退職交渉後に内定を取り消されてしまって悩んでいませんか?
すでに前職に退職する旨を伝えてしまった後に内定を取り消すといわれても困りますよね。
退職交渉後の内定取り消しとは、前職に退職届を出してすでに退職日なども決まった後に内定を取り消されてしまうことをいいます。
転職先の人員整理などの理由のことも多いですが、入社前の人事や社長とのコミュニケーションやSNS・ブログなどで発信している情報が原因であることもあります。
内定取り消しについては、通常、解雇に準じて考えられますので、客観的に合理的な理由がなく社会通念上相当と言えない場合には無効となります。
実際、前職を退職した後に内定を取り消された事案ですと、損害賠償の金額も高額になることがあります。
もし、退職交渉後に内定を取り消されてしまった場合には、会社の言うことを鵜呑みにするのではなく、冷静に対処していきましょう。
実は、入社前だからという理由で内定取り消しを軽く見ている企業が少なからず存在しており、1~2か月分の賃金相当額などの低廉な補償だけ済ませようとする会社が後を絶ちません。
この記事をとおして、退職交渉後の内定取り消しが労働者に深刻な影響を与えるものであり、法律上も、これが簡単に許されるものではないということを多くの方に知っていただければ幸いです。
今回は、退職交渉後の内定取り消しについて、3つの原因を説明したうえで、違法性や裁判例、簡単な対処法を解説していきます。
具体的には、以下の流れで説明していきます。

この記事を読めば、退職交渉後に内定を取り消されたらどうすればいいのかがよくわかるはずです。

目次
退職交渉後の内定取り消しとは

退職交渉後の内定取り消しとは、すでに前職で退職届を出したり退職日が決まったりした後に、新しい会社から内定を取り消されてしまうことをいいます。
例えば、労働者は、転職活動を行っていて、内定通知書が決まれば、入社日までに退職手続きなどを一式揃える必要があります。
内定通知書までもらっていれば、転職先に入社できるものと考えて、前職に退職届を出す方が多いでしょう。
もっとも、退職届を出した後、新しい会社の入社日までの間に転職先から内定取り消し通知書が送られることがあるのです。
前職を退職することになる一方で、転職先にも入社できなくなりますので、無職になってしまうことになります。
無職になれば、お給料はもらえなくなり生活に支障が生じますし、キャリアにもブランクが空いてしまいます。
退職交渉を終えた直後は次の仕事に向けて気持ちを切り替えている時期であるため、突然の内定取り消しは精神的にも強い負担となります。
先行きが見えず、生活費の不安や将来への焦りから強いストレスを感じる方も少なくありません。
退職交渉後の内定取り消しは、労働者の生活基盤と心身の安定を同時に揺るがす重大な問題であり、法的にも一定の保護がされることが多いです。
法律や判例の考え方を知っておくことで、労働者も自分の身を守ることができます。
退職交渉後の内定取り消しの原因3つ
退職交渉後に内定を取り消される背景には、いくつかの典型的な原因があります。
なぜ取り消しに至るのかを理解することで、企業の対応が正当かどうかを判断しやすくなりますし、後の対処にも役立ちます。
例えば、退職交渉後の内定取り消しの原因3つを整理すると以下のとおりです。
原因1:人員整理
原因2:入社前のやり取り
原因3:SNSやブログ

