「会社に解雇されました」、「会社に対して残業代請求をしたいです」という相談をよく受けますが、労働問題については、どのように解決するのでしょうか。今回は、労働問題の解決までの流れと手続きの特徴や違いを徹底解説します。
手続きの流れの例
※上記は、労働審判手続を用いた場合において、労働審判に異議が出た場合の例です。労働審判手続きを行わずに訴訟を提起することも可能です。労働審判手続ではなくあっせん等の手続きが用いられる場合もあります。
※民事執行とは、判決等の債務名義に基づき差し押さえなどにより私法上の請求権を実現する手続きです。
目次
訴訟外の交渉(期間:0~6ヶ月)
訴訟外の交渉とは
多くの場合は、会社に対して、まずは通知などの書面を送り訴訟外における交渉を行います。具体的には、解雇が無効であると考えている場合には、解雇の撤回や解雇後の賃金(バックペイ)の支払いを求めることになります。残業代の未払いがあると考えている場合には、残業代を含む未払い賃金の請求をすることになります。
その際には、まず、会社に対して資料の開示を求めていくことが通常です。例えば、残業代を計算するにしても、タイムカードや就業規則、雇用契約書などの資料がなければ正確な金額を計算することができません。また、解雇についても、解雇理由証明書の交付を求めることにより、どのように防御を図ればいいのかが明らかになります。
また、書面による通知を送ることは、時効との関係でも重要な意義があります。労働者の賃金請求権には消滅時効があります。そのため、時効を止めなければ、未払いの賃金請求権は、どんどん消滅していってしまっている状況にあります。残業代の請求を行う通知を送付することにより「催告」として6ヶ月間時効の完成が猶予されることとなります。そのため、この6ヶ月の間に訴訟外の交渉を終えるか、裁判所をとおした手続等を行うことになります。
特徴
訴訟外の交渉の特徴は、少ない労力・費用、短い時間により、柔軟な解決を図ることができる点にあります。会社の態度が硬直的である場合には向きませんので、その場合には下記の手続きを検討することになります。
労働局によるあっせん(期間:1ヶ月~2ヶ月)
労働局によるあっせんとは
労働局によるあっせんとは、裁判外紛争解決手続の1つであり、労働紛争を公的機関をとおして解決する手続きです。紛争当事者の間に労働問題の専門家が入り、双方の主張の要点を確かめ、調整を行い、話し合いを促進することにより、紛争の解決を図ります。
労働局において、助言指導によっても問題が解決しない場合に、勧められることが多い手続きです。
特徴
安価(無料)であり迅速かつ柔軟な解決が可能ですが、あくまでも自主的な解決を促進するものであり、当事者がこれに応じない場合に強制力がありません。そのため、下記の労働審判や訴訟と比べ解決の実効性が高くありません。
紛争調整委員会は、弁護士、大学教授、社会保険労務士などの労働問題の専門家である紛争調整員(1名)が担当することになります。
労働委員会によるあっせん(期間:1ヶ月半)
労働委員会によるあっせんとは
労働委員会によるあっせんとは、裁判外紛争解決手続の1つであり、労働紛争を公的機関をとおして解決する手続きです。紛争当事者の間に労働問題の専門家が入り、双方の主張の要点を確かめ、調整を行い、話し合いを促進することにより、紛争の解決を図ります。労働委員会は、各都道府県にある都道府県労働委員会と全国に1つしかない中央労働委員会からなります。
特徴
労働委員会は、労働組合と会社との間の労使紛争、いわゆる集団労働事件の場合に利用されておりましたが、昨今、個別労働事件においても用いられています。
大まかな流れは、労働局によるあっせんと同様です。労働局によるあっせんと異なる点は以下のとおりです。
⑴ 都道府県労働委員会によるあっせん制度の場合は、公益委員のみならず、労働者側、使用者側の委員の三者構成となる場合が多く、労働審判と同様に実務の専門家が関与することで現場の実態に即した解決が期待できる点にあります。
