不当解雇・退職扱い

【保存版】セクハラと懲戒処分-セクハラの程度と懲戒処分の相場について解説-

 近年、セクシュアルハラスメント(セクハラ)についての意識が高まっています。そして、これに伴い、セクハラの被害者からの相談のみならず、セクハラの加害者として会社から懲戒処分をされてしまったとの相談も増加しています。
 確かに、セクハラは許されるべきものではありませんが、これを理由にいかなる懲戒処分も許されるわけではありません。行われるべき懲戒処分は、そのセクハラ行為の内容に応じて適切に選択されるべきものです。
 今回は、セクハラの程度と懲戒処分の相場について解説します。

セクハラの相談件数

 セクシュアルハラスメントとは、相手方の意に反する性的な言動をいいます。
 このうち職場におけるセクシュアルハラスメントとは、男女雇用機会均等法では、「職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されること」をいいます(男女雇用機会均等法11条、平成 18 年厚生労働省告示第 615 号)。
 「平成30年度 都道府県労働局雇用環境・均等部(室)での法施行状況」によると、相談内容で最も多いのはセクシュアルハラスメントであり、「平成29年度」では「6,808件(35.5%)」、「平成30年度」では「7,639件」(38.2%)となっています。
出典:平成30年度 都道府県労働局雇用環境・均等部(室)での法施行状況

男女雇用機会均等法11条(職場における性的な言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置等)
1「事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。」

事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(平成 18 年厚生労働省告示第 615 号)【令和2年6月1日適用】

セクハラの程度の整理

 セクハラの程度については、法的には以下のとおり整理できるとされています。

1 犯罪行為に該当する程度
例:陰部に触れる、乳房を弄ぶ、無理やりキスをするなどの行為
2 民法上の不法行為に該当する程度
例:衣服の上から胸や臀部などを触る行為
例:性的なうわさを言いふらす行為
3 労働行政指導の対象となる程度
例:執拗に食事に誘う行為や何度も交際を求める行為
例:肩や手、髪などに触れる行為
4 企業秩序を害する程度
例:「おばさん」と呼んだり、「子供はまだできないのか」と聞いたりする行為

セクハラの程度と懲戒処分の相場

総論

 懲戒権の行使は、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」には、無効になります(労働契約法15条)。
 国家公務員に関するものですが、人事院が作成した「懲戒処分の指針について(平成12年3月31日職職―68)」が参考になります。

(14) セクシュアル・ハラスメント(他の者を不快にさせる職場における性的な言動及び他の職員を不快にさせる職場外における性的な言動)
ア 暴行若しくは脅迫を用いてわいせつな行為をし、又は職場における上司・部下等の関係に基づく影響力を用いることにより強いて性的関係を結び若しくはわいせつな行為をした職員は、免職又は停職とする。
イ 相手の意に反することを認識の上で、わいせつな言辞、性的な内容の電話、性的な内容の手紙・電子メールの送付、身体的接触、つきまとい等の性的な言動(以下「わいせつな言辞等の性的な言動」という。)を繰り返した職員は、停職又は減給とする。この場合においてわいせつな言辞等の性的な言動を執拗に繰り返したことにより相手が強度の心的ストレスの重積による精神疾患に罹患したときは、当該職員は免職又は停職とする。
ウ 相手の意に反することを認識の上で、わいせつな言辞等の性的な言動を行った職員は、減給又は戒告とする。

 厚生労働省・都道府県労働局雇用環境・均等部(室)による「職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!」に掲げられている「職場におけるハラスメントの防止に関する規定」の例では、以下のように記載されています。

