労働災害

健康管理手帳とは?石綿(アスベスト)被害と交付対象者や申請方法

健康管理手帳とは?

石綿(アスベスト)被害のおそれがある方で、「健康管理手帳」についてどのような制度なのか分かりにくいと悩んでいる方も多いのではないでしょうか

似た名前の制度もありますので、「どのような制度なのか」、「誰がもらえるのか」、「どのようにもらうのか」など、わかりにくくて困ってしまいますよね。

簡単にいうと、健康管理手帳は、重い健康障害を生ずるおそれのある業務に従事していた方が無料で健康診断を受けられるように交付されるものです。

例えば、石綿(アスベスト)を製造し又は取り扱う業務やその周辺業務に従事していた方は、健康管理手帳の交付を受けることができる可能性があります。

ただし、健康管理手帳の交付を受けるには申請をする必要がありますので、円滑に取得するために、この記事で一緒に申請の方法を確認していきましょう

更に、石綿(アスベスト)の健康管理手帳の交付を受けることができる方で、石綿関連疾病を発症した場合には、労災の補償や賠償金・給付金の支払いを受けられる可能性があります。

健康管理手帳は、これらの請求をしていくうえで重要な証拠にもなりますので、対象となる方は速やかに申請をすることをおすすめいたします

この記事では、少しでも多くの方に「健康管理手帳」の存在を知っていただくために、誰でもわかりやすいように簡単に健康管理手帳について押さえておいていただきたい知識を整理していこうと思います。

今回は、健康管理手帳がどのようなものなのかを説明したうえで、交付対象者や交付を受けるメリット、申請方法について解説します。

この記事を読めば、健康管理手帳の有用性や取得方法がよくわかるはずです。

 

 

健康管理手帳とは|健康管理手帳制度

健康管理手帳のイメージ健康管理手帳とは、がんその他の重度の健康障害を発生させるおそれのある業務に従事したことがあり、一定の要件に該当する方に対して、国費で健康診断を受診できるように、離職の際又は離職後に都道府県労働局長に申請することで、審査を経た上で交付されるものです。

簡単にいうと、健康管理手帳は、重い健康障害を生ずるおそれのある業務に従事していた方が無料で健康診断を受けられるように交付されるものです

この健康管理手帳については、労働安全衛生法67条に根拠があります。

労働安全衛生法67条(健康管理手帳)
1「都道府県労働局長は、がんその他の重度の健康障害を生ずるおそれのある業務で、政令で定めるものに従事していた者のうち、厚生労働省令で定める要件に該当する者に対し、離職の際に又は離職の後に、当該業務に係る健康管理手帳を交付するものとする。ただし、現に当該業務に係る健康管理手帳を所持している者については、この限りでない。」
2「政府は、健康管理手帳を所持している者に対する健康診断に関し、厚生労働省令で定めるところにより、必要な措置を行なう。」
3「健康管理手帳の交付を受けた者は、当該健康管理手帳を他人に譲渡し、又は貸与してはならない。」
4「健康管理手帳の様式その他健康管理手帳について必要な事項は、厚生労働省令で定める。」

例えば、石綿(アスベスト)被害などについては、15~50年後に疾病を発症するケースもあります。

在職中については定期健康診断等が可能ですが、離職後についても負担なく健康診断を受診することができるように、この制度が設けられました

国も健康管理手帳の普及に積極的に努めています。

健康管理手帳ポスター(出典:厚生労働省 健康管理手帳とは?)

~労災保険健康管理手帳と労働安全衛生健康管理手帳~

健康管理手帳には、以下の2種類があります。
・労災保険制度に基づく健康管理手帳
・労働安全衛生法に基づく健康管理手帳

労災保険制度に基づく健康管理手帳は、仕事によりケガや病気をして療養している場合に、それが治った後も、再発や後遺障害に伴う新たな病気を防ぐために、労災指定医療機関において診察や保健指導、検査などのアフターケアを無料で受診できるものです。

これに対して、労働安全衛生法に基づく健康管理手帳は、先ほど説明したように、重度の健康障害が生じるおそれのある業務に就いていた方たちが、国費で健康診断を受診できるものです。