⑵ 集団労働紛争と個別労働紛争が複合している事案については、労働局のあっせんでは扱うことはできませんが、労働委員会は対応が可能です。
民事調停(期間:6ヶ月~1年)
民事調停とは
調停は、裁判のように勝ち負けを決めるのではなく、話し合いによりお互いが合意することで紛争の解決を図る手続きです。
特徴
訴訟より安価
印紙代は、訴訟の半額程度です。
労働審判と比べて専門性・迅速性・実効性は低い
調停手続きでは、一般市民から選ばれた調停委員が、裁判官とともに、紛争の解決に当たることになります。そのため、労働関係に関する特別な知識経験を有しているとは限りません。
また、調停期日の回数等に制限がなく迅速性が高いとはいえません。
加えて、調停が成立しなかった場合に、何らかの判断が下されることもないため、実効性が高いとはいえません。
労働審判ではなく調停に向いているとされる事件
①事実関係や法律関係についての主張の対立がなく、金額やその支払時期、方法についてのみ調整するような場合
②コストの問題等で弁護士に依頼できない場合
③主張・立証活動をすることによる深刻な対立を防ぎたい場合
④主張立証の準備はできていないが、消滅時効を止めたい場合で、催告による6か月間の完成猶予期間を経過しそうな場合
労働審判(期間:1.5ヶ月~4ヶ月)
労働審判とは
労働審判とは、労働関係に関する、労働者と事業主との間に生じた紛争に関し、労働審判委員会が、調停を試み、これが難しい場合には、審判を行う制度です(労働審判法1条)。
特徴
調停の成立を目指す手続き
「労働審判委員会は、審理の終結に至るまで、労働審判手続の期日において調停を行うことができる」(労働審判規則22条1項)とされています。労働審判においては、まず調停の成立を試みることになり、その解決に至らない場合には審判が行われることとなります(労働審判法1条、同法20条1項)。
調停が成立しない場合においても判断が下される点において、訴訟外の交渉やあっせんに比べて実効性が高い手続きと言えます。
なお、当事者は、審判に対して異議を申し立てることができます(労働審判法21条)。適法な異議の申し立てがあった場合には、労働審判手続きの申し立ての時に訴えの提起があったものとみなされ(労働審判法22条1項)、訴訟に移行することになります。
迅速な手続き
労働審判では、可能な限り申立てから40日以内に第1回目の手続きが指定されます(労働審判規則13条)。そして、3回以内の期日により終結することになります。
専門性が高い
労働審判委員会は、労働審判官一人及び労働審判員二人で組織されます(労働審判法7条)。
労働審判官は、地方裁判所が当該地方裁判所の裁判官の中から指定します(労働審判法8条)。
労働審判員は、労働関係に関する専門的な知識経験を有する者のが任命されます(労働審判法9条2項)。
訴訟より安価
印紙代は、訴訟の半額程度です。
労働審判に向いていない事件
以下の事件については、労働審判に向いていません。
⑴ 会社が和解に応じる可能性が低い場合
⑵ 解雇事件等で労働者が金銭的解決に応じる意向がない場合
⑶ 会社が資料の開示をせず文書提出命令等の手続きを行う必要がある場合
⑷ 事件が複雑で短期間による審理が困難な場合
訴訟(期間:6ヶ月~2年)
訴訟とは
訴訟とは、裁判所に対して判決を求める手続きです。
特徴
訴訟外の交渉やあっせん、労働審判による解決が難しい場合には、最終的には訴訟により解決することとなります。
訴訟は、労働審判等と比べ手続きに時間を要します。一期日ごとに双方主張を出し合っていくのが通常です。期日は、1カ月おき程度に入ることが多いです。
労働審判では難しい文書提出命令や調査嘱託等の時間を要する手続も実効性をもつこととなります。
なお、訴訟提起後も和解をすることは可能です。