今の会社をクビにならないか不安に思ったことはありませんか?労働者はどのような場合に会社をクビになるのでしょうか。
また、クビとは法律上どのような意味なのでしょうか。クビになったらどのように対処していくのが適切なのでしょうか。
今回は、会社をクビになる理由やクビの意味、クビになった場合の対処法について解説します。
目次
クビになる理由
会社は、どのような場合に労働者をクビにするのでしょうか。
会社が労働者をクビにする理由には、例えば以下のものがあります。
①労働者の傷病や健康状態に基づく労働能力の喪失
②勤務能力・成績・適格性の欠如
③職務懈怠(欠勤、遅刻、早退、勤務態度不良等)
④経歴詐称
⑤非違行為、服務規律違反(業務命令違反、不正行為等)
⑥経営不振
JILPTが2012年10月に行ったアンケート調査(「従業員の採用と退職に関する実態調査-労働契約をめぐる実態に関する調査(Ⅰ)-」)によると、「普通解雇を行うこととした理由」は、「本人の非行」が「30.8%」と最も多く、次いで「仕事に必要な能力の欠如」の「28.0%」、「職場規律の紊乱」の「24.0%」、「頻繁な無断欠勤」の「15.0%」、「健康上の問題」の「12.2%」、「休職期間の満了」の「8.7%」となっています。
【普通解雇を行うこととした理由】
(出典:JILPT「従業員の採用と退職に関する実態調査-労働契約をめぐる実態に関する調査(Ⅰ)-」40頁)
また、多くの場合、何の前触れもなくクビになるわけではありません。通常は、クビになる前に何らかの兆候があるはずです。
例えば、以下のような兆候が挙げられます。
・成績や勤務態度が不良であることを理由にクビになる場合
→会社から業務改善命令が出される
→退職勧奨
・非違行為・服務規律違反
→注意書や指導書を交付される
→戒告や譴責、減給等の懲戒処分が行われる
・経営不振
→希望退職の募集が行われる
→説明会や個別の面談で会社の経営状態を説明がされる
上記調査によると、「普通解雇に先立って実施した措置」は、「警告」が「49.6%」と最も多く、次いで「是正機会の付与」の「39.3%」、「他の部署への配転の打診」の「20.5%」、「退職勧奨をした」の「38.5%」となっています。
【普通解雇に先立って実施した措置】
(出典:JILPT「従業員の採用と退職に関する実態調査-労働契約をめぐる実態に関する調査(Ⅰ)-」41頁)
これに対して、「整理解雇にいたる前の解雇回避措置」は、「新規採用抑制」が「38.8%」と最も多く、次いで「不採算部門の縮小・廃止、事業所の閉鎖」の「36.9%」、「配置転換」の「36.5%」、「希望退職の募集(早期退職優遇制度を含む)」の「25.3%」、「残業規制」の「23.9%」、「一時金カット」の「22.7%」、「賃下げ」の「22.5%」、「賃上げ抑制」の「22.4%」、「非正規従業員の雇用契約不更新」の「21.4%」、「一時休業」の「21.2%」、「派遣社員、請負社員の契約不更新」の「17.1%」、「出向、転籍」の「11.4%」となっています。
【整理解雇にいたる前の解雇回避措置】
(出典:JILPT「従業員の採用と退職に関する実態調査-労働契約をめぐる実態に関する調査(Ⅰ)-」42頁)
クビの意味
クビとは、一般的には、法律上の解雇の意味で用いられます。解雇は、会社が一方的に労働契約を終了するものです。
解雇には、普通解雇、懲戒解雇、整理解雇の種類があります。
普通解雇とは、私法上の形成権行使である解約の申し入れです。懲戒解雇と整理解雇以外の解雇をいいます。
懲戒解雇とは、企業秩序の違反に対して会社によって課せられる一種の制裁罰として会社が有する懲戒権の発動として行われる解雇をいいます。
整理解雇とは、企業の経営上必要とされる人員削減のために行われる解雇をいいます。
上記調査によると、ここ5年間での「解雇の実施の有無」につき、「普通解雇をした」と回答した企業は「16.0%」、「整理解雇を実施した」と回答した企業は「8.6%」となっています。
