主任になったら残業代が出なくなってしまって困っていませんか?
せっかく役職が就いたのに手取り金額が余り増えなければ、不満に感じますよね。
主任で残業代が出ない方は少数派であり、ほとんどの主任職の方には残業代が出ています。
主任には十分な権限や裁量、待遇が与えられていないことが多いので、残業代をなしとすることは労働基準法に反し違法される可能性が高いです。
主任手当をみなし残業代として支給することも可能ですが、契約書や就業規則上の根拠が必要となりますし、仮に根拠があっても不足する差額については別に残業代を支給する必要があります。
もし、主任になって残業代が出なくなってしまった場合には、残業代を取り戻すために自分から動いていく必要があります。
実は、十分な権限や裁量、待遇が与えられていないのに主任であることを理由に残業代が出なくなってしまった方は、3年の時効にかかっていない範囲で遡って残業代を取り戻せる可能性があります。
これは会社を退職した後でも同様です。
この記事をとおして、主任として働く方々に残業代について正しい知識や考え方を知っていただければ幸いです。
今回は、主任の残業代について、残業代が出ないことの違法性や主任手当との関係を説明したうえで、対処法について解説していきます。
具体的には、以下の流れで説明していきます。

この記事を読めば、主任になって残業代が出なくなってしまった場合にどうすればいいのかがよくわかるはずです。



目次
主任で残業代が出ないのは少数派
主任で残業代が出ない方は少数派であり、ほとんどの主任職の方には残業代が出ています。
時間外手当が支給の有無について、主任級の方は、84.6%が支給されたと回答しており、支給されていないとの回答は12.1%にとどまっています(残りの3.4%は無回答)。
(出典:東京都産業労働局「労働時間管理に関する実態調査」[平成29年3月]100頁、205頁)
つまり、主任なのに残業代が支払われていないのは、10人に1人程度ということになります。
そのため、主任になったことで残業代が支給されなくなってしまうというのは、普通のことではないということを知っておく必要があります。
主任だから残業代なしは違法?|名ばかり管理職なことが多い
主任には十分な権限や裁量、待遇が与えられていないことが多いので、残業代をなしとすることは労働基準法に反し違法される可能性が高いです。
労働基準法では、原則、1日8時間以上労働した場合、週に1日の法定休日に労働した場合には、時間外残業代や休日残業代を支給する必要があるとされています。
これに対し、例外的に、労働者が管理監督者に該当する場合は、時間外や休日に関する規定が適用されなくなる結果、時間外残業代や休日残業代を支給する必要はないとされています。
しかし、管理監督者に該当するのは、管理職の方でも、ほんの一握りに過ぎず、すべての管理職が管理監督者に該当すると考えられているわけではありません。

具体的には、管理監督者に該当するためには、以下の3つの条件をいずれも満たす必要があります。
条件1:経営者との一体性
条件2:労働時間の裁量
条件3:対価の正当性
経営者との一体性というのは、経営会議に参加して十分な発言力があったり、部下の労務管理を行ったりしていることです。
労働時間の裁量については、出退勤の時間や休日を自分で自由に決められることです。
対価の正当性については、残業代が支払われなくても十分なほどの待遇が与えられていることをいいます。
主任の方の場合には、経営会議に参加していなかったり、部下がいなかったり、働く日や時間を自由に決められなかったり、十分な給与が支給されていない傾向にあります。
そのため、主任に対して残業代を支給しないことは違法となりやすいのです。
部下なし管理職については、以下の記事で詳しく解説しています。

管理職とタイムカードについては、以下の記事で詳しく解説しています。

管理職にふさわしい待遇については、以下の記事で詳しく解説しています。

主任の主任手当(役職手当)とみなし残業代
主任になると主任手当(役職手当)が支給されることになりますが、みなし残業代として扱われていることがあります。
みなし残業代とは、残業をしたかどうかに関わらず、固定の金額を残業代として支給するものです。
みなし残業代自体は直ちに違法となるものではなく、主任手当をみなし残業代と扱うことも有効となることがあります。
ただし、みなし残業代として支給するためには、雇用契約書や就業規則に主任手当がみなし残業代であるとの記載をしておくなどの根拠が必要となります。
また、仮に主任手当がみなし残業代に該当する場合であっても、実際の残業時間に対して支払うべき残業代金額に不足する場合には、会社は差額を支払わなければなりません。
つまり、みなし残業代として主任手当を支給しているため、何時間残業をさせても、残業代を支給しなくてもいいということにはなりません。
そのため、会社側がみなし残業代として主任手当を支給しているとの言い分を述べる場合であっても、別に残業代を請求できる可能性があります。
主任の残業代に関する裁判例
主任の残業代に関する裁判例については、いくつかあります。
例えば、主任の残業代に関する裁判例を2つ厳選して紹介すると以下のとおりです。
・大阪高判平成元年2月21日労判538号63頁[京都福田事件]
・東京地裁平成9年8月1日労判722号62頁[ほるぷ事件]

