地方公務員には、一般の企業等に勤める労働者と同様に労働関係法は適用されるのでしょうか。地方公務員と一般の企業等に勤める労働者とでは、全く同一に扱うことはできないため、その区分に応じて、適用される規定と適用されない規定があります。
今回は、地方公務員と労働関係法の適用関係について解説します。
地方公務員とは
地方公務員とは、普通地方公共団体、特別地方公共団体または特定地方独立行政法人に勤務し、その事務処理に従事することによって、給与、報酬あるいは手当といった対価を得ている者すべてをいうと解されています。
地方公務員は、一般職と特別職に分類することができます。特別職に該当しない者は、全て一般職となりますので、一般職にも特別職にも該当しないものは予定されていません。
地方公務員法2条(この法律の効力)
「地方公務員(地方公共団体のすべての公務員をいう。)に関する従前の法令又は条例、地方公共団体の規則若しくは地方公共団体の機関の定める規程の規定がこの法律の規定に抵触する場合には、この法律の規定が、優先する。」
地方公務員法3条(一般職に属する地方公務員及び特別職に属する地方公務員)
1項「地方公務員(地方公共団体及び特定地方独立行政法人(地方独立行政法人法…第2条第2項に規定する特定地方独立行政法人をいう。以下同じ。)のすべての公務員をいう。以下同じ。)の職は、一般職と特別職とに分ける。」
特別職
特別職とは
特別職としては、以下の職が限定的に列挙されています(地方公務員法3条)。列挙されているのは、成績主義に基づく任用および昇進、政治的中立性の保持等の服務規律、身分保障(分限制度)といった人事行政の根本基準を適用できずまたは適用することが適当でないとされている職です。
⑴「就任について公選又は地方公共団体の議会の選挙、議決若しくは同意によることを必要とする職」(1号)
⑵「地方公営企業の管理者及び企業団の企業長の職」(1号の2)
⑶「法令又は条例、地方公共団体の規則若しくは地方公共団体の機関の定める規程により設けられた委員及び委員会(審議会その他これに準ずるものを含む。)の構成員の職で臨時又は非常勤のもの」(2号)
⑷「都道府県労働委員会の委員の職で常勤のもの」(2号の2)
⑸「臨時又は非常勤の顧問、参与、調査員、嘱託員及びこれらのものに準ずる者の職(専門的な知識経験又は識見を有する者が就く職であつて、当該知識経験又は識見に基づき、助言、調査、診断その他総務省令で定める事務を行うものに限る)」(3号)
⑹「投票管理者、開票管理者、選挙長、選挙分会長、審査分会長、国民投票分会長、投票立会人、開票立会人、選挙立会人、審査分会立会人、国民投票分会立会人その他総務省令で定める者の職」(3号の2)
⑺「地方公共団体の長、議会の議長その他地方公共団体の機関の長の秘書の職で条例で指定するもの」(4号)
⑻「非常勤の消防団員及び水防団員の職」(5号)
⑼「特定地方独立行政法人の役員」(6号)
「臨時又は非常勤の顧問、参与、調査員、嘱託員及びこれらのものに準ずる者の職」(3号)とは、特定の知識、経験に基づいて任用されるものであることが要件とされています。例えば、従前は、以下の者がこれに該当するとされていました。
例1 公立学校の非常勤講師(福井地判昭34.3.11行集10巻3号571頁)
例2 非常勤の学校医(行実昭26.2.6地自乙発37号)
例3 市町村の公民館長(昭26.3.1地自公発51号)
もっとも、地方公務員法及び地方自治法の一部を改正する法律(平成29年法律第29号)が、令和2年4月1日から施行され、地方公務員法3号には、上記のとおり、括弧書きにより、「(専門的な知識経験又は識見を有する者が就く職であつて、当該知識経験又は識見に基づき、助言、調査、診断その他総務省令で定める事務を行うものに限る)」との文言が追加され、厳格化されました。
そのため、今後は、上記例1・3などは、一般職である会計年度任用職員として取り扱うことになります。例2については、従前どおり、特別職として取り扱われます。
特別職における労働関係法の適用関係
