不当解雇の裁判のことがよくわからずに悩んでいませんか?
不当解雇の裁判とは、解雇がされた場合にあなたの権利を認めてもらうために裁判所に判決を求めるものです。
裁判については実際に経験したことがないとわからないことがたくさんあるはずです。
例えば、どのような手続きで裁判が進んでいき、どのくらいの期間がかかるのか、裁判にかかる費用はどのくらいかなどは、見通しを立てるうえで重要なことです。
不当解雇の裁判では、多くの場合、会社側には顧問弁護士が代理人として就きます。
そのため、あなたが不当解雇の裁判をする際に、その手続きがよくわからないと、情報に大きな格差が生じてしまい、不利な戦いを強いられることになってしまうのです。
また、不当解雇を争う場合には、「その期間の生活費をどのように確保するのか」、「勝った後や負けた後はどうなるのか」も知っておかなければなりません。
今回は、不当な解雇の裁判について、経験しないとわかりにくい流れ・期間・費用などの相場及びよくある悩みを徹底解説します。
具体的には、以下の流れで説明してきます。
この記事を読めば不当解雇の裁判についての疑問が解消するはずです。
不当解雇の裁判については、以下の動画でも分かりやすく解説しています。
目次
不当解雇の裁判とは
不当解雇の裁判とは、あなたが解雇は不当だと感じた場合に、裁判所にあなたの地位の確認や金銭的な請求についての判決を求めていくものです。
裁判を受けることができる権利は、憲法上認められています。そのため、解雇問題についても、これが不当であると感じた場合には、あなたは地位や権利について裁判所に判断してもらうことができます。
例えば、多くの場合、会社に対して、解雇は不当だと主張しても簡単には認めてくれません。会社によっては、明らかに不合理な理由であるにもかかわらず、解雇は有効だと固執することがあります。
このような場合には、裁判所にいずれの主張が正しいのかを判断してもらい、紛争を解決することになります。
不当解雇の裁判で求める権利
不当解雇の裁判で求める権利としては、例えば以下3つがあります。
・雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認
・解雇後の賃金請求
・慰謝料請求
それぞれについて説明します。
雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認
不当解雇の裁判で求める権利の1つ目は、
です。
なぜなら、解雇が濫用に当たる場合には、その解雇は無効となるためです。
そして、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認をすることにより、今後の労働者と会社の法律関係を明確にすることができます。
そのため、解雇を争う場合には、このような権利を確認していくことが一般的です。
解雇後の賃金請求
不当解雇の裁判で求める権利の2つ目は、
です。
解雇された後は、通常、会社から出勤することを拒否されます。そうすると、労働者は、働いていない以上、その分の賃金は請求できないのではないか疑問に感じますよね。
しかし、解雇が無効である場合には、労働者が勤務することができなかった原因は会社にあります。
そのため、労働者は、解雇が不当である場合には、その後出勤していなくても、解雇された後の賃金を請求することができます。
そして、解雇後の賃金は、解雇されてから解決するまでの賃金が支払われることになります。
そのため、労働者が解雇を争う場合、この解雇された後の賃金の請求が最も大きな請求になることが多いのです。
ただし、解雇後に、他の会社で働いて収入を得ている場合には、他の会社で得た収入金額が平均賃金の6割を超える部分から控除されることに注意が必要です。
解雇後の賃金については、以下の記事で詳しく解説しています。
バックペイ(解雇後の賃金)については、以下の動画でも詳しく解説しています。
慰謝料請求
不当解雇の裁判で求める権利の3つ目は、
です。
不当解雇の慰謝料の相場は、
とされています。
不当解雇の慰謝料については、以下の動画でも詳しく解説しています。
