不当解雇・退職扱い

会社をクビになる前兆10個と誰でもできる5つの対処法を弁護士が解説

今の会社をクビになってしまわないか不安に感じていませんか。会社をクビになってしまった後の生活などを考えると心配ですよね。

社長
社長
君は仕事でミスをしてばかりだなぁ。

  労働者
  労働者
すいません。気をつけます。

社長
社長
もうその言葉は聞き飽きたよ。

労働者
労働者
気をつけてはいるのだけど…。会社をクビにならないか不安だなぁ…。

通常は、クビになる前にその前兆があるはずです。90%以上の会社が労働者をクビにする前に何らかの措置を講じています。

しかし、クビになる前兆を感じたとしても慌てる必要はありません

なぜなら、クビになる前兆を感じた時点で、適切に対処することができれば、会社を辞めることになる可能性を大きく低下させることができるためです。

仮に、クビになる前兆があった場合でも自分から会社を辞める必要は全くありません。

今回は、会社をクビになる前兆にはどのようなものがあるのかと、それに対する対処法を解説します。

 

 

 

 

 

クビになるとどうなる?

そもそも会社をクビになるとどうなるのでしょうか。

まず、会社をクビになってしまうと、クビになった日以降のお給料は支払われなくなってしまいます

そして、当然ですが、クビになった日以降は、会社に出勤することができなくなります。

また、懲戒解雇をされた場合については、退職金の金額が減ってしまったり支給されなかったりすることがあります。

更に、クビの理由やクビにされた年齢によっては、再就職がなかなかうまくいかないこともあるでしょう。

したがって、労働者は、会社をクビになると著しい不利益を被ることになります。

法律上クビにすることは許されるの?


このようにクビにすることは、労働者に対して大きな影響を与えるものです。

そのため、法律上は、クビにすることが許される場合は、かなり厳格に限定されています。

労働契約法16条は、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」は、クビにすることはその権利を濫用するものとして無効になるとしています。

合理性や相当性が肯定されるには、クビにする理由が些細なものであってはいけませんし、労働者に対して十分にクビを免れる機会を提供する必要があります。

そのため、会社は、労働者をクビにする前に様々な措置を講じます。

 

 

クビの前兆10個

次に〇〇をしたらクビだと警告される

まず、上司や社長に次に〇〇をしたらクビだと言われることがあります。

例えば、労働者が会社に遅刻をしたような場合に、社長や上司に次に遅刻をしたらクビにすると警告されるようなケースです。

会社は、労働者をクビにする前にクビの具体的な可能性を伝えて、注意・警告をすることが通常です。

また、労働者の行為に感情的になり、上司や社長が上記のような発言をすることもあります。

業務を改善するように是正の機会を与えられる

業務の処理速度が遅かったり、ミスを繰り返したりした場合には、会社は、労働者に業務を改善するように是正の機会を与えるのが通常です。

なぜなら、労働者に業務を改善するように会社が指導していないのであれば、その労働者の能力不足がクビにしなければならない程に重大なものとはいえませんし、会社が解雇回避の努力をしているともいえないためです。

会社は、労働者をクビにする前には顧問弁護士に相談をしに行くはずです。そして、多くの場合は、労働者をクビにする前に十分な指導をしなければならないということを説明されます。そこで、会社は、労働者をクビにする前に、まず労働者に業務を改善する機会を与えます。

特に、業務を改善するように口頭のみで言われるのではなく、書面を交付された場合には注意が必要です。
この場合には、会社は、後日争いとなった場合に、業務改善の機会を与えたことを証拠として提出することまで見据えていることがあります。

