外資系企業にも労働基準法が適用されるのかどうか知りたいと悩んでいませんか?
外資系企業には独自の考え方や慣習があったりもしますので、日本法人と同様に労働者の権利が保護されるのか不安ですよね。
結論としては、外資系企業であっても、労働者が日本で働いているのであれば、労働基準法や最低賃金法、労働安全衛生法等の強行規定が適用されることになります。
なぜなら、労働契約においては、労務を提供すべき地の法が当該労働契約に最も密接な関係がある地の法と推定されているためです(法の適用に関する通則法12条2項、3項)。
実際、多くの外資系企業と労働者とのトラブルが日本の裁判所において日本の法律に従って解決されています。
しかし、外資系企業の中には、日本の法律を軽視しており、安易に労働者をクビ(解雇)にしたり、労働時間が長時間にわたっているにもかかわらず残業代を支払わなかったりする会社も多く存在するのが現実です。
日々、私がたくさんの労働相談を受ける中でも、以下のとおり外資系企業の労働者からの相談は大きな割合を占めています。
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外資系企業で働く方は、考え方や慣習の違いにより労働トラブルが発生しやすい環境であるからこそ、自分の権利がどのように保護されるのかを知っておく必要があるでしょう。
今回は、外資系企業にも日本の労働基準法は適用されることを説明したうえで、よくあるトラブル3つを例にどのような法律が適用されるかを解説します。
具体的には、以下の流れで説明していきます。
この記事を読めば、外資系企業にも労働基準法が適用されることがよくわかるはずです。
外資系と労働基準法については、以下の動画でも詳しく解説しています。
目次
外資系企業にも日本の労働基準法等は適用される!
外資系企業であっても、労働者が日本で働いているのであれば、労働基準法や最低賃金法、労働安全衛生法等の強行規定が適用されることになります。
外資系企業とは、外国法人又は外国人が一定程度以上の出資をする日本の企業です。
その理由は以下のとおりです。
法律行為の成立および効力は、当該法律行為に最も密接な関係がある地の法が適用されます。
そして、当該労働契約において労務を提供すべき地の法を当該労働契約に最も密接な関係がある地の法と推定するとされています。
つまり、日本で働いている場合には、日本の法律が最も密接な関係がある地の法として適用されることになります。
もしも、外資系企業と労働者との間において、日本以外の国の法律を適用する合意がある場合であっても、強行規定という公の秩序に関する法律については、労務を提供すべき地の法律が適用される旨を主張できます。
つまり、会社と労働者の雇用契約書に外国の法律に従う旨が規定されていても、日本で働く以上は、日本の労働基準法や最低賃金法、労働安全衛生法等が適用されることを主張できます。
そのため、外資系企業であっても、労働者が日本で働いているのであれば、労働基準法や最低賃金法、労働安全衛生法等の強行規定が適用されることになるのです。
法の適用に関する通則法第7条(当事者による準拠法の選択)
法律行為の成立及び効力は、当事者が当該法律行為の当時に選択した地の法による。法の適用に関する通則法第8条(当事者による準拠法の選択がない場合)
1 前条の規定による選択がないときは、法律行為の成立及び効力は、当該法律行為の当時において当該法律行為に最も密接な関係がある地の法による。法の適用に関する通則法第12条(労働契約の特例)
1 労働契約の成立及び効力について第七条又は第九条の規定による選択又は変更により適用すべき法が当該労働契約に最も密接な関係がある地の法以外の法である場合であっても、労働者が当該労働契約に最も密接な関係がある地の法中の特定の強行規定を適用すべき旨の意思を使用者に対し表示したときは、当該労働契約の成立及び効力に関しその強行規定の定める事項については、その強行規定をも適用する。
2 前項の規定の適用に当たっては、当該労働契約において労務を提供すべき地の法(その労務を提供すべき地を特定することができない場合にあっては、当該労働者を雇い入れた事業所の所在地の法。次項において同じ。)を当該労働契約に最も密接な関係がある地の法と推定する。
3 労働契約の成立及び効力について第七条の規定による選択がないときは、当該労働契約の成立及び効力については、第八条第二項の規定にかかわらず、当該労働契約において労務を提供すべき地の法を当該労働契約に最も密接な関係がある地の法と推定する。
外資系企業との労働トラブルは日本の裁判所で争える!