それでは、退職交渉後の内定取り消しに多い3つの原因について順番に見ていきましょう。
原因1:人員整理
退職交渉後の内定取り消しの原因として最も多いのが、人員整理です。
企業が経営状況の悪化や方針変更により採用計画を縮小すると、すでに内定を出していた人にまで影響が及ぶことがあります。
これは、会社側の事情によるものであり、本人の能力や適性とは無関係です。
例えば、景気の悪化で急に採用人数を減らす決定がなされたり、事業の縮小で配属予定先がなくなったりする場合があります。
このように、人員整理を理由にした内定取り消しは、労働者が予測できない事情によって生じるため、とくに大きな打撃となります。
原因2:入社前のやり取り
次に多いのが、入社前のやり取りを理由にした内定取り消しです。
会社と交わすメールや面談での受け答えによって、会社の社風に合わないとして、採用判断が覆ることがあります。
例えば、賃金の昇給について確認した場合、在宅勤務をしたいと話した場合、休暇の話をした場合などに、内定の取り消しをされる例が少なくありません。
人事や社長の機嫌を損ねてしまい、やはり採用したくないといわれてしまうことあるのです。
ただし、条件や権利の確認をしたことによる取り消しは、往々にして主観的であり、かつ、不合理であるため、法的に不当となりやすい類型と言えます。
原因3:SNSやブログ
近年増えているのが、SNSやブログでの発信を理由にした内定取り消しです。
会社はインターネット上の情報を確認し、企業イメージや職場秩序に悪影響を及ぼす可能性があると判断することがあります。
発信内容そのものは私生活の一部であっても、企業にとっては「リスク管理」の対象とされることがあるのです。
例えば、誹謗中傷的な投稿や機密情報につながる内容が見つかった場合に問題視されるケースもあります。
このように、SNSやブログが原因で内定を取り消されるのは、現代ならではのリスクといえます。
労働者にとっては想定外の理由ですが、注意しておく必要があります。
退職交渉後の内定取り消しは違法?
退職交渉後の内定取り消しは、違法となることがあります。
内定により、始期付きの雇用契約が成立していたとして、解雇に準じて考えられる傾向にあるためです。
採用時に知っていた事情や採用時に知り得た事情を理由として内定を取り消すことはできません。
また、客観的に合理的な理由がなく社会通念上相当と言えない場合も、内定取り消しは濫用として無効となることになります。
例えば、暗い雰囲気の人物であることを理由に内定を取り消されたとしましょう。
暗い雰囲気がどうかは主観的なものですし、採用面接などでもある程度把握し得る事情と言えます。
そのため、単に暗い雰囲気だから内定取り消しと言った程度の理由では、濫用となる可能性が高いでしょう。
つまり、退職交渉後の内定取り消しは「入社前だから自由に取り消せる」という単純なものではありません。
内定取り消しは、厳格な条件を満たさなければ無効と判断されることがあるのです。
退職交渉後の内定取り消しの裁判例
退職交渉後の内定取り消しの裁判例は、多く蓄積されてきています。
これらの裁判例を見ていくことで、裁判所がどのような判断をするのかイメージしやすくなるでしょう。
例えば、退職後の内定取り消しの裁判例を3つ厳選すると以下のとおりです。

