近年、労働者がその有する能力を有効に発揮することや、健康で充実した生活を実現することを目指して、諸外国に倣い、終業から始業までの時間が見直されています。そして、2018年働き方改革関連法に基づき、我が国でも、勤務間インターバル制度が規定されました。
今回は、勤務間インターバル制度について解説します。
目次
勤務間インターバル制度とは
勤務間インターバル制度とは、勤務終了後、一定時間以上の「休息時間」を設けることで、働く方の生活時間や睡眠時間を確保するものです。
一定の休息時間を確保することで、労働者が十分な生活時間や睡眠時間を確保でき、ワーク・ライフ・バランスを保ちながら働き続けることが可能となります。
【労働者のメリット】
①健康維持に向けた睡眠時間の確保につながる
②生活時間の確保によりワーク・ライフ・バランスの実現に資する
【企業のメリット】
①魅力のある職場づくりにより人材確保・定着につながる
②企業の利益率や生産性を高める可能性が考えられる
勤務間インターバル制度については、以下の類型が想定されます。
⑴ ある時刻以降の残業が行われた場合に、翌日の始業時刻を繰り下げる類型
⑵ ある時刻以降の残業を禁止し、翌日の始業時刻以前の勤務を認めないとする類型
これらの類型には、それぞれ以下のような問題点があると感じられ、それぞれの制度を適切に運用するためには、制度ごとに工夫が必要です。
【⑴の類型】
<問題点>
翌日の始業時刻が労働者ごとに異なる場合が生じ、更に始業時刻が前日の残業時間が確定するまで特定できないため、労務管理が難しい
<解決策>
まず、翌日の始業時刻を労使で適切に把握するためには、WEB勤怠システムなどを利用し、前日の労働時間を共有することが考えられます。また、残業をした日の終業時刻によっては、事前に翌日の出社時刻を協議してから、退社することが考えられます。
翌日の早い時間に業務の予定があり、始業時刻を繰り下げることが難しい場合には、事前に労使間で認識を共有した上で、残業が生じないようにする必要があります。
【⑵の類型】
<問題点>
ある時刻以降の残業を禁止したとして、その実効性を確保するには工夫が必要であり、禁止されている時刻以降に残業が行われた場合の扱いが難しい
<解決策>
ある事項以降の残業を禁止することの実効性を高めるには、禁止されている時刻以降に勤務しているとアラートが鳴るようにする。
禁止されている時刻以降に残業が行われた場合には、その業務量や内容等により使用者からの黙示の指示があったかどうかを考慮し、労働時間性を判断することになります。もっとも、これを当事者である労使間で適切に判断することは難しく、そもそも禁止されている時刻以降の残業が生じないようにすることが重要です。なお、労働者の健康の維持という観点からは、禁止されている時刻以降の残業が労働時間に該当するかどうかにかかわらず、始業時刻を繰り下げるべきことが勤務間インターバル制度の趣旨に適います。
労働時間等の設定の改善に関する特別措置法2条(事業主等の責務)
1「事業主は、その雇用する労働者の労働時間等の設定の改善を図るため、業務の繁閑に応じた労働者の始業及び終業の時刻の設定、健康及び福祉を確保するために必要な終業から始業までの時間の設定、年次有給休暇を取得しやすい環境の整備その他の必要な措置を講ずるように努めなければならない。」
※2018年の働き方改革関連法に基づき、労働時間等の設定の改善に関する特別措置法が改正され、下線部の部分が追加されました。施行日は、2019年4月1日です。
導入状況
平成31年の勤務間インターバル制度の導入状況は、以下のとおりです(平成31年就労条件総合調査)。平成30年に比べて、導入している企業は、2倍以上に増加しているものの、未だ割合としては少数にとどまっています。
・「導入している」
3.7%(H30:1.8%)
・「導入を予定または検討している」
15.3%(H30:9.1%)
・「導入予定はなく、検討もしていない」
80.2%(H30:89.1%)
上記において、勤務間インターバル制度について、「導入予定はなく、検討もしていない」と回答した企業の理由(複数回答可)は、以下のとおりとなっています。
・「超過勤務の機会が少なく、当該制度を導入する必要性を感じないため」
53.0%(H30:45.9%)
・「当該制度を知らなかったため」
