みなし残業(固定残業代)が違法とならないか悩んでいませんか?
みなし残業はブラック企業に悪用されがちであり、トラブルとなることがよくあります。
みなし残業は、それ自体が直ちに違法となるわけではありませんが、厳格なルールがありますので、条件が守られていない場合には違法となることがあります。
例えば、みなし残業制がとられている場合において、違法となるケースとしては以下の5つがあります。
☑個別の合意又は周知がないケース
☑基本給にみなし残業代が含まれている場合で、みなし残業代の金額が不明であるケース
☑役職手当などの名称で支給されている場合で、その手当に残業代以外の性質が含まれているケース
☑みなし残業代が想定している残業時間が月45時間を大きく上回っているケース
☑みなし残業代が想定する時間を超えて残業をしたのに差額が支払われないケース
これらのケースでは、労働者は、会社に対して、未払い残業代を請求することができる可能性があります。
今回は、みなし残業(固定残業代)が違法となる5つのケースと重要判例3選について解説します。
具体的には、以下の流れで説明していきます。
この記事を読めば、みなし残業の違法性がよくわかるはずです。
目次
みなし残業が違法となるケース5つ
みなし残業は、それ自体が直ちに違法となるわけではありません。
しかし、みなし残業には、厳格なルールがあります。
会社は、労働基準法上、労働者に対して、残業代(割増賃金)を支払う義務がありますので、みなし残業のルールが守られていない場合には、違法となることがあります。
労働基準法37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)
1「使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。…」
4「使用者が、午後十時から午前五時まで(厚生労働大臣が必要であると認める場合においては、その定める地域又は期間については午後十一時から午前六時まで)の間において労働させた場合においては、その時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の二割五分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。」
例えば、みなし残業制がとられている場合において、違法となるケースとしては以下の5つがあります。
ケース1:個別の合意又は周知がないケース
ケース2:基本給にみなし残業代が含まれている場合で、みなし残業代の金額が不明であるケース
ケース3:役職手当などの名称で支給されている場合で、その手当に残業代以外の性質が含まれているケース
ケース4:みなし残業代が想定している残業時間が月45時間を大きく上回っているケース
ケース5:みなし残業代が想定する時間を超えて残業をしたケース
ケース1:個別の合意又は周知がないケース
みなし残業が違法となるケースの1つ目は、個別の合意又は周知がないケースです。
労働者と会社との労働条件は、どちらかが勝手に決めることはできません。それが労働条件となるには、雇用契約や就業規則などの根拠が必要となります。
例えば、会社が雇用契約や就業規則などの根拠がないのに、みなし残業代を支払っていると主張しても、そのような主張は認められないのです。
以下では、「雇用契約でみなし残業が定められている場合」と「就業規則でみなし残業が定められている場合」について説明していきます。
雇用契約でみなし残業が定められている場合
雇用契約でみなし残業が定められている場合には、雇用契約書や労働条件通知書に以下のような記載がされています。
【基本給組込型】
基本給24万円、住宅手当2万円
※基本給24万円には、25時間分の時間外残業代として、4万円のみなし残業代が含まれています。
※みなし残業代を超える勤務をした場合には、追加支給します。
【手当型】
基本給20万円、みなし残業手当4万円、住宅手当2万円
※みなし残業手当4万円は、25時間分の時間外残業代として支給しています。
※みなし残業代を超える勤務をした場合には、追加支給します。
労働条件通知書や雇用契約書にみなし残業の記載がなく、みなし残業の説明を受けたこともない場合には、みなし残業の根拠が雇用契約にあるとはいえない可能性があります。
就業規則でみなし残業が定められている場合
就業規則でみなし残業代が定められている場合には、就業規則や賃金規程に以下のような条項がある可能性があります。