第4条(懲戒)
次の各号に掲げる場合に応じ、当該各号に定める懲戒処分を行う。
①第3条第2項(①を除く。)、第3条第3項①から⑤及⑧及び第4項の行為を行った場合
就業規則第▽条第1項①から④までに定めるけん責、減給、出勤停止又は降格
②前号の行為が再度に及んだ場合、その情状が悪質と認められる場合、第3条第2項①又は第3条第3項⑥、⑦の行為を行った場合
就業規則第▽条⑤に定める懲戒解雇
第3条(禁止行為)
すべての従業員は、他の従業員を業務遂行上の対等なパートナーとして認め、現場における健全な秩序並びに協力関係を保持する義務を負うとともに、その言動に注意を払い、職場内において次の第2項から第5項に掲げる行為をしてはならない。また、自社の従業員以外の者に対しても、これに類する行為を行ってはならない。
3 セクシュアルハラスメント(第2条第2項の要件を満たした以下のような行為)
①性的及び身体上の事柄に関する不必要な質問・発言
②わいせつ図画の閲覧、配布、掲示
③うわさの流布
④不必要な身体への接触
⑤性的な言動により、他の従業員の就業意欲を低下せしめ、能力の発揮を阻害する行為
⑥交際・性的関係の強要
⑦性的な言動への抗議又は拒否等を行った従業員に対して、解雇、不当な人事考課、配置転換等の不利益を与える行為
⑧その他、相手方及び他の従業員に不快感を与える性的な言動

パワハラ対策の義務化・セクハラ等の対策の強化-ハラスメント防止に関する法改正-職場におけるパワーハラスメント防止対策が事業主に義務付けられることになりました。今回は、パワハラ対策の義務化やセクハラ等の対策の強化について解説します。...

犯罪行為に該当する程度のセクハラ

例:陰部に触れる、乳房を弄ぶ、無理やりキスをするなどの行為

 強姦や強制わいせつ等の犯罪行為に該当する行為、特に会社内の他の従業員に対してこれが行われた場合には、懲戒解雇が相当とされています。

大阪地判平12.4.28労判785号15頁[大阪観光バス事件]

 「原告が性的なことがらに関し取引際である」旅行会社「の多数の添乗員に不愉快な思いをさせる振る舞いをして苦情を寄せられるという事態を招いたことは、就業規則八八条八項に該当するというべきであるし、被告の信用を落とす行為でもある。」
 「また、乙山に対するわいせつ行為も、まことに悪質な行為であって社会人として許されるものでない。そして、その一部は勤務中のことであったし、また、勤務終了後の行為についても、古参の運転手という立場で入社間もない乙山にしつこく迫って誘い出すなどしているのであるから、これらが同規則八八条八項に該当することは明白である。」
 「さらに、遅刻しそうになって」O氏「にバスの移動を依頼し、その結果」O氏「が原告の乗務予定のバスを移動させようとした行為は、同規則八八条八項及び二〇項に該当する。」
 「そして、乙山に対する非違行為について事情聴取を受けた際、反論して事情聴取に応じなかった点について、原告は、その外形的事実を概ね認めながらも種々弁解している。しかしながら、仮に原告が真実、」N氏「のセクハラ発言を他の従業員から聞き及んでいたとしても、その場は、原告の非違行為について上司である」N氏「から事実確認のための事情聴取を受けているのであるから、」N氏「のセクハラ発言を持ち出したりすることは、責任追及の回避であり、問題のすり替えというべきであって許されることではない。『ビラまいたろか』との発言も、原告は事実無根の非難に対する売り言葉、買い言葉であったなどと主張するが、前記のとおり乙山に対する非違行為が事実無根の中傷とは認められず、結局、右発言は、自己に対する追及をかわすため、組合役員の立場を利用し、組合の威力を背景にしてなされた脅迫以外のなにものでもないというべきである。よって、これらの言動も就業規則八八条八項に該当する。」
 「そして、被告では男女関係が杜撰との非難を回避すべく社内での男女関係には厳しい対応をしてきており、原告は以前にも女性関係の問題で被告から注意を受けていたにもかかわらず、右のとおり、」旅行会社「からの女性関係の苦情を招いたり、乙山への悪質なわいせつ行為に及んだりしていること、乗務に遅刻しそうになるという自らの非を勝手な運転手の手配によって取り繕おうとしたばかりか、これらに関し、注意や事情聴取を受けても反抗的な言動をし、あまっさえ、責任回避のための脅迫にまで及んでいること等専恣な行為を累積させてきているのであって、反省の態度はみられず、その情状は重いというべきである。」
 「これらの事情を総合考慮すると、本件解雇はやむを得ない選択というほかなく、相当としてこれを是認することができる。」

東京地判平成17.1.31判時1891号156頁[日本HP本社セクハラ解雇事件]

