労働災害

アスベストの労災補償金額は?弁護士が労災認定基準や申請手続と時効を解説

アスベストの労災補償金額は?

アスベストによる健康被害について、労災のルールや手続が難しくて困っていませんか?

労災の申請なんてしたことないから、よくわからないという方も多いですよね。

アスベストによる健康被害については、労災の補償がおりる可能性があります。

労災の申請は労働基準監督署に行います。必要書類を提出して、審査を受けて、労災の認定をしてもらえると、補償がおります

ただし、はじめて労災の申請をしようとすると必要書類を集めるのに難航してしまうこともあるでしょう。

労災の申請をスムーズに行い、適正な補償を受けるためには、アスベスト被害の労災手続きをしっかりと理解しておくことが大切です。

また、アスベスト被害のうち、「労災がおりない被害」や「労災でカバーしきれない精神的苦痛」についても、国から賠償金や給付金を受けられる可能性があります

しかし、現状において、アスベスト被害への対処に関して、一般の方向けにわかりやすく簡単にまとめたサイトや本は、あまりありません

実際、アスベスト被害について、補償や給付を受けられる可能性があるにもかかわらず、手続きを行っていないために救済されていない方々も多いのが現状です。

アスベスト被害に関する労災補償制度やその他の救済に関して、この記事をとおして周知していくことができればと思い、執筆させていただきます。

今回は、アスベスト被害に関して、労災認定基準や補償金額、申請手続きを分かりやすく解説していきます。

この記事を読めばアスベスト被害についての労災補償がよくわかるはずです。

 

 

目次

アスベスト被害は労災による救済の可能性あり!

アスベスト被害の労災のイメージ業務中にアスベスト被害を受けた方で、一定の疾病にかかっている場合には、労災として救済してもらえる可能性があります

しかし、実際には、アスベスト関連疾患を発症されているのに、過去のアスベスト関連業務が原因となって発症したものであると気付かない方や、健康に不安があるのに対処法がわからないと懸念している方が多いのが実情です。

国も、このような現状に鑑み、以下のようにアスベストを取り扱っていた事業場の事業主に対して、労災補償制度その他の救済制度の周知を促しています。

(出典:厚生労働省:要請資料「事業主の皆様へ」)

以下では、アスベスト被害の労災の現状について、「アスベストの労災認定事業所」と「アスベスト被害の労災認定件数」のそれぞれを簡単に説明していきます。

石綿(アスベスト)ばく露作業による労災認定事業所

石綿ばく露作業による労災認定等事業所とは、労災認定等された被災労働者の最終石綿ばく露事業場です。

肺がん、中皮腫と宇の石綿関連疾患は30年から40年もの潜伏期間の後に発症することから、最後に石綿ばく露作業に従事した事業場において労災認定等が行われます。

当該事業場で過去に就労していた労働者の方々が石綿ばく露作業に従事した可能性があると注意を喚起する目的で、労災認定事業所の公表が行われています。

なお、石綿ばく露作業による労災認定等事業所で働いていた方以外でも、労災認定される可能性はあります。

令和元年度以前について、公表されている石綿ばく露作業による労災認定等事業所の数は、1万2440事業場です。そのうち建設業以外の事業場が4900事業場、建設業の事業場が7540事業場となっています。
石綿ばく露作業による労災認定等事業場一覧表(令和元年度以前認定分)

これに対して、令和元年度について、公表されている石綿ばく露作業による労災認定等事業所の数は、992事業場(うち新規公表749事業場)です。そのうち、建設業以外の事業場が393事業場(うち新規公表217事業場)、建設業の事業場が599事業場(うち新規公表532事業場)です。
「令和元年度石綿ばく露作業による労災認定等事業場」を公表します

ただし、必ずしも公表した事業場における石綿ばく露が原因となって石綿関連疾患に罹患したとは限りません。

アスベスト被害の労災認定件数

アスベストの被害の労災支給決定の状況について見てみると、令和2年度では、以下のとおりとなっています。

⑴ 肺がん、中皮腫、良性石綿胸水、びまん性胸膜肥厚
請求件数    1088件
支給決定件数  1014件
⑵ 石綿肺(⑴の件数には含まれない)
支給決定件数  45件

詳細は以下のとおりです。

アスベスト被害の労災認定件数(出典:令和2年度 石綿による疾病に関する労災保険給付などの請求・決定状況まとめ(速報値)別添資料)

