近年、少子高齢化や就業構造の変化等の社会経済情勢の変化に伴いパートタイム労働者の果たす役割が増大しています。そのような中で、パートタイム労働者がその有する能力を有効に発揮するためには、適正な労働条件を確保することが重要となります。
今回は、パートタイム労働者の法律関係について、一般の労働者との相違点等を踏まえつつ解説します。
目次
パートタイム労働者とは
短時間労働者(パートタイム労働者)とは、「一週間の所定労働時間が同一の事業主に雇用される通常の労働者(当該事業主に雇用される通常の労働者と同種の業務に従事する当該事業主に雇用される労働者にあっては、厚生労働省令で定める場合を除き、当該労働者と同種の業務に従事する当該通常の労働者)の一週間の所定労働時間に比し短い労働者」をいいます(短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(以下、「短時間・有期労働者法」という。)2条)。
アルバイトなどの呼称で雇われている場合においても、上記定義に該当すれば短時間労働者となります。
一般労働法の適用関係
パートタイム労働者も、労働者である以上は、労働契約法、労働基準法、雇用機会均等法、最低賃金法、労働安全衛生法、賃金の支払の確保等に関する法律、労災保険法、育児介護休業法、労働組合法の適用を受けます
もっとも、下記の点には注意が必要です。
年次有給休暇
一週間の所定労働日数が通常の労働者の週所定労働日数に比し相当程度少ない場合には、年次有給休暇の日数は、通常の労働者の一週間の所定労働日数と当該労働者の労働日数又は一週間当たりの平均所定労働日数との比率を考慮して決まります(労働基準法39条3項)。
雇用保険
雇用保険については、所定労働時間が週20時間以上であり、31日以上引き続き雇用されると見込まれる場合には、被保険者となります。(雇用保険法6条1号、2号)。
健康保険・厚生年金保険
健康保険と厚生年金保険については、以下のケース1又はケース2の場合には、被保険者となります。
【ケース1】
1週の所定労働時間および1カ月の所定労働日数が当該事業所の通常の労働者の4分の3以上
【ケース2】
以下の⑴~⑸をいずれも満たす場合。
⑴1週間あたりの決まった労働時間が20時間以上であること
⑵1ヶ月当たりの決まった賃金が88,000円以上であること
⑶雇用期間の見込みが1年以上であること
⑷学生でないこと
⑸以下のいずれかに該当すること
①従業員数が501人以上の会社(特定適用事業所)で働いている
②従業員数が500人以下の会社で働いていて、社会保険に加入することについて労使で合意がなされている
短時間・有期労働者法
短時間・有期労働者法とは
短時間・有期労働者法とは、「我が国における少子高齢化の進展、就業構造の変化等の社会経済情勢の変化に伴い、短時間・有期雇用労働者の果たす役割の重要性が増大していることに鑑み、短時間・有期雇用労働者について、その適正な労働条件の確保、雇用管理の改善、通常の労働者への転換の推進、職業能力の開発及び向上等に関する措置等を講ずることにより、通常の労働者との均衡のとれた待遇の確保等を図ることを通じて短時間・有期雇用労働者がその有する能力を有効に発揮することができるようにし、もってその福祉の増進を図り、あわせて経済及び社会の発展に寄与することを目的」としています(短時間・有期労働者法1条)。
働き方改革関連法が2018年6月29日に成立したことによって、短時間労働者法が、短時間労働者及び有期雇用労働者の双方を適用対象とする短時間有期労働者法に改正されました。
労働条件に関する文書の交付義務
使用者は、短時間労働者に対しては、労働基準法上の労働条件明示義務(労働基準法15条、労働基準法施行規則5条)に加えて、一定事項について文書の交付を義務付けられています。
具体的には、労働基準法で明示が義務付けられているものに加えて、以下の事項を明示しなければなりません。
①昇給の有無
②退職手当の有無
③賞与の有無
④短時間・有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する事項に係る相談窓口
短時間・有期労働者法6条(労働条件に関する文書の交付等)
1項「事業主は、短時間・有期雇用労働者を雇い入れたときは、速やかに、当該短時間・有期雇用労働者に対して、労働条件に関する事項のうち労働基準法…第15条第1項に規定する厚生労働省令で定める事項以外のものであって厚生労働省令で定めるもの…を文書の交付その他厚生労働省令で定める方法…により明示しなければならない。」
短時間・有期労働法施行規則2条(法第6条第1項の明示事項及び明示の方法)
1項「法第6条第1項の厚生労働省令で定める短時間・有期雇用労働者に対して明示しなければならない労働条件に関する事項は、次に掲げるものとする。」
一「昇給の有無」
二「退職手当の有無」
三「賞与の有無」
四「短時間・有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する事項に係る相談窓口」
