会社をクビになってしまった場合、労働者としては、自分がクビになることに納得ができないこともあるでしょう。
労働者が解雇を争う場合、一般的にはどの程度の期間がかかるのでしょうか。
今回は、解雇を争うのにどの程度の期間がかかるかについて解説します。
目次
解決期間の現状
JILPTの「労働局あっせん、労働審判及び裁判上の和解における雇用紛争事案の比較分析」労働政策研究報告書No.174(2015)によると、雇用終了など紛争事案が発生してから問題が解決するまでに要した期間は、労働審判ですと、「2月未満」が「2.2%」、「2-3月未満」が「11.5%」、「3-6月未満」が「44.7%」、「6-12月未満」が「36.7%」、「12-24月未満」が「4.2%」、「24月以上」が「0.7%」となっています。
そのため、労働審判の場合、解決にかかる期間は、おおよそ
となります。
(出典:JILPT「労働局あっせん、労働審判及び裁判上の和解における雇用紛争事案の比較分析」労働政策研究報告書No.174(2015))
裁判上の和解(訴訟)の場合ですと、「2-3月未満」が「1.0%」、「3-6月未満」が「6.8%」、「6-12月未満」が「31.3%」、「12-24月未満」が「42.7%」、「24月以上」が「18.2%」となっています。
そのため、裁判上の和解(訴訟)の場合、解決にかかる期間は、おおよそ
となります。
(JILPT「労働局あっせん、労働審判及び裁判上の和解における雇用紛争事案の比較分析」労働政策研究報告書No.174(2015))
解雇を争うプロセスと各期間
解雇理由証明書の交付請求
解雇を争う場合には、解雇された理由を知らなければなりません。そこで、解雇された労働者は、使用者に対して、解雇理由証明書の交付を請求することになります。
使用者は、労働者から解雇理由証明書を請求された場合には、これを「遅滞なく」交付する必要があります(労働基準法22条)。
実際には、解雇理由証明書の交付を請求してから2週間程度で交付がされることが多い印象です。もっとも、3週間経っても交付されないこともあります。
解雇撤回の交渉
解雇理由を確認し、解雇を争うことに決めた場合には、使用者に対して解雇の撤回を求めていくことになります。また、解雇理由証明書の記載が不十分な場合には、解雇理由を具体的に示すように求めていくことがあります。
この交渉に係る期間については、事案により異なります。解雇の撤回を求めても、使用者からの回答がない場合や、交渉の余地がない場合などには、撤回を求めてから2~3週間程度で交渉を打ち切ることもあります。
労働審判の申立て
JILPTの「労働局あっせん、労働審判及び裁判上の和解における雇用紛争事案の比較分析」労働政策研究報告書No.174(2015)によると、労働審判に係る期間(労働審判の申立日から調停または審判による終了日までの期間)は「2-3月未満」が「43.4%」となっています。
(JILPT「労働局あっせん、労働審判及び裁判上の和解における雇用紛争事案の比較分析」労働政策研究報告書No.174(2015))
労働審判の申し立てをした場合には、原則として、申立から40日以内に第1回期日が指定されることになります。第1回期日は、概ね2時間程度の時間を要します。前半は争点を整理し、事実関係の確認を行い、後半では和解が可能かどうか調停手続が試みられることになります。
労働審判は、全3回の期日で、各期日の間隔は1カ月程度です。第1回期日で調停が成立しなかった場合には、第2回期日以降も行われることになります。第2回期日以降は概ね1時間程度の時間を要し、主として調停の手続きが行われることになります。
訴訟
JILPTの「労働局あっせん、労働審判及び裁判上の和解における雇用紛争事案の比較分析」労働政策研究報告書No.174(2015)によると、訴訟に係る期間は「1年以上」が「40.9%」と最も多く、次いで「6-12月未満」が「34.7%」となっています。
(JILPT「労働局あっせん、労働審判及び裁判上の和解における雇用紛争事案の比較分析」労働政策研究報告書No.174(2015))
訴訟の申し立て後は、通常、相手方から答弁書が提出され、1か月程度毎に主張と反論を繰り返すことになります。上記のように訴訟期間は従前よりも短くなってきてはいるものの、長期化する傾向にあります。
解決期間を短縮する方法
では、解決期間を短縮させるためにはどうすればいいのでしょうか。
方法1:解雇された時点で弁護士に相談する
まずは、解雇された時点ですぐに弁護士に相談に行くことが重要となります。
当初自分で会社と交渉し、それで折り合いがつかない場合に、途中から弁護士に相談される方もいらっしゃいます。しかし、途中からご相談いただいた場合には、その時点から改めて通知書を送付するなどの手続きを行うことになってしまいます。そのため、当初から相談いただいていた場合に比して時間がかかります。
また、途中からご相談いただいた場合、既に会社に対して自己に不利益な事実を述べてしまっており、争点が複雑化している事案を多く見ます。
方法2:交渉と並行して労働審判・訴訟の準備も進めておく
次に、交渉と並行して、労働審判や訴訟の準備をしておくことにより、効率的に手続きを進めることができます。
特に、労働審判については、第1回期日において、労働審判委員会によりおおよその心証が形成されてしまいますので、申立書の内容を充実させる必要があります。
そのため、交渉が決裂した時点から申立書や訴状の作成を始めるのではなく、交渉と並行しながら申立書や訴状の作成をすることで、交渉が決裂した場合の解決期間を短縮することができます。
方法3:適切な解決手段を選択する
加えて、その事案において適切な手段を選択することが解決への近道となります。
相手方が自己の主張に固執しており交渉により解決する可能性がない場合や、相手方からの返答が長期間にわたりない場合などは、交渉を継続しても徒に時間がかかるだけです。そのため、このような場合には、労働審判や訴訟の申し立てに進んだ方がいいでしょう。
また、労働者に金銭解決の意向がなく、相手方が解雇の撤回に応じる余地がないときは、労働審判を申し立ては非効率的な場合があります。労働審判は第1次的には調停を目指す手続きであり、審判が下された場合にも、異議が出されれば訴訟に移行することになります。調停が成立せず、審判に対して異議が出される可能性が高いのであれば、最初から訴訟を提起しておいた方が、近道になります。