令和2年度の「肺がん、中皮腫、良性石綿胸水、びまん性胸膜肥厚」の認定率(労災に関して判断がされたもののう支給するとの決定がされたもの)は、92.7%となっています。

令和2年度のアスベスト被害の労災認定率

アスベスト健康被害について労災支給決定された疾病別の割合は、以下のとおりです。

アスベスト被害の疾病別の労災認定割合

アスベスト被害と3つの労災認定基準

アスベスト被害が労災と認定される基準としては、以下の3つがあります。

認定基準1:対象疾病を発症していること
認定基準2:石綿ばく露作業に従事していたこと
認定基準3:労災認定の要件を満たすこと

それでは、各認定基準について説明していきます。

認定基準1:対象疾病を発症していること

アスベストとの関連が明らかな対象疾病としては、以下の5つがあります。

疾病1:石綿肺
疾病2:肺がん
疾病3:中皮腫
疾病4:良性石綿胸水
疾病5:びまん性胸膜肥厚

労働基準法第75条(療養補償)
1「労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかつた場合においては、使用者は、その費用で必要な療養を行い、又は必要な療養の費用を負担しなければならない。」
2「前項に規定する業務上の疾病及び療養の範囲は、厚生労働省令で定める。」

労働基準法施行規則第35条
「法第七十五条第二項の規定による業務上の疾病は、別表第一の二に掲げる疾病とする。」

労働基準法施行規則別表第1の2(第35条関係)
四「化学物質等による次に掲げる疾病」

7「石綿にさらされる業務による良性石綿胸水又はびまん性胸膜肥厚

五「粉じんを飛散する場所における業務によるじん肺症又はじん肺法(昭和三十五年法律第三十号)に規定するじん肺と合併したじん肺法施行規則(昭和三十五年労働省令第六号)第一条各号に掲げる疾病」
七「がん原性物質若しくはがん原性因子又はがん原性工程における業務による次に掲げる疾病」

8「石綿にさらされる業務による肺がん又は中皮腫

じん肺法施行規則第1条(合併症)
「じん肺法(以下「法」という。)第二条第一項第二号の合併症は、じん肺管理区分が管理二又は管理三と決定された者に係るじん肺と合併した次に掲げる疾病とする。」
一「肺結核
二「結核性胸膜炎
三「続発性気管支炎
四「続発性気管支拡張症
五「続発性気胸
六「原発性肺がん」

認定基準2:石綿ばく露作業に従事していたこと

石綿ばく露作業とは、次に掲げる作業をいいます。

⑴ 石綿鉱山又はその附属施設において行う石綿を含有する鉱石又は岩石の採掘、搬出又は粉砕その他石綿の精製に関連する作業
⑵ 倉庫内等における石綿原料等の袋詰め又は運搬作業
⑶ 次のアからオまでに掲げる石綿製品の製造工程における作業

ア 石綿糸、石綿布等の石綿紡織製品
イ 石綿セメント又はこれを原料として製造される石綿スレート、石綿高圧管、石綿円筒等のセメント製品
ウ ボイラーの被覆、船舶用隔壁のライニング、内燃機関のジョイントシーリング、ガスケット(パッキング)等に用いられる耐熱性石綿製品
エ 自動車、捲揚機等のブレーキライニング等の耐摩耗性石綿製品
オ 電気絶縁性、保温性、耐酸性等の性質を有する石綿紙、石綿フェルト等の石綿製品(電線絶縁紙、保温材、耐酸建材等に用いられている。)又は電解隔膜、タイル、プラスター等の充填剤、塗料等の石綿を含有する製品

⑷ 石綿の吹付け作業
⑸ 耐熱性の石綿製品を用いて行う断熱若しくは保温のための被覆又はその補修作業
⑹ 石綿製品の切断等の加工作業
⑺ 石綿製品が被覆材又は建材として用いられている建物、その附属施設等の補修又は解体作業
⑻ 石綿製品が用いられている船舶又は車両の補修又は解体作業
⑼ 石綿を不純物として含有する鉱物(タルク(滑石)等)等の取扱い作業
⑽ ⑴から⑼までに掲げるもののほか、これらの作業と同程度以上に石綿粉じんのばく露を受ける作業
⑾ ⑴から⑽までの作業の周辺等において、間接的なばく露を受ける作業

