会社で突然上司に「明日から来なくていいよ」と言われてしまった場合、誰でも驚きますよね。
しかし、このようなときこそ、冷静な対処が求められます。
「明日から来なくていいよ」と言われてしまうと、労働者としては、会社をクビにされたと感じてしまうでしょう。
もっとも、「明日から来なくていいよ」というのは、必ずしも「クビ」という意味で言われたとは限りません。
このような事態に対処するためには、まず①どのような意味でこのような発言がなされたのかを明らかにしたうえで、②その意味に応じて適切な行動をとる必要があります。
この記事では、「明日から来なくていいよ」と言われた場合に想定される5つのケースを紹介した上で、①その意味を確認する方法、②そのケースごとに誰でもできる簡単な対処法を説明させていただきます。
今回は、「明日から来なくていいよ」の5つの意味と簡単な対処法について解説します。
目次
「明日から来なくていいよ」は違法?
会社が「明日から来なくていいよ」ということは、法律上、許されるのでしょうか。
これは、「明日から来なくていいよ」の意味により異なります。
確かに、「明日から来なくていいよ」というのは、労働者への配慮を欠いた言葉です。しかし、このような発言がなされたからといって、直ちに違法になるわけではありません。
例えば、「明日から来なくていいよ」というのが、労働者をクビにするとの意図でなされていた場合にはどうでしょうか。
会社は、「やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合」又は「労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合」を除いて、30日前に解雇の予告をするか、30日以上の平均賃金を支払わなければならないとされています(労働基準法20条1項)。
そのため、会社は、事業の継続が不可能となった場合や労働者に落ち度がある場合でなければ、労働者を即日クビにするためには、解雇予告手当を支払わなければなりません。
このような解雇予告手当を支払うことなく労働者を即日クビにしている場合には、違法といえるでしょう。
「明日から来なくていいよ」の法的意味5つ
社長や上司から「明日から来なくていいよ」と言われた場合には、法的にはどのような意味があるのでしょうか。
この発言の意味については、法的にはいくつかの可能性があります。例えば、以下の意味でなされたことが想定されます。
① 反省を促すために業務指導の意図でなされた場合
② 自宅待機を命じる意図でなされた場合
③ 休職を命じる意図でなされた場合
④ 退職勧奨の意図でなされた場合
⑤ クビにする意図でなされた場合
JILPTが2012年10月に行ったアンケート調査(「従業員の採用と退職に関する実態調査-労働契約をめぐる実態に関する調査(Ⅰ)-」)によると、「ここ5年間での正規従業員の解雇の有無」につき、解雇を実施したと回答した企業は「20.7%」にとどまっています。
更に、「普通解雇を実施した」と回答した企業に限定すると「16.0%」にとどまっています。
このように、会社は解雇に慎重であるのが通常であり、「明日から来なくていいよ」と言われたとしても、これがクビにするという意味で言われたと即断するべきではありません。
会社の意図を確認するべき【ひな型付き】
書面で確認するべき
上記のように「明日から来なくていいよ」と言われた場合の法的な意味については一義的ではありません。
そのため、文脈や状況からどの意図でなされたのかが明らかでない場合や、翌日出勤した際に再度「来なくていいと言ったはずだ」などと言われた場合には、会社に対して、どのような意味で言っているのかを確認するべきです。
もっとも、会社によっては、口頭で尋ねても、「自分で考えれば分かるだろう!」「クビという意味ではない!」などの曖昧な回答を行い、どのような意図で言っているのかを明らかにしないことがあります。
このような場合には、会社に対して、どのような意味で言っているのか明らかにするように書面を送付することが考えられます。
「明日から来なくていいよ」との発言を証拠にしておくべき
上司や社長が「明日から来なくていいよ」と発言したことについては、証拠に残しておくべきです。
なぜなら、後日、社長や上司がそのような発言はしていないという言う場合があるためです。「明日から来なくていいよ」と言われていないにもかかわらず、労働者が出勤しなかったということになると、無断欠勤として扱われてしまうリスクがあります。
例えば、上司や社長の発言を録音することができれば強力な証拠となります。
しかし、通常は、突然「明日から来なくていいよ」と言われるでしょうから、この発言を録音することは難しいでしょう。
そのため、「明日から来なくていいよ」と言われた場合には、その発言が「いつ、どこで、誰によって」言われたものなのか、その前後のやり取り等も含めて、その日のうちにメモに残しておきましょう。
万全を期したいのであれば、このメモに、公証役場で確定日付を押してもらうことが考えられます。
なぜなら、確定日付を押してもらうことで、当該メモを作成した日付が確定日付よりも以前であることが客観的に明らかとなり、記憶が鮮明なうちに作成したことを証明できるからです。
