不当解雇・退職扱い

私物引取の注意点

 会社から解雇された場合や意に反して退職扱いをされてしまった場合に、使用者から私物の引き取りに協力するように言われる場合があります。このような場合、どのように対応すればよいのでしょうか。今回は、私物引取の注意点やポイントを解説していきます。

私物引取とは

 使用者は、労働者を解雇及び退職扱いした後に、その労働者の私物が残置されている場合には、会社施設の所有権、占有権、管理権等が侵害されているとして、労働者に対して、残置している私物の引き取りを求めることが通常です。
 もっとも、解雇や退職の効力を争っているような場合には、私物を巡り新たな紛争に発展しかねません。そのため、可能な限り、新たな紛争が生じることを防ぐために適切に対応するよう心掛ける必要があります。

私物が勝手に処分されそうな場合

 使用者によっては、労働者の同意を得ることなく、労働者の私物を処分・売却しようとする場合があります。
 しかしながら、労働者が社内に残置していたとはいえ、これらの私物については労働者の所有権が及んでいますので、会社がこれを同意なく処分・売却することは、原則として、違法となります。民事上は不法行為(民法709条)、刑事上は器物損壊罪(刑法261条)などが問題になります。
 そのため、会社が私物を一方的に処分・売却しようとしている場合には、そのような行為は違法であり許されないため、直ちに中止するように伝えるべきです。
 なお、実際に、使用者が私物を一方的に処分・売却してしまった場合には、被害回復を図るためには、どのような私物が処分・売却されてしまったのかを主張立証しなければならず、これは決して容易な事ではありません。そのため、処分・売却されてしまう前に対応することが重要となります。

私物引取を求められた場合

 私物引取を求められた場合には、どのように対応するのがよいのでしょうか。

私物の引き取りには協力すべき

⑴ 無視した場合

 私物の引き取りを求められた場合には、これを無視するべきではありません。
 使用者は、私物の引き取りにつき労働者と連絡が取れない場合には、⑴労働者の身元保証人や緊急連絡先として指定している人物に連絡を取り私物の受け取りを求めるか、又は⑵使用者の施設の所有権・占有権・管理権等に基づく妨害排除請求の訴訟提起を行い、判決を受け強制執行をすることになります。

⑵ 受取りを拒否した場合

 では、労働者は、会社からの解雇若しくは退職扱いを争っており、会社に未だ在籍しているため、私物の受け取りには協力できないと回答することはどうでしょうか。
 使用者は、労働者が受け取りを拒否した場合においても、施設の所有権・占有権・管理権等に基づく妨害排除請求の訴訟提起を行い、判決を受け強制執行をすることになります。また、それのみにとどまらず、労働者は、退職日以降の保管料を請求される場合もあります

⑶ 小括

 上記のように無視した場合及び拒否した場合、いずれも紛争が拡大することになるため、争点を限定するべく、私物の引き取りには協力するという対応をすることが穏当です。

解雇・不当な退職扱いとの関係

 解雇・不当な退職扱いを争っている事案において、何ら異議を述べることなく私物の引き取りに協力した場合には、後に、使用者から解雇・退職扱いが有効であることを前提とした行為であると主張されることがあります。
 そのため、私物の引き取りに協力する際にも、労働者としては解雇・退職扱いは無効であると考えている旨、私物の引き取りに協力するのはあくまでも争点を限定するためである旨を明示しておくべきです。

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受け渡し方法

⑴ 郵送

 受け渡しの方法として郵送が検討される場合があります。
 この方法の問題点としては、①私物の不足・滅失の危険、②送料の負担があります。
 まず、①私物の不足・滅失の危険について、私物を現状の場所から動かすわけですので、発送の際などに詰め込んでいない私物があったり、滅失してしまうものがあったりする可能性があります。そのため、郵送による場合、使用者から「労働者は不足・滅失について異議を述べないこと」等の同意を求められることがあります。その場合、労働者としては、このリスクを甘受して郵送を希望するか、直接受け取りに行くかを判断することになります。
 次に、②送料の負担が問題となります。私物が大きい場合や私物の量が大きい場合には送料も高額になりますので、重要な問題です。使用者側は、着払いであれば郵送の方法により発送するなど述べる場合がります。その場合には、送料がどの程度になるかを確認した上で、その費用を甘受して郵送を希望するか、直接受け取りに行くかを判断することになります。

⑵ 直接の引き渡し

 上記のようなリスクを考慮し、直接の引き渡しの方法が検討される場合があります。
 この場合、いつ、どこで受け渡しを行うかを事前に協議する必要があります。
 また、当日、受領証への署名押印を求められる場合があります。当日、現場で、受領証の記載を確認していては、内容やリスクを適切に判断することは難しい場合もあります。そのため、使用者に対して、当日署名押印を求める書面等があるのであれば、確認のため事前に送付してほしいと伝えておくべきでしょう。

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弁護士 籾山善臣
神奈川県弁護士会所属。不当解雇や残業代請求、退職勧奨対応等の労働問題、離婚・男女問題、企業法務など数多く担当している。労働問題に関する問い合わせは月間100件以上あり(令和3年10月現在)。誰でも気軽に相談できる敷居の低い弁護士を目指し、依頼者に寄り添った、クライアントファーストな弁護活動を心掛けている。持ち前のフットワークの軽さにより、スピーディーな対応が可能。 【著書】長時間残業・不当解雇・パワハラに立ち向かう!ブラック企業に負けない3つの方法 【連載】幻冬舎ゴールドオンライン:不当解雇、残業未払い、労働災害…弁護士が教える「身近な法律」 【取材実績】東京新聞2022年6月5日朝刊、毎日新聞 2023年8月1日朝刊、区民ニュース2023年8月21日
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