石綿ばく露作業に従事しているか、過去に従事していたことのある労働者(特別加入者を含む)のことを「石綿ばく露労働者」といいます。

認定基準3:労災認定の要件を満たすこと

疾病ごとに、労災認定の要件が定められています。

労災認定の要件については、概ね以下の2つの要素からなります。

要素1:期間と作業実態
石綿ばく露作業に従事した経歴がどの程度あるか
要素2:病状の進度
病状がどの程度まで進行しているか

それでは、各疾病ごとに認定要件を説明していきます。

石綿肺(石綿肺合併症を含む。)

石綿肺(出典:厚生労働省 石綿による疾病の認定基準)

石綿肺の要件は、石綿ばく露労働者に発生した疾病であって、じん肺法第4条第2項に規定するじん肺管理区分が管理4に該当する石綿肺又は石綿肺に合併したじん肺法施行規則第1条第1号から第5号までに掲げる疾病(じん肺管理区分が管理4の者に合併した場合も含む。)であることとされています。

肺がん

肺がん(出典:厚生労働省 石綿による疾病の認定基準)

肺がんの要件は、石綿ばく露労働者に発症した原発性肺がんであって、次の(1)から(6)までのいずれかに該当することとされています。

⑴ 石綿肺の所見が得られていること(じん肺法に定める胸部エックス線写真の像が第1型以上であるものに限る。以下同じ。)。
⑵ 胸部エックス線検査、胸部CT検査等により、胸膜プラークが認められ、かつ、石綿ばく露作業への従事期間(石綿ばく露労働者としての従事期間に限る。以下同じ。)が 10 年以上あること。ただし、石綿製品の製造工程における作業に係る従事期間の算定において、平成8年以降の従事期間は、実際の従事期間の1/2とする。
⑶ 次のアからオまでのいずれかの所見が得られ、かつ、石綿ばく露作業への従事期間が1年以上あること。

ア 乾燥肺重量 1g 当たり 5,000 本以上の石綿小体
イ 乾燥肺重量 1g 当たり 200 万本以上の石綿繊維(5μm超)
ウ 乾燥肺重量 1g 当たり 500 万本以上の石綿繊維(1μm超)
エ 気管支肺胞洗浄液 1ml 中5本以上の石綿小体
オ 肺組織切片中の石綿小体又は石綿繊維

⑷ 次のア又はイのいずれかの所見が得られ、かつ、石綿ばく露作業の従事期間が1年以上あること。

ア 胸部正面エックス線写真により胸膜プラークと判断できる明らかな陰影が認められ、かつ、胸部CT画像により当該陰影が胸膜プラークとして確認されるもの。胸膜プラークと判断できる明らかな陰影とは、次の(ア)又は(イ)のいずれかに該当する場合をいう。

(ア) 両側又は片側の横隔膜に、太い線状又は斑状の石灰化陰影が認められ、肋横角の消失を伴わないもの。
(イ) 両側側胸壁の第6から第 10 肋骨内側に、石灰化の有無を問わず非対称性の限局性胸膜肥厚陰影が認められ、肋横角の消失を伴わないもの。

イ 胸部CT画像で胸膜プラークを認め、左右いずれか一側の胸部CT画像上、胸膜プラークが最も広範囲に描出されたスライスで、その広がりが胸壁内側の1/4以上のもの。

(5) 石綿ばく露作業のうち、「石綿糸、石綿布等の石綿紡織製品」「石綿セメント又はこれを原料として製造される石綿スレート、石綿高圧管、石綿円筒等のセメント製品」の製造工程における作業、「石綿の吹付け」作業のいずれかの作業への従事期間又はそれらを合算した従事期間が5年以上あること。ただし、従事期間の算定において、平成8年以降の従事期間は、実際の従事期間の1/2とする。
(6) 下記の条件を満たすびまん性胸膜肥厚を発症している者に併発したもの。

ただし、最初の石綿ばく露作業(労働者として従事したものに限らない。)を開始したときから10年未満で発症したものは、条件を満たさないとされます。

中皮腫

中皮腫(出典:厚生労働省 石綿による疾病の認定基準)