 「原告のセクハラ行為は、Bf及びCCに対し日常的に性的な発言をしたり、身体的接触を繰り返した上、Bfに対し飲食を共にした際に無理やりキスをしたり、深夜自宅付近まで押し掛けて自動車に乗せ、車中で手を握るなどし、CCに対し残業中に胸に触ったりしたというものであって、いずれも悪質なものである。また、原告は、被告において役員に次ぐ地位にあり、約八〇人の従業員を管理監督する立場にあったにもかかわらず、立場上拒絶が困難なBf及びCCに対し自らセクハラ行為を行っていたのであって、その責任は極めて重い。しかも、被告では、SBCにおいて差別や嫌がらせの禁止、これに違反した場合に懲戒解雇を含む厳罰を科する旨明示するとともに、本件合併前には全管理職に対し、SBCに関する教育を実施した。そして、被告は、平成一五年六月二五日のイントラネット上に『セクシュアル・ハラスメントのない職場づくりに向けて』と題する書面を掲示して、改正男女雇用機会均等法のセクハラに関する規定の説明、セクハラがSBC違反、被告就業規則における懲戒処分に該当する不正行為とみなされ、免職を含めた懲戒処分が適用されること、管理職においてセクハラに関する法律、SBCの規定等が遵守されるよう周知徹底すべきことを告知していた。それにもかかわらず、原告は被告の前記措置を軽視し、前記セクハラ行為に及んだものである。前記のようなセクハラ対策を講じてきた被告が、セクハラ被害を申告した者や他の女性従業員への影響を考慮して、セクハラ行為を行った者に対し厳正な態度で臨もうとする姿勢には正当な理由があるというべきである。」
 「これらの事情に鑑みれば、原告のBf及びCCに対するセクハラ行為は、Bf及びCCの各陳述書に記載されたもののみを取り上げただけでも、これに記載された行為が事実として認められる以上、被告就業規則六〇条一号、八号、一一号、一二号に定める懲戒解雇に該当する事由が存在するといえる。したがって、被告が主張するその余のセクハラ行為について判断するまでもなく、本件懲戒解雇は相当なものであり、社会的相当性を欠き、客観的な合理性がないということはできない。」

東京地判平22.12.27労経速2097号3頁[X社事件]】

⑴ 懲戒解雇事由の有無
 「原告は、3月18日の未明から早朝にかけて、Dから帰宅するよう何度も促されたにも関わらず、これを無視して本件客室内に居座って、Dらが横になっているベッドの上に自らも横になり、嫌がるDに対し、頭を撫で、ほほや唇にキスをして口の中に2、3回舌を入れるなどし、服の中に手を入れて腹や太ももを直接撫で、パンティの中にまで手を入れようとするなどの行為を繰り返し、さらに、嫌がるEに対しても、服の中に手を入れて直接乳首を触り、これを避けようとした腕をつかんで舐め、指で唇を触り、口の中に指を入れるなどした(本件わいせつ行為)。」
 「本件わいせつ行為は、未明から早朝にかけて、若い女性2人の宿泊するホテルの客室に、女性らの派遣先会社の取引先の担当部長である男性が、何度も帰宅するよう促されているにもかかわらずこれを無視して居座り続けるという特殊な状況下で行われたものであり、業務上の力関係を背景にしていることは明らかであるといえ、悪質である。また、その行為態様も、嫌がる女性らに対して、執拗に、キスをして口の中に舌を入れたり、服の中に手を入れて直接乳首を弄んだり太ももなどを撫でたり、パンティの中にまで手を入れようとするなどのわいせつ行為を繰り返すというものであって、強制わいせつ罪にも当たり得るほどに重大なものである。本件わいせつ行為が被害者女性らに与えた精神的衝撃も大きい。」
 「このような本件わいせつ行為の悪質性、重大性に鑑みれば、被告の就業規則79条9号『不当な行為により人権を侵害した』、同条10号『不正不信の行為または不行跡により従業員としての体面を汚し会社の名誉を傷つけた』に当たり、同規則80条12号『前条各号の事由によるものでその情状が重く酌量の余地がない』、同条13号『その他前各号に準ずる程度の不都合の行為があった』に優に該当するものであるといえる。」
⑵ 懲戒解雇の合理性
 「まず、本件わいせつ行為の悪質性、重大性に照らせば、被告が懲戒処分の中でもっとも厳しい解雇処分を選択することも十分に合理性を有するものである。」
 「また、本件わいせつ行為があった3月18日にZ社に帰社したDらからZ社の上司らに対して本件わいせつ行為の具体的な被害申告があったことを契機として、被告人事部において、3月20日に調査が開始され、さらに、慎重な対応を要する事案であるため専門家である弁護士による調査・検討を行う必要があるとして、4月2日から17日までは、16名にも及ぶ関係者(D及びEを含む)らに対し、弁護士によるヒアリング調査が、相当な時間をかけ、詳細に行われた。そして、原告に対しても、人事部が4回、弁護士が1回(所要時間は約4時間に及ぶ)、それぞれ詳細なヒアリングを行っており、この中で、原告は、顛末書を提出するなどして、自らの言い分を十分に述べることができている。」
 「このように、本件懲戒解雇は、弁護士も関与した詳細な調査・検討と、これに基づく社内手続を経て行われており、手続的な瑕疵は見当たらない。」
 「したがって、本件懲戒解雇は、懲戒権の濫用には当たらず、有効であると認めることができる。」

