裁量労働制のもとで残業代が出ないことが違法ではないか悩んでいませんか?
裁量労働制という言葉は聞いたことがあるかもしれませんが、この場合の残業代のルールがどのようになっているかについてはわかりにくいですよね。
裁量労働制とは、一定の業種の方について、実際の労働時間数に関わらず一定の労働時間数だけ労働したものとみなす制度です。
裁量労働制のもとでも、以下の3つの場合には残業代を請求できる可能性があります。
・法定労働時間を超えて労働したとみなされるケース
・法定休日に労働したケース
・深夜に労働したケース
また、会社によっては、そもそも裁量労働制を導入するための条件が整っておらず、法律上、裁量労働制の適用が認められないケースもあります。
実際、会社も「裁量労働制」について正確に理解できずに運用しているケースが多いのです。
今回は、裁量労働制について、その意味や条件などの基本的な知識を説明した上で、残業代が出る3つのケースと正確な残業代の計算方法について解説していきます。
裁量労働制と聞くと難しいのではないかと感じてしまう方もいるかもしれませんが、
説明していきますので、ご安心ください。
具体的には、以下の流れで説明していきます。
この記事を読めば、裁量労働制についての疑問が解消するはずです。
目次
裁量労働制とは
裁量労働制とは、一定の業種の方について、実際の労働時間数に関わらず一定の労働時間数だけ労働したものとみなす制度です。
例えば、8時間労働したものとみなすとされている場合には、実際には12時間労働した場合でも、労働時間は8時間とみなされることになります。これに対して、実際には6時間しか労働してい場合でも、労働時間は8時間とみなされることになります。
近年の技術革新や情報化、サービス経済化の中で、労働時間を厳格に規制することが業務遂行の実態や能力発揮の視点から不適切な業種が増加しました。そのため、労働の量ではなく質や成果により報酬を支払うことが可能とされたのです。
裁量労働制には、以下の2種類があります。
・専門業務型裁量労働制
・企画業務型裁量労働制
専門業務型裁量労働制とは、業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分等を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある専門的業務に労働者を就かせた場合に、あらかじめ定めた時間働いたものとみなす制度です。
企画業務型裁量労働制とは、業務の性質上、その遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある事業の運営に関する事項の企画等の業務に労働者を就かせた場合に、あらかじめ定めた時間働いたものとみなす制度です。
裁量労働制の導入事例は、平成31年において、常用労働者30人以上の企業では、「専門業務型裁量労働制」について2.3%、「企画業務型裁量労働制」について0.6%と低迷しています(厚生労働省:平成31年就労条件総合調査 結果の概況)。
裁量労働制を適用するための条件
裁量労働制を適用するための条件は、「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」で異なります。
専門業務型裁量労働制の条件
専門業務型裁量労働制を適用するためには、少なくとも以下の条件を満たしていることが必要となります。
①労使協定により一定の事項を定めていること
②労働者が対象業務に就いていること
①労使協定により定めるべき一定の事項は、以下の事項です。
⑴対象業務
⑵対象業務に従事する労働者の労働時間として算定される時間
⑶対象業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し、当該対象業務に従事する労働者に対し使用者が具体的な指示をしないこと
⑷対象業務に従事する労働者の労働時間の状況に応じた当該労働者の健康及び福祉を確保するための措置を当該協定で定めるところにより使用者が講ずること
⑸対象業務に従事する労働者からの苦情の処理に関する措置を当該協定で定めるところにより使用者が講ずること
⑹前各号に掲げるもののほか、厚生労働省令で定める事項
⑹「厚生労働省令で定める事項」は、協定の有効期間並びに、⑷⑸に関し労働者ごとに講じた措置の記録を協定の有効期間及びその期間満了後3年間保存することです。
②専門業務型裁量労働制の対象業務は、以下の19業務です。
⑴新商品若しくは新技術の研究開発又は人文科学若しくは自然科学に関する研究の業務