第〇条(みなし残業手当)
1 みなし残業手当は、25時間分の時間外残業代として支給する。
2 前項のみなし残業手当が法定時間外割増賃金として支給するべき金額に満たない場合には、その差額を支給する。
就業規則や賃金規程にみなし残業手当の規定がなければ、みなし残業の根拠が就業規則にあるとはいえないことになります。
ケース2:基本給にみなし残業代が含まれている場合で、みなし残業代の金額が不明であるケース
みなし残業が違法となるケースの2つ目は、基本給にみなし残業代が含まれている場合で、みなし残業代の金額が不明であるケースです。
みなし残業代については、「残業代としていくら支払われているのか」が明確である必要があります。
なぜなら、みなし残業代として支払われている金額が分からないと、労働者が十分な残業代を支払ってもらえているかを判断できないためです。
例えば、「基本給30万円(みなし残業代含む)」とされていても、支払われている残業代がいくらなのかがわかりませんよね。
このように基本給に含まれるみなし残業代の金額が不明確である場合には、みなし残業代は無効となり、残業代の支払いとは認められません。
そのため、会社がこのような場合に残業代を支払わないことは違法となるのです。
ケース3:役職手当などの名称で支給されている場合で、その手当に残業代以外の性質が含まれているケース
みなし残業が違法となるケースの3つ目は、役職手当などの名称で支給されている場合で、その手当に残業代以外の性質が含まれているケースです。
みなし残業代が手当として支給される場合には、必ずしも「みなし残業手当」又は「固定残業手当」などの名称で支給されるとは限りません。
営業手当や役職手当などの名称で支払われ、これがみなし残業代としての性質をもっていると扱われることがあります。
みなし残業代に営業手当や役職手当などの名称を付けること自体は、違法とはいえません。
しかし、これらの手当に残業代以外の性質が含まれている場合には、いくらの残業代が支払われているのかを判断できなくなります。
例えば、あなたに5万円の役職手当が支払われていて、役職手当の金額は役職が上がるとごとに上昇する制度になっていたとしましょう。
このような場合、役職手当には少なからず、「残業の対価」としての性質のみならず、「役職者としての責任ある業務への対価」の性質が含まれている評価できることがあります。
この場合、役職手当5万円の内、いくらが残業の対価で、いくらが役職者としての責任ある業務への対価なのかを判断できません。
このようにみなし残業代が手当として支払われている場合に、残業代以外の性質が混入にしているケースでは、みなし残業代は無効となり、残業代の支払いとは認められません。
そのため、会社がこのような場合に残業代を支払わないことは違法となるのです。
ケース4:みなし残業代が想定している残業時間が月45時間を大きく上回っているケース
みなし残業が違法となるケースの4つ目は、みなし残業代が想定している残業時間が月45時間を大きく上回っているケースです。
法律上、会社が労働者に対して36協定の範囲で残業を命じることができる上限は、原則として、月45時間までとされています。
このことから月45時間を大きく上回るような残業時間を想定したみなし残業代は、法律が残業時間の上限を規定している趣旨に反することになり、公序良俗(民法90条)に反し無効となる可能性があります。
例えば、あなたのみなし残業代が想定している残業時間が月100時間とされていたとしましょう。
この場合、月45時間を大きく上回る残業時間が想定されていることになりますので、みなし残業代が残業代の支払いとは認められない可能性があるのです。
そのため、みなし残業代が想定する残業時間を月45時間を大きく上回っており、会社が別途残業代を支払わない場合には、違法となる可能性があります。
ケース5:みなし残業代が想定する時間を超えて残業をしたのに差額が支払われないケース
みなし残業が違法となるケースの5つ目は、みなし残業代が想定する時間を超えて残業をしたのに差額支払われないケースです。
みなし残業代は、これを支払うだけで、労働者に何時間でも残業をさせることができるという制度ではありません。
みなし残業代の金額が法律上会社の支払うべき残業代に足りない場合には、会社はその差額を支払う義務があります。
例えば、会社が月30時間分の時間外残業に相当する対価としてみなし残業代を交付していたとしましょう。