均衡・均等待遇の原則
短時間・有期労働者法は、同一労働同一賃金のスローガンの下推進された規定として、均衡待遇の原則(不合理な待遇の禁止、短時間・有期労働者法8条)、均等待遇の原則(差別的取扱いの禁止、短時間・有期労働者法9条)を置いています。
賃金
事業主は、通常の労働者と同視することのできない短時間・有期雇用労働者であっても、通常の労働者との均衡を考慮しつつ、その雇用する短時間・有期雇用労働者の職務内容、職務の成果、意欲、能力又は経験その他の就業の実態に関する事項を勘案し、その賃金(通勤手当その他厚生労働省令で定めるものを除く。)を決定する努力義務を負います(短時間・有期労働者法10条)。
厚生労働省令が除外している手当は、退職手当、家族手当、住宅手当、別居手当、子女教育手当、その他職務に密接に関連して支払われるもの以外の手当です(短時間・有期労働者法施行規則3条)。
短時間・有期労働者法10条(賃金)
「事業主は、通常の労働者との均衡を考慮しつつ、その雇用する短時間・有期雇用労働者(通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者を除く。事情第2項及び第12条において同じ。)の職務の内容、職務の成果、意欲、能力又は経験その他の就業の実態に関する事項を勘案し、その賃金(通勤手当その他の厚生労働省令で定めるものを除く。)を決定するように努めるものとする。」
短時間・有期労働者法施行規則3条(法第10条の厚生労働省令で定める賃金)
「法第10条の厚生労働省令で定める賃金は、通勤手当、家族手当、住宅手当、別居手当、子女教育手当その他名称の如何を問わず支払われる賃金(職務の内容(法第8条に規定する職務の内容をいう。)に密接に関連して支払われるものを除く。)とする。」
教育訓練の義務
事業主は、通常の労働者に対して実施する教育訓練であって、当該通常の労働者が従事する職務の遂行に必要な能力を付与するためのものについては、既に当該職務に必要な能力を有している場合等を除き、職務内容同一短時間・有期雇用労働者に対しても、実施しなければなりません(短時間・有期労働者法11条1項)。
事業主は、上記規定において定めるものの他にも、通常の労働者との均衡を考慮しつつ、その雇用する短時間・有期雇用労働者の職務の内容、職務の成果、意欲、能力及び経験その他の就業の実態に関する事項に応じ、当該短時間・有期雇用労働者に対して教育訓練を実施する努力義務を負います(短時間・有期労働者法11条2項)。
短時間・有期労働者法11条(教育訓練)
1項「事業主は、通常の労働者に対して実施する教育訓練であって、当該通常の労働者が従事する職務の遂行に必要な能力を付与するためのものについては、職務内容同一短時間・有期雇用労働者(通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者を除く。以下この項において同じ。)が既に当該職務に必要な能力を有している場合その他の厚生労働省令で定める場合を除き、職務内容同一短時間・有期雇用労働者に対しても。これを実施しなければならない。」
2項「事業主は、前項に定めるもののほか、通常の労働者との均衡を考慮しつつ、その雇用する短時間・有期雇用労働者の職務の内容、職務の成果、意欲、能力及び経験その他の就業の実態に関する事項に応じ、当該短時間・有期雇用労働者に対して教育訓練を実施するように努めるものとする。」
福利厚生施設の利用に関する義務
事業主は、通常の労働者に対して利用の機会を与える福利厚生施設であって、健康の保持又は業務の円滑な遂行に資するものとして厚生労働省令で定めるものについては、その雇用する短時間・有期雇用労働者に対しても利用の機会を与えなければなりません(短時間・有期労働者法12条)。
厚生労働省令は、健康の保持又は業務の円滑な遂行に資する福利厚生施設として、以下のものを列挙しています(短時間・有期労働者法施行規則5条)。
① 給食施設
② 休憩室
③ 更衣室
短時間・有期労働者法12条(福利厚生施設)
「事業主は、通常の労働者に対して利用の機会を与える福利厚生施設であって、健康の保持又は業務の円滑な遂行に資するものとして厚生労働省令で定めるものについては、その雇用する短時間・有期雇用労働者に対しても、利用の機会を与えなければならない」
短時間・有期労働者法施行規則5条(法第12条の厚生労働省令で定める福利厚生施設)
「法第12条の厚生労働省令で定める福利厚生施設は、次に掲げるものとする。」
一「給食施設」
二「休憩室」
三「更衣室」
通常の労働者への転換
事業主は、短時間・有期雇用労働者の通常の労働者への転換を推進するために、以下のいずれかの措置を講じなければなりません(短時間・有期労働者法13条)。
①通常の労働者の募集を行う際の周知
通常の労働者の募集を行う場合において、当該募集に係る事業所に掲示すること等により、その者が従事すべき業務の内容、賃金、労働時間その他の当該募集に係る事項を当該事業所において雇用する短時間・有期雇用者に周知すること。