⑵情報処理システムの分析又は設計の業務
⑶新聞若しくは出版の事業における記事の取材若しくは編集の業務又は放送法第2条第28号に規定する放送番組の制作のための取材若しくは編集の業務
⑷衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案の業務
⑸放送番組、映画等の制作の事業におけるプロデューサー又はディレクターの業務
⑹広告、宣伝等における商品等の内容、特長等に係る文章の案の考案の業務(いわゆるコピーライターの業務)
⑺事業運営において情報処理システムを活用するための問題点の把握又はそれを活用するための方法に関する考案若しくは助言の業務(いわゆるシステムコンサルタントの業務)
⑻建築物内における照明器具、家具等の配置に関する考案、表現又は助言の業務(いわゆるインテリアコーディネーターの業務)
⑼ゲーム用ソフトウェアの創作の業務
⑽有価証券市場における相場等の動向又は有価証券の価値等の分析、評価又はこれに基づく投資に関する助言の業務(いわゆる証券アナリストの業務)
⑾金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務
⑿学校教育法に規定する大学における教授研究の業務(主として研究に従事するものに限る。)
⒀公認会計士の業務
⒁弁護士の業務
⒂建築士(一級建築士、二級建築士及び木造建築士)の業務
⒃不動産鑑定士の業務
⒄弁理士の業務
⒅税理士の業務
⒆中小企業診断士の業務
企画業務型裁量労働制の条件
企画業務型裁量労働制を適用するためには、少なくとも以下の条件を満たしていることが必要となります。
①労使委員会の決議により一定の事項を定めていること
②対象労働者を対象業務に就かせていること
①労使委員会の決議により定めるべき一定の事項は、以下の事項です。
⑴対象業務
⑵対象労働者の範囲
⑶みなし労働時間
⑷対象労働者の健康・福祉確保の措置
⑸対象労働者の苦情処理の措置
⑹労働者の同意を得なければならない旨及びその手続、不同意労働者に不利益な取扱いをしてはならない旨
⑺前各号に掲げるもののほか、厚生労働省令で定める事項
⑺「厚生労働省令で定める事項」は、協定の有効期間並びに、⑷⑸⑹に関し労働者ごとに講じた措置の記録を協定の有効期間及びその期間満了後3年間保存することです。
②企画業務型裁量労働制の対象業務は、以下の事項全てに該当する業務であることを要します。
⑴「事業の運営に関する事項について」の業務であること
⑵「企画、立案、調査及び分析の業務」であること
⑶「当該業務の性質上これを適切に遂行するにはその遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある」業務であること
⑷「当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこととする」業務であること
具体例は、以下のとおりです(平成11年12月27日労働省告示第149号)。
⑴ 経営企画を担当する部署における業務のうち、経営状態・経営環境等について調査及び分析を行い、経営に関する計画を策定する業務
⑵ 経営企画を担当する部署における業務のうち、現行の社内組織の問題点やその在り方等について調査及び分析を行い、新たな社内組織を編成する業務
⑶ 人事・労務を担当する部署における業務のうち、現行の人事制度の問題点やその在り方等について調査及び分析を行い、新たな人事制度を策定する業務
⑷ 人事・労務を担当する部署における業務のうち、業務の内容やその遂行のために必要とされる能力等について調査及び分析を行い、社員の教育・研修計画を策定する業務
⑸ 財務・経理を担当する部署における業務のうち、財務状態等について調査及び分析を行い、財務に関する計画を策定する業務
⑹ 広報を担当する部署における業務のうち、効果的な広報手法等について調査及び分析を行い、広報を企画・立案する業務
⑺ 営業に関する企画を担当する部署における業務のうち、営業成績や営業活動上の問題点等について調査及び分析を行い、企業全体の営業方針や取り扱う商品ごとの全社的な営業に関する計画を策定する業務
⑻ 生産に関する企画を担当する部署における業務のうち、生産効率や原材料等に係る市場の動向等について調査及ぶ分析を行い、企業全体の営業方針や取り扱う商品ごとの全社的な営業に関する計画を策定する業務
⑴ 経営に関する会議の庶務等の業務
⑵ 人事記録の作成及び保管、給与の計算及び支払、各種保険の加入及び脱退、採用・研修の実施等の業務