この場合にあなたが月45時間の残業をしたとします。このようなケースでは、会社は、差額の15時間分の残業代を支払う必要があります。
そのため、あなたが何時間残業をしても、みなし残業代とは別に残業代が支払われない場合には、違法となる可能性があります。
みなし残業が違法となった重要判例3選
それでは、実際にみなし残業が違法となった重要判例について見ていきましょう。
みなし残業が違法となった判例はたくさんありますが、特に以下の3つについては重要な判例となりますので、押さえておくといいでしょう。
重要判例1:最判昭和63年7月14日労判523号6頁[小里機材事件]
重要判例2:名古屋高判平成30年4月18日労判1186号20頁[ケンタ―プライズ事件]
重要判例3:東京地判平成29年10月11日労経速2332号30頁[マンボー事件]
順番に説明していきます。
重要判例1:最判昭和63年7月14日労判523号6頁[小里機材事件]
小里機材事件は、労働者からの残業代請求に対して、会社が月15時間の時間外労働を見込んだうえで、その分の時間外手当を加えて基本給を決定したと反論した事案です。
裁判所は、法律所定の残業代が支払われているか否かを確認する必要があるため、基本給に残業代を含めて支給する場合には、①当該基本給における割増賃金の部分が明確に示され、かつ、②当該割増賃金相当額が法所定の額を満たさないときには、その差額が支払われる旨の合意があること必要であるとして、会社の反論を認めませんでした。
重要判例2:名古屋高判平成30年4月18日労判1186号20頁[ケンタ―プライズ事件]
ケンタ―プライズ事件は、労働者が会社に対して残業代を請求したところ、会社が役職手当がみなし残業代に該当する反論した事案です。
裁判所は、会社が支給している役職手当の中には、残業代に該当する部分と残業代に該当しない部分があるとして、どの部分が純粋な役職手当かが明瞭ではないとして、みなし残業代の条件を満たさないとしました。
重要判例3:東京地判平成29年10月11日労経速2332号30頁[マンボー事件]
マンボー事件は、漫画喫茶で夜間の電話対応や集計業務に従事していた労働者からの残業代請求に対して、会社がみなし残業代を支払っていると反論した事案です。
裁判所は、みなし残業代の合意があったとしても、36協定の締結による労働時間の延長限度時間である月45時間を大きく超える月100時間以上の時間外労働が恒常的に義務付けられており、公序良俗に反し無効である(民法90条)としています。
みなし残業がある場合の残業代の計算方法
みなし残業について、先ほど見たケース1~5では、未払い残業代を請求できる可能性があります。
みなし残業がある場合の未払い残業代については、以下のいずれかにより計算の方法が異なります。
・みなし残業代が有効となるケース(ケース5)
・みなし残業代が無効となるケース(ケース1~ケース4)
それぞれの計算方法について説明します。
みなし残業代が有効となるケース(ケース5)
みなし残業代が有効となる場合(ケース5)において、みなし残業代が想定する時間を超えて残業をした場合における未払い残業代の計算方法は以下のとおりです。
ステップ1:基礎賃金は、家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当、臨時に支払われた賃金、1か月を超える期間ごとに支払われる賃金以外の賃金の合計額です。
ステップ2:所定労働時間というのは、会社において決められた労働時間です。
ステップ3:割増率は以下のとおりです。
・法定時間外:1.25倍
・法定休日:1.35倍
・深夜:0.25倍
ステップ4:残業時間は、法定労働時間外や法定休日、深夜に働いた時間です。
ステップ5:みなし残業代として支払われている金額は、残業代の支払いとなりますので、請求できる金額から控除することになります。
みなし残業代が無効となるケース(ケース1~ケース4)
みなし残業代が無効となる場合(ケース1~ケース4)において、正しい残業代を請求する場合における計算方法は以下のとおりです。
先ほどの、みなし残業代が有効となる場合と比較すると、異なるポイントは以下の2点です。
ポイント1:基礎賃金にみなし残業代とされていたものを含める
ポイント2:みなし残業代を控除しない
みなし残業代がある場合の残業代の計算方法については、以下の記事で詳しく解説しています。
「みなし残業が違法では?」と感じた場合の対処手順