東京地判平成15年6月30日労経速1842号13頁[プロトコーポレーション事件]
【事案】
自動車や生活関連情報誌の編集出版業者は、海外旅行情報誌の企画営業職の社員を募集しました。
原告はこれに応募し採用内定を得て、当時の旅行業の勤務先を退職しました。
その後、会社が配属先をスクール情報誌へ変更するよう命じ、原告がこれを拒否したため、内定が取り消されました。
【結論】
被告に185万円の損害賠償(慰謝料165万円、弁護士費用20万円))の支払いが命じられました。
【理由】
会社は、職種を限定するような募集広告を掲載し、原告に海外旅行情報誌の業務に従事できると信頼させました。
また、原告は会社に促され早期に前職を退職しています。原告の経験や関心から見て、スクール情報誌への配属は能力を発揮する可能性が低く酷な対応でした。
配属先変更の客観的合理性はなく、社会的相当性を逸脱した違法な不法行為と判断されました。
東京地判平成16年6月23日判時1868号139頁[オプトエレクトロニクス事件]
【事案】
コンピュータ周辺機器関連の企業様が、中途採用の営業職応募者様へ採用内定を通知しました。
応募者様が前職の退職届を提出した後、企業様は悪い噂を理由に内定を保留・再決定しましたが、確実な証拠なく再度取り消しました。
【結論】
内定取消しは解約権の濫用で無効であり、慰謝料100万円が命じられました。
【理由】
本件は、始期付解約権留保付労働契約が成立していました。
解約権の行使には客観的に合理的で社会通念上相当な事由が必要です。
企業は、悪い噂が伝聞に過ぎないと調査し、一度内定を再決定しました。
確実な証拠に基づく新たな事実がないのに、従前と同じ噂に基づき取り消すことは、解約権の濫用と判断されました。
東京地判平20年6月27日労判971号46頁[インターネット総合研究所事件]
【事案】
証券会社の従業員が情報処理・コンサルティング会社の代表取締役から勧誘を受け、雇用条件に合意しました。
原告は前職に辞意表明し退職手続きを進めた後、内定先の役員会で承認が得られず内定を取り消されたため、損害賠償を請求した事案です。
【結論】
被告に対し慰謝料300万円の支払いが命じられました。
【理由】
代表取締役との間で年俸額や勤務開始日など具体的な雇用条件が合意されたため、内定(始期付解約権留保付雇用契約)の成立が認められました。
役員会の不承認は内定の条件ではないため、退職手続きを進めた後の内定取消しに正当な理由はありませんでした。
これにより原告に生じた精神的苦痛に対し、慰謝料300万円の損害賠償義務が認められました。
退職交渉後に内定取り消しをされた場合の対処法
退職交渉後に内定を取り消されてしまった場合でも、泣き寝入りする必要はありません。
正しい手順で行動することで、損害を回避したり補償を受けたりできる可能性が高まります。
具体的には、退職交渉後に内定取り消しをされた場合の対処法としては、以下の3つがあります。
対処法1:内定取り消しの無効を指摘する
対処法2:損害賠償を請求する
対処法3:退職届の撤回をする
それでは、退職交渉後に内定取り消しをされた場合の3つの対処法について順番に見ていきましょう。
対処法1:内定取り消しの無効を指摘する
退職交渉後の内定取り消しが違法である場合、まずはその無効を指摘することが有効です。
内定取り消しは解雇と同様に厳格な要件が必要とされており、客観的に合理的な理由がなければ認められないからです。
無効を主張することで、採用を維持できる可能性があります。
例えば、人員整理という名目があるものの、実際には会社全体で同じポジションの採用を続けているといった矛盾があるケースでは、濫用と判断されやすいです。
また、入社前の態度などを指摘されているものの、その理由が主観的であるような場合にも、濫用と判断されやすいです。
このように、まずは「その内定取り消しは本当に有効なのか」を冷静に確認し、無効の可能性がある場合にはしっかりと主張することが大切です。
対処法2:損害賠償を請求する
内定取り消しが無効とまではいえない場合でも、損害賠償を請求できることがあります。
これは、労働者が退職交渉を済ませて前職を失った後で取り消されたことにより、経済的損失を被っているからです。
とくに、収入の途絶や再就職活動の費用は大きな負担となります。
例えば、前職を辞めた直後に内定を取り消され、無職となって数か月間の収入が失われた場合、その期間に対応する賃金相当額を損害として請求できることがあります。
損害賠償を求めることは、会社に責任を取らせるだけでなく、自分の生活を守るためにも重要な選択肢です。
対処法3:退職届の撤回をする
前職に提出した退職届の撤回を検討することも有効です。
担当者が退職届を受理する前であれば、退職届を撤回することができます。
また、退職届が受理された後であっても、会社の同意を得て退職の意思を取り消すことができる可能性があります。
退職が成立していなければ、現職を続けて働くことで生活の安定を確保できます。
例えば、退職日が1ヶ月先に設定されている状況で、すぐに内定取り消しを告げられた場合には、会社と相談して退職届の撤回を認めてもらえることもあるでしょう。
前職に戻る道を残すことで、無職の状態を避け、次の転職活動に落ち着いて取り組むことが可能になります。
退職交渉後に内定を取り消されたらリバティ・ベル法律事務所へ!
退職交渉後に内定を取り消されたら、是非、リバティ・ベル法律事務所にご相談ください。
内定取り消しの問題は専門性が高いため、弁護士であれば誰でもいいというわけではありません。
内定取り消しの有効性につき見通しを分析したうえで、あなたの意向を踏まえて、適切に方針を策定する必要があります。
リバティ・ベル法律事務所では、内定取り消しや不当解雇事件に力を入れており、圧倒的な知識とノウハウを蓄積しています。
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まとめ
以上のとおり、今回は、退職交渉後の内定取り消しについて、3つの原因を説明したうえで、違法性や裁判例、簡単な対処法を解説しました。
この記事の内容を簡単に整理すると以下のとおりです。
・退職交渉後の内定取り消しとは、すでに前職で退職届を出したり退職日が決まったりした後に、新しい会社から内定を取り消されてしまうことをいいます。
・退職交渉後の内定取り消しの原因3つを整理すると以下のとおりです。
原因1:人員整理
原因2:入社前のやり取り
原因3:SNSやブログ
・退職交渉後の内定取り消しは、違法となることがあります。客観的に合理的な理由がなく社会通念上相当と言えなければ濫用となるためです。
・退職交渉後に内定取り消しをされた場合の対処法としては、以下の3つがあります。
対処法1:内定取り消しの無効を指摘する
対処法2:損害賠償を請求する
対処法3:退職届の撤回をする
この記事が退職交渉後に内定を取り消されてしまって悩んでいる方の助けになれば幸いです。
以下の記事も参考になるはずですので読んでみてください。

