長時間労働による心身の疲労が心配ではありませんか?
毎月残業が140時間を越えると、健康を害し、趣味や私生活の時間も取れなくなり、生活が苦しくなります。
結論からいうと、140時間の残業は法律違反です。
これは、法によって定められた残業時間の上限が、36協定を結んでいても月に100時間以下であるためです。
つまり、残業が月に140時間になってしまう状態が続いている場合、労働基準法に反していることになります。
さらに、月140時間もの残業をしている状況では、法律に基づいて相応の残業代を請求することができます。
多くの場合、法律で定められた通りの残業代を支払っていない企業が少なくないのが現状です。
例えば、基本給が30万円で、所定労働時間を月140時間とした場合、3年間で約1181万2500円の残業代が発生する計算になります。
この記事を通じて、月に140時間の残業が常態化している場合の適切な対応方法を理解していただきたいと思います。
今回は、140時間の残業がもたらす法的な問題、健康上のリスク、想定される残業代について詳しく説明します。
具体的には、以下の流れで説明していきます。
この記事を読めば、法律上の考え方や、対処法がわかるはずです。
目次
残業140時間の一日の生活は異常
月140時間の残業をした場合の一日の生活は、異常です。
月22日出勤する方ですと、月140時間の残業をする場合には、平日は毎日
140時間÷22日=6.36時間=6時間21分程度
の残業をすることになります。
また、昨年1月から12月までの日本の残業時間の平均は、月約24時間前後になっています。
(データ出典:⽇本の残業時間 定点観測 OpenWork 働きがい研究所 (vorkers.com))
このことから、月140時間の残業は、通常の平均残業時間の約6倍に当たり、一般的な水準と比較しても異常に多いと言えます。
この状況では、疲れやストレスが解消されずに次の日も働かなければならないため、十分に仕事のパフォーマンスを発揮することができず、自分の時間を楽しむことも難しいです
従って、月に140時間の残業は、労働者にとって大きな負担となるのです。
月140時間の残業は違法
月140時間の残業を労働者に命じることは違法です。
労働基準法において、残業についてのルールが明確に定められており、これに反するような残業を命じることは違法となります。
残業の上限規制
従業員に残業を依頼する際、企業は労働者の代表と共に「36協定」に合意することが求められます。
36協定とは、残業に関する合意事項を指します。
この36協定があっても、一般的に月の残業時間は最大45時間に限定されているというのが基本ルールです。
労働基準法36条(時間外及び休日の労働)
4「……限度時間は、一箇月について四十五時間…とする。」
ただし、例外的に通常予見不能な業務量の大増加などが発生した場合、月間45時間を超える残業を命じることができます。しかし、その場合でも、月間の残業時間は100時間までが上限とされています。
労働基準法36条(時間外及び休日の労働)
6「…当該事業場における通常予見することのできない業務量の大幅な増加等に伴い臨時的に第三項の限度時間を超えて労働させる必要がある場合において、一箇月について労働時間を延長して労働させ、及び休日において労働させることができる時間(第二項第四号に関して協定した時間を含め百時間未満の範囲内に限る。)…を定めることができる。」
したがって、企業が労働者に月に140時間の残業を強制する行為は、法律違反になります
月間140時間の残業が違法とならない職業
例えば、以下の職業では、月間140時間の残業が違法とならないことがあります。
・建設業に従事する人
・自動車ドライバー
・医師
これらの職業の人々に対しては、2024年3月31日まで、残業時間の上限規制の適用が延期されています。
したがって、月間140時間の残業を命じた場合でも、例外的に違法とはなりません。
残業140時間を超える場合の会社の責任
労働者が月に140時間を超える残業をした場合、企業に対しては次の二つの責任が発生する可能性があります。
・刑事責任
・民事責任
それぞれについて詳しく見ていきましょう。
・刑事責任
企業が労働者に140時間以上の残業をさせた場合、特別な合意がなければ、最大6か月または懲役刑や30万円以下の罰金が科されることがあります。
・民事責任
さらに、労働者に140時間以上の残業をさせた際には、企業は残業の支払いだけでなく、損害賠償責任を負う場合があります。
企業には、労働者の安全と健康を保護する責任があり、労働者の健康が損なわれた場合に適切な措置を取らなければ、その過失が認定されることがあります。