セクシュアルハラスメントと解雇セクシュアルハラスメントは、どのような場合に解雇事由になるのでしょうか。今回は、セクシュアルハラスメントを理由とする解雇について解説します。...

民法上の不法行為に該当する程度のセクハラ

例:衣服の上から胸や臀部などを触る行為
例:手、太股、ひざなどを触る行為
例:手の甲や額にキスする行為
例:立場を利用して性的関係を迫る行為
例:性的関係等を拒否したことを理由に業務上の不利益を与える行為
例:性的なうわさを言いふらす行為

 衣服の上から臀部などを触る行為や立場を利用して肉体関係等を迫る行為については、初犯の場合には、直ちに懲戒解雇することは認められないと考えられています。また、同様に普通解雇も難しいとされています。
 役職者が部下に対して行った場合には、役職を外すという降格処分が相当でしょう。
 役職がない者がこれを行った場合には、出勤停止等の処分が行われることになります。
 もっとも、過去にも同様の行為が繰り返されており、懲戒処分をされている前科がある場合には、普通解雇が有効とされる余地があります。

東京地判平21.4.24労判987号48頁[Y社(セクハラ・懲戒解雇)事件]

 「原告の前記セクハラの内容は,まず,本件宴会においては,複数の女性従業員に対して,原告の側に座らせて,品位を欠いた言動を行い,とりわけ,新人のCに対して,膝の上に座るよう申し向けて酌をさせたり,更には,Kに対しての『本件犯すぞ発言』等は,悪質と言われてもやむを得ないものである。」
 「そして,原告の日常的な言動も,酒席において,女性従業員の手を握ったり,肩を抱いたり,それ以外の場面でも,特に,女性の胸の大きさを話題にするなどセクハラ発言も繰り返していたものである。」
 「加えて,本件では,被害者側にも,原告に誤解を与える行為をしたといった落ち度もない上,原告は,東京支店支店長として,セクハラを防止すべき立場であるにもかかわらず,これらを行ったものであり,また,原告は,W社グループの幹部として,倫理綱領制定の趣旨,重要性をよく理解し,他の過去のセクハラの懲戒処分事案についても認識していたものであることも前提事実摘示のとおりである。」
 「以上の諸点にかんがみれば,本件における原告の情状が芳しからざるものであることは明らかである。」
 「しかしながら,他方,日頃の原告の言動は,前記発言のほか,宴席等で女性従業員の手を握ったり,肩を抱くという程度のものに止まっているものであり,本件宴会での一連の行為も,いわゆる強制わいせつ的なものとは,一線を画すものというべきものであること(Cは,原告の膝につくかつかないかの中腰で,ビールを注いだものであり,Cに対する行為も,強制わいせつ的なものとまでは評価できない。),本件宴会におけるセクハラは,気のゆるみがちな宴会で,一定量の飲酒の上,歓談の流れの中で,調子に乗ってされた言動としてとらえることもできる面もあること,全体的に原告のセクハラは,人目に付かないところで,秘密裏に行うというより,多数の被告従業員の目もあるところで開けっぴろげに行われる傾向があるもので,自ずとその限界があるものともいい得ること,前記セクハラ行為の中で,最も強烈で悪質性が高いと解される『本件犯すぞ発言』も,女性を傷つける,たちの良くない発言であることは明白であるが,前記認定に照らせば,Kが,好みの男性のタイプを言わないことに対する苛立ちからされたもので,周囲には多くの従業員もおり,真実,女性を乱暴する意思がある前提で発言されたものではないこと,原告は被告(会社)に対して相応の貢献をしてきており,反省の情も示していること,これまで,原告に対して,セクハラ行為についての指導や注意がされたことはなく,いきなり本件懲戒解雇に至ったものであること等の事情を指摘することができる。」
 「以上の諸事情に照らして考慮すると,原告の前記各言動は,女性を侮辱する違法なセクハラであり,懲戒の対処となる行為ということは明らかであるし,その態様や原告の地位等にかんがみると相当に悪質性があるとはいいうる上,コンプライアンスを重視して,倫理綱領を定めるなどしている被告が,これに厳しく対応しようとする姿勢も十分理解できるものではあるが,これまで原告に対して何らの指導や処分をせず,労働者にとって極刑である懲戒解雇を直ちに選択するというのは,やはり重きに失するものと言わざるを得ない(被告は,直ちに、懲戒解雇を選択することなく,仮に,原告を配転(降格)することによって,東京支店から移動させたとしても,セクハラを訴えた5名(H,I,J,C及びK)は,退職せざるを得ない状況となるであろうし,万が一,退職しなかったとしても,今後,常に原告におびえ続け,平穏に仕事をすることはできない状態となるのであって,本件において,原告に対して,懲戒解雇をもって臨む以外の処分は考えられない旨を主張するが,被告には,倫理担当者もおり,かかる被害者を守るシステムは構築されているし,仮に,原告に報復的な行為をする兆しがあるのであれば,そのときにこそ,直ちに懲戒解雇権を行使すれば足りるのであって,被告の前記主張は,採用できない。)。」
 「以上のとおり,本件懲戒解雇は,被告の主張する各事情を考慮しても,なお重きに失し,その余の手続面等について検討するまでもなく,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上,相当なものとして是認することができず,権利濫用として,無効と認めるのが相当である。」