他の職種への変更や転勤を打診される

会社は、可能な限り、労働者をクビにすることなく、雇い続けるように努力しなければならないとされています。

そのため、労働者が今の業務内容では雇い続けることが難しい場合でも、直ちにクビにすることは許されません。

まずは、他の職種や他の場所で雇い続けることができないかを検討する必要があります。

ただし、入社時において、職種や勤務場所を限定する合意をしていた場合には、必ずしも職種の変更や転勤の検討をせずにクビにされることがあります

退職を勧奨される

会社が労働者をクビにする場合には、大きなリスクが伴います。
なぜなら、クビになった場合に労働者が被る不利益の大きさから、法律上労働者の権利が強く守られているためです。会社は、労働者をクビにしたとしてもこれを争われることが多く、争われた場合には賃金や損害賠償などを請求されることになります。

そのため、会社は、可能な限り、クビにするのではなく、労働者に自主的に退職してほしいと考えています

このことから、会社は、通常、労働者をクビにする前に自主的に退職を促すことが多い傾向にあります。

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始末書の提出を求められる

会社が労働者を懲戒解雇する場合には、段階を踏んで懲戒を積み上げていくことが通常です。

犯罪行為や故意に会社に危害を加えるような行為を除き、何らの段階を踏まずに懲戒解雇が行われることは稀です。

会社は、通常、労働者が何らかのミスをした場合には、その都度、始末書の提出を求めるなどの措置を講じます。

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懲戒処分としての減給・降格・出勤停止をされる

懲戒処分としての減給・降格・出勤停止を会社からなされた場合には注意が必要です。

これらの処分はいずれも始末書の提出を求めるよりも重い懲戒処分です。そのため、段階的には、懲戒解雇に近い場所に位置しています。

弁明の機会を付与される

まず、会社によっては、懲戒解雇をする前に労働者に弁明の機会を付与する旨を就業規則等に規定していることがあります。このような場合には、労働者に弁明の機会を与えずになされた懲戒解雇は無効となります。

また、就業規則等において弁明の機会を付与するとの規定がない場合でも、労働者に対する弁明の機会を与えることが必要とされています。

そのため、会社は、労働者を懲戒解雇する前に、弁明の機会の付与を行います

新人の採用をしなくなる

会社は、経営がうまくいっていないとき、新たに従業員を採用することを控えます

なぜなら、人件費を節約する必要がありますし、そもそも新規に採用を行っても命じるべき業務がない場合があるためです。

そのため、会社が新人を採用しなくなった場合には、人件費の削減を考えている場合があり、新人の採用を中止しても不十分な場合には、従業員をクビにすることがあります。

不採算部門の閉鎖を行う

先ほどと同様、会社の経営がうまくいっていない場合には、会社は不採算部門の閉鎖を行うことで経費を削減する場合があります。

このように経営がうまくいっていない会社においては、人件費の削減のためにクビになるリスクがあります。

希望退職の募集を行う

会社は経営がうまくいっていない場合には、労働者をクビにする前に、まず希望退職を募る必要があります。

なぜなら、辞めたくないと考えている労働者を会社が一方的にやめさせることは最終手段であり、まずは自分から辞める意思のある労働者を退職させるべきだからです。

このような希望退職では、退職金を上乗せするなどの優遇措置がとられる場合もあります。

会社に対するアンケート結果


JILPTが2012年10月に行ったアンケート調査(「従業員の採用と退職に関する実態調査-労働契約をめぐる実態に関する調査(Ⅰ)-」)による回答結果が参考になります。

普通解雇に至る前の措置

普通解雇に先立って実施した措置の割合は、「警告」が「49.6%」、「是正機会の付与」が「39.3%」、「他の部署への配転打診」が「20.5%」、「退職勧奨をした」が「38.5%」となっています。

これに対して、普通解雇に先立ち「以上のいずれの措置も講じていない」回答した企業の割合は、「5.8%」にとどまっています。


(出典:JILPT「従業員の採用と退職に関する実態調査-労働契約をめぐる実態に関する調査(Ⅰ)-」41頁)