これらの健康管理手帳は異なりますので注意が必要です。

この記事では、労働安全衛生法に基づく健康管理手帳について解説していきます。

石綿(アスベスト)業務に係る健康管理手帳の交付対象者

石綿(アスベスト)被害を受ける可能性のある業務に従事した方で健康管理手帳の交付対象となるのは、以下のいずれかに該当する方です。

健康管理手帳の交付対象

 

 

健康管理手帳の交付を受けるメリット

健康管理手帳の交付を受けるメリットとしては、以下の2つがあります。

メリット1:健康管理手帳により無料で健康診断を受診できる
メリット2:アスベスト被害の賠償金又は給付金を求める重要な証拠になる

それでは、各メリットについて順番に説明していきます。

メリット1:健康管理手帳により無料で健康診断を受診できる

健康管理手帳の交付を受けると、指定された医療機関で、定められた項目について、年2回の健康診断を無料で受けることができます

ただし、じん肺の健康管理手帳の場合には、健康診断の回数は年1回となります。

メリット2:アスベスト被害の賠償金又は給付金を求める重要な証拠になる

一定の工場又は建設業務に従事した方でアスベスト関連疾病を発症した場合には、精神的苦痛について、最大1300万円の賠償金又は給付金を請求できる可能性があります

健康管理手帳は、これらの請求をしていく際の重要な証拠の1つとなります。

もしも、これらの業務に従事していたことがあり、アスベスト関連疾病を発症した方は、お早めに弁護士に相談することをおすすめします。

アスベスト被害の賠償金については、以下の記事で詳しく解説しています。

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健康管理手帳の申請方法

健康管理手帳を取得するためには、申請をすることが必要です

健康管理手帳の申請手順は以下のとおりです。

手順1:交付申請書及び必要書類の記載
手順2:労働局長への提出
手順3:審査後に健康管理手帳の交付

それでは各手順について順番に説明していきます。

手順1:交付申請書及び必要書類の記載|書式及び必要書類一覧

粉じん作業や石綿作業に従事した方が健康管理手帳を申請するには、以下の書類を提出する必要があります。

書類1 :健康管理手帳交付申請書【安衛則様式第7号】
書類2 :従事歴申告書【様式第1号】
書類3 :粉じん作業に従事した方は以下の書類
・じん肺健康管理区分決定通知書(管理2又は3)の写し
書類3´:石綿業務に従事した方は以下の書類
⑴ 石綿業務に従事していたことを証明する書類(以下のいずれか)
・従事歴証明書(事業者記載用・石綿用)【様式第3号】
・従事歴申立書(本人記載用・石綿用)【様式第5号】
・従事歴証明書(同僚記載用・石綿用)【様式第7号】
⑵ 石綿による不整形陰影等の所見がある場合にそれが分かる書類
・胸部エックス線写真及び不整形陰影等がある旨の記述のある医師による診断書(同様の所見の記載のある石綿健康診断個人票又はじん肺健康診断結果証明書の写しでも可)
・じん肺管理区分2以上のじん肺管理区分決定通知書の写し
・じん肺健康診断結果報告書の写し

健康管理手帳交付申請書【安衛則様式第7号】
健康管理手帳交付申請書【様式第7号】
従事歴申告書【様式第1号】
従事歴申告書【様式第1号】
従事歴証明書(事業者記載用・石綿用)【様式第3号】
従事歴証明書【様式第3号】
・従事歴証明書(本人記載用・石綿用)【様式第5号】
従事歴証明書【様式第5号】
・従事歴証明書(同僚記載用・石綿用)【様式第7号】
従事歴証明書【様式第7号】(出典:厚生労働省 健康管理手帳交付申請関係書類)

様式については、以下の厚生労働省のサイトからダウンロードしてください。
厚生労働省 健康管理手帳交付申請関係書類

健康管理手帳交付申請書【安衛則様式第7号】のエクセルデータについては、以下の神奈川労働局のサイトからダウンロードできます。
神奈川労働局 健康管理手帳制度について【健康課】