東京地判平22.10.29労判1018号18頁[新聞輸送事件]

 「本件行為の態様は,上記認定のとおり,被害申告事実のとおりであって,原告甲野は平成19年5月24日,居酒屋で飲食を共にしたAに対して帰宅途中の本件タクシー車内において,スカートの右裾を腰付近まで引き上げて下着を露出させたものであり,本件行為はAの意に反してなされたAの羞恥心を害する態様での身体に対する違法な有形力の行使であるものと認められる。また,原告甲野とAは職場の同僚以外の接点はなく,派遣社員であるAは職場の同僚であって正社員である原告甲野との関係を社会的儀礼の範囲内で円満に推移させようとして,原告甲野の行動を消極的に受け入れた結果として,本件被害に遭遇した本件行為の発生の経過からすると,本件行為はセクハラ行為に該当するものと認めるのが相当である。」
 「上記認定のとおり,原告甲野は,被告の派遣社員であったAに対しセクハラ行為に該当する被害申告事実を行い,その後の経緯として,Aが被告を退職するに至り,被告は被害申告事実に対する対応を余儀なくされ,被告代表者(当時丁原三郎)がAに対し謝罪をする等の事態に至っているのであって,原告甲野降格処分には合理的な理由がある。そして,上記認定のとおり,本件行為時から原告甲野降格処分までの間に,被害申告事実が発覚していればなされなかったであろう原告甲野昇格措置がなされていることを考慮すれば,本件行為時の次長職を基準に1階級引き下げた次長代理とした原告甲野降格処分は,原告甲野が行った被害申告事実の内容及びその結果に照らして重すぎるものとも認められない。したがって,原告甲野降格処分は,被告が有する人事権の裁量の範囲内の措置として有効である。よって,原告甲野降格処分が無効であることを前提とする原告甲野の地位確認請求にはいずれも理由がない。」

セクシュアルハラスメント-違法になる場合と慰謝料金額-セクシュアルハラスメントというのは法的にはどのような問題なのでしょうか。今回は、セクシュアルハラスメントが違法になる場合と慰謝料金額について解説します。...

