使用者は、労働者を採用するにあたりどの程度の自由があるのでしょうか。例えば、性別や思想信条を理由に不採用とすることは許されるのでしょうか。今回は、使用者の採用の自由について解説します。
採用の自由とは
採用の自由とは、使用者が「自己の営業のために労働者を雇傭するにあたり、いかなる者を雇い入れるか、いかなる条件でこれを雇うかについて、法律その他による特別の制限がない限り、原則として自由にこれを決定することができる」という自由です(最判平48.12.12民集27巻11号1536頁[三菱樹脂事件])。
一旦採用すれば解雇が抑制される我が国の長期雇用慣行ものとでは、採用の自由は、企業の有する人事権の中で制約を加えられるべきでない特別の自由として意識されています。
「法律その他による特別の制限」としては、①性別にかかわりなく均等な機会を与えることが義務付ける規定(雇用機会均等法5条)、②障害者か否かにより差別することを禁止する規定(障害雇用促進法37条、43条)、③違法派遣の場合に直接雇用の申し込みをしたものとみなすとの規定(労働者派遣法40条の6第1項)等があります。
雇用機会均等法5条
「事業主は、労働者の募集及び採用について、その性別にかかわりなく均等な機会を与えなければならない。」
障害者雇用促進法37条1項
「全て事業主は、対象障害者の雇用に関し、社会連帯の理念に基づき、適当な雇用の場を与える共同の責務を有するものであつて、進んで対象障碍者の雇入れに努めなければならない。」
障害者雇用促進法43条1項
「事業主…は、厚生労働省令で定める雇用関係の変動がある場合には、その雇用する対象障害者である労働者の数が、その雇用する労働者の数に障碍者雇用率を乗じて得た数…以上であるようにしなければならない。」
労働者派遣法40条の6第1項
「労働者派遣の役務の提供を受ける者…が次の各号のいずれかに該当する行為を行つた場合には、その時点において、当該労働者派遣の役務の提供を受ける者から当該労働者派遣に係る派遣労働者に対し、その時点における当該派遣労働者に係る労働条件と同一の労働条件を内容とする労働契約の申込みをしたものとみなす。ただし、労働者派遣の役務の提供を受ける者が、その行つた行為が次の各号のいずれかの行為に該当することを知らず、かつ、知らなかったことにつき過失がなかつたときは、この限りではない。」
1号「第4条第3項の規定に違反して派遣労働者を同条第1項各号のいずれかに該当する業務に従事させること。」
2号「第24条の2の規定に違反して労働者派遣の役務の提供を受けること」
3号「第40条の2第1項の規定に違反して労働者派遣の役務の提供を受けること(同条第4項に規定する意見の聴取の手続のうち厚生労働省令で定めるものが行われないことにより同条第1項の規定に違反することとなつたときを除く。)。」
4号「第40条の3の規定に違反して労働者派遣の役務の提供を受けること。」
5号「この法律又は次節の規定により適用される法律の規定の適用を免れる目的で、請負その他労働者派遣以外の名目で契約を締結し、第26条第1項各号に掲げる事項を定めずに労働者派遣の役務の提供を受けること。」
採用の自由の内容
雇入れ人数決定の自由
雇入れ人数決定の自由とは、使用者が、その事業のために労働者を雇い入れるか否か、雇い入れるとして何人の労働者を雇い入れるかを決定する自由です。
雇入れ人数は、事業遂行上の必要性と支払い能力に照らして企業が自由に決定することになります。
募集方法の自由
募集方法の自由とは、使用者が労働者をいかなる方法で募集するかについての自由です。
使用者は、労働者の採用につき、公募によるか縁故募集とするかは自由であり、公募の方法も公共職業安定所、民営職業紹介所、学校、広告情報誌等、いずれを通じて行うかも自由とされています。
選択の自由
選択の自由とは、使用者がいかなる者をどのような基準で採用するかに関する自由です。
どのような資質の労働者を採用するか、その決定のためにはどのような基準を立てるかは自由とされています。
⑴ 特定の労働組合員を不利に扱うこと
採用において特定の労働組合の組合員を不利に扱うことは、不当労働行為(労働組合法7条1号、3号)とならないのでしょうか。
これについて、判例は、不当労働行為にはならないとしています(最一小判平15.12.22民集57巻11号2335頁[JR北海道・日本貨物鉄道[国労]事件])。
⑵ 性別や障害者であることを理由に不利に扱うこと
男女雇用機会均等法は、募集・採用過程での男女の均等な機会の付与を求めています。もっとも、この規定に基づき、応募者に差別的取扱いの是正を求める請求権が発生すると解するのは困難とされており、都道府県労働局による助言、指導、勧告、企業名公表等の措置に委ねるのが適しているとされます。また、応募者に財産的・精神的損害を与えれば、不法行為として賠償責任を生じます。
障害者雇用促進法は、事業主に対して、一定の雇用率に達する人数の障害者を雇用すべき義務を課し、更に、障害者に対して障害者でない者と均等な機会を与えなければならないとしています。もっとも、この規定自体は、請求権の根拠規定となるわけではなく、民事訴訟による権利義務体系に沿った定型的救済にも限界があるため、専門的行政機関による相談、指導、調停などの調整的手法による解決が適しているとされます。
⑶ 思想・信条を理由に拒否すること
採用において思想信条を理由に不利に扱うことは、憲法上の思想信条の自由や法の下の平等に反しないのでしょうか。
判例は、「企業者が特定の思想、信条を有する者をそのゆえをもって雇い入れることを拒んでも、それを当然に違法とすることはできない」としています(最判平48.12.12民集27巻11号1536頁[三菱樹脂事件])。
契約締結の自由
契約締結の自由とは、使用者が特定労働者との労働契約の締結を強制されないという自由です。
もっとも、労働者派遣法は、一定の違法派遣の場合に、派遣先の派遣労働者に対する労働契約の申込みのみなし規定をおいています。
調査の自由
判例は、「企業者が雇傭の自由を有し、思想、信条を理由として雇入れを拒んでもこれを目して違法とすることができない以上、企業者が、労働者の採否決定にあたり、労働者の思想、信条を調査し、そのためその者からこれに関連する事項についての申告を求めることも、これを法律上禁止された違法行為とすべき理由はない。…法律に別段の定めがない限り、右は企業者の法的に許された行為と解すべきである。」としています(最判平48.12.12民集27巻11号1536頁[三菱樹脂事件])。
もっとも、応募者に対する調査は、社会通念上妥当な方法で行われることが必要であり、応募者の人格やプライバシーなどの侵害になるような態様での調査は慎まなければならないとされています。例えば、応募者本人の同意を得ないで行ったHIV抗体検査がプライバシー侵害の違法行為とされています(東京地判平15.5.28労判852号11頁[警視庁警察学校事件])。
また、個人情報保護法による利用目的特定等の規制があります。