手順2:労働局長への提出

申請書および必要書類の記載をしましたら、労働局長へ提出することになります。

離職時に申請をする方は、事業場の所在地の都道府県労働局長に申請します

離職後に申請をする方は、住所地の都道府県労働局長に申請します

労働局の所在地については、以下の厚生労働省のサイトから確認することができます。
都道府県労働局(労働基準監督署、公共職業安定所)所在地一覧|厚生労働省 (mhlw.go.jp)

手順3:審査後に健康管理手帳の交付

申請をしたら、審査により条件を満たしていることが確認された後に健康管理手帳が交付されることになります。

審査については、必要に応じて、申請者、事業者、同両者の方に聴き取りが行われることがあります。

健康管理手帳についてよくあるQ&A

健康管理手帳についてよくある疑問としては、以下の3つがあります。

Q1 健康管理手帳が交付されたら労災の補償も受けられる?
Q2 紛失などの場合に再交付は可能?
Q3 健康管理手帳を保有者が亡くなったらどうすればいい?

それではこれらの疑問を順番に解消していきましょう。

Q1:健康管理手帳が交付されたら労災の補償も受けられる?

健康管理手帳の交付を受けた場合でも、必ずしも労災の補償を受けることができるは限りません

労災については別途労働基準監督署に請求をしたうえで、認定基準に基づいて業務上の疾病に該当するかどうかの判断を受けることになります。

アスベスト被害による労災請求については、以下の記事で詳しく解説しています。

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Q2:紛失などの場合に再交付は可能?

健康管理手帳を紛失した場合でも、再交付の申請をすることができます

下記の再交付申請書を記載して労働局長に提出します。

健康管理手帳 再交付申請書【様式第10号】(出典:厚生労働省 健康管理手帳交付申請関係書類)

様式については、以下の厚生労働省のサイトからダウンロードしてください。
厚生労働省 健康管理手帳交付申請関係書類

再交付申請書のエクセルデータについては、以下の神奈川労働局のサイトからダウンロードできます。
神奈川労働局 健康管理手帳制度について【健康課】

Q3:健康管理手帳を保有者が亡くなったらどうすればいい?

健康管理手帳の保有者が亡くなった場合には、健康管理手帳は返還する必要があります

相続人等の方は、都道府県労働局健康課または健康安全課へお問い合わせください。

まとめ

以上のとおり、今回は、健康管理手帳がどのようなものなのかを説明したうえで、交付対象者や交付を受けるメリット、申請方法について解説しました。

この記事の要点を簡単に整理すると以下のとおりです。

・健康管理手帳とは、簡単にいうと、重い健康障害を生ずるおそれのある業務に従事していた方が無料で健康診断を受けられるように交付されるものです。

・石綿(アスベスト)被害を受ける可能性のある業務に従事した方で健康管理手帳の交付対象となるのは、以下のいずれかに該当する方です。
健康管理手帳の交付対象
・健康管理手帳の交付を受けるメリットとしては、以下の2つがあります。
メリット1:健康管理手帳により無料で健康診断を受診できる
メリット2:アスベスト被害の賠償金又は給付金を求める重要な証拠になる

・健康管理手帳の申請手順は以下のとおりです。
手順1:交付申請書及び必要書類の記載
手順2:労働局長への提出
手順3:審査後に健康管理手帳の交付

この記事が健康管理手帳についてよくわからずに悩んでいる方の助けになれば幸いです。

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弁護士 籾山善臣
神奈川県弁護士会所属。不当解雇や残業代請求、退職勧奨対応等の労働問題、離婚・男女問題、企業法務など数多く担当している。労働問題に関する問い合わせは月間100件以上あり(令和3年10月現在)。誰でも気軽に相談できる敷居の低い弁護士を目指し、依頼者に寄り添った、クライアントファーストな弁護活動を心掛けている。持ち前のフットワークの軽さにより、スピーディーな対応が可能。 【著書】長時間残業・不当解雇・パワハラに立ち向かう!ブラック企業に負けない3つの方法 【連載】幻冬舎ゴールドオンライン:不当解雇、残業未払い、労働災害…弁護士が教える「身近な法律」 【取材実績】東京新聞2022年6月5日朝刊、毎日新聞 2023年8月1日朝刊、区民ニュース2023年8月21日
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