労働行政指導の対象となる程度のセクハラ

例:執拗に食事に誘う行為や何度も交際を求める行為
例:職場で性的な言動をする行為
例:肩や手、髪などに触れる行為

 執拗に食事に誘う行為や肩に触れる行為などについては、譴責や減給等の懲戒処分が相当とされています。悪質なケースでは、出勤停止が認められることもあります。
 労働者の意識を啓発するため研修・講習等を実施されているか、労働者が反省しているかも有効性の判断の上で重要な考慮要素です。

最判平27.2.26判時2253号107頁[海遊館事件]

 「本件各行為の内容についてみるに,被上告人X1は,営業部サービスチームの責任者の立場にありながら,別紙1のとおり,従業員Aが精算室において1人で勤務している際に,同人に対し,自らの不貞相手に関する性的な事柄や自らの性器,性欲等について殊更に具体的な話をするなど,極めて露骨で卑わいな発言等を繰り返すなどしたものであり,また,被上告人X2は,前記2(5)のとおり上司から女性従業員に対する言動に気を付けるよう注意されていたにもかかわらず,別紙2のとおり,従業員Aの年齢や従業員Aらがいまだ結婚をしていないことなどを殊更に取上げて著しく侮蔑的ないし下品な言辞で同人らを侮辱し又は困惑させる発言を繰り返し,派遣社員である従業員Aの給与が少なく夜間の副業が必要であるなどとやゆする発言をするなどしたものである。このように,同一部署内において勤務していた従業員Aらに対し,被上告人らが職場において1年余にわたり繰り返した上記の発言等の内容は,いずれも女性従業員に対して強い不快感や嫌悪感ないし屈辱感等を与えるもので,職場における女性従業員に対する言動として極めて不適切なものであって,その執務環境を著しく害するものであったというべきであり,当該従業員らの就業意欲の低下や能力発揮の阻害を招来するものといえる。」
 「しかも,上告人においては,職場におけるセクハラの防止を重要課題と位置付け,セクハラ禁止文書を作成してこれを従業員らに周知させるとともに,セクハラに関する研修への毎年の参加を全従業員に義務付けるなど,セクハラの防止のために種々の取組を行っていたのであり,被上告人らは,上記の研修を受けていただけでなく,上告人の管理職として上記のような上告人の方針や取組を十分に理解し,セクハラの防止のために部下職員を指導すべき立場にあったにもかかわらず,派遣労働者等の立場にある女性従業員らに対し,職場内において1年余にわたり上記のような多数回のセクハラ行為等を繰り返したものであって,その職責や立場に照らしても著しく不適切なものといわなければならない。」
 「そして,従業員Aは,被上告人らのこのような本件各行為が一因となって,本件水族館での勤務を辞めることを余儀なくされているのであり,管理職である被上告人らが女性従業員らに対して反復継続的に行った上記のような極めて不適切なセクハラ行為等が上告人の企業秩序や職場規律に及ぼした有害な影響は看過し難いものというべきである。」
 「原審は,被上告人らが従業員Aから明白な拒否の姿勢を示されておらず,本件各行為のような言動も同人から許されていると誤信していたなどとして,これらを被上告人らに有利な事情としてしんしゃくするが,職場におけるセクハラ行為については,被害者が内心でこれに著しい不快感や嫌悪感等を抱きながらも,職場の人間関係の悪化等を懸念して,加害者に対する抗議や抵抗ないし会社に対する被害の申告を差し控えたりちゅうちょしたりすることが少なくないと考えられることや,上記(1)のような本件各行為の内容等に照らせば,仮に上記のような事情があったとしても,そのことをもって被上告人らに有利にしんしゃくすることは相当ではないというべきである。」
 「また,原審は,被上告人らが懲戒を受ける前にセクハラに対する懲戒に関する上告人の具体的な方針を認識する機会がなく,事前に上告人から警告や注意等を受けていなかったなどとして,これらも被上告人らに有利な事情としてしんしゃくするが,上告人の管理職である被上告人らにおいて,セクハラの防止やこれに対する懲戒等に関する上記(1)のような上告人の方針や取組を当然に認識すべきであったといえることに加え,従業員Aらが上告人に対して被害の申告に及ぶまで1年余にわたり被上告人らが本件各行為を継続していたことや,本件各行為の多くが第三者のいない状況で行われており,従業員Aらから被害の申告を受ける前の時点において,上告人が被上告人らのセクハラ行為及びこれによる従業員Aらの被害の事実を具体的に認識して警告や注意等を行い得る機会があったとはうかがわれないことからすれば,被上告人らが懲戒を受ける前の経緯について被上告人らに有利にしんしゃくし得る事情があるとはいえない。」
 「以上によれば,被上告人らが過去に懲戒処分を受けたことがなく,被上告人らが受けた各出勤停止処分がその結果として相応の給与上の不利益を伴うものであったことなどを考慮したとしても,被上告人X1を出勤停止30日,被上告人X2を出勤停止10日とした各出勤停止処分が本件各行為を懲戒事由とする懲戒処分として重きに失し,社会通念上相当性を欠くということはできない。」
 「したがって,上告人が被上告人らに対してした本件各行為を懲戒事由とする各出勤停止処分は,客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められない場合に当たるとはいえないから,上告人において懲戒権を濫用したものとはいえず,有効なものというべきである。」