不当解雇の裁判で解雇予告手当や退職金を請求していくかどうかは、あなたが会社にどのような主張していくかにより異なります。
解雇予告手当とは、会社が労働者に対して予告をしないで、いきなり解雇する場合に、支払わなければならない手当です。
退職金は、法律の明文で支給の義務が定められているわけではありませんが、会社に退職金規程などがある場合には、これに従い請求できる場合があります。
解雇予告手当や退職金は、解雇が有効であることを前提とする請求になります。
そのため、あなたが「雇用契約上の権利を有する地位の確認」や「解雇後の賃金請求」をする場合には、解雇予告手当や退職金の請求をすることは矛盾してしまいます。
以上より、解雇予告手当や退職金は、あなたが解雇の無効を前提に、雇用契約上の権利を有する地位の確認や解雇後の賃金請求をする場合には、請求するべきではないのです。
これに対して、慰謝料請求は、解雇の無効を前提にするものではないので、解雇予告手当や退職金の請求とあわせて行うことができます。
不当解雇の裁判の流れ・期間
不当解雇の裁判は、以下の流れで進んでいきます。
①訴訟提起
②口頭弁論・弁論準備
③証人尋問
④判決
⑤確定・控訴
訴訟提起から判決までの期間は、おおよそ8か月~2年程度です。
判決後、控訴することができる期間は判決書の送達の日から2週間です。
訴訟提起
不当解雇の裁判は、訴訟提起により開始されます。
訴訟提起とは、裁判所に訴訟を申し立てることです。
訴訟提起をした後、問題がなければ1~2か月後に第1回期日が指定されることが多いです。
ただし、訴状に訂正すべきところがあったり、相手方から管轄についての意見が出されたりすると、第1回期日まで3か月程度かかることもあります。
口頭弁論・弁論準備
訴訟が開始された後は、口頭弁論・弁論準備が行われます。
口頭弁論とは、公開の法廷で、当事者が準備書面に基づいて主張を述べて、それを裏付ける証拠などを取り調べる期日です。
弁論準備とは、非公開の手続きで、主張や証拠の整理をする手続きです。実際に行うこと自体は、弁論期日と大きくは変わりません。裁判所内にある個室のテーブルなどで行うことが多いため、弁論期日よりも話しやすい環境です。
期日ごとの間隔は1か月~2か月程度空くことになり、通常、交互に主張が行われることになります。例えば、原告が準備書面を提出した場合には、次の期日は被告が準備書面を提出することが多いです。
弁論期日が2、3回行われた段階で、弁論準備期日となることが多い傾向にあります。
両者が十分な主張を尽くすまで、これらの期日が設けられることになり、6か月~1年半程度を要します。
主張が出尽くした段階で、一度、裁判官から和解の意向などを聞かれることが通常です。
証人尋問
当事者双方の主張が十分に出尽くした場合には、証人尋問を行うことになります。
証人尋問というのは、これまでの主張から明らかになった争点について、証人に質問することで証拠とする手続きです。
原告と被告の双方は、法廷において、証人に主尋問と反対尋問を交互に行います。
証人尋問がなされた後に、それを踏まて、当事者の主張が改めて行われることもあります。
判決
証人尋問が行われ、主張も出尽くしたところで、弁論は終結され、一定期間後に判決がなされることになります。
判決とは、あなたが確認や請求を求めている権利について、裁判所が判断をくだすものです。
判決については、判決期日において、公開の法廷で言い渡されます。ただし、実際には、法廷に当事者が判決を聞くために出席することは少ないです。
判決後に電話で裁判所に判決内容を確認して、後日、判決書で詳細を確認することになります。
確定・控訴
判決後、控訴する場合には、判決の送達を受けた日から2週間以内に、これを行う必要があります。
原告と被告の双方が期間内に控訴をしなかった場合には、判決は確定することになります。
不当解雇の裁判をする方法
不当解雇の裁判をするには、裁判所に必要書類と印紙、予納郵券を提出することになります。
申立に必要な書類は、以下のとおりです。
・訴訟の正本及び副本
・証拠説明書
