解雇が不当なものであるとして、判決により雇用契約上の権利を有する地位が確認された場合や和解がなされた場合には、その間の社会保険料や税金は、どのように処理することになるのでしょうか。
今回は、解雇が無効な場合の社会保険料や税金について解説します。
目次
地位確認請求が判決で認容された場合
雇用保険の仮給付
解雇を争う場合には、雇用保険の基本手当等の本給付ではなく仮給付(条件付給付)を申請するのが通常です。その場合には、雇用保険被保険者証、雇用保険被保険者離職票の他に、解雇を争っていることを証明する書類の写し(押印済みの訴状、押印済みの仮処分申立書、押印済みの労働審判申立書など)が必要とされています。委任状や内容証明郵便では、解雇を争っていることの証明書としては不十分とされることが多いです。
その際には、離職証明書及び離職票-2の欄外に「労働委員会、裁判所又は労働基準監督機関に申立て、提訴又は申告中であるが、基本手当の支給を受けたいので、資格喪失の確認を請求する」旨を記載し、署名押印又は自筆署名をすることを要します。
仮給付金は、地位確認請求が認容された場合には、全額を返還しなければなりません。また、和解がなされた場合には、仮給付の返還が必要かは和解の内容により異なり、例えば退職日を解雇日ではなく和解日とするような合意をする場合には返還が必要となります。
バックペイを認める判決の認容金額と社会保険料・源泉徴収金額
裁判所は、地位確認と解雇後の賃金請求が認められる場合には、社会保険料や源泉徴収する所得税・地方税を控除する前の金額を基準にして支払いを命じる判決をします。そのため、労働者は、判決に基づき、社会保険料や源泉徴収金額を含めた未払賃金全額について強制執行をすることができます。
源泉徴収金額と社会保険料の支払義務
もっとも、使用者は、労働者の地位が確認された場合において、労働者に対して、その間の社会保険料の労働者負担分費用を請求することができます。なお、労働者が、国民健康保険、国民年金に加入していた場合には、納付済みの保険料は還付されることになります。
また、使用者は、判決に基づき強制執行により解雇後の賃金を回収された場合であっても、源泉徴収義務を負います(最判平23.3.22民集65巻2号735頁)。そのため、使用者は、税務署に労働者の所得税分を納税する義務を負うことになります。使用者が、税務署に労働者の所得税分を納めた場合には、労働者に対して、求償できるとされています(所得税法222条)。
もっとも、解雇後の未払賃金全額につき労働者が支払いを受け、その後、使用者に対して社会保険料の労働者負担分や所得税の源泉徴収分を支払うというのでは、手続が煩雑となります。そのため、使用者は、判決後、労働者に対して、社会保険料の労働者負担分や所得税の源泉徴収分を控除した上で、任意に支払いをする場合があります。
和解の場合
復職和解
使用者が解雇を撤回し、労働者の地位が継続していたものとする場合には、その間の社会保険料の労働者負担分についての処理や金額が問題となります。また、労働者は、雇用保険の仮給付金を返還する必要が生じます。なお、解雇後の賃金を支払うこととされた場合には、使用者に源泉徴収義務が発生しますので、和解金が源泉徴収後のものであるかどうか明確にしておくべきでしょう。
これに対して、使用者が解雇を撤回するものの、解雇日に一度合意退職したことにし、和解日に再度雇用契約を締結して復職したことにする場合には、その間の社会保険料の労働者負担分についての処理や仮給付の返還の問題は生じません。
退職和解
解雇日を退職日と合意した場合には、社会保険料の労働者負担分についての処理は問題とならず、受領した仮給付を返還する必要もありません。
他方、和解日を退職日と合意した場合には、その間の社会保険料の労働者負担分についての処理や金額について問題となります。また、労働者は、雇用保険の仮給付金を返還する必要が生じます。
和解により受領する金銭は、以下の所得区分に該当する場合が想定されます。和解条項の記載内容や給付される金銭の性質により、区分が異なりますので留意が必要です。
⑴ 給与所得に該当する場合
例 解雇後の賃金、残業代の不払い等
⑵ 退職所得に該当する場合
例 退職金
⑶ 一時所得に該当する場合
例 示談金、和解金
⑷ 非課税所得に該当する場合
例 損害賠償金