労働一般

企業再編と労働者の地位

 会社の合併、分割、事業譲渡などの企業組織の再編成が行われる場合、労働者の地位はどのようになるのでしょうか。近年、企業組織の再編が活発に行われており、労働者の地位がどのようになるのかは重要な問題です。今回は、企業再編と労働者の地位について解説します。

会社合併と労働者の地位

 合併とは、二つ以上の会社が契約を締結して行う行為であって、当事会社の一部または全部が解散し、解散会社の権利義務の全部が清算手続を経ることなく存続会社または新設会社に一般承継されるものをいいます。
 存続会社に承継されるものを吸収合併、新設会社に承継されるものを新設合併といいます。
 合併の場合には、合併後の会社は、合併前の会社の権利義務を包括的に承継します。そのため、合併前会社の従業員の労働者としての地位も、合併後の会社に包括的に承継されることになります。
 合併に伴い、以下の行為が行われることがあります。このような行為が行われた場合には、その有効性が問題となります。

①労働条件の統一のための労働協約ないし就業規則による労働条件の変更
②従業員の再配置のための配転・出向、余剰人員削減のための退職誘導・整理解雇

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会社法750条1項
「吸収合併存続株式会社は、効力発生日に、吸収合併消滅会社の権利義務を承継する。」
会社法754条1項
「新設合併設立株式会社は、その成立の日に、新設合併消滅会社の権利義務を消滅する。」

会社分割と労働者の地位

会社分割とは

 会社分割とは、株式会社または合同会社が、その事業に関して有する権利義務の全部または一部を、分割後他の会社(承継会社)または分割により設立する会社(設立会社)に承継させることです。
 会社(分割会社)の権利義務を既存の他の会社に承継させるものを吸収分割、手続中で新たに設立する会社に承継させるものを新設分割といいます。

労働契約の承継

 会社分割に際しての権利義務の移転は、承継されるものとして分割計画(契約)に記載された権利義務は一括して当然に新設(承継)会社に承継されることになります(部分的包括承継)。そのため、分割会社との間で締結されている労働契約についても、承継会社等が承継する旨の定めがある場合には、分割の効力が生じた日に、承継会社等に承継されることになります(会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律(以下、「労働契約承継法」といいます。)3条)。
 もっとも、「承継される事業に主として従事する」労働者の労働契約は、承継する旨の定めがあるかどうかにかかわらず、会社分割によって当然に新設(吸収)会社に承継されるべきものです。そのため、「承継される事業に主として従事する」労働者の労働契約は、承継対象となる権利義務として分割計画(契約)に記載されなかった場合には、労働者は異議を述べることができます。異議を述べればその労働契約は新設(吸収)会社に承継されます(労働契約承継法2条1項1号、3条、4条)。
 承継事業に従として従事してこなかった労働者は、分割を行う会社に残ることを保障されます。承継事業に従として従事してこなかった労働者は、その労働契約が承継対象として分割計画に記載された場合には、異議を述べて分割会社に残存することができます(労働契約承継法2条1項2号、5条)。
 これらの労働者は、新設会社(吸収)会社ないし分割会社に対して労働契約上の地位確認の訴えを提起できると解すべきとされています。

会社法759条1項
「吸収分割承継株式会社は、効力発生日に、吸収分割契約の定めに従い、吸収分割会社の権利義務を承継する。」
会社法764条1項
「新設分割設立株式会社は、その成立の日に、新設分割計画の定めに従い、新設分割会社の権利義務を承継する。」
会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律2条1項
「会社…は、…分割…をするときは、次に掲げる労働者に対し、通知期限日までに、当該分割に関し、当該会社が当該労働者との間で締結している労働契約を当該分割に係る承継会社等…が承継する旨の分割契約等…における定めの有無、第4条第3項に規定する異議申出期限日その他厚生労働省令で定める事項を書面により通知しなければならない。」

一「当該会社が雇用する労働者であって、承継会社等に承継される事業に主として従事するものとして厚生労働省令で定めるもの」
二「当該会社が雇用する労働者(前号に掲げる労働者を除く。)であって、当該分割契約等にその者が当該会社との間で締結している労働契約を承継会社等が承継する旨の定めがあるもの」

会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律3条
「前条第1項第1号に掲げる労働者が分割会社との間で締結している労働契約であって、分割契約等に承継会社等が承継する旨の定めがあるものは、当該分割契約等に係る分割の効力が生じた日に、当該承継会社等に承継されるものとする。」
会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律4条
1項「第2条第1項第1号に掲げる労働者であって、分割契約等にその者が分割会社との間で締結している労働契約を承継会社等が承継する旨の定めがないものは、同項の通知がされた日から異議申出期限日までの間に、当該分割会社に対し、当該労働契約が当該承継会社等に承継されないことについて、書面により、異議を申し出ることができる。」
4項「第1項に規定する労働者が同項の異議を申し出たときは、…当該労働者が分割会社との間で締結している労働契約は、分割契約等に係る分割の効力が生じた日に、承継会社等に承継されるものとする。」
会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律5条
1項「第2条第1項第2号に掲げる労働者は、同項の通知がされた日から前条第3項に規定する異議申出期限日までの間に、分割会社に対し、当該労働者が当該分割会社との間で締結している労働契約が承継会社等に承継されることについて、書面により、異議を申し出ることができる。」
3項「第1項に規定する労働者が同項の異議を申し出たときは、…当該労働者が分割会社との間で締結している労働契約は、承継会社等に承継されないものとする。」