実際、判例には、恒常的に著しく長時間にわたり業務に従事していること及びその健康状態が悪化していることを上司らが認識しながら、その負担を軽減させるための措置を採らなかったことにつき過失があるとして、労働者が自殺したことについて会社の損害賠償責任を認めたものがあります(最二判平12.3.24民集54巻3号1155頁[電通事件])。
そのため、労働者が140時間以上の残業を行ったことで健康上の問題が発生した場合、企業が安全と健康の確保義務を怠ったと主張し、損害賠償を請求することができます。
残業140時間に潜む健康被害・過労死の危険
月140時間以上の残業が続くと、健康に対する深刻な影響や命に関わるリスクが出てきます。具体的には、以下のことが考えられます。
①心臓や脳の疾患による過労死
②うつ病や適応障害などによる過労自殺
それぞれについて詳しく見ていきましょう。
心臓・脳の疾患 – 過労死
月に140時間以上残業を続けると、心臓病や脳疾患を引き起こし、最悪の場合、死亡に至るリスクがあります。
このリスクは、過剰な労働によるストレスが血管にダメージを与え、病気を悪化させることによるものです。
行政では、過労死を判断する基準の一つとして、「発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いと評価できる」とされています。
従って、140時間以上の残業は、心臓や脳の健康リスクを大幅に高めるものといえます。
うつ病・適応障害等-過労自殺
月140時間を超える残業は、うつ病や適応障害など心理的な問題を引き起こし、自殺の可能性をも高めることがあります。
このような状況が生じるのは、140時間以上の長時間労働が労働者に過大なメンタルストレスを与えるためです。
政府は、精神的負担が「強」とみなされる典型例として、「1か月に80時間以上の時間外労働を行った」ことを指摘しています。
そのため、月140時間以上の残業は、精神へのリスクを顕著に増加させるといえます。
残業140時間の残業代はいくら
月140時間を超える残業をした場合には、請求できる残業代も高額になる可能性が高いです。
なぜなら、残業代の金額は残業時間数に比例するためです。
残業代の計算方法は以下のとおりです。
基礎賃金÷所定労働時間×割増率×残業時間数
基礎賃金は、残業代の計算の基礎となる賃金のことをいいます。
基礎賃金=基本給というわけではないため注意が必要です。
所定労働時間は、会社において決められた労働時間になります。
割増率は、法定時間外労働は1.25倍、22時~5時の深夜労働は0.25倍をさらに追加、法定休日労働は1.35倍です。
残業代の詳しい計算に関しては、以下の記事で詳しく説明しています。
また、年間休日日数は125日程度(土日、祝日、年末年始、夏季5日が休み)で、月平均所定労働時間は160時間として計算します。
具体的な請求金額
それでは、以下の月収における残業代を計算していきましょう。
月給25万円
月給30万円
月給35万円
月給25万円の場合
月給25万円の場合には、140時間の残業(法定時間外労働)をした場合の3年分の残業代金額は、
基礎賃金25万円÷月平均所定労働時間160時間×割増率1.25×140時間×36か月=
984万3750円
程度となります。
月給30万円の場合
月給30万円の場合には、140時間の残業(法定時間外労働)をした場合の3年分の残業代金額は、
基礎賃金30万円÷月平均所定労働時間160時間×割増率1.25×140時間×36か月=
1181万2500円
程度となります。
月給35万円の場合
月給35万円の場合には、140時間の残業(法定時間外労働)をした場合の3年分の残業代金額は、
基礎賃金35万円÷月平均所定労働時間160時間×割増率1.25×140時間×36か月=
1378万1250円
程度となります。
残業代早見表
1か月の残業時間が140時間よりも少ない場合や多い場合の残業代金額が気になる方は、以下の残業代早見表をご確認ください。
※この表の残業代の金額は、1ヶ月のおおよその残業時間をもとに、残業代の金額を概算したものです。具体的事案により金額は異なります。あくまでも参考にとどめてください。
※月平均所定労働時間は160時間としています。休日が年間125日程度の場合を前提としています。概ね、土日、祝日、夏季5日、年末年始(12月29日~1月4日)を休日とした場合です。(休日数は年により異なります)
※この表の残業代の金額は3年分(36ヶ月分)です。
※上記の残業代は、法定時間外割増賃金(割増率1.25)に限定しています。遅延損害金や付加金は含まれていません。請求できる具体的な金額は、所定時間外労働や所定休日労働、深夜労働により、異なります。
※上記の残業代は、これまでに使用者からの支払いがない場合を前提としています。
長時間のみなし残業代は無効の可能性
さらに、月140時間の残業が恒常化している会社では、みなし残業代の制度を悪用している会社も多くあります。