企業秩序を害する程度のセクハラ

例:「おばさん」と呼んだり、「子供はまだできないのか」と聞いたりする行為

 「おばさん」と呼んだり、「子供はまだできないのか」と聞いたりするなど、犯罪や民法上の不法行為に該当しないものの職務遂行を害する行為については、懲戒処分を行う前に、注意・指導を与えられるべきです。このような注意・指導がなされても、是正されない場合には、譴責等の懲戒処分が行われることになります。

大阪地判平18.4.26労経速1946号3頁[X市事件]

⑴ 原告の言動について
ア Gに対する言動について
 「原告は、Gに対し、プライベートな内容の質問をしたことが認められるが、その具体的内容は、『どこに住んでいるの?』『○○の近くか?』『旦那さんとはどうやって知り合ったの?』『旦那さんには何と呼ばれているの?』といった内容である…。さして親しくもないにもかかわらず、異性である上司が尋ねるような内容とはいえず、尋ねられた者が不快感を有することは十分考えられるが、一方で、状況によっては、このような会話がなされること自体、必ずしも不自然とはいえないところである。そうすると、これらの言動が、セクシュアル・ハラスメントに該当する会話であるとしても、この会話のみを見る限り、その悪質性の程度は、直ちに懲戒事由に該当するとはいえない。また、Gは、夫が自分をどのように呼ぶかについては『秘密です』と回答しており…、それなりに自分の意思をもって、対応できていたことも窺える。また、原告は、Gから聞いた内容を、歓送会の二次会(喫茶店)の席でGを含めた複数の者の前でしゃべったことが認められ、そのこと自体は、Gにとって、単に尋ねられる以上の苦痛があったことが想像できるが、その際の具体的状況や具体的内容は不明であり、二次会の席で話題にしたというだけで、強く非難することには躊躇を感じる。」
 「また、原告は、Gに対して『とっちゃん』という呼び方をしていたが、Gから『Gと呼んで下さい』と抗議されてからは、『とっちゃん』という呼び方をしなくなっている(したがって、抗議されるまで、Gが不快に感じていることに気づいていなかった可能性を否定できず、また、執拗であったという評価をすることもできない)。」
 「さらに、原告は、Gの身体的特徴を告げていたことが認められるが、その具体的内容は、『太ってもなく、やせてもなく、ちょうどいいな』『健康そのものや。顔もきれいだし、スタイルもいいし、頭もいいし』などというものであった。その内容は、相手をほめる内容の言辞であるが、さして親しくもない異性から、ほめ言葉を聞く者としては、むしろ、不快感や不安感を覚えることがあり得ることは容易に想像することができる(なお、原告が、皮肉のつもりで、逆の事実を述べたような形跡は全くなく、原告としては、自分の感じたことを、無神経にも、そのまま述べたことが窺える)。しかし、これを聞いた周囲の者が嫌悪感を抱くような性質の言辞とはいえず、また、その回数も六月ころに一回、七月一九日の一回の合計二回であることを併せ考えると、これらの言動自体の悪質性の程度も、必ずしも重いとはいえない。」
イ Mに対する言動について
 「原告は、Mに対し、プライベートな事項を尋ねているが、その内容は、休日の過ごし方や家族のことなどであり…、直ちに、セクシュアル・ハラスメントに当たるとはいえない。」
 「また、原告は、Mに対し、身体的特徴を告げていたことが認められるが、Mがダイエットをしていることを聞いた原告が、『まだやせてないな』『やせたんと違う』と述べたものであるが、ダイエットをしているというMの会話を踏まえてなされた指摘であることを考えると、必ずしも、悪質なものとまではいえない。」
ウ Hに対する言動について
 「原告は、Hに対し、服装や髪型について発言をしたことが認められる。その内容は、Hの髪を束ねていたハンカチについての会話であるが、当初は、ハンカチをほめることから始まり、その後、しばしば話題になることがあったが、Hは、当初は、ハンカチのことを言及されることについて嫌な気持ちは感じなかったが(したがって、それまでの言及については、セクシュアル・ハラスメントということは困難であり、原告において、そのような認識を有していなかったとしても非難できない)、原告から、洗濯していないのかという趣旨のことを言われて、初めて、すごく嫌な気持ちになったと述べているが…、原告において、Hの気持ちの変化を認識していなかったということは十分にあり得るところである。」