普通解雇の理由別にみると、先立って実施した措置は以下のようになっています。

⑴ 「本人の非行」を理由とする普通解雇

「警告」が「59.2%」、「是正機会の付与」が「41.8%」、「他の部署上の配転打診」が「16.7%」、「退職勧奨をした」が「38.4%」となっています。

⑵「頻繁な無断欠勤」を理由とする普通解雇

「警告」が「74.1%」、「是正機会の付与」が「59.4%」、「他の部署への配転打診」が「28.0%」、「退職勧奨をした」が「32.2%」となっています。

⑶「職場規律の紊乱」を理由とする普通解雇

「警告」が「69.4%」、「是正の機会の付与」が「56.3%」、「他の部署への配転打診」が「24.9%」、「退職勧奨をした」が「44.5%」となっています。

⑷「仕事に必要な能力の欠如」を理由とする普通解雇

「警告」が「63.7%」、「是正機会の付与」が「59.9%」、「他の部署への配転打診」が「32.6%」、「退職勧奨をした」が「46.8%」となっています。

⑸「休職期間の満了」を理由とする普通解雇

「警告」が「51.8%」、「是正機会の付与」が「39.8%」、「他の部署への配転打診」が「36.1%」、「退職勧奨をした」が「30.1%」となっています。

⑹「健康上の問題」を理由とする普通解雇

「警告」が「56.0%」、「是正機会の付与」が「49.1%」、「他の部署への配転打診」が「37.1%」、「退職勧奨をした」が「50.0%」となっています。

整理解雇にいたる前の解雇回避措置

これに対して、「整理解雇にいたる前の解雇回避措置」は、「新規採用抑制」が「38.8%」と最も多く、次いで「不採算部門の縮小・廃止、事業所の閉鎖」の「36.9%」、「配置転換」の「36.5%」、「希望退職の募集(早期退職優遇制度を含む)」の「25.3%」、「残業規制」の「23.9%」、「一時金カット」の「22.7%」、「賃下げ」の「22.5%」、「非正規従業員の雇用契約不更新」の「21.4%」、「一時休業」の「21.2%」、「派遣社員、請負社員の契約不更新」の「17.1%」、「出向、転籍」の「11.4%」となっています。


(出典:JILPT「従業員の採用と退職に関する実態調査-労働契約をめぐる実態に関する調査(Ⅰ)-」42頁)

懲戒処分の実施の有無

「ここ5年間での懲戒処分の実施の有無」は、「注意・戒告・譴責」が「33.3%」、「始末書の提出」が「42.3%」、「出勤停止」が「12.3%」、「一時的減給」が「19.0%」、「降格・降職」が「14.9%」、「諭旨解雇」が「9.4%」、「懲戒解雇」が「13.2%」となっています。

始末書の提出を求めている会社が多いことが分かります。


(出典:JILPT「従業員の採用と退職に関する実態調査-労働契約をめぐる実態に関する調査(Ⅰ)-」30頁)

 

 

前兆があった場合の対処法5つ


では、労働者はクビの前兆があった場合はどのように対処すればいいのでしょうか。

非行や無断欠勤への警告をされた場合

会社から非行や無断欠勤への警告若しくは是正機会の付与がなされた場合には、指摘された非行や無断欠勤が事実と相違ないのであれば、改善に向けて努力することになります。

能力不足について是正機会の付与された場合

では、能力不足について是正の機会を付与された場合はどうすればいいのでしょうか。

この場合、まずは、会社が能力不足と指摘している根拠となる具体的な事由を確認する必要があります。会社から指摘された事由について事実と相違がないようであれば、その改善手段について協議することになります。

また、会社から、実現性の乏しいノルマやこれを達成できなかったときの過酷な措置を受け入れるように言われた場合には、安易に承諾しないよう注意が必要です。

退職勧奨

では、会社から退職勧奨をされた場合は、どうすればいいでしょうか。

まず、労働者は、会社からの退職勧奨に応じる義務はありません。そのため、退職勧奨に応じる意思がないのであれば、その旨明確に会社に伝えるべきです。

もっとも、会社から退職勧奨に応じないのであればクビとなる旨を言われることがあります。このような場合、解雇事由に該当する事情がないのであれば、クビにされる理由はないと対応すれば足ります。