・証拠書類の写し
・法人登記事項全部証明書(履歴事項証明書)=会社の登記
印紙代は、申立金額によって異なります。印紙代については、以下の裁判所のページを参考にしてください。
予納郵券については、申立てをする裁判所にその金額と組み合わせを確認しましょう。
申し立ては、通常、会社の所在地を管轄する裁判所に行うことが多いです。
不当解雇の裁判は、自分で行うことも不可能とまでは言いませんが、おすすめはしません。
訴訟手続きでは、法律や判例の知識を前提に主張や証拠の提出を行う必要があります。
自分で法律や判例を調べながら、書面を作成したり、証拠を集めたりすることには、非常に大きな労力がかかるのです。
もしも、あなたが自分で裁判をしようとする場合でも、弁護士の相談などをうまく活用して、方針やポイントについて助言をしてもらいながら行うのがよいでしょう。
不当解雇の裁判をするための証拠
不当解雇の裁判を行う場合には、証拠を集める必要があります。
裁判を行う場合には、事実関係について多くの争いが生じることになり、いずれの主張が正しいかは証拠をもとに判断されるからです。
具体的には、以下の証拠を集めましょう。
・雇用契約書
・労働条件通知書
・就業規則と賃金規程
・給与明細
・解雇や退職、業務指導に関するメール・LINE・チャット
・業務改善指導書
・始末書
・退職勧奨際に交付された書面
・解雇通知書又は解雇予告通知書
・解雇理由証明書
ただし、これらの証拠がすべてそろっていることは少ないので、手元にないものがあっても慌てる必要はありません。
もしも足りない証拠がある場合には、会社に開示を求めていくことになります。
不当解雇の裁判費用
不当解雇の裁判費用としては、以下のものが想定されます。
・印紙代
・予納郵券代
・書面の印刷代・郵送費
・裁判所への交通費
・弁護士費用
それでは順番に説明します。
印紙代
不当解雇の裁判費用の1つ目は、印紙代です。
印紙代というのは、訴訟を提起する際に裁判所に納める手数料です。
具体的には、訴額が1000万円までの訴状の印紙代は、以下のとおりです。
解雇事件の訴額の計算については、以下の方法により行われることが多いです。
①雇用契約上の権利を有する地位の確認
160万円(算定不能のため)
②解雇後の賃金請求
訴訟提起時に発生している賃金額+1年分の賃金額
③慰謝料請求
請求金額
⇒①②はいずれも解雇無効を原因とするもので1つの請求と扱われるため、訴額の低い方は、高い方に吸収されることになります。
そのため、最終的な訴額は、①②のいずれか高い方+慰謝料請求金額となります。
ただし、訴額の計算については、裁判所の運用により異なることがありますので、補正があった場合にはそれに従うことになります。
不当解雇の裁判では、訴額は300万円~750万円程度となることが多いでしょう。
つまり、印紙代は、事案によりますが、2万円~4万円程度となる傾向にあります。
予納郵券代
予納郵券代とは、裁判所から事件当時者等に郵便物を送付するための郵便料を納めるものです。余れば返してもらえますし、足りなくなったら追納することになります。
横浜地方裁判所では、通常訴訟の場合6000円とされています。
具体的には、以下のとおりとされています。
※詳しくは以下のサイトを参考にしてください。
裁判所:郵便料の納付について
書面の印刷代・郵送費
不当解雇の裁判では、準備書面や証拠の写しなどの書面を裁判所や会社に送付する必要があります。
そのため、その印刷代や郵送費がかかります。
裁判所への交通費
不当解雇の裁判では、期日について、電話やWEBにより出頭できる場合もありますが、裁判所への出頭が必要となる場合があります。
そのため、裁判所への交通費がかかります。
弁護士費用
不当解雇の裁判を弁護士に依頼する場合には、着手金や報酬金がかかります。
着手金とは、弁護士に事件を依頼して、弁護士が実際に事件にとりかかるために必要となる費用です。
解雇事件の着手金の相場は、0円~30万円程度です。
報酬金とは、弁護士に事件を依頼して、事件が実際に解決した場合に、その成功の程度に応じてかかる費用です。