更に、会社に対して、「明日から来なくていいよ」との発言の意図を確認する書面にも「いつ、どこで、誰によって」言われたものなのか、その前後のやり取りを記載しておきましょう。
そして、これを内容証明郵便により配達証明書を付して会社に送付することで、「明日から来なくていいよ」との発言がなされたことを推認する証拠となります。
早めに確認するべき
「明日から来なくていいよ」との発言の意図を確認する書面は早めに会社に送付するべきです。
なぜなら、「明日から来なくていいよ」との発言がクビにするとの意味でなされていたような場合や退職勧奨の意味でなされていた場合には、長期間出勤をせず、これを争う姿勢も見せないと、クビになることや退職に合意したと主張されることになるためです。
まとめ
以上より、以下のような内容の通知書を早めに内容証明郵便により送付するべきです。また、相手方が受け取ったこととその日付が分かるように配達証明書もつけておきましょう。
【ひな型】
「明日から来なくていいよ」の意味ごとの対処法
業務指導の意味でなされていた場合
⑴ 改善の努力をするべき
「明日から来なくていいよ」との発言が、反省を促すための業務指導の意味でなされた場合には、まず、その業務指導の根拠となる事実につき認識の齟齬がないかどうかを確認します。
そして、齟齬がないようであれば、業務改善に向けて努力をすることになります。
⑵ 会社には行くべき
この場合、会社としても、本心から「来なくていい」と言っていたわけではないことになります。
「やる気がないなら来なくていい」との趣旨に近いことになりますので、この発言を真に受けて、出勤を怠ると、後日紛争となるリスクがあります。
そのため、労働者は、明日以降も出勤して、会社に対して、具体的な業務を指示するように仰ぐべきです。
しかし、会社の態様が業務指導の範囲を逸脱しており、具体的な業務の指示も出さず、労務を提供することが困難となっているような場合には、やむを得ません。
書面により、労務を提供しようとした具体的な経過及び就労の意思を有すること、具体的な業務指示を求めることを会社に伝え、自宅で待機するなどの措置を講じることになります。
なぜなら、会社から無断欠勤をしたと言われるリスクや自宅で待機する日以降の賃金を請求できなくなるリスクを防ぐためです。
自宅待機を命じる意味でなされていた場合
「明日から来なくていい」との発言が自宅待機を命じる意味でなされていた場合には、どうすればいいのでしょうか。
この場合、労働者は、会社から明日以降の就労義務を免除されていることになります。
労働者は、労働契約等に特別な定めがある場合又は業務の性質上労務の提供について特別な合理的な利益を有する場合を除いて、会社に対して、就労を請求する権利を有しません(東京高判昭33.8.2労民集9巻5号831頁[読売新聞社事件])。そのため、このような自宅待機命令に反して、就労を求めることは、原則としてできません。
もっとも、労働者が、会社の責めに帰すべき事由により、労務を提供できない場合には、出勤できない期間についても、賃金又は休業手当を請求できます(民法536条2項、労働基準法26条)。
以上より、この場合には、労働者は、明日以降出勤する必要はありません。そして、自宅待機を命じることにつき合理的な理由がないようであれば、自宅待機日以降の賃金又は休業手当についても請求することができます。
休職を命じる意味でなされていた場合
「明日から来なくていいよ」との発言が休職を命じる意味でなされていた場合には、就業規則を確認した上で、休職事由に該当するかを確認することになります。
就業規則については周知しなければ効力を生じませんので、就業規則の場所が分からない場合には、会社にその場所を確認しましょう。
会社が頑なに就業規則の開示を拒む場合には、就業規則の周知がないものとして、就業規則に基づく休職命令の効力を争うことを検討することになります。
休職事由に該当しない場合には、労務を提供できないのは、会社の責めに帰すべき事由によるものであるとして、出勤できない期間についても賃金を請求することができます(民法536条2項)。
退職勧奨の意味でなされていた場合
⑴ 退職勧奨に応じる義務はない
「明日から来なくていいよ」というのが退職勧奨の意味でなされたと述べられる場合があります。
もっとも、労働者は退職勧奨がなされたとしてもそれに応じる必要はありません。
⑵ 会社には行くべき
退職勧奨の意図でなされていた場合には、会社としては、「明日から来なくていいよ」というのは、「退職に応じるのであれば明日来なくていいよ」との意味になります。
そのため、労働者がかかる発言を真に受けて出勤を怠ると、労働者は退職勧奨に応じたので出勤をしなくなったと主張されます。
このような主張が認められるかどうかはともかくとして、争点となるリスクを軽減するためには、明日以降も会社には行くべきです。
労働者が明日以降も労務を提供しようとしているのに、会社が労務の提供を受けることを拒絶する場合には、労働者は、当該労務を提供できない期間についても賃金を請求することができます(民法536条2項)。
なぜなら、退職勧奨がなされていたとしても、これは会社が労働者の労務の提供を受領しない理由にはならないためです。