②通常の労働者の配置を新たに行う場合に当該配置の希望を申し出る機会を与えること
通常の労働者の配置を新たに行う場合において、当該配置の希望を申し出る機会を当該配置に係る事業所において雇用する短時間・有期雇用労働者に対して与えること。
③資格者を対象とした通常の労働者への転換のための試験制度等
一定の資格を有する短時間・有期雇用労働者を対象とした通常の労働者への転換のための試験制度を設けることその他の通常の労働者への転換を推進するための措置を講ずること。
短時間・有期労働者法13条(通常の労働者への転換)
「事業主は、通常の労働者への転換を推進するため、その雇用する短時間・有期雇用労働者について、次の各号のいずれかの措置を講じなければならない。」
一「通常の労働者の募集を行う場合において、当該募集に係る事業所に掲示すること等により、その者が従事すべき業務の内容、賃金、労働時間その他の当該募集に係る事項を当該事業所において雇用する短時間・有期雇用者に周知すること。」
二「通常の労働者の配置を新たに行う場合において、当該配置の希望を申し出る機会を当該配置に係る事業所において雇用する短時間・有期雇用労働者に対して与えること。」
三「一定の資格を有する短時間・有期雇用労働者を対象とした通常の労働者への転換のための試験制度を設けることその他の通常の労働者への転換を推進するための措置を講ずること。」
説明義務
事業主は、短時間・有雇用労働者を雇い入れた場合には、速やかに、均衡待遇、均等待遇、賃金、教育訓練、福利厚生、通常の労働者への転換に関し講ずることとしている措置の内容について、説明しなければなりません(短時間・有期労働者法14条1項)。
事業主は、短時間・有期雇用労働者からの求めがあった場合には、通常の労働者との間の待遇の相違の内容及び理由、並びに事業主が労働条件に関する文書の交付、就業規則作成手続、均衡待遇、均等待遇、賃金、教育訓練、福利厚生、通常の労働者への転換に関する決定をするに当たって考慮した事項について、説明しなければなりません(短時間・有期労働者法14条2項)。なお、事業主は、この求めを理由に短時間・有期雇用労働者を不利益に扱うことを禁止しています(短時間・有期労働者法14条3項)。
短時間・有期労働者法14条(事業主が講ずる措置の内容等の説明)
1項「事業主は、短時間・有期雇用労働者を雇い入れたときは、速やかに、第8条から前条までの規定により措置を講ずべきこととされている事項(労働基準法第15条第1項に規定する厚生労働省令で定める事項及び特定事項を除く。)に関し講ずることとしている措置の内容について、当該短時間・有期雇用労働者に説明しなければならない。」
2項「事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者から求めがあったときは、当該短時間・有期雇用労働者と通常の労働者との間の待遇の相違の内容及び理由並びに第6条から前条までの規定により措置を講ずべきこととされている事項に関する決定をするに当たって考慮した事項について、当該短時間・有期雇用労働者に説明しなければならない。」
3項「事業主は、短時間・有期雇用労働者が前項の求めをしたことを理由として、当該短時間・有期雇用労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。」
助言・指導・勧告、公表
厚生労働大臣は、短時間・有期雇用労働者の雇用管理の改善等を図るため必要があるときは、事業主に対して、報告を求め、または助言、指導もしくは勧告をすることができます(短時間・有期労働者法18条1項)。
厚生労働大臣は、事業主が、労働条件に関する文書の交付義務、均等待遇、教育訓練に関する実施義務、福利厚生施設の利用に関する措置義務、通常の労働者への転換に関する措置義務、事業主が講ずる措置の内容等に関する説明義務、相談のための体制の整備義務に違反している事業主に対して勧告をした場合に、その勧告を受けた者がこれに従わないときは、その旨を公表することができます(短時間・有期労働者法18条2項)。努力義務のものについては、公表の対象から除外されています。
短時間・有期労働者法18条(報告の徴収並びに助言、指導及び勧告等)
1項「厚生労働大臣は、短時間・有期雇用労働者の雇用管理の改善等を図るため必要があると認めるときは、短時間・有期雇用労働者を雇用する事業主に対して、報告を求め、または助言、指導若しくは勧告をすることができる。」
2項「厚生労働大臣は、第6条第1項、第9条、第11条第1項、第12条から第14条まで及び第16条の規定に違反している事業主に対し、前項の規定による勧告をした場合において、その勧告を受けた者がこれに従わなかったときは、その旨を公表することができる。」
3項「前2項に定める厚生労働大臣の権限は、厚生労働省令で定めるところにより、その一部を都道府県労働局長に委任することができる。」