会社分割の際の手続

⑴ 7条措置

 「分割会社は、当該分割に当たり、厚生労働大臣の定めるところにより、その雇用する労働者の理解と協力を得るよう努めるものとする。」と規定されています(労働契約承継法7条)。

⑵ 5条協議

「会社法…の規定に基づく会社分割に伴う労働契約の承継に関しては、会社分割をする会社は、会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律…第2条第1項の規定による通知をすべき日までに、労働者と協議をするものとする。」と規定されています(商法等改正法(平12法90)附則5条1項)。

⑶ 7条措置・5条協議違反

ア 分割の無効

 指針(平12・12・27労告127号)は、5条協議に関して、協議が全く行わなかった場合又は実質的にこれと同視しうる場合には、会社分割無効の訴えの原因となりうるとしています。

イ 分割会社との労働契約上の地位の確認

 判例は、「5条協議が全く行われなかったとき」および「5条協議が行われた場合であっても、その際の分割会社からの説明や協議の内容が著しく不十分であるため、法が5条協議を定める趣旨に反することが明らかな場合」には、分割会社との労働契約上の地位確認の訴えを提起することができるとされました。7条措置において十分な情報提供がなされず5条協議がその実質を欠くといった特段の事情がある場合には、5条協議違反の有無を判断する一事情として問題とされることになります。(最二小判平22.7.12民集64巻5号1333頁[日本アイ・ビー・エム事件])

事業譲渡と労働者の地位

事業譲渡とは

 事業譲渡とは、一定の事業目的のために組織化され、有機的一体として機能する財産の全部または重要な一部を譲渡し、これによって、譲渡会社がその財産によって営んでいた事業活動の全部または重要な一部を譲受人に受け継がせ譲渡会社がその譲渡の限度に応じ法律上当然に競業避止義務を負う結果を伴うものをいいます(最判昭40.9.22民集19巻6号1600頁)。

労働契約の承継

 事業譲渡における承継は、譲渡人と譲受人の間の債権契約において承継すべき権利義務の範囲を設定し、それに従って権利義務移転の手続を行うことによって生じる承継であるとされており、合併などの包括承継と異なり個別的な承継(特定承継)とされます。
 そのため、労働者としての地位が譲受会社に承継されるには、譲渡会社、譲受会社、労働者の三者の合意が必要です。そのため、譲受会社または労働者のいずれかが承継を拒否した場合には、労働者の地位は譲受会社に承継されません
 もっとも、裁判例は、譲渡会社、譲受企業、労働者の合意の合理的な解釈として、雇用の承継をできるだけ認めようとしています。
 譲渡対象事業に従事してきた労働者が譲受会社への承継を望む場合において、雇用承継の黙示の合意を認めた裁判例があります(大阪高判昭38.3.26労民14巻2号439頁[播磨鉄鋼事件]、大阪地判平11.12.8労判777号25頁[タジマヤ事件]、名古屋高判平7.8.23労判689号68頁[よみうり事件])。
 労働者全体の雇用承継の合意を含む事業譲渡において反対の労働者がいる場合に、反対労働者についても雇用の承継を認めた裁判例があります(横浜地判昭56.2.24労判369号68頁[中央労済・全労済事件])。

譲渡会社が解散する場合

 譲渡会社が事業譲渡後に解散した場合において、譲受会社に労働者としての地位が承継されていない労働者は、譲受会社に対して、労働者としての地位を主張できないのでしょうか。
 確かに、譲受会社が労働者の地位を承継することにつき合意していない場合には、労働者は譲受会社に対して、これを主張できないの原則です。しかし、裁判例は、一定の場合には、譲受会社に対して労働者としての地位を主張できるとしています

【奈良地決平11.1.11労判753号15頁[日進工機事件]】
 譲渡会社の解散による解雇を事業の実質的継続を理由に無効としたうえで、譲渡会社との間で継続している雇用関係は事業譲渡とともに譲受会社に承継されるとしました。

【大阪地決平6.8.5労判668号48頁[新関西通信システムズ事件]】
 新会社を設立した上で、新会社に事業譲渡を行い、譲渡会社はその後解散し、新会社は譲渡会社の従業員を取捨選択して採用した事案において、整理解雇法理の潜脱を理由に法人格の濫用と評価し、譲渡会社による解雇と新会社による不採用は一体として整理解雇として扱われ、その要件を具備しないことから無効としています。

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弁護士 籾山善臣
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