解雇事件の報酬金の相場は、経済的利益の10%~20%程度です。
ただし、解雇事件の場合には、割合が低く見えても、経済的利益の捉え方によっては報酬金が高くなりますので注意が必要です。
例えば、解雇事件で勝訴した場合に、「1年分の年収金額を経済的利益としている事務所」と「3年分の年収金額を経済的利益としている事務所」では、同じ割合でも大きく金額が異なります。
また、「獲得した賃金額」と「雇用契約上の権利を有する地位の利益」を合算するのか、いずれか高い方のみを経済的利益の基準にするかによっても、大きく金額が異なります。
不当解雇の裁判の判例
不当解雇の裁判の判例につき、以下の2つを紹介します。
・能力不足を理由とする解雇を無効とした判例
・業務命令違反を理由とする懲戒解雇を無効とした判例
能力不足を理由とする解雇を無効とした判例
能力不足を理由とする解雇がなされた事案について、
裁判所は、成績不良を理由とする解雇が客観的に合理的かにつき、「労働契約上、当該労働者に求められている職務能力の内容を検討した上で、当該職務能力の低下が、当該労働契約の継続を期待することができない程に重大なものであるか否か、使用者側が当該労働者に改善矯正を促し、努力反省の機会を与えたのに改善がされなかったか否か、今後の指導による改善可能性の見込みの有無等の事情を総合考慮して決すべき」とした第1審判決(東京地判平24.10.5判時2172号132頁)を引用したうえで、
解雇された労働者が具体的な数値によって設定された課題をほぼ達成している上、会社が、客観的に労働者に求められる職務能力を立証するために提出した証拠は適切なものであったとは言い難いこと等を理由に、職務能力の低下が労働契約を継続することができないほどに重大なものであることを認められないとして、解雇を無効としています。
(参照:東京高判平25.4.24労判1074号75頁[ブルームバーグ・エル・ピー事件])
業務命令違反を理由とする懲戒解雇を無効とした判例
販売員として勤務していた従業員が指示された研修・出張命令を歯科治療に支障がある等の理由で拒否し、会社から歯科治療が終了したら連絡するようにとの指示を受け、それまでは欠勤として扱うため欠勤届を提出するように指示した後、再度発令された研修・出張命令に服さなかったことを理由に懲戒解雇された事案について、
裁判所は、会社は労働者が申請した労働局のあっせんに出席しなかったこと、1回目の研修・出張命令に対して労働者が「ごく一部の期間については同命令に服すことが可能となったので、至急連絡をもらいたい」旨の連絡をしているのに会社がこれに応答していないこと、2回目の研修・出張命令等の発出に際して、もしこれに違反したら懲戒解雇するなどと、いきなりこれを命じていることから、
唐突な印象を免れず、同命令等の必要性について十分な説明がされているとは言い難く、弁明の機会を当たる余地のない形式で懲戒解雇に至っているなどとして懲戒解雇を無効としました。
(参照:東京地判平20.2.29労判960号35頁[熊坂ノ庄すっぽん堂商事事件])
不当解雇の裁判で「勝訴した場合」と「敗訴した場合」
不当解雇の裁判をするのは、判決を得ること自体が目的ではありません。目的は、裁判で勝訴判決を得たその先にあります。
他方で、万が一、不当解雇の裁判で負けてしまった場合にどのようなリスクがあるのかについても気になるところですよね。
それでは、あなたが不当解雇の裁判で「勝訴した場合」と「敗訴した場合」について、どのようになるのかを説明していきます。
勝訴した場合
不当解雇の裁判で、あなたが勝訴した場合には、以下のとおり3つやることがあります。
・復職の時期や内容の協議
・認容された金銭の支払い
・社会保険や税金の処理
まず、1つ目は、あなたの復職の時期や内容について協議することです。雇用契約上の権利を有する地位にあることが確認されたら、あなたは解雇される前と同様の地位にあることになります。そのため、業務へ復帰する方法を具体的に話し合うのです。