もしも、能力不足や健康上の問題等解雇事由に該当しうる事情があるのであれば、労働者としては、例えば配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務の提供を申し出ることが考えられます(最判平10.4.9労判736号15頁参照)。
会社は、解雇する前に期待可能な回避措置を尽くす必要がありますので、労働者からこのような申し出がなされていることは解雇回避措置を尽くしたといえるかどうかの判断において考慮されることになるでしょう。

退職勧奨された場合のNG行動と正しい対処法は、以下の動画でも詳しく解説しています。

配置転換を打診された場合

会社から配置転換を打診された場合については、配置転換に非協力的な態度は示さない方がいいでしょう。

会社は、解雇回避努力として配置転換等を検討する必要があります。
しかし、会社から配置転換を打診されても労働者が非協力的な態度を取っていた場合ですと、会社は、配置転換を検討したものの労働者が非協力的な態度であったため、やむなくクビにしたと主張してくることがあります。

弁護士に相談する

クビになる前兆があった場合には、早めに弁護士に相談した方がいいでしょう。

なぜなら、クビになる事情により、その具体的な対処法も異なるためです。

クビにすることができる事案かどうかは、法的な判断を伴います。その事案を適切に分析したうえで、どのように対応するかを決めるのがいいでしょう。

前兆なくクビになってしまう場合もある?


それでは、何の前兆もなく会社をクビになってしまうことはあるのでしょうか。

会社によっては、事前に何らの措置を講じることなく、突然労働者をクビにすることもないわけではありません。

中小企業などでは、このような場合も見受けられます。

しかし、何らの事前措置を講じることなくクビにされた場合は、それが有効とされる可能性は、通常の解雇よりも更に小さいものです

そのため、前兆なくクビにされることについては必要以上におそれることはないでしょう。

 

 

万が一クビになってしまった場合も慌てない


最後に、万が一クビになってしまった場合にも、慌てないことが重要です。

先ほど説明したようにクビにすることが許されるのは、かなり限定的な場合です。

そのため、会社をクビにされたとしても、それを争うことが十分可能な事案が多いのです。

クビにされた直後は、多くの方が動揺してしまうでしょう。しかし、ここで不用意な行動をしてはなりません
なぜなら、その行動が後々、会社からクビの有効性を基礎づける事情として主張されることがあるためです。

例えば、解雇予告手当を現金で渡され受領証を書くように言われたらどのように対処するのが適切でしょうか、クビを争う場合に離職票は請求してもいいのでしょうか、健康保険証は返してもいいのでしょうか。

このような判断をクビにされたばかりの不安定な精神状態で行うことは難しいでしょう。

そこで、クビにされたら、すぐに弁護士に相談に行くのがおすすめです。事案を分析したうえで、注意すべき点などを助言してもらえるはずです。

会社をクビになったらまずは弁護士へ相談に行きましょう。

解雇された場合に「やるべきこと」と「やってはいけないこと」は、以下の動画でも詳しく解説しています。

 

ABOUT ME
弁護士 籾山善臣
神奈川県弁護士会所属。不当解雇や残業代請求、退職勧奨対応等の労働問題、離婚・男女問題、企業法務など数多く担当している。労働問題に関する問い合わせは月間100件以上あり(令和3年10月現在)。誰でも気軽に相談できる敷居の低い弁護士を目指し、依頼者に寄り添った、クライアントファーストな弁護活動を心掛けている。持ち前のフットワークの軽さにより、スピーディーな対応が可能。 【著書】長時間残業・不当解雇・パワハラに立ち向かう!ブラック企業に負けない3つの方法 【連載】幻冬舎ゴールドオンライン:不当解雇、残業未払い、労働災害…弁護士が教える「身近な法律」、ちょこ弁|ちょこっと弁護士Q&A他 【取材実績】東京新聞2022年6月5日朝刊、毎日新聞 2023年8月1日朝刊、週刊女性2024年9月10日号、区民ニュース2023年8月21日
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