特別職には、地方公務員法は適用されません(地方公務員法4条)。
特別職の身分取り扱いについては、統一した規律はないため、それぞれの各特別職に係る法令によることになります。そして、人事委員会の常勤の委員、人事院会・公平委員会の非常勤の委員、公安委員会の委員には、地方公務員法の一部が準用されています。
また、労働関係法の適用を制限する地方公務員法58条が適用されないため、特別職のうち「労働者」に該当する職員には、原則どおり、労働組合法、労働関係調整法、最低賃金法、労働基準法が全面的に適用されます。
もっとも、短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(同法29条)、労働契約法(同法22条)、育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律の一部(同法61条)等は適用されません。
地方公務員法4条(この法律の適用を受ける地方公務員)
1項「この法律の規定は、一般職に属するすべての地方公務員(以下「職員」という。)に適用する。」
2項「この法律の規定は、法律に特別の定がある場合を除く外、特別職に属する地方公務員には適用しない。」
短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律29条(適用除外)
「この法律は、国家公務員及び地方公務員並びに船員職業安定法…第6条第1項に規定する船員については、適用しない。」
労働契約法22条(適用除外)
1項「この法律は、国家公務員及び地方公務員については、適用しない。」
育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律61条(公務員に関する特例)
1項「第2章から第9章まで、第30条、前章、第53条、第54条、第56条、第56条の2、前条、次条から第64条まで及び第66条の規定は、国家公務員及び地方公務員に関しては、適用しない。」
一般職
現業職員
⑴ 現業職員とは
現業職員とは、以下の者をいいます。
① 企業職員
② 単純労務職員
③ 特定地方独立行政法人の職員
企業職員とは、地方公営企業の職員のうち、管理者の権限に属する事務の執行を補助する職員をいいます。地方公営企業とは、簡易指導事業を除く水道事業、工業用水道事業、軌道事業、自動車運送事業、地方鉄道事業、電気事業及びガス事業をいいます。
単純労務職員とは、単純な労務に雇用される職員であって企業職員または特定独立行政法人の職員に該当しないものです。具体的には、一般職に属する地方公務員で次に掲げる者の行う労務を行うもののうち技術者、監督者及び、行政事務を担当する者以外の者をいいます(昭26政令25)。①守衛、給士、小使、運搬夫、雑役夫、②土木工夫、林業夫、農夫、牧夫、園丁及び動物飼育人、③清掃夫、と殺夫及び葬儀夫、④消毒夫及び防疫夫、⑤船夫及び水夫、⑥炊事夫、洗たく夫及び理髪夫、⑦大工、左官、石工、電工、営繕工、配管工及びとび作業員、⑧電話交換手、昇降機手、自動車運転手、機械操作手及び火夫、⑨青写真工、印刷工、製本工、模型工、紡織工、製材工、木工及び鉄工、⑩溶接工、塗装工、旋盤工、仕上組立工及び修理工、⑪前各号に掲げる者を除く他、これらの者に類する者。
⑵ 現業職員における労働関係法の適用関係
現業職員には、労働者との類似性に鑑み、労働基準法のほとんどが適用されます。
現業職員に適用されない労働基準法の規定は、概ね以下のとおりです。
①契約期間等(労働基準法14条2項、3項)
②災害補償(労働基準法75条~88条)
※ただし、災害補償については、地方公務員災害補償法2条1項に規定する者以外の職員(常時勤務に服することを要しない職員)には、適用されます(地方公務員法58条3項但書)。
地方公営企業法39条(他の法律の適用除外等)
1項「企業職員については、地方公務員法…第58条(同条第3項中労働基準法…第14条第2項及び第3項に係る部分並びに同法第75条から第88条まで及び船員法…第89条から第96条までにかかる部分(地方公務員災害補償法…第2条第1項に規定する者に適用される場合に限る。)を除く)…の規定は、適用しない。」