ただし、会社によっては、裁判で負けても労働者を業務へ復帰させないことがあります。このような場合には、勝訴後に働けない原因も会社にあることから、労働者は就労することができなくても、勝訴後の賃金について請求できることになります。
次に、2つ目は、認容された金銭を支払ってもらうことです。裁判で認容された解雇後の賃金や慰謝料金額について、支払うように会社に求めましょう。会社が支払いに応じない場合には、会社の財産を差し押さえて強制執行をすることになります。
最後に、3つ目は、社会保険や税金の処理です。会社は、あなたが退職したことを前提に資格喪失の届出などをしてしまっていますので、これらについて訂正してもらう必要があります。また、あなたが失業保険の仮受給を受けている場合には、これを返還する必要があります。更に、解雇後の賃金が支払われることにより、それについて税金や社会保険料の支払いをしなければなりません。
解雇と社会保険料や税金については、以下の記事で詳しく解説しています。
敗訴した場合
不当解雇の裁判であなたが敗訴した場合のリスクとしては、労力や裁判費用が無駄になることです。
会社から高額の損害賠償請求をされてしまうのではないかと不安に感じている方もいますが、訴訟を提起したこと自体を理由にそのような請求をされるのは例外的な場合です。
裁判例でも、敗訴した場合に訴訟提起自体が不法行為となるのは、「提訴者が主張した権利又は法律関係…が事実的、法的根拠を欠くものであるうえ、提訴者が、そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのにあえて訴えを提起したなど、訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限る」とされています(最判昭63年1月26日民集42巻1号1頁)。
具体的には、あなたが解雇は有効であることを知っていたのに、会社を困らせるためにあえて損害賠償請求をしたというような場合が想定されますが、そもそも解雇が有効であると法的に断言できるケースはほとんどありません。
そのため、不当解雇の裁判で敗訴してしまうことを過度におそれる必要はありません。
不当解雇の裁判の前にするべきこと
不当解雇の裁判は、話し合いでの解決が難しい場合に用いることが多く、通常は裁判をする前にやるべきことがあります。
裁判になると期間や労力がかかることになるため、他の手段による解決ができないかをまずは検討するのです。
具体的には、裁判をする前に以下の3つのことを順に行いましょう。
やるべきこと1:解雇理由証明書の請求
やるべきこと2:交渉
やるべきこと3:労働審判
するべきこと1:解雇理由証明書の請求
不当解雇の裁判をする前にするべきことの1つ目は、解雇理由証明書の請求です。
解雇理由証明書とは、あなたが解雇された理由や根拠となる就業規則が具体的に記載された書面です。
あなたは、解雇理由証明書を請求することで自分が解雇された理由を知ることができますので、解雇が不当かどうか、解雇を争う場合にはどのような証拠を集めればいいのかを判断することができます。
会社は、労働者からの請求があった場合には、労働基準法上、解雇理由証明書を交付する義務があります。
解雇理由証明書の請求方法については、以下の記事で詳しく解説しています。
するべきこと2:交渉
不当解雇の裁判をする前にするべきことの2つ目は、交渉です。
会社との間で、双方の主張につき折り合いがつくかどうかを協議することになります。
するべきこと3:労働審判
不当解雇の裁判をする前にするべきことの3つ目は、労働審判です。
話し合いでの解決が難しい場合には、裁判所を用いた手続きを検討することになります。
労働審判というのは、全3回の期日で調停を目指すものであり、調停が成立しない場合には裁判所が一時的な判断を下すものです。労働審判を経ずに訴訟を申し立てることもできます。
ただし、以下の事件については労働審判に向いていないので、これを経ずに訴訟を提起することを検討してもいいでしょう。
⑴ 会社が和解に応じる可能性が低い場合
⑵ あなたが金銭的解決に応じる意向がない場合
⑶ 会社が資料の開示をせず文書提出命令等の手続きを行う必要がある場合