みなし残業代については以下の記事で解説しているため、是非一読してください。
残業140時間の方が残業代を請求する4つのステップ
未払いの残業代を請求するためには、手順を踏む必要があります。
必要な手順は以下の通りです。
STEP1:通知書の送付
STEP2:残業代の計算
STEP3:交渉
STEP4:労働審判・訴訟
それでは順番に説明していきます
STEP1:通知書の送付
残業代を請求するためのSTEPの1つ目は、通知書の送付です。
まず、内容証明郵便を利用して、会社に通知書を送付します
理由は以下の2つです。
・時効を一時的に止めるため
・資料の開示を請求するため
具体的には、以下のような通知書を送付することが多いです。
御通知
〇〇会社代表取締役〇〇殿
令和〇年〇月〇日
私は、貴社に対して、令和〇年〇月分から令和〇年〇月分までの割増賃金を含む未払賃金すべて及びこれに対する各支払い日の翌日からの遅延損害金の支払いを請求いたします。
つきましては、正確な賃金額を把握するため、①貴社と私との間の労働条件のわかる資料(雇用契約書、労働条件通知書等)、②就業規則、賃金規程、③36協定、④労働時間の分かる資料(タイムカード等)、⑤私の給与・役職に就いての変動に関する書面、⑥給与明細を以下の住所までお送りいただきたく存じます。
以上につき2週間以内にご回答ください。
よろしくお願いいたします。
住 所
氏 名 印
※御通知のダウンロードはこちら
※こちらのリンクをクリックしていただくと、御通知のテンプレが表示されます。
表示されたDocumentの「ファイル」→「コピーを作成」を選択していただくと編集できるようになりますので、ぜひご活用下さい。
STEP2:残業代の計算
残業代を請求するためのSTEPの2つ目は、残業代の計算です。
会社から受け取った資料に基づき、残業代の計算を行います。
もし資料が提供されていない場合は、自ら撮影したタイムカードの写真や、出勤・退勤時刻が確認できる記録を使用して計算をします。
残業代の計算方法に関しては、以下の記事で詳しく解説しています。
STEP3 交渉
残業代を請求するためのSTEPの3つ目は、交渉です。
初めに、算出した具体的な金額を企業に請求します。
その後、企業からは計算の方法について何かしらの異議が提示されることが通常です。
企業との間で意見が分かれる点に関しては、裁判例や法律を根拠に、説得力のある主張を展開していきます。
STEP4 労働審判・訴訟
残業代を請求するためのSTEPの4つ目は、労働審判・訴訟です。
交渉がうまくいかない場合、労働審判や裁判の手続きに移行します。
労働審判では、裁判官が加わる形で最大3回の話し合いが行われ、調停を通じた解決を図ります。調停で合意に至らない場合は、裁判所が暫定的な判決を下します。
訴訟の場合、期日の設定に厳密な制限はなく、大体月に一度の割合で、双方がそれぞれの主張を展開します。
通常、訴訟による解決には約1年ほどの時間が必要になることが多いです。
残業代を減らす4つの方法
残業140時間は大きな負担となるため、健康に悪影響が現れている場合、速やかに対応することが重要です。
具体的な対処法は以下の通りです。
対処法1:上司に相談する
対処法2:残業を拒否する
対処法3:労働基準監督署に相談する
対処法4:転職する
それでは順番に説明していきます。
上司に相談する
残業を減らすための対処法の1つ目は、上司に相談することです。
長時間労働が負担になっていると感じるなら、最初に上司に直接、残業時間の短縮を求めることが大切です。
その際には、具体的に以下のような内容を説明することが効果的です。
・先月の残業時間
・体調不良の場合の症状
・睡眠時間やプライベートへの影響
詳細な説明をすることで、上司は適切な対応の必要性とその緊急性をより明確に認識してくれます。
労働者の健康と安全を守る責任が企業にはあるため、こうした問題提起には対応をとる可能性が高いです。
対処法2:残業を拒否する
残業代を減らすための対処法の2つ目は、残業を拒否することです。
先述の通り、月に140時間の残業は違法です。
労働者は、過剰な残業を断る権利があり、サービス残業で働かされている場合も同様です。
残業を拒否する方法については、以下の記事で詳しく説明されています。
対処法3:労働基準監督署に相談する
残業を減らすための対処法の3つ目は、労働基準監督署に相談することです。
労働基準監督署に連絡することで、違法な長時間労働が行われている企業に対する調査を依頼し、指導を受けることが可能です。
月140時間を超える残業が習慣化している状況は、労働基準法に違反するため、労働基準監督署への相談を考えるべきです。
ただし、労働基準監督署は人員不足に直面しており、全ての案件に対応できないことがあります。その結果、緊急性の高い案件が優先されることが多いです。匿名や電話での相談では、重要度が低いと見なされる可能性があります。
