会社から解雇されてしまったものの生活が苦しいので補償金をもらいたいとの悩みを抱えていませんか?
解雇されてしまうと、収入源である賃金が支払われなくなってしまいますので、どのように生活すればいいのか不安に感じてしまいますよね。
結論から言うと、日本では、解雇の際に補償金という制度はありません。
しかし、解雇が不当な場合には、会社に対して解雇された後の賃金も支払うように請求したり、解決金をもらうことを条件とする和解をしたりすることにより、金銭の支払いを受けることができる場合があります。
解決金の相場は、賃金の3か月分~6か月分程度と言われていますが、事案によりますので1年分程度の解決金が支払われる事案もあります。
その他にも、解雇されてしまった場合には、失業保険の(仮)受給を受けるなどにより、生活を維持していく方法があります。
つまり、日本では補償金という制度はありませんが、解雇された際にはもらえる可能性があるお金がありますので、これらを活用することにより生活の維持を実現できる場合があるのです。
ただし、実際には、解雇された方の多くは自分がどのようなお金をもらえるのかを知らないことが多く、もらえるはずのお金を請求していないことがよくあります。
今回は、解雇の補償金について簡単に説明した後に、解雇された際にもらえる可能性があるお金や相場、生活を維持する方法について解説していきます。
具体的には、以下の流れで説明していきます。
この記事を読めば解雇された際の生活への不安が解消するはずです。
目次
解雇の補償金とは
解雇の補償金とは、解雇をする際に一定の金銭を労働者に支払うことが義務付けられている制度のことをいいます。
諸外国では、解雇の補償金という制度が法律に定められている場合があります。
解雇の補償金制度は、一般に、「1か月分の賃金×〇か月分」といった形で定められていることが多く、「〇か月分」の部分については、勤続年数に比例して多く定められていることがよく見られます。
また、解雇理由により補償金の金額に差異を設けていたり、「解雇に合理的な理由がある場合」と「解雇に合理的な理由がない場合」で補償金の金額に差異を設けていたりするケースなども見られます。
解雇の補償金と言っても、一概ではなく、「不当解雇の際に労働者が請求できる解消金としての制度」もあり得ますし、「不当解雇かどうかにかかわらず一定の解消金の支払いとして義務付けられている制度」もあり得ます。
このように解雇の補償金と言ってもその具体的な内容は国により異なります。
日本では解雇の補償金という制度はない
日本では、解雇の補償金という制度はありません。
日本では、解雇が正当である場合でも、30日前の解雇予告が必要とされていますが、それ以外に会社からの金銭的な補償があるわけではありません。(ただし、会社が退職金制度を導入していれば、これをもらえる場合があります。)
日本では、解雇が不当である場合には、解雇は無効とされることになります。そのため、労働者は、引き続きその会社で働き続けていくことができ、賃金をもらうことができます。
ただし、実際には、多くの労働者は一度解雇された会社に戻りたくないと考える方が多く、会社側も一度解雇した労働者に会社に戻ってきてもらうことは簡単ではないため、退職を前提とする和解が成立するケースがほとんどです。
そのため、日本においても、裁判所が違法な解雇であると判断した場合に、労働者が雇用契約の解消金の請求をなし得る権利を導入することについての議論がされています。
もっとも、解消金の基準や解雇後の賃金との関係などから、このような立法論議は難航しているのが現状です。
解決金をもらえることはある!