⑷ 事件が複雑で短期間による審理が困難な場合
不当解雇の裁判をする際によくある悩み
不当解雇の裁判をする際には、色々な悩みが生じてしまいますよね。
不当解雇の裁判をする場合によくある悩みとしては、例えば以下の3つがあります。
・不当解雇の裁判中に就職してもいいのかとの悩み
・裁判中の生活費はどうすればいいのかとの悩み
・不当解雇の裁判をすると再就職に不利になるかとの悩み
それではこれらの悩みについて、それぞれ解消していきます。
不当解雇の裁判中に就職してもいいのかとの悩み
不当解雇の裁判でよくある悩みの1つ目は、不当解雇の裁判中に就職してもいいのかとの悩みです。
結論としては、不当解雇の裁判中に再就職することは禁止されていません。
しかし、不当解雇の裁判中に再就職する場合には、以下の3つの点に注意が必要です。
①解雇後の賃金として請求できる金額が減少する
②就労の意思と黙示の合意退職を争われる
③解雇の撤回をされた場合には復帰する必要がある
まず、①解雇後に再就職して賃金を得ていた場合には、更に解雇した会社にも賃金を請求すると二重取りになってしまいます。そのため、平均賃金の6割を超える部分については、控除の対象となります。つまり、請求できる解雇の賃金額が平均賃金の6割程度まで減ってしまう可能性があります。
次に、②就労の意思と黙示の合意退職を争われる可能性があります。就労の意思と言うのは、解雇後の賃金を請求する前提として必要なもので、会社からの指示があれば働く意思があったことです。黙示の合意退職というのは、退職の意思を明示的に示してはいないが、再就職により黙示的に退職の意思が示されているとして、あなたが退職したものとすることです。解雇後に再就職したことのみから、直ちに就労の意思が否定されたり、合意退職が認定されたりするわけではありません。しかし、再就職後の労働条件が前職よりも良い場合や高い役職についている場合、再就職先で長期間働いている場合などには、不利になることがあります。
最後に、③会社は稀に解雇を撤回してくることがあります。会社が解雇を撤回した場合に、あなたが復帰を拒否すると、働く意思がなかったものとして、解雇後の賃金を請求できなくなる可能性があります。
解雇の撤回があった場合の対処法については、以下の記事で詳しく解説しています。
裁判中の生活費はどうすればいいのかとの悩み
不当解雇の裁判でよくある悩みの2つ目は、裁判中の生活はどうすればいいかとの悩みです。
不当解雇の裁判中は、通常、会社から給料が支払われませんので、生活費を確保するために何らかの対策を講じる必要があります。
具体的には、生活費を確保する方法としては以下の3つがあります。
①失業保険の仮給付
②賃金の仮払い仮処分
③解雇の再就職
①失業保険の仮給付とは、労働者が解雇を争う場合に、失業手当を仮に受給する措置です。法律上の明文はありませんが、解雇を争っている労働者を保護する必要性が大きいため運用上認められています。この方法については、90日~150日分程度の期間の生活費しか確保できないため、不当解雇の裁判期間に足りない可能性が高いです。また、不当解雇の裁判で勝訴した場合など、退職してなかったこととされた場合には、返還する必要があります。
失業保険の仮給付については、以下の動画でも詳しく解説しています。
②賃金の仮払い仮処分とは、通常訴訟による権利の実現を保全するために、簡易迅速な審理により、裁判所が一定の仮の措置を行う暫定的かつ付随的な処分です。最近は、仮払金額は債権者と家族の生活に必要な限度の額、仮払期間は将来分については本案1審判決言い渡しまで(東京地方裁判所では、原則として1年間)とされる傾向にあります。
③解雇後の再就職については、生活費を確保するために、解雇を争いながら他の会社で働くものです。禁止はされていませんが、先ほど説明したようなデメリットがあります。
以上より、解雇された当初は、①の失業保険の仮受給を受けることが一般的ですが、不当解雇の裁判をする場合には②③の対応も検討することになります。
不当解雇を争う場合の生活費は以下の記事で詳しく解説しています。
