昨今、多くの自治体では暴力団排除条例が施行されており、暴力団をはじめとする反社会的勢力の排除の動きは、社会全体の趨勢となっています。多くの企業でも、このような社会の動きに対応して、暴力団をはじめとする反社会的勢力と一切の関係を持たないようにするため、様々な取り組みをしています。
もっとも、親族が反社会的勢力に属しているという理由のみで、従業員を解雇することは許されるのでしょうか。
今回は、反社会的勢力と解雇について、解説します。
目次
就業規則上の規定
反社会的勢力と関係を有することを理由に解雇される場合があります。就業規則などでは、以下のような規定がおいている会社があります。
第〇条(懲戒解雇)
労働者が次のいずれかに該当するときは、懲戒解雇とする。ただし、平素の服務態度その他情状によっては、第〇条に定める普通解雇、前条に定める減給、出勤停止とすることがある。
①重要な経歴をいつわり、その他詐術を用いて雇入れられたとき
②反社会的勢力と関係を持った場合または、反社会的勢力と関係を有することを明示的若しくは黙示的に示し業務に支障を生じさせ若しくは風紀を乱した場合
反社会的勢力とは
反社会的勢力については、法的に明確な定義があるわけではありません。
独立行政法人中小企業基盤整備機構は、反社会的勢力対応規程において、反社会的勢力の定義を以下のように規定しています。
第2条(定義)
この規定において反社会的勢力とは、次の各号のいずれかに該当する者をいう。
一 暴力団(暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(平成3年法律第77号。以下「暴力団対策法」という。)第2条第2号に規定する暴力団をいう。以下同じ。)
二 暴力団員(暴力団対策法第2条第6号に規定する暴力団員をいう。以下同じ。)
三 暴力団準構成員(暴力団員以外の暴力団と関係を有する者であって、暴力団の威力を背景に暴力的不法行為等を行うおそれがあるもの又は暴力団若しくは暴力団員に対し資金、武器等の供給を行うなど暴力団の維持若しくは運営に協力し、若しくは関与するものをいう。以下同じ。)
四 暴力団関係企業(暴力団員が実質的にその経営に関与している企業、暴力団準構成員若しくは元暴力団員が経営する企業で暴力団に資金提供を行う等暴力団の維持若しくは運営に積極的に協力し若しくは関与するもの又は業務の遂行等において積極的に暴力団を利用し、暴力団の維持若しくは運営に協力している企業をいう。)
五 総会屋等(総会屋その他企業を対象に不正な利益を求めて暴力的不法行為等を行うおそれがあり、市民生活の安全に脅威を与える者をいう。)
六 社会運動等標ぼうゴロ(社会運動若しくは政治活動を仮装し、又は標ぼうして、不正な利益を求めて暴力的不法行為等を行うおそれがあり、市民生活の安全に脅威を与える者をいう。)
七 特殊知能暴力集団等(暴力団との関係を背景に、その威力を用い、又は暴力団と資金的な繋がりを有し、構造的な不正の中核となっている集団又は個人をいう。)
八 前各号に掲げる者と次のいずれかに該当する関係にある者
イ 前各号に掲げる者が自己の事業又は自社の経営を支配していると認められること
ロ 前各号に掲げる者が自己の事業又は自社の経営に実質的に関与していると認められること
ハ 自己、自社若しくは第三者の不正の利益を図る目的又は第三者に損害を加える目的をもって前各号に掲げる者を利用したと認められること
二 前各号に掲げる者に資金等を提供し、又は便宜を供与するなどの関与をしていると認められること
ホ その他前各号に掲げる者と役員又は経営に実質的に関与している者が、社会的に非難されるべき関係にあると認められること
反社会的勢力に属することを理由とする解雇
まず、労働者本人が反社会的勢力に属することを理由に解雇することは許されるのでしょうか。
入社前から反社会的勢力に属していた場合
労働者本人が入社前から反社会的勢力に属していた場合には、「重要な経歴をいつわり、その他詐術を用いて雇入れられたとき」との懲戒解雇事由に該当するかが問題となります。
「重要な経歴をいつわり、その他詐術を用いて雇入れられたとき」とは、使用者が真実を知っていれば雇用しなかったか、少なくとも同一の労働条件では雇用しなかったであろうと客観的に認められる場合をいいます。
上記のように、反社会的勢力の排除の動きは、社会全体の趨勢となっております。このような状況からは、業務の性質上、社会的な信用が重要となるような業種の場合には、反社会的勢力に属するかどうかというのは、使用者が労働者を採用するかどうか、採用するとしてその業務内容をどうするかについての判断を左右する可能性がある事情といえます。