労働基準監督署からの対応を促すには、直接訪問し、自分の名前と企業名を明らかにして相談するのが効果的です。
匿名を希望する場合は、その旨を伝えて配慮を求めることが可能です。
対処法4:転職する
残業を減らすための対処法の4つ目は、転職することです。
これは、残業を減らすうえでは最も有効な手段になります。
具体的な転職するための手順は、以下の3つです。
手順1:証拠を集める
手順2:退職届を出す
手順3:残業の少ない会社に転職する
それでは、順番に解説していきます。
手順1:証拠を集める
転職する手順の1つ目は、証拠を集めることです。
残業代請求だけでなく、失業保険を受給する際や健康被害が生じた場合に備えて、長時間の残業をしていたことを証明できる必要があります。
ただし、140時間以上の残業が標準的な状況は法に反しており、そのような違法行為を行う企業は、証拠を消去する可能性があります。
退職する前に、残業時間の証明に役立つ資料を確保しておくことが大切です。最も有効な証拠はタイムカードの記録ですが、それが利用できない場合は、出入り記録、業務用メール、日報など、第三者が労働を確認できる証拠を集めておくといいです。
証拠がまったくない場合には、日々の作業開始時刻、休憩時刻、作業終了時刻、行った業務の内容などを詳細に記録することも役立ちます。
手順2:退職届を出す
転職する手順の2つ目は、退職届を出すことです。
退職する意向を会社に伝えるための退職願は、退職希望日の少なくとも2週間前に提出する必要があります。
提出は直接手渡しでも、内容証明郵便を使用してもかまいませんが、手渡しの場合はそのコピーを保持しておくことが肝心です。
退職届には、以下の内容を記載して提出しましょう
・退職する意思と退職の日付
・離職票の交付請求
・退職する理由(必須ではありません)
・有給休暇の取得申請(必須ではありません)
例えば以下のような内容を記載します。
退職届
〇〇会社代表取締役 〇〇 〇〇殿
令和〇年〇月〇日
この度、私は、貴社において●●時間を超えて残業を行う月が続いたため、令和〇年〇月〇日をもって、貴社を退職させていただきます。
つきましては、令和〇年〇月〇日より令和〇年〇月〇迄の、貴社所定就労日〇〇日間について年次有給休暇を取得させていただきます。
なお、失業保険を受給するのに必要となりますので、退職後は速やかに下記住所まで離職票を送付してくださいますようお願い申し上げます。
住 所
署 名 印
※退職届のダウンロードはこちら
※こちらのリンクをクリックしていただくと、退職届御通知のテンプレが表示されます。
表示されたDocumentの「ファイル」→「コピーを作成」を選択していただくと編集できるようになりますので、ぜひご活用下さい。
手順3:残業の少ない会社に転職する
転職する手順の3つ目は、残業の少ない会社に転職することです。
残業の少ない会社に転職するために確認すべきポイントは、以下の4つです。
・長時間分の固定残業代がないか
・タイムカードがあるか
・業務量と比較して人員が少なすぎないか
・写真数に対して採用人数が多すぎないか
これらの要点に注意を払うことで、長時間労働や未払い残業が常態化している企業を見分ける能力が高まります。
従って、新たな就職先を選ぶ際には、これらのポイントを考慮に入れることが重要になります。
残業代請求はリバティ・ベル法律事務所におまかせ
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まとめ
今回は、残業140時間の危険性と対処法について解説しました。
この記事の要点を簡単に整理すると、以下の通りです。
平均残業時間は月約24時間であり、月140時間の残業は平均を大幅に超えています。
・月140時間の残業をしていると、プライベートや家族との時間を取ることは困難となります。
・月140時間の残業は違法です。
・残業140時間に潜む健康被害・過労死の危険があります。
・残業140時間の場合の請求できる残業代は、月給別で以下の通りです。
月給25万円の場合 残業代984万3750円
月給30万円の場合 残業代1181万2500円
月給35万円の場合 残業代1378万1250円
・長時間のみなし残業代は、無効の可能性がある
・残業140時間の方が残業代を請求するステップは、以下の4つです。
STEP1:通知書の送付
STEP2:残業代の計算
STEP3:交渉
STEP4:労働審判・訴訟
・残業を減らす対処法は、以下の4つです。
対処法1:上司に相談する
対処法2:残業を拒否する
対処法3:労働基準監督署に相談する
対処法4:転職する
この記事が異常な長時間残業に苦しんでいる人の助けになれば幸いです
以下の記事も参考になるはずですので、読んでみてください。
また、YouTubeでも解説をしていますので、よろしければご参照ください。