中皮腫の要件は、石綿ばく露労働者に発症した胸膜、腹膜、心膜又は精巣鞘膜の中皮腫であって、次の⑴又は⑵に該当することとされています。

⑴ 石綿肺の所見が得られていること。
⑵ 石綿ばく露作業の従事期間が 1 年以上あること。

ただし、最初の石綿ばく露作業(労働者として従事したものに限らない。)を開始したときから10年未満で発症したものは条件を満たさないとされています。

良性石綿胸水

良性石綿胸水(出典:厚生労働省 石綿による疾病の認定基準)

良性石綿胸水の要件は、具体的に明示されておらず、労働基準監督署が厚生労働本省と協議した上で、認定されています。

びまん性胸膜肥厚

びまん性胸膜肥厚(出典:厚生労働省 石綿による疾病の認定基準)

びまん性胸膜肥厚の要件は、石綿ばく露労働者に発症したびまん性胸膜肥厚であって、次の⑴から⑶までのいずれの要件にも該当することとされています。

⑴ 胸部CT画像上、肥厚の広がりが、片側にのみ肥厚がある場合は側胸壁の1/2以上、両側に肥厚がある場合は側胸壁の1/4以上あるものであること。
⑵ 著しい呼吸機能障害を伴うこと。
この著しい呼吸機能障害とは、次のア又はイに該当する場合をいうものであること。

ア パーセント肺活量(%VC)が 60%未満である場合
イ パーセント肺活量(%VC)が 60%以上 80%未満であって、次の(ア)又は(イ)に該当する場合

(ア) 1 秒率が 70%未満であり、かつ、パーセント 1 秒量が 50%未満である場合
(イ) 動脈血酸素分圧(PaO2)が 60Torr以下である場合又は肺胞気動脈血酸素分圧較差(AaDO2)が別表の限界値を超える場合

(3) 石綿ばく露作業への従事期間が3年以上あること。

アスベスト被害の労災認定基準については、以下の行政通達に詳しく記載されています。

「石綿による疾病の認定基準について」(平成24年3月29日付け基発0329第2号)

 

 

アスベスト被害と労災補償の金額

アスベスト被害を受けた場合の労災補償の種類や金額については、以下のとおりです。

労災給付労災給付(東京労働局:労災保険給付の一覧を加工して作成)

アスベスト被害の労災申請手続

アスベスト被害の労災申請手続きは、通常、以下の手順で行います。

手順1:会社に労災申請したい旨の連絡
手順2:請求書に必要事項の記入
手順3:会社に証明を依頼
手順4:医師に証明を依頼又は請求書を提出
手順5:労働基準監督署に請求書を提出

それでは各手順について順番に説明していきます。

手順1:会社に労災申請したい旨の連絡

まずは、会社に症状や診療を受けている病院を伝えて労災申請したい旨の連絡をしましょう。

会社からの協力を得ることができれば、労災申請をスムーズに進めることができます。

その際には、併せて、労災保険番号の確認と後日会社の証明に協力してほしい旨のお願いもしておきましょう。

手順2:請求書に必要事項の記入

あなたが請求する労災補償の種類ごとに請求書がありますので、それをダウンロードして記入しましょう。

例えば、療養(補償)等給付たる療養の費用を請求するには、以下のような様式に必要事項を記入します。

労災様式-1
労災様式ー2(出典:厚生労働省(OCR様式)療養補償給付及び複数事業労働者療養給付たる療養の費用請求書 業務災害用・複数業務要因災害用(様式第7号(1))

請求書の様式については、以下の厚生労働省のサイトにて公開されています。

ダウンロード用(OCR)様式|厚生労働省 (mhlw.go.jp)

手順3:会社に証明を依頼

必要事項の記入ができたら、会社に証明を依頼しましょう。

請求書には負傷の状況等について、会社の証明を受ける欄があるためです。

ただし、会社がこれらの事項について証明してくれない場合もあります。

会社が証明してくれない場合には、会社に証明を求めたものの、これを得られなかったことについて、労働基準監督署に説明する必要があります。

そのため、会社に対して証明を依頼する際には期限など定めておき、依頼した文書の写しを手元に残しておきましょう。

手順4:医師に証明を依頼又は請求書を提出

労災病院や労災保険指定医療機関・薬局以外の場合には、医師に傷病に関する証明をもらいましょう

これに対して、労災病院や労災保険指定医療機関・薬局では、無料で治療や薬剤などの支給を受けられます。この場合、請求書を病院に提出して、病院から労働基準監督署に請求書を提出してもらいます。