会社に行ったのに労務の受領を拒絶された場合には、書面により、労務を提供しようとした具体的な経過及び就労の意思を有すること、具体的な業務指示を求めることを会社に伝え、自宅で待機するなどの措置を講じることになります。
退職勧奨された場合のNG行動と正しい対処法は、以下の動画でも詳しく解説しています。
クビにするとの意味でなされていた場合
「明日から来なくていい」というのがクビにするとの意味であった場合はどうでしょうか。
この場合には、まず解雇理由証明書の交付を求めるべきです。クビにされた理由を知ることで、クビを争うべきかどうか、どのように争うかを判断することができるためです。
会社からクビにされたとしても、「客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当であると認められない場合」には無効となります(労働契約法16条)。そのため、クビの理由として不十分である場合には、会社に対してクビを撤回するように求めることになります。
労働者は、クビが無効である場合には、労務を提供できないのは、会社の責めに帰すべき事由によるものですので、クビにされた日以降の賃金を請求することができます(民法536条2項)。
会社が意味を明らかにしない場合
最後に、「明日から来なくていい」との発言の意味について明らかにするように書面で求めても、会社から回答がない場合にはどうすればいいでしょうか。
この場合、会社は労務の受領について理由を示さずに拒絶していることになります。
就労の意思と具体的な業務の指示を求める旨を通知して、自宅で待機することが考えられます。
この場合、労働者は、労務を提供できないのは、会社の責めに帰すべき事由によるものとして、出勤できない期間についても賃金を請求することができます(民法536条2項)。
「明日から来なくていいよ」発言についての裁判例
「明日から来なくていいよ」との発言についての裁判例として、以下の裁判例があります。以下の第1審と控訴審は同一の事件ですが、「明日から来なくていいよ」との発言について判断が分かれています。なお、上告・上告受理申立ては、上告棄却・不受理となっています。
津地判平31.3.28労判1222号80頁[伊勢安土桃山城下街事件](第1審)
人事部長が、従業員A・Bの2名に対して、退職勧奨を行い、従業員が退職勧奨を拒絶したところ、従業員A・Bに対して、それぞれ「翌日から出社しなくて結構である」、「翌日から来なくていい」と言った事案について、以下のように判断しました。
会社は、従業員Aは解雇、従業員Bは合意退職したと主張しました。
しかし、人事部長が従業員Aに対して「翌日から出社しなくて結構である」との発言をしたことは認められるものの、解雇の意思表示をしたとは認められないとしました。
また、人事部長が従業員Bに対して、「翌日から来なくていい」と言ったことは認められるものの、退職の合意が成立したとは認められないとしました。
そして、従業員AとBが出勤しなくなったのは、人事部長からの指示によるものと認められるから、その後、従業員らが現実の労働をしていないとしても、賃金請求権を失うことはないとしました。
名古屋高判令元.10.28労判1222号71頁[みんなで伊勢を良くし本気で日本と世界を変える人達が集まる事件]
上記事件の控訴審では、従業員Bについても解雇の意思表示に関する争点が追加されています。控訴審は、以下のように判断しました。
確かに、従業員A・Bの退職証明書には、退職理由がいずれも「退職勧奨」と記載されています。(この記載からは、解雇の意思表示がなかったともうかがえます)
しかしながら、人事部長は、面談において、従業員A・Bに対し、それぞれ明日から出社しなくてよい旨を最終的に明示しています。
そして、その発言に至る面談の内容が、①従業員A・Bが退職勧奨に応じるか否かのやりとりとなっていたことや、②従業員Aについては退職勧奨の条件となっていた給与の1か月分の支払が併せて告げられていること、③出社しなくてよい日数や期間等について何も述べられていないことを踏まえると、上記発言の趣旨が、単なる出勤停止を告げるものではなく、確定的・一方的に従業員A・Bとの間の雇用関係を終了させる意思表示であったことは明らかであるとしました。
また、会社が口座振込の方法で支払った金額のうち従業員A・Bの各1か月分の月額給与に相当する金額が、同月分の給与の明細書で「その他支給→解雇予告手当1ヶ月分」と記載されていることは、会社において従業員A・Bに対する解雇の意思表示をしたことを推認させるものであるとしました。
他方、上記退職証明書で退職理由がいずれも「退職勧奨」と記載されていることは、会社において従業員A・Bが対外的に使用することもある退職証明書に「解雇」と明示することを避けたものとして理解可能であるから、解雇の意思表示があったとの認定を妨げるものではないとしました。
小括
このように「明日から来なくていいよ」との発言については、大きな争点となり、裁判所によっても判断が異なることになります。
そのため、労働者としては、まずは、「明日から来なくていいよ」というのがどのような意味でなされているのかを会社に確認することが重要なのです。
「明日から来なくていいよ」はパワハラ?