地方公営企業等の労働関係に関する法律附則
5「地方公務員法第57条に規定する単純な労務に雇用される一般職に属する地方公務員であつて、第3条第4号の職員以外のものに係る労働関係その他身分取扱いについては、その労働関係その他身分取扱いに関し特別の法律が制定施行されるまでの間は、…地方公営企業法…第39条の規定を準用する。」
地方独立行政法人法53条(職員に係る他の法律の適用除外等)
1項「次に掲げる法律の規定は、特定地方独立行政法人の職員…には適用しない。」
一「地方公務員法…第58条(同条第3項中労働基準法…第14条第2項及び第3項に係る部分並びに同法第75条から第88条まで及び船員法…第89条から第96条までに係る部分(地方公務員災害補償法…第2条第1項に規定する者に適用される場合に限る。)を除く。)…の規定」
非現業職員
⑴ 非現業職員とは
非現業職員とは、現業職員以外の一般地方公務員をいいます。
<現業職員と非現業職員の区別>
現業職員と非現業職員という用語は、どの問題を論じているかにより、その内容が異なります。今回は、以下の②の問題です。
①労働基準監督官が監督権限を行使する事業に当たるかの問題
→労働基準法別表第1の第1号から第10号まで及び第13号から第15号までの事業に従事する職員を現業職員とし、それ以外の事業に従事する職員を非現業職員とします。
②地方公務員法の一部が適用除外されるかの問題
→企業職員、単純労務職員及び特定地方独立行政法人の職員の三者を合わせて現業職員とし、それ以外の職員を非現業職員とします。
⑵ 非現業職員における労働関係法の適用関係
非現業職員には、労働基準法の相当数の規定が適用されません。
非現業職員に適用されない労働基準法の規定は、概ね以下のとおりです。
①労働条件の決定(労働基準法2条)
②契約期間等(労働基準法14条2項、3項)
③賃金の支払い(労働基準法24条1項)
④フレックスタイム(労働基準法32条の3~32条の3の2)
⑤1年単位の変形労働時間制(労働基準法32条の4~32条の4の2)
⑥1週間単位の非定型的変形労働時間制(労働基準法32条の5)
⑦事業場外労働、裁量労働制(労働基準法38条の2第2項~38条の4)
⑧年休時季指定(労働基準法39条6~8項)
⑨高度プロフェッション制度(労働基準法41条の2)
⑩災害補償(労働基準法75条~88条)
⑪就業規則(労働基準法89条~93条)
⑫司法警察権(労働基準法102条)
※ただし、災害補償については、地方公務員災害補償法2条1項に規定する者以外の職員(常時勤務に服することを要しない職員)には、適用されます(地方公務員法58条3項但書)。
※ただし、司法警察権については、地方公共団体の行う労基法別表第1第1号から第10号まで及び第13号から第15号までの事業に従事する職員には、適用されます(地方公務員法58条3項但書前段)。
地方公務員法58条(他の法律の適用除外等)
3項「労働基準法第2条、第14条第2項及び第3項、第24条第1項、第32条の3から第32条の5まで、第38条の2第2項及び第3項、第38条の3、第38条の4、第39条第6項、第75条から第93条まで並びに第102条の規定、労働安全衛生法第92条の規定、船員法…第6条中労働基準法第2条に関する部分、第30条、第37条中勤務条件に関する部分、第53条第1項、第89条から第100条まで、第102条及び第108条中勤務条件に関する部分の規定並びに船員災害防止活動の促進に関する法律第62条の規定並びにこれらの規定に基づく命令の規定は、地方公共団体の行う労働基準法別表第1第1号から第10号まで及び第13号から第15号までに掲げる事業に従事する職員に、同法第75条から第88条まで及び船員法第89条から第96条までの規定は、地方公務員災害補償法…第2条第1項に規定する者以外の職員に関しては適用する。」
参考リンク
地方公務員法及び地方自治法の一部を改正する法律案 新旧対照表 目次