⑶ 金銭の出納、財務諸表・会計帳簿の作成及び保管、租税の申告及び納付、予算・決算に係る計算等の業務
⑷ 広報誌の原稿の校正等の業務
⑸ 個別の営業活動の業務
⑹ 個別の製造等の作業、物品の買い付け等の業務
裁量労働制のもとでも残業代が出る3つのケース
裁量労働制のもとでも、会社は常に残業代を支払わなくてもいいわけではありません。
裁量労働制のもとでも残業代が出るケースとしては、以下の3つがあります。
ケース1:法定労働時間を超えて労働したとみなされるケース
ケース2:法定休日に労働したケース
ケース3:深夜に労働したケース
順番に説明していきます。
ケース1:法定労働時間を超えて労働したとみなされるケース
裁量労働制のもとでも残業代が出るケースの1つ目は、法定労働時間を超えて労働したとみなされるケースです。
裁量労働制が適用される場合には、労使協定又は労使委員会の決議により定めた時間労働したものとみなされます。
そこで、労働したものとみなされた時間が法定労働時間(1日8時間・1週40時間)を超える場合には、通常の1.25倍の時間外残業代を支払う必要があるのです。
例えば、1日9時間労働したものとみなすとされている場合には、法定労働時間である1日8時間を1時間超過していることになりますので、1時間分の時間外残業代を支払う必要があります。
そのため、会社は、裁量労働制のもとでも、労働者が法定労働時間を超えて労働したとみなされるケースでは、残業代を支払わなければなりません。
ケース2:法定休日に労働したケース
裁量労働制のもとでも残業代が出るケースの2つ目は、法定休日に労働したケースです。
裁量労働制が適用される場合でも、法定休日に関する規定は、通常どおり適用されます。
そこで、法定休日に労働した場合には、通常の1.35倍の休日残業代を支払う必要があるのです。
例えば、日曜日が法定休日とされている会社で、日曜日に出勤した場合には、その分の休日残業代を支払う必要があります。
そのため、会社は、裁量労働制のもとでも、労働者が法定休日に労働したケースでは、残業代を支払わなければなりません。
ケース3:深夜に労働したケース
裁量労働制のもとでも残業代が出るケースの3つ目は、深夜に労働したケースです。
裁量労働制が適用される場合でも、深夜に関する規定は、通常どおり適用されます。
そこで、深夜に労働した場合には、通常の0.25倍の深夜残業代を支払う必要があるのです。
例えば、午後10時~午前5時の間に働いた場合には、深夜に働いたものとして、深夜残業代を支払う必要があります。
そのため、会社は、裁量労働制のもとでも、労働者が深夜に労働したケースでは、残業代を支払わなければなりません。
裁量労働制がとられている場合の残業代の計算方法
それでは裁量労働制がとられている場合の残業代の計算方法について説明していきます。
労働基準法上、残業代については、以下の方法により計算することになります。
STEP1:基礎賃金は、以下に列挙する手当等以外の賃金の合計額です。
・家族手当
・通勤手当
・別居手当
・子女教育手当
・住宅手当
・臨時に支払われた賃金
・1か月を超える期間ごとに支払われる賃金
STEP2:所定労働時間というのは、会社において決められた労働時間です。
STEP3:割増率は以下のとおりです。
・法定時間外:1.25倍
・法定休日:1.35倍
・深夜:0.25倍
STEP4:残業時間は、法定労働時間外や法定休日、深夜に働いた時間です。
裁量労働制の場合には、先ほど説明したように、法定労働時間を超えて労働したとみなされる時間が法定時間外残業時間となります。法定休日労働や深夜労働については、通常どおりに算定します。
裁量労働制によくある疑問
裁量労働制によくある疑問としては以下の3つがあります。
疑問1:裁量労働制で残業しないことも許される?
疑問2:裁量労働制とみなし残業(固定残業代)の違いは?
疑問3:裁量労働制とフレックスタイム制の違いは?
これらの疑問について順番に解消していきます。
疑問1:裁量労働制で残業しないことも許される?
裁量労働制のもとでは、残業をしないことも許されます。
裁量労働制は、業務遂行の手段及び時間配分の決定に関し使用者が具体的な指示をしないとされており、時間配分については労働者の裁量に委ねられています。
例えば、1日のみなし労働時間が9時間とされている場合でも、実際には8時間しか労働しないことも許されます。
万が一、残業を命じられることがある場合には、裁量労働制の適用条件を満たしていない可能性があります。
疑問2:裁量労働制とみなし残業(固定残業代)の違いは?