エ Kに対する言動について
 「原告は、Kに対し、身体的特徴を話題にした言動をしたことが認められる。その言動は、K自身が『(顔が)毛深い』という発言をしたことを受け、その場所を尋ねるというものであるが、会話の流れから、毛深い箇所は顔であることは明らかであるにもかかわらず、その箇所をあえて聞くというものであって、明らかに意図的なセクシュアル・ハラスメントといえる。また、その言動も、相手方や周囲で聞いていた者に、直ちに不快の念を抱かせる内容であり、悪質というべきである。もっとも、上記言動は、会話の流れから、相手の言葉に誘発された、偶発的な側面を有しているということができる。」
⑵ 裁量権の濫用の有無
 「地方公務員につき、地方公務員法に定められた懲戒事由がある場合に、懲戒処分を行うかどうか、懲戒処分を行うときにいかなる処分を選ぶかは、懲戒権者の裁量に任されており、懲戒権者がその裁量権の行使としてした懲戒処分は、それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し、これを濫用したと認められる場合でない限り、その裁量権の範囲内にあるものとして、違法とならないものと解すべきである(最高裁判所平成四年九月二四日判決・裁判集民事一六五号四二五頁参照)。」
 「これを本件についてみるに、〔1〕原告は、センターの所長代理という管理職員であり、所長に次ぐ地位にあって、セクシュアル・ハラスメントの防止・排除に努めなければならない立場にありながら、自らセクシュアル・ハラスメントに当たる行為を行っていたこと、〔2〕その被害者の数は多数に及んでいること、〔3〕被告X市においては、前提事実(3)のとおり、種々のセクシュアル・ハラスメントに対する取組が行われており、原告もセクシュアル・ハラスメントに関して十分な認識を有するべき立場にあったことが認められ、原告の上記言動による信用失墜の程度は、決して軽微とはいえない。
 「しかし、本件懲戒処分の事由とされた原告の言動の内容は前記…のとおりであり、その程度の評価等については、前記…のとおりであり、相手方に対し不快感を与える言動であったとはいうものの、その程度は必ずしも高いものとはいえず、原告において、相手の不快感を十分認識してなかった可能性も否定できない。」
 「一方、原告に対し、これまで何らの注意処分を経ることなく、いきなり、減給一〇分の一を一か月という懲戒処分を加えることは、本件指針により、上記原告の言動に対して想定される処分に照らすと、原告に反省の態度が見られないことを考えても、重すぎる処分というべきであり,懲戒権者の裁量を逸脱したものといわざるを得ない。」
 「したがって、本件懲戒処分の取消しを求める原告の請求は理由がある。」

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弁護士 籾山善臣
神奈川県弁護士会所属。不当解雇や残業代請求、退職勧奨対応等の労働問題、離婚・男女問題、企業法務など数多く担当している。労働問題に関する問い合わせは月間100件以上あり(令和3年10月現在)。誰でも気軽に相談できる敷居の低い弁護士を目指し、依頼者に寄り添った、クライアントファーストな弁護活動を心掛けている。持ち前のフットワークの軽さにより、スピーディーな対応が可能。 【著書】長時間残業・不当解雇・パワハラに立ち向かう!ブラック企業に負けない3つの方法 【連載】幻冬舎ゴールドオンライン:不当解雇、残業未払い、労働災害…弁護士が教える「身近な法律」 【取材実績】東京新聞2022年6月5日朝刊、毎日新聞 2023年8月1日朝刊、区民ニュース2023年8月21日
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