日本では、補償金をもらうことはできませんが、解雇が不当とされる事案では、労働者が退職する代わりに解決金の支払いをするという内容の和解が成立するケースがほとんどです。
解決金とは、紛争を解決する対価として支払われる金銭のことです。
会社に解決金の支払い義務があるわけではありませんので、労働者と会社がそのような解決に合意した場合にだけ、解決金が支払われることになります。
不当解雇の場合の解決金の相場については、賃金の3か月分~6か月分と言われています。
ただし、解雇が認められないことが明らかである場合には、1年分を超える解決金が支払われることもあります。
このように日本では解雇の補償金という制度はありませんが、実際には、解雇を争う中で金銭的な解決が行われているのです。
そのため、解雇の補償金という制度がないからといって、金銭的な解決ができないわけではありませんのでご安心ください。
解決金以外に会社からもらえる可能性のあるお金4つ
あなたが解雇された場合にもらえる可能性のあるお金は解決金だけではありません。
会社との和解が成立しない場合であっても、例えば、以下の4つのお金をもらえる可能性があります。
・解雇後の賃金
・慰謝料
・退職金
・解雇予告手当
ただし、これらの金銭については、それぞれもらえる状況が異なりますので、これらのお金を全てもらえるわけではない点には注意が必要です。
解雇後の賃金
解雇後の賃金とは、あなたが解雇された日よりも後の賃金です。
解雇が無効となる場合に請求することができます。
会社は、あなたのことを解雇した後は、解雇日よりも後の賃金の支払いをしてくれなくなります。
しかし、会社の解雇が無効である場合には、解雇された日よりも後に、あなたが働くことができなかった原因は、会社側にあることになります。
そのため、あなたは、無効な解雇により働くことができなかった期間の賃金を後から支払ってもらうことができるのです。
例えば、あなたが令和3年5月に解雇されて、その解雇の無効が確認されるまでに1年の期間を要すれば、その間の1年分の賃金を支払うように請求していくことができます。
解雇後の賃金について以下の記事で詳しく解説しています。
バックペイ(解雇後の賃金)については、以下の動画でも詳しく解説しています。
慰謝料
慰謝料とは、精神的苦痛を補填するための賠償です。
解雇の悪質性が高く、これにより著しい精神的苦痛を受けている場合に請求することができます。ただし、解雇が無効となる場合でも、解雇の悪質性が高いとまでは評価されないことがあります。
不当解雇で慰謝料が認められる場合の相場は、50万円~100万円程度と言われています。
不当解雇の慰謝料については、以下の記事で詳しく解説しています。
不当解雇の慰謝料については、以下の動画でも詳しく解説しています。
退職金
退職金とは、会社を退職する際に支給される金銭の一つです。
会社に退職金規程などがある場合にこれに従い支給されます。
解雇された場合であっても、あなたが会社を退職することに変わりはありませんので、原則として、退職金を請求することができます。
ただし、会社によっては、懲戒解雇の場合には退職金を支給しないとの条項を設けていることがありますので注意が必要です。
また、あなたが解雇の無効を主張する場合には、あなたは退職をしていないことになりますので、退職金を請求すると矛盾してしまいますので気を付けましょう。
懲戒解雇をされた場合の退職金については、以下の記事で詳しく解説しています。
解雇予告手当
解雇予告手当とは、会社が労働者に対して30日前の解雇予告をせずに解雇する場合に支払う手当です。
会社は、労働者に対して、解雇する30日前にその予告をしなければならないとされています。
この30日前の予告をしない場合には、予告に足りない日数×平均賃金により計算した手当を支払う必要があります。
ただし、あなたが解雇の無効を主張する場合には、解雇が有効であることを前提とする解雇予告手当の請求をすると矛盾してしまいますので気を付けましょう。
解雇予告手当については、以下の記事で詳しく解説しています。
あなたが解雇されてしまった後については、有給休暇を使うことができなくなってしまいます。
有給休暇を使うには、あなたがまだ会社に在職していることが前提となるためです。
会社は、法律上、退職時に余っている有給休暇に相当する手当を労働者に支払う義務はありません。
そのため、解雇された時点で有給休暇が余っている場合でも、会社が独自に有給休暇に相当する手当を労働者に支払う制度を整えていない限りは、これを請求することはできないことになります。
解雇後の生活を維持する手段5つ
解雇された後は、会社からの賃金が支払われなくなってしまいます。
また、会社から解決金を支払ってもらえる場合でも、支払いまでには一定の期間がかかりますし、十分な解決金を得られるとは限りません。
そのため、解雇された場合には、まず解雇後の生活をどのように維持するかを検討することが重要となります。
解雇後の生活を維持する手段としては、例えば、以下の5つがあります。
手段1:失業保険の受給
手段2:賃金仮払いの申し立て
手段3:再就職
手段4:未払い残業代等の請求
手段5:生活保護
それでは各手段について順番に説明していきます。
手段1:失業保険の受給