19.2%(H30:29.9%)
・「人員不足や仕事量が多いことから、当該制度を導入すると業務に支障が生じるため」
11.3%(H30:9.4%)
・「夜間も含め、常時顧客や取引さ相手の対応が必要なため」
8.2%(H30:7.9%)
・「当該制度を導入すると労働時間管理が煩雑になるため」
8.0%(H30:6.2%)
導入に当たって決定すべき事項
対象労働者
対象労働者としては、以下の場合が考えられます。
・全労働者とする場合
・管理職を除く労働者とする場合
・交代制勤務を行っている労働者に限定する場合
インターバル時間
平成31年の調査によると、終業時刻と始業時刻の平均間隔時間は、「10時間57分」とされており、1000人以上の企業では「9時間52分」、300人~900人の企業では「9時間58分」、100人~299人の企業では「10時間45分」、30人~99人の企業では「11時間10分」とされています(平成31年就労条件総合調査)。
EU諸国の現状としては、EU加盟国の全ての労働者に、原則として、24時間ごとに、最低でも連続11時間の休憩時間を確保するために必要な措置を設けることとされています。インターバル時間数は、ドイツ、フランス、イギリスにおいては11時間、ギリシャ、スペインにおいては12時間とされています(厚生労働省:「勤務間インターバル制度普及促進のための有識者検討会」の報告書6頁)。
時間外労働改善助成金(勤務間インターバル導入コース)の対象となる時間数は、9時間以上とされています。
以上からは、インターバル時間としては、9時間~11時間程度は設けるべきです。このような前提の下で、労使間において、具体的なインターバル時間を話し合うことになります。
なお、具体的なインターバル時間の決め方としては、以下の方法があります。
・8時間、9時間、10時間、11時間及び12時間など一律に時間数を設定する方法
・職種によってインターバル時間数を設定する方法
・義務とする時間数と健康管理のための努力義務とする時間数を分けて設定する方法
休息時間が次の勤務時間に及び場合の取扱い
休息時間が次の勤務時間に及ぶ場合には、以下の2つの取り扱いが考えられます。
⑴ 休息時間と次の所定労働時間が重複する部分を働いたものとみなす方法
⑵ 次の始業時刻を繰り下げる方法
⑴の方法による場合には、働いたものとみなした時間については、賃金の控除を行わない取り扱いをする企業が多いでしょう。
⑵の方法による場合には、更に、①当日の終業時刻も繰り下げる方法、②終業時刻はそのままとし、勤務時間が短くなった場合でも給与支払の対象とする方法、③フレックスタイム制が適用されている労働者においては労働時間を調整する方法などがあります。
適用除外
年末年始や業務の緊急性など特別な事情が生じた場合などを適用除外として運用することも可能とされています。
特別の事情が生じた場合としては、以下のような業務や場合が挙げられています(厚生労働省:「勤務間インターバル制度普及促進のための有識者検討会」の報告書18頁乃至19頁)。
・重大なクレーム(品質問題・納入不良等)に対する業務
・納期の逼迫、取引先の事情による納期前倒しに対応する業務
・突発的な設備のトラブルに対応する業務
・予算、決算、資金調達等の業務
・海外事案の現地時間に対応するための電話会議、テレビ会議
・労働基準法第33条の規定に基づき、災害その他避けることのできない事由によって臨時の必要がある場合
【書式例】就業規則規定例
※厚生労働省:「勤務間インターバル制度普及促進のための有識者検討会」の報告書25頁参照
【書式例】労働協約規定例
※厚生労働省:「勤務間インターバル制度普及促進のための有識者検討会」の報告書26頁参照
努力義務
勤務間インターバル制度の導入については、努力義務とされています。
そのため、使用者に対して、導入を強制するものではなく、導入をしなかった場合の罰則等はありません。
参考リンク
厚生労働省:「勤務間インターバル制度普及促進のための有識者検討会」の報告書
厚生労働省:平成31年就労条件総合調査
厚生労働省:勤務間インターバル制度
厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署:ワーク・ライフ・バランスの実現のためには労使の自主的な取組が重要です。