行い、あわせて、業務上の事由又は通勤により負傷し、又は疾病かかった労働者の社会復帰の促進、当該労働者及びその遺族の援護、労働者の安全及び衛生の確保等を図り、もって労働者の福祉の増進に寄与することを目的とする保険です(労働者災害補償保険法(以下、「労災保険法」といいます。)1条)。
適用事業及び労働者と費用負担
原則として、労働者を一人でも雇用する事業は、すべて労災保険の対象事業とされます(労災保険法3条1項)。労災保険は強制加入であるため、事業主が加入を怠っていたとしても、労災保険関係は成立しています。
労災保険における労働者は、事業に使用される者で賃金を支払われる者をいいますので、アルバイトやパートタイマー等の雇用形態は関係ありません。
労災保険に加入するのは、労働者ではなく事業主です。そのため、保険料は全て事業者が負担することになります。
労災保険給付の種類
労災保険給付には、業務災害に関するものと、通勤災害に関するものがあります。
業務災害に関する保険給付は、①療養補償給付、②休業補償給付、③障害補償給付、④遺族補償給付、⑤葬祭料、⑥傷病補償年金、⑦介護補償給付があります(労災保険法7条1項1号、12条の8第1項)。
通勤災害に関する保険給付は、①療養給付、②休業給付、③障害給付、④遺族給付、⑤葬祭給付、⑥傷病年金、⑦介護給付があります(労災保険法7条1項2号、21条)。
療養(補償)給付
療養(補償)給付とは、療養の給付で、診察や薬剤、処置、手術等の範囲で給付されるものです(労災保険法13条、22条)。
休業(補償)給付
休業(補償)給付は、原則として、事故が発生した日又は疾病の発生が確定した日(賃金締切日が定められているときはその日の直前の賃金締切日)の直前3か月間に支払われた賃金の総額を総日数で除した給付基礎日額を基に、その60%相当額を、休業を開始してから4日目以降の無休の休業日の日数に応じて給付するものです(労災保険法14条、22条の2)。
障害(補償)給付
障害(補償)給付は、厚生労働省令で定める障害等級に応じ、障害補償年金又は障害補償一時金とするものです(労災保険法15条、22条の3)。
特別支給金
労災保険には、上記各給付のほかに、社会復帰促進事業等として支給される特別給付金があります。
具体的には、①「休業特別支給金(休業給付基礎日額の20%を支給)」、②「障害特別支給金」、③「遺族特別支給金」、④「傷病特別支給金」、⑤「障害特別年金」、⑥「障害特別一時金」、⑦「傷病特別年金」、⑧「遺族特別年金」、⑨「遺族特別一時金」などです(労災保険法50条、労働者災害補償保険特別支給金支給規則2条)。
そのため、休業した場合は、休業(補償)給付と休業特別支給金により、給付基礎日額の合計80%が支給されることになります(労働者災害補償保険特別支給金支給規則3条)。
事業主の協力
事業主は、保険給付を受ける者が事故のため、みずから保険給付の請求その他の手続を行うことが困難であるときには、その手続きを行うことができるよう助力しなければならず(労災保険法施行規則23条1項)、保険給付を受けるために必要な証明を求められたときは速やかに証明をしなければなりません(労災保険法施行規則23条2項)。
保険給付を受ける者は、事業主がこれに反して協力をしない場合には、事業主の押印がなくても労災保険を請求できます。その際には、労災保険を請求する際に事業主が押印しなかった経緯を文書などで説明することになります。
労災保険法施行規則23条
1項「保険給付を受けるべき者が、事故のため、みずから保険給付の請求その他の手続を行うことが困難である場合には、事業主は、その手続を行うことができるように助力しなければならない。」
2項「事業主は、保険給付を受けるべき者から保険給付を受けるために必要な証明を求められたときは、すみやかに証明をしなければならない。」
解雇制限
使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間は、解雇を禁止されています(労働基準法19条1項)。
従って、これに反して解雇がなされた場合には、強行規定に違反したものとして無効となります。