労働一般

出張-海外出張を拒否することは許されるか-

 業務によっては、使用者から遠方への出張を命じられる場合があります。そして、近年のグローバル化の傾向からは、国内の出張のみならず、国外への出張を命じられるケースが増えてきています。もっとも、国外ですとその間の生活等が一変することになりますので、必ずしもこれに応じなければならないとすると労働者に酷な場合があります。では、労働者はいかなる場合に出張を拒否することができるのでしょうか。今回は、出張に関して解説していきます。

出張とは

 出張とは、労働者が雇用契約締結当事者である使用者の業務を遂行するために、その指揮命令のもとに通常の勤務場所以外の場所で労務を給付することをいいます。
 転勤とは、以下の点が異なります。

⑴ 住居の変更を伴わない
⑵ 勤務場所の変更が短期的
⑶ 指揮命令権等の変化がない

 出向とは、以下の点が異なります。

⑴ 勤務先が使用者のまま変更がない

出張命令の根拠

 では、使用者が労働者に対して出張の命令をするのに就業規則等の根拠は必要なのでしょうか。
 これについて、使用者は、就業規則等の根拠がなくとも労働者に対して、出張を命じることができるとされています。

【東京地判昭47.7.15判タ279号183頁[石川島播磨重工業事件]】
 「一般的には、出張とは労働者が雇用契約締結当事者である使用者の業務を遂行するために、その指揮命令のもとに通常の勤務場所以外の場所で労務を給付する場合をいう。被告会社の就業規則第三八条に規定する出張も、これと異別なものと解すべき根拠はない。一方いわゆる出向とは、労働者が使用者との雇用契約を継続しながら、本来使用者の指揮命令下にない第三者、通常関連会社等に派遣され、その指揮、監督を受けながらその業務を遂行することをいう。」
 「…被告においてI・S・Cへの出張といわれているところのものは、被告の従業員たる身分は失わず、I・S・Cの労務指揮、監督のもとにおいて平均六か月位の間I・S・Cの業務に従事するものであることが認められる。前認定によれば、原告のI・S・C横浜工場への出張は、正にこの場合に該当するものと認められるから、それは被告会社内において通常出張と呼称されていたとしても、本質的には出向であり、しかもその期間も定められていなかつたのであるから、結局実質的には無期限出向と何ら変りないものといわなければならない。出張命令は、一般的に労務指揮権の範囲内に属することであるから、就業規則に根拠を求めるまでもなく有効に発することができるが、出向をこれと同一に論ずることはできない。

海外出張の特殊性

 もっとも、海外出張については、長期間に及ぶこと労務環境が著しく変化すること治安悪化等による危険があることから、国内の出張とは別途の考慮を要します。

長期間に及ぶこと

 長期出張により労働者の負担が大きく事実上転勤と同視されるような場合には、配転命令に準じて考えられます。そのため、契約説によれば、海外出張の根拠規定が必要になります。
 また、①「当該転勤命令につき業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても」、②「当該転勤命令が他の不当な動機・目的をもつてなされたものであるとき若しくは」、③「労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき」には権利の濫用となります(最二小判昭61.7.14集民148号281頁[東亜ペイント事件])。つまり、事実上転勤と同視される場合で、業務上の必要性がない場合不当な動機目的がある場合不利益が著しい場合には、無効となる可能性があります。

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労務環境が著しく変化すること

 海外出張については、労務環境が著しく変化し、労働者や家族に対する影響が大きいので、この点からも就業規則等に海外出張命令の根拠がなければならないと考えられています。

治安悪化等による危険があること

 就業規則に海外出張命令に関する規定が存在する場合であっても、自己の生命・身体の危険を理由に、治安悪化地域への海外出張命令を拒否することは、正当な理由によるものであり、これを理由に懲戒処分することはできないと考えられます。

【最判昭43.12.24民集22巻13号3050頁[千代田丸事件]
 「本件千代田丸の出航についても、米海軍艦艇の護衛が付されることによる安全措置が講ぜられたにせよ、これが必ずしも十全といいえないことは、…実弾射撃演習との遭遇の例によつても知られうるところであり、かような危険は、労使の双方がいかに万全の配慮をしたとしても、なお避け難い軍事上のものであつて、海底線布設船たる千代田丸乗組員のほんらい予想すべき海上作業に伴う危険の類いではなく、また、その危険の度合いが必ずしも大でないとしても、なお、労働契約の当事者たる千代田丸乗組員において、その意に反して義務の強制を余議なくされるものとは断じ難いところである。」

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弁護士 籾山善臣
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