裁量労働制とみなし残業(固定残業代)は、「一定の時間働いたものとみなす制度」か、「一定の残業代を支給する制度」かという違いがあります。
裁量労働制は、実際の労働時間にかかわらず、一定の時間労働したものとみなす制度です。例えば、実際には9時間働いた場合でも、8時間労働したものとみなされる場合があります。
これに対して、みなし残業(固定残業代)は、実際に残業をしたかどうかにかかわらず、一定の残業代を支給する制度です。例えば、労働者の残業時間が月5時間程度であったとしても、月30時間分に相当するみなし残業代を支給するとされている場合には、みなし残業代は全額支給されることになります。
また、みなし残業代が法律上支払う必要のある残業代に足りない場合には、会社は、差額を支払う必要があります。例えば、労働者の残業時間が月35時間程度であった場合には、月30時間分に相当するみなし残業代しか支給されていない場合には、会社は5時間分の残業代を別途支給する必要があります。
みなし残業代については、以下の記事で詳しく解説しています。
疑問3:裁量労働制とフレックスタイム制の違いは?
裁量労働制とフレックスタイム制の違いは、「一定の時間働いたものとみなす制度」か、「総枠の範囲内で始業時刻や終業時刻を自由に決められる制度」かです。
裁量労働制は、労働時間の配分等は労働者の裁量に委ねられており、実際に働いた時間に関わらず、事前に決めておいた時間働いたものとみなす制度です。
フレックスタイム制は、事前に一定期間の総労働時間を決めておき、その総枠の範囲内で労働者が自由に始業時刻や終業時刻を決めることができる制度です。実際に働いた時間が労働時間となります。
フレックスタイム制については、以下の記事で詳しく解説しています。
残業代の請求方法
残業代の請求手順は以下のとおりです。
まず、残業代を請求するためには、時効を一時的に止めたり、資料の開示を請求したりするために、内容証明郵便により、会社に通知書を送付することになります。
会社から資料が開示されたら、それをもとに残業代を計算することになります。
残業代の金額を計算したら、その金額を支払うように会社との間で交渉することになります。
話し合いでの解決が難しい場合には、労働審判などの裁判所を用いた手続きを検討することになります。
労働審判とはどのような制度かについては、以下の動画でも詳しく解説しています。
交渉や労働審判での解決が難しい場合には、最終的に、訴訟を申し立てることになります。
残業代の請求方法については、以下の記事で詳しく解説しています。
残業代請求の方法・手順については、以下の動画でも詳しく解説しています。
裁量労働制で残業代が出ないことに疑問を感じたら弁護士に相談!
裁量労働制で残業代が出ないことに疑問を感じたら弁護士に相談することがおすすめです。
弁護士に相談すれば、あなたの会社でとられている裁量労働制が条件を満たしているかどうか、未払いの残業代が発生していないかを確認してもらうことができます。
また、弁護士に依頼すれば、会社との交渉や残業代の計算などの煩雑な手続きを丸投げしてしまうことができます。
ただし、弁護士にも得意分野や苦手分野がありますので、残業代請求に注力している弁護士に相談することがおすすめです。
初回無料相談を利用すれば費用をかけずに相談することができますので、これを利用するデメリットは特にありません。
そのため、裁量労働制のもとで働いている方が残業代を請求したいと考えている場合には、まずは弁護士に相談してみることがおすすめなのです。
まとめ
以上のとおり、今回は、裁量労働制について、その意味や条件などの基本的な知識を説明した上で、残業代が出る3つのケースと正確な残業代の計算方法について解説しました。
この記事の要点を簡単にまとめると以下のとおりです。
・裁量労働制とは、一定の業種の方について実際の労働時間数に関わらず、一定の労働時間数だけ労働したものとみなす制度です。
・裁量労働制には、「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」の2種類があります。
専門業務型裁量労働制とは、業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分等を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある専門的業務に労働者を就かせた場合に、あらかじめ定めた時間働いたものとみなす制度です。
企画業務型裁量労働制とは、業務の性質上、その遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある事業の運営に関する事項の企画等の業務に労働者を就かせた場合に、あらかじめ定めた時間働いたものとみなす制度です。
・裁量労働制のもとでも残業代が出るケースとしては、以下の3つがあります。
ケース1:法定労働時間を超えて労働したとみなされるケース
ケース2:法定休日に労働したケース
ケース3:深夜に労働したケース
この記事が裁量労働制のもとで残業代が出ないことに悩んでいる方の助けになれば幸いです。
以下の記事も参考になるはずですので読んでみてください。
裁量労働制がやばいと言われる理由については、kyozonの以下の記事でも説明されていますので読んでみてください。
裁量労働制がやばいと言われるのは何故?そもそも違法となるケースも | SaaSの比較・資料請求サイト | kyozon