外資系企業との労働トラブルについても、労働者が日本で働いているのであれば、日本の裁判所で争うことができます。
なぜなら、民事訴訟法は、個別労働関係民事紛争に関する労働者から事業主への訴えについて、労務の提供地が日本国内にあれば、日本の裁判所に提起できると規定しているためです。
民事訴訟法第3条の4(消費者契約及び労働関係に関する訴えの管轄権)
2 労働契約の存否その他の労働関係に関する事項について個々の労働者と事業主との間に生じた民事に関する紛争(以下「個別労働関係民事紛争」という。)に関する労働者からの事業主に対する訴えは、個別労働関係民事紛争に係る労働契約における労務の提供の地(その地が定まっていない場合にあっては、労働者を雇い入れた事業所の所在地)が日本国内にあるときは、日本の裁判所に提起することができる。
これに対して、例外的に外資系企業と労働者との間において、外国の裁判所に訴えを提起できるとの合意をした場合には、外国の裁判所で争うことになってしまう可能性もあります。
ただし、外国の裁判所に訴えを提起できるとの合意が有効となるのは、以下の3つのケースのみです。
ケース1:退職時に、日本以外の国で働いていて、その国の裁判所に訴えを提起できるとの合意をしたケース
ケース2:労働者が合意された国の裁判所に訴えを提起したケース
ケース3:会社が外国の裁判所に訴えを提起した場合に労働者が合意を認めたケース
民事訴訟法第3条の7(管轄権に関する合意)
1 当事者は、合意により、いずれの国の裁判所に訴えを提起することができるかについて定めることができる。
6 将来において生ずる個別労働関係民事紛争を対象とする第一項の合意は、次に掲げる場合に限り、その効力を有する。
一 労働契約の終了の時にされた合意であって、その時における労務の提供の地がある国の裁判所に訴えを提起することができる旨を定めたもの(その国の裁判所にのみ訴えを提起することができる旨の合意については、次号に掲げる場合を除き、その国以外の国の裁判所にも訴えを提起することを妨げない旨の合意とみなす。)であるとき。
二 労働者が当該合意に基づき合意された国の裁判所に訴えを提起したとき、又は事業主が日本若しくは外国の裁判所に訴えを提起した場合において、労働者が当該合意を援用したとき。
また、法律上、日本の裁判所では、日本語を用いることになっていますので、外資系企業との間のトラブルについても日本語により解決することが可能です。
裁判所法第74条(裁判所の用語)
裁判所では、日本語を用いる。
~外資系企業に日本法人がない場合には事実上解決困難なことが多い~
外資系企業に日本法人がない場合には、日本のみで解決することが困難なケースがあります。
なぜなら、日本の裁判所で勝訴判決を獲得したとしても、その判決の内容を実現するためには、執行を行う必要があるためです。
日本の判決を外国で執行するためには、国の相互保障がされていることが必要です。相互保障がされている場合には、外国で執行判決を得たうえで、強制執行を申し立てることになります。
そのため、日本法人がなく外国で執行を行わなければいけない場合には、最終的に外国の裁判所を用いる必要があり、手続き自体の難易度が高いことや経済的なコスト等の事実上の問題で解決が困難となることも多いです。
外資系企業でよくあるトラブル3つと労働基準法
外資系企業においてよくトラブルになる類型としては、以下のようなものがあります。
トラブル1:クビ(解雇)
トラブル2:労働時間・残業代
トラブル3:退職勧奨・パワハラ
これらの類型ごとに適用される日本の法律を順番に説明していきます。
外資系企業のクビ(解雇)と労働基準法
外資系企業におけるクビ(解雇)の問題については、労働基準法20条(解雇の予告)と労働契約法16条(解雇)等が適用されます。
労働基準法20条(解雇の予告)
労働基準法20条は、解雇の予告に関して規定した条文です。
会社は、労働者を解雇する場合には30日前には予告をしなければならないとされています。
予告が30日に満たない場合には、不足期間については、その期間分の平均賃金に相当する解雇予告手当を支払う必要があります。
労働基準法第20条(解雇の予告)
1 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。
解雇予告手当については、以下の記事で詳しく解説しています。
労働契約法16条(解雇)
労働契約法16条は、解雇権濫用法理に関して規定した条文です。
解雇は、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当といえなければ無効となるとしています。
日本において容易に解雇ができないと言われる根拠となる条文です。
労働契約法第16条(解雇)
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
外資系企業におけるクビ(解雇)については、以下の記事で詳しく解説しています。
外資系企業の労働時間や残業代と労働基準法
外資系企業の労働時間や残業代問題については、労働基準法32条(労働時間)、労働基準法36条(時間外及び休日の労働)、労働基準法37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)等が適用されます。
労働基準法32条(労働時間)
労働基準法32条は、労働時間について規定した条文です。
1日8時間、週40時間を超えて労働させることができないと規定しています。
労働基準法第32条(労働時間)
1 使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。
2 使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。
労働基準法36条(時間外及び休日の労働)
労働基準法36条は、例外的に時間外や休日に労働を命じることが許容される場合を規定した条文です。
労働者に1日8時間、週40時間を超えて労働させたり、法定休日に労働させたりするには、36協定を締結する必要があるとしています。
そして、36協定における残業を命じられる時間は、原則、月45時間、年360時間とされています。
労働基準法第36条(時間外及び休日の労働)
1 使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、厚生労働省令で定めるところによりこれを行政官庁に届け出た場合においては、第三十二条から第三十二条の五まで若しくは第四十条の労働時間(以下この条において「労働時間」という。)又は前条の休日(以下この条において「休日」という。)に関する規定にかかわらず、その協定で定めるところによつて労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる。
3 前項第四号の労働時間を延長して労働させることができる時間は、当該事業場の業務量、時間外労働の動向その他の事情を考慮して通常予見される時間外労働の範囲内において、限度時間を超えない時間に限る。