では、「明日から来なくていいよ」との発言は、パワハラにあたるのでしょうか。
労働者としては、「明日からの来なくていいよ」と言われたら、不安に感じ、精神的な苦痛も感じるでしょう。可能であれば、会社に対して、慰謝料請求をしたいと考える方もいるはずです。
会社に対して、慰謝料を請求することができるかについては、会社がどのような意味でその発言をしたのかに加えて、発言態様や、その後の従業員の扱い等を考慮して判断する必要があります。
例えば、業務指導の意味で「明日から来なくていいよ」との発言がされていた場合については、その発言が業務指導の範囲を逸脱していたか否かというのが重要な要素となります。執拗に「明日から来なくていいよ」との発言が繰り返される場合や、発言の際に暴力等の有形力が伴う場合、労働者を罵倒するような発言を伴う場合などには、慰謝料請求が認められる可能性があります。
また、自宅待機や休職についても、これらを命じる必要がないにもかかわらず、嫌がらせの目的や退職に追い込む目的で行われている場合には、慰謝料請求が認められる場合があるでしょう。
退職勧奨の場合には、労働者が退職には応じる意思がない旨を明確に示しているにもかかわらず、執拗に勧奨を行う場合や長時間の干渉を行う場合など社会的相当性を超える場合には、慰謝料が肯定されることがあります。
クビについては、クビの理由がないことが明白である場合や会社の労務管理に関する知識・能力などを考慮しクビにすることが許されないことに気づくことができたといえる場合には、精神的苦痛の程度に応じて慰謝料が肯定されることがあります。
「明日から来なくていいよ」と言われたのがパートやバイト社員の場合は?
「明日から来なくていいよ」と言われたのがパートやアルバイト社員だった場合はどうでしょうか。
パートやアルバイトであっても、会社との間で雇用契約を結んでいる以上、契約期間中について、会社は一方的に雇用契約を終了させることはできません。
そのため、基本的には、パートやアルバイト社員であっても、行うべき対処法は正社員と同様です。
もっとも、有期雇用の場合には、「明日から来なくていいよ」との発言が、契約期間の満了の際に「契約は更新しない」との意味でなされている可能性があります。
そのため、まずは雇用契約の契約期間を確認しましょう。
「明日から来なくていいよ」と言われたのが派遣社員の場合は?
では、「明日から来なくていいよ」と言われたのが派遣社員だった場合はどうでしょうか。
派遣社員の場合には、雇用契約については派遣元との間で締結されており、派遣先に雇用されているわけではありません。
そのため、派遣先に「明日から来なくていいよ」と言われた場合の意味が正社員の場合と大きく異なります。
例えば、派遣元と派遣先との派遣契約を打ち切るいわゆる派遣切りである可能性があります。
もっとも、派遣契約については派遣元と派遣先との契約関係ですし、派遣社員の雇用主は派遣元であるため、派遣先に「明日から来なくていいよ」と言われた場合には、派遣元に対応を相談するのがいいでしょう。
「明日から来なくていいよ」と言われて勝手に有給として処理された場合は?
では、会社に有給休暇を付与する趣旨であることが明らかにされないまま「明日から来なくていいよ」と言われ、自宅で待機していたところ、勝手に有給休暇として処理された場合には、このような扱いは許されるのでしょうか。
会社は、有給休暇の日数のうち5日について時季を定めて労働者に付与するには、あらかじめ有給休暇を与えることを労働者に明らかにした上で、その時季について意見を聞かなければなりません(労働基準法39条7項、労働基準法施行規則24条の6)。
有給休暇の付与であることを明示せずに自宅待機を命じ、事後的にこれを有給休暇として処理することは許されません。
労働者としては、会社の責めに帰すべき事由により、労務を提供できなかったとして、有給休暇を使わずに、会社に対して、賃金請求をしていくことが考えられます。
まとめ
以上のように、「明日から来なくていいよ」との単純な発言ですが、これを法的に捉えようとすると、様々な可能性があります。
そして、その意味ごとに対処法も異なってきますので、焦らずに対処することが重要となります。
突然このような発言をされて冷静な対処が難しい場合には、弁護士の初回無料相談などを利用することがおすすめです。
なぜなら、その発言された状況等に応じて、適切な対処方法をアドバイスしてもらえるためです。