それでは、これらの裁判例について順番に説明していきます。
大阪高判平成元年2月21日労判538号63頁[京都福田事件]
生コンクリートの製造販売を行う会社で主任として働いていた従業員が、残業代の請求をした事案です。
同裁判例は、管理監督者に該当せず、役職手当も時間外手当を含むものではないと判示されています。
理由としては、以下の事項が挙げられています。
・就業規則は、労基法四一条二号に該当し同規則上労働時間等に関する規定を適用しないものとして部長、次長、工場長、課長を挙げているが、主任や工場課長は挙げていないこと
・賃金規定上、役職手当は時間外勤務手当の算定の基礎の一つとされており、役職手当が時間外勤務手当をも含んでいるものではないこと
・出社・退社の勤務時間等は、一般従業員と比較してこれよりも厳格な制限を受けていなかったとはいえず一般従業員と全く変わらなかったこと
・経営者と一体的立場にあったとはいえないこと
・会社は本件訴訟が控訴審に係属するまでは管理職であるとの指摘は全くしていなかったこと
東京地裁平成9年8月1日労判722号62頁[ほるぷ事件]
書籍等の訪問販売をする会社で販売主任として働いていた従業員が残業代を請求した事案です。
同裁判例は、管理監督者に該当しないと判示しています。
理由としては、以下の事項が挙げられています。
・タイムカードにより厳格な勤怠管理を受けており、自己の勤務時間について自由裁量を有していなかったこと
・他の課長や主任のタイムカードの確認印は各人が押しており、当該販売主任が勤怠管理を行っていたものではないこと
・当該販売主任が売上集計や支店長不在時の会議の取りまとめ、支店長会議への出席あるいは朝礼時に支店長からの指示事項を伝えることはあっても、支店営業方針を決定する権限や、具体的な支店の販売計画等に関して独自に課長らに対して指揮命令を行う権限をもっていたと認めるに足りる証拠はないこと
主任で残業代が出ない場合の対処法
主任になって残業代が出なくなってしまった場合には、残業代を取り戻すために自分から動いていく必要があります。
会社は、様々な言い分を述べて残業代の支払いを免れようとしますので、労働者が行動を起こさなければ状況は改善しません。
具体的には、残業代が出ない場合には、以下の手順で対処していきましょう。
手順1:弁護士に相談する
手順2:通知書を送付する
手順3:交渉する
手順4:労働審判・訴訟を提起する

それでは、これらの手順について順番に説明していきます。
手順1:弁護士に相談する
主任で残業代が出ない場合の対処手順の1つ目は、弁護士に相談することです。
法的な見通しや費用対効果について、確認したうえで方針を検討していくといいでしょう。
また、どのような証拠を集めればいいのかなどについても助言してもらうことができます。
ただし、専門性が高いため、弁護士であれば誰でもいいというわけではなく、労働問題に注力していて、管理職の残業代問題に実績のある弁護士を探すといいでしょう。
手順2:通知書を送付する
主任で残業代が出ない場合の対処手順の2つ目は、通知書を送付することです。
残業代には3年の時効がありますが、通知書等で支払いを請求することで6か間時効の完成が猶予されます。この間に正確な残業代金額を計算し、交渉することになります。
また、不足する証拠などがある場合には、会社側に開示を求めるといいでしょう。
手順3:交渉する
主任で残業代が出ない場合の対処手順の3つ目は、交渉することです。
会社から回答があると争点が明らかになりますので、話し合いにより折り合いをつけることが可能かどうか協議するようにしましょう。
示談により解決することができれば、少ない負担と労力で早期に良い解決をできる可能性があります。
手順4:労働審判・訴訟を提起する
主任で残業代が出ない場合の対処手順の4つ目は、労働審判・訴訟を提起することです。
話し合いにより解決することが難しい場合には、裁判所を用いた解決を検討しましょう。
労働審判というのは、全3回の期日で調停を目指すものであり、調停が成立しない場合には裁判所が一時的な判断を下すものです。
労働審判については、以下の記事で詳しく解説しています。

労働審判については、以下の動画でも詳しく解説しています。
訴訟は、期日の回数の制限などは特にありません。1か月に1回程度の頻度で期日が入ることになり、交互に主張を繰り返していくことになります。解決まで1年程度を要することもあります。
残業代の訴訟については、以下の記事で詳しく解説しています。

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まとめ
以上のとおり、今回は、主任の残業代について、残業代が出ないことの違法性や主任手当との関係を説明したうえで、対処法について解説しました。
この記事の要点を簡単に整理すると以下のとおりです。
・主任で残業代が出ない方は少数派であり、ほとんどの主任職の方には残業代が出ています。
・主任には十分な権限や裁量、待遇が与えられていないことが多いので、残業代をなしとすることは労働基準法に反し違法される可能性が高いです。
・主任になると主任手当(役職手当)が支給されることになりますが、みなし残業代として扱われていることがあります。
・残業代が出ない場合には、以下の手順で対処していきましょう。
手順1:弁護士に相談する
手順2:通知書を送付する
手順3:交渉する
手順4:労働審判・訴訟を提起する
この記事が、残業代が出なくなってしまい困っている主任職の方の助けになれば幸いです。
以下の記事も参考になるはずですので読んでみて下さい。