4 前項の限度時間は、一箇月について四十五時間及び一年について三百六十時間(第三十二条の四第一項第二号の対象期間として三箇月を超える期間を定めて同条の規定により労働させる場合にあつては、一箇月について四十二時間及び一年について三百二十時間)とする。
36協定については、以下の記事で詳しく解説しています。
労働基準法37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)
労働基準法37条は、残業代について規定した条文です。
法定時間外については1.25倍、法定休日については1.35倍、深夜(午後10時00分~午前5時00分)については0.25倍の割増賃金を支払わなければならないとしています。
労働基準法第37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)
1 使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。ただし、当該延長して労働させた時間が一箇月について六十時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の五割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
4 使用者が、午後十時から午前五時まで(厚生労働大臣が必要であると認める場合においては、その定める地域又は期間については午後十一時から午前六時まで)の間において労働させた場合においては、その時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の二割五分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
外資系企業における残業代については、以下の記事で詳しく解説しています。
外資系の残業代については、以下の動画でも詳しく解説しています。
外資系企業の退職勧奨やパワハラと労働基準法
外資系企業の退職勧奨やパワハラ問題については、民法709条(不法行為による損害賠償)、労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律30条の2(雇用管理上の措置等)等が適用されます。
外資系企業のパワハラについては、以下の動画でも詳しく解説しています。
民法709条(不法行為による損害賠償)
民法709条は、不法行為による損害賠償について規定しています。
退職勧奨やパワハラが社会的相当性を超えて違法となるようなケースでは、不法行為として慰謝料が認められます。
不法行為については、加害行為の結果が発生した地の法律が適用されます。
そのため、外資系企業でも、日本で働いていて日本において退職勧奨やパワハラを受けた場合には、通常、民法709条は適用されます。
法の適用に関する通則法第17条(不法行為)
不法行為によって生ずる債権の成立及び効力は、加害行為の結果が発生した地の法による。ただし、その地における結果の発生が通常予見することのできないものであったときは、加害行為が行われた地の法による。
退職勧奨と慰謝料については、以下の記事で詳しく解説しています。
パワハラと慰謝料については、以下の記事で詳しく解説しています。
労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律30条の2(雇用管理上の措置等)
労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律30条の2は、会社がパワハラから労働者は守るために講じるべき措置に関して規定されています。
労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律第30条の2(雇用管理上の措置等)
1 事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
雇用主が負うパワハラ防止義務については、以下の記事で詳しく解説しています。
外資系企業の労働基準法違反と相談先3つ
外資系企業の労働基準法違反の相談先としては、例えば以下の3つがあります。
相談先1:弁護士【おすすめ】
相談先2:労働組合
相談先3:労働基準監督署
それでは、順番に説明していきます。
労働問題の相談先については、以下の記事でより詳しく解説しています。
相談先1:弁護士【おすすめ】
外資系企業の労働基準法違反の相談先の1つ目は、弁護士です。
弁護士は法的な知識を用いて、交渉や労働審判、訴訟等により外資系企業との労働問題を解決します。
交渉が決裂した場合でも、裁判所の判決を得て強制執行を行うことが可能であり、実効性のある解決を期待できます。
そのため、不当解雇や残業代、違法な退職勧奨等につき金銭的な請求を行いたい場合には、弁護士に相談するのがおすすめです。
相談先2:労働組合
外資系企業の労働基準法違反の相談先の2つ目は、労働組合です。
労働組合は団体交渉や争議行為を用いて、労働問題を解決します。
自分も主体的に交渉に参加したい方や職場環境を改善したいと考えている方におすすめです。
労働組合については、以下の記事で詳しく解説しています。
相談先3:労働基準監督署
外資系企業の労働基準法違反の相談先の3つ目は、労働基準監督署です。
労働基準監督署は無料で相談することができ会社に是正勧告や指導をしてもらえる場合があるため、費用をかけずに解決したい方におすすめです。
ただし、法的な争いになっている事案、解雇権濫用や不法行為など労働基準法以外の労働契約法、民法の問題には対応してもらうことができません。
また、会社の財産を強制的に差し押さえることもできないため、解決に至る可能性が高いとはいえません。
労働基準監督署が対応できない事案については、以下の記事で詳しく解説しています。
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まとめ
以上のとおり、今回は、外資系企業にも日本の労働基準法は適用されることを説明したうえで、よくあるトラブル3つを例にどのような法律が適用されるかを解説しました。
この記事の要点を簡単に整理すると以下のとおりです。
・外資系企業であっても、労働者が日本で働いているのであれば、労働基準法や最低賃金法、労働安全衛生法等の強行規定が適用されることになります。
・外資系企業との労働トラブルについても、労働者が日本で働いているのであれば、日本の裁判所で争うことができます。
・外資系企業とのトラブル別に適用される法律を整理すると以下のとおりです。
・外資系企業の労働基準法違反の相談先としては、例えば以下の3つがあります。
相談先1:弁護士【おすすめ】
相談先2:労働組合
相談先3:労働基準監督署
この記事が外資系企業にも労働基準法が適用されるか分からずに悩んでいる方の助けになれば幸いです。
以下の記事も参考になるはずですので読んでみてください。