解雇された場合には3ヶ月分の賃金を請求することができると聞いたことはありませんか?
確かに、解雇を争う中で解決金として数カ月分の賃金の支払いにより和解する場合もあります。しかし、労働者に3ヶ月分の賃金を請求する権利があるわけではありません。そのため、「解雇された場合に3ヶ月分の賃金を請求することができる」というのは不正確です。
今回は、解雇された場合に労働者が請求できる金額及び解決金の相場について解説します。
解雇を争わない場合に請求できる金額
解雇予告手当
使用者は、労働者を解雇する場合には、少なくとも30日前にその予告をしなければならないとされています。
しかし、使用者が、この予告をせずに労働者を解雇する場合があります。
この場合には、労働者は、使用者に対して、30日分以上の平均賃金を支払うように請求することができます。これを解雇予告手当と呼びます。
ただし、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇された場合には、解雇予告手当の請求をすることはできません。
退職金
退職金の支払いは法律上定められた義務ではありません。もっとも、退職金規程があるような場合には、使用者は、これに基づき、労働者に対して、退職金の支払いをする義務があります。
退職金の金額については、個々の退職金規程を確認する必要があります。
解雇を争う場合に請求できる金額
解雇後の賃金請求
解雇が無効な場合には、解雇後に労働者が勤務できなかったのは、使用者の責めに帰すべき事由によるものです。
そのため、労働者は、使用者に対して、解雇された日以降の賃金を請求することができます。
請求できる解雇後の賃金の期間については、特に制限はありません。途中で就労の意思が否定されたり、途中で退職したりなどの事情がなければ、解雇された日から判決確定の日までの賃金を請求することができます。
JILPTの「労働局あっせん、労働審判及び裁判上の和解における雇用紛争事案の比較分析」労働政策研究報告書No.174(2015)によると、雇用終了など紛争事案が発生してから問題が解決するまでに要した期間は、労働審判ですと、「3-6月未満」が「44.7%」と最も多く、次いで「6-12月未満」が「36.7%」となっています。
(出典:JILPT「労働局あっせん、労働審判及び裁判上の和解における雇用紛争事案の比較分析」労働政策研究報告書No.174(2015))
これに対して、裁判上の和解(訴訟)の場合ですと、「12-24月未満」が「42.7%」が最多となっており、次いで「6-12月未満」が「31.3%」となっています。
(出典:JILPT「労働局あっせん、労働審判及び裁判上の和解における雇用紛争事案の比較分析」労働政策研究報告書No.174(2015))
バックペイ(解雇後の賃金)については、以下の動画でも詳しく解説しています。
慰謝料
解雇が無効とされるにとどまず、使用者に故意又は過失が認められる場合で、解雇の無効が確認され、その間の賃金が支払われても償えない特段の精神的苦痛が生じているときには、慰謝料が認められます。
慰謝料が認められる場合、その金額は、
とされています。
不当解雇の慰謝料については、以下の動画でも詳しく解説しています。
解決金
労働者が解雇を争う中で、使用者との間で和解が成立することがあります。そして、和解に当たり、使用者が労働者に対して解決金を支払うことが合意されることがあります。
この解決金については、労働者が使用者に対して請求する権利があるわけではありませんが、労働者と使用者との間で合意に至れば支払いを受けることができるものです。労働者は、自分の納得する金額でない場合には、和解に応じないことも可能です。
解決金の相場は、
とされていますが。解雇理由がどの程度認められる余地があるのかなどにより、賃金の1年分以上の解決金が支払われることもあります。
JILPTの「労働局あっせん、労働審判及び裁判上の和解における雇用紛争事案の比較分析」労働政策研究報告書No.174(2015)によると、あっせんにおける事案の内容(大ぐくり)別にみた解決金額では、「解雇」を見ると、最も多いのは「10万-20万円未満」の「36.0%」、次いで「20万-30万円未満」の「15.0%」、次いで「30万-40万円未満」、「50-100万円未満」の「10.0%」となっています。
労働審判における事案の内容(大ぐくり)別にみた解決金額では、「解雇」を見ると、最も多いのは「100万-200万円未満」の「28.7%」、次いで「50万-100万円未満」の「23.8%」、次いで「200万-300万円未満」の「11.0%」となっています。
訴訟における事案の内容(大ぐくり)別にみた解決金額は、「解雇」を見ると、最も多いのは「100万-200万円未満」の「25.0%」、次いで「500万-1000万円未満」の「17.2%」、次いで「50万-100万円未満」の「14.8%」となっています。
(出典:JILPT「労働局あっせん、労働審判及び裁判上の和解における雇用紛争事案の比較分析」労働政策研究報告書No.174(2015))