これに対して、「ここ5年間での懲戒処分の実施の有無」につき、「懲戒解雇」と回答した企業は「13.2%」となっています。
いずれにしろ解雇が有効になされた場合には、労働者は雇用契約上の権利を有する地位を失うことになりますので、賃金の支払いを受けることができなくなります。
【解雇の実施の有無】
(出典:JILPT「従業員の採用と退職に関する実態調査-労働契約をめぐる実態に関する調査(Ⅰ)-」38頁)
【ここ5年間での懲戒処分の実施の有無】
(出典:JILPT「従業員の採用と退職に関する実態調査-労働契約をめぐる実態に関する調査(Ⅰ)-」30頁)
クビが許されない場合
普通解雇
普通解雇は、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」は、解雇権を濫用したものとして無効になります(労働契約法16条)。
例えば以下のような場合には、解雇は無効となります。
☑解雇理由が労働契約の継続を期待することができないほど重大なものであるとはいえない場合
☑労働者に改善・是正の余地がないとはいえない場合
☑期待可能な解雇回避措置を尽くしたとはいえない場合
☑本人の情状、他労働者の処分との均衡、会社側の対応・落ち度等に照らして、解雇が過酷に失すると認められる場合
☑解雇が不当な動機・目的をもって行われた場合
懲戒解雇
懲戒解雇は、「懲戒解雇をすることができる場合」に当たらない場合や、「客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められない場合」には、無効となります(労働契約法15条)。
上記1の⑴乃至⑸のほか、例えば以下のような場合にも、懲戒解雇は無効となります。
☑あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由が定められていない場合
☑就業規則等に賞罰委員会等への付議が規定されているにもかかわらずこれを欠いた場合
☑弁明の機会が付与されていない場合
整理解雇
整理解雇は、①経営上の必要性、②解雇回避努力、③人選の合理性、④手続きの相当性を考慮し有効性を判断します。
例えば以下のような場合には、整理解雇は無効となります。
☑債務超過などの高度の経営上の困難が認められない場合
☑配転・出向・一時帰休・労働時間の短縮等の解雇を回避する措置を講じていない場合
☑恣意的に解雇する労働者が選ばれた場合
☑従業員や労働組合との間で十分に説明・協議が行われていない場合
クビになった場合の対処法
解雇理由証明書の交付請求
解雇された場合には、まず会社に対して、解雇理由証明書の交付を求める必要があります。
自分が解雇された理由が分からなければ、解雇を争うべきかどうかを判断することができず、解雇を争う場合にも解雇理由がわからなければどのように防御を図ればいいのかが明らかにならないためです。
解雇の撤回を求める
次に、解雇を争う場合には、会社に対して解雇の撤回を求めることになります。また、あわせて就労の意思を有することを示したうえで、解雇後の業務について指示を求めることになります。
解雇が無効である場合には、通常、労働者が就労することができないのは会社の責めに帰すべき事由によるものです。そのため、解雇後の賃金を請求することになりますが、解雇後の賃金を請求する前提として、労働者に就労の意思が存在することが必要となります。就労の意思を明示することは不可欠ではありませんが、これを明示することにより争点が拡大することを防ぐことができます。
生活費を確保する
会社が解雇を撤回しない場合には、解雇を争う期間の生活費を確保する必要があります。
具体的には、①失業手当の仮給付、②賃金の仮払い仮処分、③他社への再就職などの手段があります。
どの方法が適切かについては事案ごとに判断する必要があります。
労働審判・訴訟
会社との交渉がまとまらない場合には、労働審判や訴訟などの法的手続きを行うことになります。
労働審判については、以下の記事で詳しく解説しています。
労働審判とはどのような制度かについては、以下の動画でも詳しく解説しています。