そのため、採用の際に、使用者から反社会的勢力に属するかどうかの確認を求められた際に、反社会的勢力に属しているにもかかわらず、属していないと返答したような場合には、「重要な経歴をいつわり、その他詐術を用いて雇入れられたとき」に該当し、懲戒解雇が有効とされる可能性があります。
また、採用の際に、使用者から反社会的勢力に属していないことの誓約を求められた際に、反社会的勢力に属しているにもかかわらず、かかる誓約書に署名押印して提出した場合には、「重要な経歴をいつわり、その他詐術を用いて雇入れられたとき」に該当し、懲戒解雇が有効とされる可能性があります。
これに対して、使用者から反社会的勢力に属するかどうかを尋ねられなかった場合は、「採用を望む者が、採用面接に当たり、自己に不利益な事実の回答を避けたいと考えることは当然予測されることであり、採用する側もこれを踏まえて採用を検討するべきであるところ、…原告が自発的に申告するべき義務があったともいえない」(岐阜地判平25.2.14裁判所ウェブサイト)以上、労働者が反社会的勢力に属することを申告しなかったことをもって「重要な経歴をいつわり、その他詐術を用いて雇入れられたとき」に該当するというのは難しいでしょう。
入社後に反社会的勢力に属することとなった場合
労働者が入社後に反社会的勢力に属することとなった場合には、「重要な経歴をいつわり、その他詐術を用いて雇入れられたとき」との懲戒解雇事由には該当しません。
懲戒解雇をするには、懲戒事由と種別を就業規則により定めておく必要があります。近年では、「反社会的勢力と関係を持った場合」を懲戒解雇事由として規定する会社も見られるようになってきています。
就業規則において、このような懲戒解雇事由が設けられている場合には、入社後に、反社会的勢力に所属したことは「反社会的勢力と関係を持った場合」として、懲戒解雇が有効とされる可能性が高いと考えられます。
もっとも、反社会的勢力との接触が数回あったにとどまるような場合に、直ちに懲戒解雇が有効となるとは限りません。懲戒解雇は、懲戒の中でも最も重い処分となります。そのため、使用者は、反社会的勢力との接触を理由にして、労働者を懲戒解雇するには、事前により軽い懲戒処分を行ったり、繰り返し反社会的勢力との関係を断ち切るように指導・勧告したりする必要があるでしょう。
親族が反社会的勢力に属することを理由とする解雇
では、労働者の親族が反社会的勢力に属することを理由として、懲戒解雇する場合はどうでしょうか。
入社前から労働者の親族が反社会的勢力に属していた場合
確かに、反社会的勢力の排除の動きは、社会全体の趨勢となっております。しかしながら、労働者の親族が反社会的勢力に属するとしても、労働者本人が反社会的勢力に属していない以上は、これを理由に労働者を採用するかどうかやその業務内容を判断するというのは合理的とはいえません。
そのため、仮に、使用者から親族が反社会的勢力に属していないかどうかを尋ねられて、親族が反社会的勢力に属していないと返答した場合であっても、これが「重要な経歴をいつわり、その他詐術を用いて雇入れられたとき」に該当するかどうかは、使用者の業種や面談の際やり取り、入社後の労働者の勤務態度、使用者に生じた不利益等を慎重に吟味した上で判断する必要があります。
また、使用者から親族が反社会的勢力に属していないことの誓約書を求められた際に、労働者が事実に反して、これに署名押印をした場合も、同様に慎重に判断するべきでしょう。
ただし、労働者としては、採用の際に、使用者からこのような質問をされた場合には、後日、紛争となることを避けるため、事実を述べた上で、自分自身は何らの関与していないことを真摯に説明することが望ましいでしょう。
入社後に労働者の親族が反社会的勢力に属することとなった場合
労働者の親族が入社後に反社会的勢力に属することとなった場合には、「重要な経歴をいつわり、その他詐術を用いて雇入れられたとき」との懲戒解雇事由には該当しません。
また、親族が反社会的勢力に属しているとしても、親族関係については労働者本人の意思では変えられないため、これをもって反社会的勢力と「関係を持った」と評価することは許されないでしょう。そのため、「反社会的勢力と関係をもった場合」にも該当しないものと考えられます。
更に、例えば、使用者が「親族が反社会的勢力に属していること」との就業規則を設けたとしても、そのような規定は合理性がないものとして、効力が否定される可能性が高いでしょう(労働契約法7条)。
従って、労働者の親族が入社後に反社会的勢力に属することとなったとしても、使用者がこれを理由に懲戒解雇することは無効とされる可能性が高いです。
ただし、当該労働者が親族に反社会的勢力に属する者がいることを明示的又は黙示的に示して、業務に支障を生じさせたり、職場の風紀を乱したりしているような場合には、これを理由に懲戒解雇が認められる可能性があります。