労働一般

会社から始末書・誓約書を提出するように言われた場合の対処法

 会社から始末書や反省文、誓約書を提出するように言われた場合、どのように対応するのが適切なのでしょうか。これらの書面は、会社が労働者を解雇する際の証拠となります。そして、この始末書の記載内容によっては、労働者にとって不利益となる可能性があります。
 今回は、始末書や誓約書を作成するように言われた場合の対処法について解説します。

始末書・誓約書とは

 始末書とは、過去の非違行為について反省の意を示す書面をいいます。
 誓約書とは、例えば、将来懲戒事由に該当する行為を行った場合には、退職若しくは解雇となることを承諾するなどと記載された書面です。
 労働者が問題を起こした場合などに会社から始末書や誓約書を提出するように求められる場面が多くみられます。

<始末書と顛末書の違い>
 始末書とは、本来的には、懲戒処分の一環として提出を求められるものです。
 これに対して、顛末書は、何らかの不祥事が起きた場合に事実関係の報告をする文書です。これについては、懲戒権の行使としてではなく、日常の労務指揮権の行使として提出を求められます。そして、事実関係を調査した上で、懲戒処分をするかどうかや、その内容が判断されることになります。
 会社によっては、不祥事があると懲戒権の行使かどうかも不明確なままで、始末書の提出を求めることがあります。しかし、その多くの場合は、始末書ではなく、顛末書を取得すべき場合です。
 また、一個の事実について、始末書の提出を求め、これとは別に更に懲戒処分が行われる場合には、手続きとしても問題があります。

始末書の不提出を理由とする懲戒処分

 では、労働者が始末書の提出を拒んだ場合には、これを理由に不利益に取り扱われることはあるのでしょうか。
 古い裁判例では、始末書の不提出を業務命令違反としたものがあります(東京地判昭42.11.15[エスエス製薬事件]、福岡地判昭56.10.7[あけぼのタクシー事件])。
 もっとも、始末書の不提出に対しては、新たな懲戒処分を課することはできないとする裁判例が多数です

【大阪地判昭50.7.17[国際航業事件]】
 「労働者は雇用契約に基づいて使用者の指揮、監督に従い労務を提供する義務を負っているが、同時に労使関係においても個人の意思は最大限に尊重されるべきであるところ、始末書の提出命令は、それを業務上の指示命令としても、その拒否に対して懲戒処分をもって望むことは相当でな」い

【大阪高判昭53.10.27労働判例314号65頁[福知山信用金庫事件]】
 「本件誓約書を提出しなかったことが、これ迄の被控訴人らの行為と相まち、本件解雇を正当ならしめるものであったかどうかについて考えるに、控訴人の要求した誓約書には包括的な異議申立権の放棄を意味するものともうけとれる文言が含まれていて、内容の妥当を欠くものがあったばかりでなく、そもそも本件のような内容の誓約書の提出の強制は個人の良心の自由にかかわる問題を含んでおり、労働者と使用者が対等な立場において労務の提供と賃金の支払を約する近代的労働契約のもとでは、誓約書を提出しないこと自体を企業秩序に対する紊乱行為とみたり特に悪い情状とみることは相当でないと解する。そうだとすると、本件においては、被控訴人らの本件誓約書の不提出並びにこれに関連する諸情状を考慮に入れても、解雇の正当性を基礎づけることはできず、結局本件解雇は懲戒権の濫用としてその効力を生じないものと判断せざるを得ない。」

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始末書の作成方法

 始末書は、過去の非違行為について反省を示すものです。多くの場合、①非違行為の内容、②原因、③対策、④反省の意等を記載することになります。
 注意すべき点としては、まず、非違行為の内容については、後日、争いとなること多いため日時や内容等の事実関係を具体的に正確に記載するということです。記載する非違行為の内容については、会社から交付された通知書等に記載されている内容を漫然と写すべきではありません。
 また、反省の意については、必要以上に過剰な内容を記載しないように注意が必要です。例えば、「次にこのようなことを起こした場合には、貴社を退職することに異議はありません。」などの記載はしない方がいいでしょう。
【記載例】

会社が用意した誓約書等への署名押印を求められた場合

 特に注意が必要なのは、会社が用意した始末書や誓約書(以下、「誓約書等」といいます。)に署名押印を求められる場合です。
 この場合、事実関係が会社に都合のいいように記載されていることや抽象的不明確な文言により記載されていることが多く、後日疑義が生じる場合があります。

1 その場で署名押印をせず一度持ち帰る

 まず、誓約書等の提出を求められた場合にも、その場ですぐに署名押印することは避けるべきでしょう。その記載内容を慎重に検討する必要がありますので、一度持ち帰り、専門家に相談に行かれるのがいいでしょう
 また、誓約書等にどのような内容が記載されているのか忘れないように、コピーや写真に残しておくべきです。

2 抽象的不明確な記載や事実と異なる記載の修正を求める

 会社から事実関係が既に記載されている誓約書等を渡された場合には、その内容が抽象的不明確なものではないか(日付や具体的な行為態様は特定されているか)、記載に誤りはないかをよく確認する必要があります。
 そして、抽象的不明確記載や事実と異なる記載がある場合には、記載の修正を求めるべきです。会社が修正に応じない場合には、誓約書等の提出を拒むことや自ら作成した誓約書等を提出することも考えられます。なお、誓約書等の提出を拒否する場合には、拒否するに至った経緯を記録しておくといいでしょう。

3 労働者にとって不利益な記載がないかを確認する

 また、「次にこの様なことをした場合には退職となることに合意します。」などの労働者にとって不利益となる文言が含まれていないかを確認する必要があります。多くの場合、このような合意に拘束力があるとは考えられません(東京地判平6.11.29労判673号108頁[武富士事件])。もっとも、後日、紛争となるリスクが高まりますので、このような記載に同意するべきではありません。
 労働者にとって不利益な箇所がある場合には、当該箇所の削除を求めるべきです。

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弁護士 籾山善臣
神奈川県弁護士会所属。不当解雇や残業代請求、退職勧奨対応等の労働問題、離婚・男女問題、企業法務など数多く担当している。労働問題に関する問い合わせは月間100件以上あり(令和3年10月現在)。誰でも気軽に相談できる敷居の低い弁護士を目指し、依頼者に寄り添った、クライアントファーストな弁護活動を心掛けている。持ち前のフットワークの軽さにより、スピーディーな対応が可能。 【著書】長時間残業・不当解雇・パワハラに立ち向かう!ブラック企業に負けない3つの方法 【連載】幻冬舎ゴールドオンライン:不当解雇、残業未払い、労働災害…弁護士が教える「身近な法律」 【取材実績】東京新聞2022年6月5日朝刊、毎日新聞 2023年8月1日朝刊、区民ニュース2023年8月21日
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