手順5:請求書の提出

以上の、過程を経て請求書が完成したら、最後に石綿ばく露作業に従事した事業場を管轄する労働基準監督署に提出しましょう。

~請求書提出後の労災認定手続~

請求書提出後の労災保険認定手続きは、以下のような流れで進んでいきます。
・受付
・書類審査
・調査
・専門家意見のヒアリング
・支給又は不支給決定

 

 

アスベスト被害の労災と時効

労災保険の申請についての時効は、以下のとおりです。

労災と時効

アスベスト被害で労災認定されない場合の救済制度

アスベスト被害で労災の給付を受けられない場合であっても、「石綿健康被害救済法」により以下の2つの救済制度があります。

救済1:救済給付
救済2:特別遺族給付金

それぞれについて簡単に説明します。

救済1:救済給付

救済給付とは、「石綿工場の周辺住民の方」や「石綿ばく露作業に従事した労働者の家族」、「労災と特別加入制度に加入していない中小事業主・一人親方」などの労災保険による補償給付を受けられない方への給付を行う制度です。

救済給付には、以下の種類があります。

救済給付

救済2:特別遺族給付金

特別遺族給付金は、石綿ばく露作業に従事することにより石綿関連疾病にかかり、これにより平成28年3月26日までになくなった労働者の遺族について、労災保険の遺族補償給付を受ける権利が時効によって消滅していた場合に、請求に基づいて給付を行う制度です。

特別遺族給付には、以下の種類があります。

特別遺族給付

詳細は、以下の厚生労働省のサイトをご確認ください。

石綿健康被害救済法が改正されました|厚生労働省 (mhlw.go.jp)

 

 

アスベストによる一定の健康被害には賠償金や給付金も出る!

アスベスト被害についての労災では、精神的苦痛についての慰謝料は補償されていません

しかし、労災とは別に、国に対して訴訟を提起するか、又は、給付金の請求をすることにより、精神的苦痛についても救済してもらえる可能性があります

工場型のアスベスト被害」と「建設型のアスベスト被害」がありますので、それぞれについて説明します。

工場型のアスベスト被害

平成26年10月9日に工場アスベストの集団訴訟について、最高裁が国の責任を認める判決をしました。

これにより、工場型のアスベスト健康被害を受けた方の精神的苦痛についての救済についても、現在、和解についての具体的なルールが整備されています。

工場型のアスベスト被害による精神的苦痛についての賠償金の対象となる方は、以下の方です。

1 昭和 33 年 5 月 26 日から昭和 46 年 4 月 28 日までの間に、局所排気装置を設置すべき石綿工場内において、石綿粉じんにばく露する作業に従事したこと
2 その結果、石綿肺、肺がん、中皮腫、びまん性胸膜肥厚など石綿による一定の健康被害を被ったこと
3 提訴の時期が損害賠償請求権の期間内であること
※上記につき、日本年金機構発行の「被保険者記録照会回答票」、都道府県労働局長発行の「じん肺管理区分決定通知書」、労働基準監督署長発行の「労災保険給付支給決定通知書」、医師の発行する「診断書」などの証拠が必要となります。

工場型のアスベスト健康被害による精神的苦痛についての賠償金の金額は、以下のとおりです。
工場型アスベストの賠償金

建設型のアスベスト被害

令和3年5月17日に13年前から争われている建設アスベストの集団訴訟について、最高裁が国の責任を認める判決をしました。

これにより、建設型のアスベスト健康被害を受けた方の精神的苦痛についての救済についても、現在、具体的なルールが整備されています。

建設型のアスベスト被害による精神的苦痛についての賠償金や給付金の対象となる方は、以下の方です。

1 以下の建設業務のいずれかを以下の期間に行っていたこと。
⑴ 石綿の吹き付け作業に係る建設業務
昭和47年10月1日~昭和50年9月30日
⑵ 一定の屋内作業場で行われた作業に係る建設業務
昭和50年10月1日~平成16年9月30日
2 以下のいずれかの石綿関連疾病にかかったこと
⑴中皮腫
⑵肺がん
⑶著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚
⑷石綿肺(じん肺管理区分が管理2~4)
⑸良性石綿胸水
3 労働者や、一人親方・中小事業主(家族従事者等を含む)であること
※被害者本人が亡くなっている場合には、ご遺族(配偶者、子、父母、孫、祖父母又は兄弟姉妹)の方からの請求が可能です。
4 石綿関連疾病にかかった旨の医師の診断日又は石綿肺に係るじん肺管理区分の決定日(石綿関連疾病により死亡したときは、死亡日)から20年以内であること

