労働一般

就活終われハラスメント-オワハラの類型と法的問題点-

 近年、採用応募者に対して内定をちらつかせて他社への就職を終了するように促すオワハラ行為が問題となっております。オワハラ行為は、法的にはどのような問題があるのでしょうか。また、就職活動する者が内々定後に他社への就職活動を続けることは法的に問題はあるのでしょうか。今回は、オワハラの類型と法的問題点について解説します。

オワハラとは

 就活終われハラスメント、いわゆるオワハラとは、学生等の職業選択の自由を妨げる行為や、学生等の意思に反して就職活動の終了を強要するようなハラスメント的行為を広く指す言葉です。
 文部科学省による「2020年度大学、短期大学及び高等専門学校卒業・終了予定者に係る就職について(申合せ)」では、以下の行為を職業選択の自由を妨げる行為等として列挙した上で、厳に慎むように要請しています。

①正式内定開始日前に内定承諾書、誓約書をはじめとした内定受諾の意思確認書類の提出を求めること
②6月1日以降の採用選考時期に学生を長時間拘束するような選考会や行事等を実施すること
③自社の内々定と引き換えに、他社への就職活動を取りやめるよう強要すること

「2020年度大学、短期大学及び高等専門学校卒業・終了予定者に係る就職について(申合せ)」

①正式内定開始日前の意思確認書類の提出

 企業が内定開始日以前に内定承諾書等の意思確認書類の提出を求めること自体を法的に違法ということは難しいでしょう。
 もっとも、内定承諾書を提出していたとしても、応募者はその後に内定を辞退することができます。そのため、企業が内定承諾書等を理由に内定辞退はできないと述べた場合には、それは誤りですので、従う必要はないことになります。

②採用選考時期における長時間の拘束

 まず、採用選考時期に長時間の選考会を行うこと自体を違法ということは難しいでしょう。
 これに対して、内定者に対して、行事等への参加を義務付けることについては、法的にも問題となります。内定につき契約の効力発生の始期を入社日と解すると、入社日以前は契約上の義務を直接負うことはないためです。
 確かに、入社日以前であっても信義則や個別の同意に基づいて義務が発生することがないわけではありません。しかし、企業が採用選考時期に他社への就職活動を妨害するような目的で長時間の行事を行う場合に、内定者に信義則上の参加義務等を肯定することはできないと考えられます
 そのため、内定者がこのような行事に参加しなかったとしても、内定者を不利益に扱うことは許されません。

③他社への就職活動の取りやめを強要

 最も問題となるのは企業が応募者に対して就職活動を取りやめるように強要する場合です。

強要にわたる場合

 まず、応募者の自由意思を害するような態様で他社への就職活動を取りやめるような発言がなされた場合には、不法行為による慰謝料の対象になり得ます(民法709条)。
 また、その発言の内容や程度によっては、脅迫罪・強要罪などの刑法上の犯罪となる場合があります(刑法222条、223条)。

就職活動をやめない場合の内定等の取り消し

 では、企業は、応募者が就職活動を継続していることを理由に内定や内々定を取り消すことはできるのでしょうか。

⑴ 内定取り消し

 裁判例は、内定につき、「取消事由は、①採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、②これを理由として採用内定を取消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られると解するのが相当である」(①②については筆者による加筆)としています(最二判昭54年7月20日判タ399号32頁[大日本印刷事件])。採用内定後も就職活動を継続していることのみをもって、内定を取り消すほどの「合理的な理由」や「相当」性があるとはいえないでしょう。そのため、内定後に就職活動をやめないことをのみを理由として、内定を取り消すことは難しいものと考えられます

⑵ 内々定取り消し

 採用内定通知の前に採用担当者が口頭等で採用が決まったことを通知する内内定の段階では、のちに正式な採用内定通知が予定されているため、通常は労働契約の成立を認めることは困難であるとされています。そのため、この段階であれば、企業は、応募者が就職活動をやめないことを理由に内々定を取り消すことができると考えられます。内々定の取り消しが違法な場合には、損害賠償請求の対象になり得ますが、応募者が就職活動を継続しているような場合には、慰謝料金額は低廉なものになると考えられます。

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弁護士 籾山善臣
神奈川県弁護士会所属。不当解雇や残業代請求、退職勧奨対応等の労働問題、離婚・男女問題、企業法務など数多く担当している。労働問題に関する問い合わせは月間100件以上あり(令和3年10月現在)。誰でも気軽に相談できる敷居の低い弁護士を目指し、依頼者に寄り添った、クライアントファーストな弁護活動を心掛けている。持ち前のフットワークの軽さにより、スピーディーな対応が可能。 【著書】長時間残業・不当解雇・パワハラに立ち向かう!ブラック企業に負けない3つの方法 【連載】幻冬舎ゴールドオンライン:不当解雇、残業未払い、労働災害…弁護士が教える「身近な法律」 【取材実績】東京新聞2022年6月5日朝刊、毎日新聞 2023年8月1日朝刊、区民ニュース2023年8月21日
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