解雇後の生活を維持する手段の1つ目は、失業保険の受給です。
失業保険とは、雇用保険の被保険者が失業した場合に、失業している日について支給される手当です。
失業保険を受給するには、ハローワークで失業保険の申請をする必要があります。
具体的には、以下の流れにより受給することになります。
まず、ハローワークで求職の申し込みをすることになります。その際に、ハローワークには離職票を提出する必要があります。
その後7日の待機期間がありますので、この期間は失業保険を受給できません。解雇の場合には、会社都合とされることが多いですが、自己の責めに帰すべき重大な理由により解雇された場合には3か月の給付制限が付されます。
求職申込から2~3週間後に雇用保険説明会があります。
その後、失業保険認定を受けて、認定日から5~7日後に失業保険が振り込まれることになります。
ただし、解雇の無効を主張する場合には、退職を前提とする失業保険の本受給をしてしまうと矛盾が生じてしまうことになります。
そのため、解雇の無効を主張する場合は、失業保険仮受給を申請するようにしましょう。
失業保険の仮受給については、以下の記事で詳しく解説しています。
会社都合退職については、以下の動画でも詳しく解説しています。
手段2:賃金仮払いの申し立て
解雇後の生活を維持する手段の2つ目は、賃金仮払いの申し立てです。
賃金仮払いの申し立てとは、不当解雇の争いが長期間に及ぶ可能性があるため、生活を維持する資力に乏しく、解雇無効の主張が認められる可能性が高いような場合に、仮に解雇後の賃金を支払うように裁判所に申し立てるものです。
近年は、仮払いが認められる金額は解雇された労働者と家族の生活に必要な限度の額、仮払い期間は将来分については本案1審判決言い渡しまで(東京地方裁判所では、原則として1年間)とされる傾向にあります。
手段3:再就職
解雇後の生活を維持する手段の3つ目は、他社への再就職です。
解雇を争いながら他の会社からお給料をもらうことになります。
ただし、この方法については、以下の3つの点について注意する必要があります。
まず1点目として、解雇後の賃金を請求している期間については、会社から戻ってくるように言われた場合には、これに応じるという意思が必要です。
次に2点目として、解雇後に他の会社で働いていた場合には、請求できる金額が平均賃金の6割を限度に制限されることになります。
最後に3点目として、再就職した会社の労働条件が解雇された会社と同程度かそれ以上の場合で、かつ、再就職後の会社で長期間働き続けているような場合などには、暗黙のうちに退職に合意したものと認められてしまうことがあります。
手段4:未払い残業代等の請求
解雇後の生活を維持する手段の4つ目は、未払いの残業代を請求することです。
解雇されてしまった後であっても、その解雇が有効か無効かにかかわらず、未払いの残業代があれば、これを請求することができます。
実際に、解雇を争う際に、併せて未払いの残業代を請求するケースはよくあります。
以下の残業代チェッカーを利用すれば簡単におおよその未払い残業代金額を確認することができますので利用してみてください。
手段5:生活保護
解雇後の生活を維持する手段の5つ目は、生活保護です。
不当解雇を争う場合であっても、生活保護の受給要件を満たせば、これをもらえる場合があります。
詳しくは、以下の行政通達をご覧ください。
昭和四三年四月二六日社保第一一一号「○労働争議中の労働者等に対する生活保護法の適用について」
海外の解雇と補償金
海外では解雇に補償金が法定されていることがあります。
以下では、3つの国の解雇補償金について紹介していきます。
・タイの解雇補償金
・中国の解雇補償金
・フランスの解雇補償金
タイの解雇補償金
タイは、解雇をする場合には、通常、会社は以下の補償金を支払う必要があります。
また、事業所移転の場合には別途特別解雇手当の支払いが、整理解雇の場合には解雇手当の上乗せが必要とされています。
ただし、意図的に会社に損害を与えた場合や文書で警告されたのに業務命令に違反した場合など一定の場合には、解雇補償金の支払いは不要とされています。
中国の解雇補償金
中国では、会社側からの提起や会社都合により解雇する場合には、会社は以下の経済補償金を支払う必要があります。
※会社の所在地の政府が公布する前年度月平均賃金の3倍を上回る場合には、月平均賃金の3倍が基準となり、この場合の経済補償金の勤続年数の上限は12年を超えないものとされています。
フランスの解雇補償金
フランスでは、解雇をする場合には、以下の法定の補償金を支払う必要があります。
ただし、重過失や背任がある場合には、解雇手当の支払いは不要とされています。
なお、不当解雇がなされた場合の損害賠償額について、勤続年数と従業員数に応じて上限と下限が定められています。
解雇の際の補償金についてよくある疑問3つ
解雇の際の補償金について、よくある疑問として以下の3つがあります。
・1か月分の補償金(賃金)を支払えば解雇できると言われましたが本当ですか?
・休業期間中の手当や補償をもらえることはありますか?
・労災の療養期間中でも打切補償を払えば解雇できるのですか?
1か月分の補償金(賃金)を支払えば解雇できると言われましたが本当ですか?