建設型のアスベスト健康被害による精神的苦痛についての賠償金や給付金の金額は、以下のとおりです。
建設型アスベストの賠償金

アスベスト被害と労災のよくあるQ&A

アスベスト被害と労災について、よくあるQ&Aとしては、例えば以下の5つがあります。

Q1:遺族でも補償を受けられますか?
Q2:既に会社を退職していても労災補償は受けられますか?
Q3:個人事業主でも労災の補償は受けられますか?
Q4:労災では慰謝料はもらえないのですか?
Q5:労災と給付金の関係はどのようになりますか?

これらの疑問について一緒に解消していきましょう。

Q1:遺族でも補償を受けられますか?

アスベスト健康被害により亡くなった方のご遺族についても、遺族補償給付等をもらえる可能性があります

また、既に、労災の時効期間が経過している場合であっても、特別遺族給付金をもらえる可能性があります。

これらに加えて、ご遺族の方は、精神的苦痛についての賠償金や給付金についても、もらえる可能性があります。

Q2:既に会社を退職していても労災補償は受けられますか?

既に会社を退職している場合であっても、過去に労働者として石綿ばく露作業に従事していた場合には、労災補償を受けることができる可能性があります

Q3:個人事業主でも労災の補償は受けられますか?

労働者でなくとも、特別加入制度に加入していた中小事業主・一人親方等も、労災補償を受けることができる可能性があります

更に、特別加入制度に加入していない場合であっても、救済給付を受けることができる可能性があります。

加えて、賠償金や給付金については、中小事業主・一人親方であっても、もらえる可能性があります。

Q4:労災では慰謝料はもらえないのですか?

労災では、精神的苦痛についての慰謝料は補償してもらうことができません

精神的苦痛についての慰謝料は、別途、国に対して賠償金又は給付金を請求する必要があります。

Q5:労災補償と賠償金・給付金の関係はどのようになりますか?

労災補償を受給している方であっても、これとは別に精神的苦痛についての賠償金又は給付金をもらえる可能性があります

なぜなら、労災には精神的苦痛についての補償は含まれていないためです。

なお、労災補償を受給していない場合であっても、国から賠償金又は給付金をもらえる可能性がありますが、両者の条件はほぼ一致しているため、労災の申請もしておいた方がいいでしょう。

 

 

まとめ

以上のとおり、今回は、アスベスト被害に関して、労災認定基準や補償金額、申請手続きを分かりやすく解説しました。

この記事の要点を簡単に整理すると以下のとおりです。

・業務中にアスベスト被害を受けた方で、一定の疾病にかかっている場合には、労災として救済してもらえる可能性があります。

・アスベスト被害が労災と認定される基準としては、以下の3つがあります。
認定基準1:対象疾病を発症していること
認定基準2:石綿ばく露作業に従事していたこと
認定基準3:労災認定の要件を満たすこと

・アスベスト被害に労災補償としては、以下の給付を受けられる可能性があります。
療養補償給付
休業補償給付
障害補償給付
遺族補償給付
葬祭料
介護補償給付
二次健康診断等給付

・アスベスト被害の労災申請手続きは、通常、以下の手順で行います。
手順1:会社に労災申請したい旨の連絡
手順2:請求書に必要事項の記入
手順3:会社に証明を依頼
手順4:医師に証明を依頼又は請求書を提出
手順5:労働基準監督署に請求書を提出

・アスベスト被害の労災保険の申請についての時効は以下のとおりです。

労災と時効
・アスベスト被害で労災の給付を受けられない場合であっても、「石綿健康被害救済法」により1、以下の2つの救済制度があります。
救済1:救済給付
救済2:特別遺族給付金

・労災とは別に、国に対して訴訟を提起するか、又は、給付金の請求をすることにより、精神的苦痛についても救済してもらえる可能性があります。

この記事がアスベスト被害に悩んでいる被害者の方やご遺族の方の助けになれば幸いです。

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