あなたの会社の「みなし残業が違法では?」と感じた場合には、以下の順で対処しましょう。
手順1:雇用契約書や就業規則の確認
手順2:残業時間の確認
手順3:会社に未払い残業代の支払いを催告
手順4:労働審判又は訴訟
手順1:雇用契約書や就業規則の確認
みなし残業が違法ではないかと感じた場合の対処手順の1つ目は、雇用契約書や就業規則の確認をすることです。
具体的には、雇用契約書や就業規則については、以下の事項を確認しましょう。
☑みなし残業代に関する記載や規定があるかどうか
☑基本給に組み込まれている場合には、みなし残業代の金額が明確か
☑手当として支給されている場合には、みなし残業代に残業代以外の性質が含まれていないか
☑みなし残業代が想定している残業時間が月45時間を大きく上回っていないか
これらの事項を確認することにより、先ほど説明したみなし残業が違法となるケース1~ケース4に該当するかがわかるためです。
手順2:残業時間の確認
みなし残業が違法ではないかと感じた場合の対処手順の2つ目は、残業時間の確認をすることです。
あなたが支払ってもらうべき残業代を確認するには、あなたの残業時間を明らかにする必要があります。
例えば、あなたの残業時間がみなし残業代の想定する時間を超過している場合には、みなし残業代が有効とされるケースであっても、未払い残業代を請求できる可能性があります。
残業時間を確認するには、タイムカードや日報を確認したり、あなた自身が残業時間のメモを取ったりしおくことが考えられます。
手順3:会社に未払い残業代の支払いを催告
みなし残業が違法ではないかと感じた場合の対処手順の3つ目は、会社に未払い残業代の支払いを催告することです。
まずは、口頭で未払いの残業代を支払うように求めてみましょう。
口頭で言っても会社が支払いに応じない場合には、書面により未払い残業代の支払いを催告しましょう。
証拠に残るように内容証明郵便に配達証明を付して送付するといいでしょう。
手順4:労働審判又は訴訟
みなし残業が違法ではないかと感じた場合の対処手順の4つ目は、労働審判又は訴訟をすることです。
話し合いでの解決が難しい場合には、労働審判や訴訟などの裁判所を用いた手続きを検討することになります。
労働審判とはどのような制度かについては、以下の動画でも詳しく解説しています。
残業代の請求方法については、以下の記事で詳しく解説しています。
みなし残業が違法と感じたら弁護士に相談しよう!
みなし残業が違法と感じたら弁護士に相談することがおすすめです。
弁護士に相談すれば、みなし残業が法的に有効かどうか、正当な残業代はどのように計算すればいいのかについて助言してもらうことが可能です。
弁護士に依頼すれば、残業代の計算や会社との交渉、手元にない証拠の収集などを丸投げしてしまうことができます。
初回無料相談を利用すれば費用をかけずに相談することができますので、これを利用するデメリットは特にありません。
そのため、みなし残業が違法と感じたら弁護士に相談するべきなのです。
まとめ
以上のとおり、今回は、みなし残業(固定残業代)が違法となる5つのケースと重要判例3選について解説しました。
この記事の要点を簡単にまとめると以下のとおりです。
・みなし残業制がとられている場合において、違法となるケースとしては例えば以下の5つがあります。
ケース1:個別の合意又は周知がないケース
ケース2:基本給にみなし残業代が含まれている場合で、みなし残業代の金額が不明であるケース
ケース3:役職手当などの名称で支給されている場合で、その手当に残業代以外の性質が含まれているケース
ケース4:みなし残業代が想定している残業時間が月45時間を大きく上回っているケース
ケース5:みなし残業代が想定する時間を超えて残業をしたケース
・みなし残業の判例については、以下の3つが重要です。
重要判例1:最判昭和63年7月14日労判523号6頁[小里機材事件]
重要判例2:名古屋高判平成30年4月18日労判1186号20頁[ケンタ―プライズ事件]
重要判例3:東京地判平成29年10月11日労経速2332号30頁[マンボー事件]
・あなたの会社の「みなし残業が違法では?」と感じた場合には、以下の順で対処しましょう。
手順1:雇用契約書や就業規則の確認
手順2:残業時間の確認
手順3:会社に未払い残業代の支払いを催告
手順4:労働審判又は訴訟
この記事がみなし残業が違法でないかと悩んでいる方の助けになれば幸いです。
以下の記事も参考になるはずですので読んでみてください。