結論としては、30日分の平均賃金の支払いをしても解雇は無効となることがあります。
平均賃金の30日分の支払いをする場合には、解雇予告手当の支払いとして、解雇の予告が不要となります。
会社によっては、解雇予告手当を支払えば、合理的な理由がなくても解雇が有効になると勘違いしていることがあります。
法律上は、解雇予告手当が支払われていたとしても、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と言えない場合には無効となります。
そのため、1か月分の補償金(賃金)を支払えば解雇できるとはいえません。
休業期間中の手当や補償をもらえることはありますか?
会社の責めに帰すべき事由により、働くことができなかった場合には、平均賃金の60%分の休業手当を請求をすることができます。
労働基準法第26条(休業手当)
「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。」
なお、会社の帰責性が大きいような場合には、賃金全額の請求をすることができます。
例えば、解雇の前に会社が特に理由がないのに自宅待機を命じるようなことがありますが、そのような場合には、出勤しなくても賃金全額の支払いを請求できる可能性があります。
民法第536条(債務者の危険負担等)
2「債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。…」
業務による病気やケガにより労働者が休業している場合には、平均賃金の60%の休業補償を請求することができます。
労働基準法第76条(休業補償)
「労働者が前条の規定による療養のため、労働することができないために賃金を受けない場合においては、使用者は、労働者の療養中平均賃金の百分の六十の休業補償を行わなければならない。」
労災の療養期間中でも打切補償を払えば解雇できるのですか?
業務による病気やケガで治療中の場合でも、治療開始後3年経過しても治療が終わらないときは、平均賃金の1200日分の打切補償を支払うことによって、解雇が有効となることがあります。
打切補償とは、業務による病気やケガで治療中の場合でも、治療開始後3年経過しても治療が終わらないときは、平均賃金の1200日分の支払いをすることで、補償を終わりにすることができる制度です。
労働基準法第81条(打切補償)
「第七十五条の規定によつて補償を受ける労働者が、療養開始後三年を経過しても負傷又は疾病がなおらない場合においては、使用者は、平均賃金の千二百日分の打切補償を行い、その後はこの法律の規定による補償を行わなくてもよい。」
本来、労災の療養期間中については解雇が禁止されていますが、打ち切り補償をした後には解雇が許されることになります。
労働基準法第19条(解雇制限)
1「使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業する期間及びその後三十日間は、解雇してはならない。ただし、使用者が、第八十一条の規定によつて打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合においては、この限りでない。」
裁判例では、打切補償を支払った後の解雇は、特段の事情がない限り、合理的な理由があり社会通念上も相当とされています(東京高判平22年9月16日判例タイムズ1347号153頁[アールインベストメントアンドデザイン事件控訴審判決])。
不当解雇に注力している完全成功報酬制の弁護士に依頼しよう!
不当解雇をされてしまった場合には、完全成功報酬制の弁護士に依頼することがおすすめです。
完全成功報酬制とは、着手金0円で、事件が成功した場合にだけ報酬が発生する報酬体系のことです。
着手金が必要な場合には、委任時に数十万円の支払いをする必要があり、このお金は事件が失敗に終わっても戻ってきません。
解雇をされてしまった後は、生活にも不安がある状況でしょうから、可能な限りリスクは抑えて依頼した方がいいでしょう。
加えて、不当解雇は専門性の高い分野ですので、弁護士であれば誰でも取り扱っているというわけではありません。
弁護士を探す場合には、不当解雇に注力している弁護士を探すといいでしょう。
そのため、不当解雇をされてしまった場合には、不当解雇問題に注力していて、かつ、完全成功報酬制の弁護士に依頼するべきなのです。
まとめ
以上のとおり、今回は、解雇の補償金について簡単に説明した後に、解雇された際にもらえる可能性があるお金や相場、生活を維持する方法について解説しました。
この記事の要点を簡単に整理すると以下のとおりです。
・解雇の補償金とは、解雇をする際に一定の金銭を労働者に支払うことが義務付けられている制度のことをいいます。
・日本では、解雇の補償金という制度はありません。
・日本では、解雇を争う中で和解が成立し解決金が支払われるケースが多く、相場は賃金の3か月分~6カ月分程度です。
・会社との和解が成立しない場合であっても、例えば、以下のお金をもらえる可能性があります。
①解雇後の賃金
②慰謝料
③退職金
④解雇予告手当
・解雇後の生活を維持する手段としては、例えば、以下の5つがあります。
手段1:失業保険の受給
手段2:賃金仮払いの申し立て
手段3:再就職
手段4:未払い残業代等の請求
手段5:生活保護
この記事が解雇されてしまい生活に困っている方の助けになれば幸いです。
以下の記事も参考になるはずですので読んでみてください。