不当解雇の裁判をすると再就職に不利になるかとの悩み
不当解雇の裁判でよくある悩みの3つ目は、不当解雇の裁判をすると再就職に不利になるかとの悩みです。
あなたが不当解雇の裁判をすると、それを外部に漏らされてしまわないか不安ですよね。
まず、会社は、労働者の個人情報を勝手に外部に漏らすことは許されません。そのため、現在、多くの会社は、転職先に元従業員の情報を話さない傾向にあります。
また、従業員の社会的信用が下がるようなことを転職先の会社に言うことは許されません。実際、元雇い主が、懲戒解雇した労働者の再就職先に対して、その労働者が欠席をしたことや授業のやり方が悪い先生で困っていることなどを話したことが原因で、正式採用が延期された事案において、名誉毀損を理由に不法行為が成立しています(名古屋地判平16年5月14判タ1211号95頁)。
加えて、会社は従業員との間でトラブルを抱えていることを他の会社に話すメリットはありません。会社の労務管理が不十分だという目で見られるためです。
そのため、不当解雇の裁判をしたこと自体が再就職に不利になるということは、通常ありません。
これに対して、不当解雇の裁判で勝訴したり、和解したりすることにより、解雇の経歴が消えて、再就職しやすくなることも多いのです。
ただし、不当解雇の裁判中に、他の会社に再就職した場合には、先ほど説明したように解雇後の賃金額や就労の意思、黙示の合意退職との関係で争いとなります。そのため、再就職先に対して、裁判所をとおして調査が行われることなどがありますので注意が必要です。
不当解雇の裁判は弁護士に依頼しよう!
不当解雇の裁判は、法的な手続きとなりますので、法律の専門家である弁護士に任せてしまうのがおすすめです。
弁護士ごとに力を入れている分野がありますので、不当解雇の裁判については、解雇事件に注力している弁護士に依頼するのがいいでしょう。
弁護士に依頼することで、裁判所に提出する書面の作成や証拠の収集、期日への出頭などを丸投げしてしまうことができます。
つまり、あなたは、直接会社と交渉したり、裁判所とやり取りしたりする必要はなくなるのです。
会社は裁判になると多くの場合、顧問弁護士に依頼します。そのため、自分だけで不当解雇を争おうとすると、判例や法律の知識に大きな格差があり、不利な戦いを強いられることになってしまいます。
確かに、弁護士に依頼すると弁護士費用がかかります。万が一、裁判で負けてしまった場合に着手金などが無駄になるのではないかと不安に感じる方もいますよね。
このような不安を解消するためにも、まずは初回無料相談を利用して、依頼する前に見通しや費用を十分に確認しておくのがいいでしょう。
現在は、完全成功報酬制を採用している弁護士もいますので、そのような弁護士に依頼することで敗訴した場合に着手金が無駄になってしまうリスクを回避できます。
まとめ
以上のとおり、今回は、不当な解雇の裁判について、経験しないとわかりにくい流れ・期間・費用などの相場及びよくある悩みを解説しました。
この記事の要点を簡単にまとめると以下のとおりです。
・不当解雇の裁判で求めていく権利としては、①雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認、②解雇後の賃金請求、③慰謝料請求の3つがあります。
・不当解雇の裁判は、①訴訟提起、②口頭弁論・弁論準備、③証人尋問、④判決、⑤確定・控訴と言う流れで進んでいきます。訴訟提起から判決までの期間は、おおよそ8か月~2年程度です。
・不当解雇の裁判費用としては、①印紙代(2万円~4万円)、②予納郵券代(6000円)、③書面の印刷代・郵送費、④裁判所への交通費、⑤弁護士費用(着手金0円~30万円、報酬金10%~20%)が想定されます。
・裁判をする前にするべきこととして、①解雇理由証明書の請求、②交渉、③労働審判があります。ただし、事案により③を行わずに訴訟を提起した方がいい場合もあります。
この記事が不当解雇の裁判について悩んでいる方の助けになれば幸いです。
以下の記事も参考になるはずですので読んでみてください。