薬剤師として勤務しているものの残業が多いのではないかとの悩みを抱えていませんか?
頑張って働いたのに十分な残業代を支払ってもらえないと不満ですよね。
薬剤師の方の残業時間の平均は月12.6時間と言われています。
また、会社は、当然、薬剤師の方に対しても、残業代を支払わなければなりません。
店長や管理薬剤師とされている場合であっても、法律上の管理監督者とされるためには厳格な条件があり、原則として残業代を支払ってもらうことが出来ます。
しかし、日々、労働問題の相談を受けている中では、十分な残業代を支払ってもらうことができていない薬剤師の方が少なからずいます。
例えば、年収700万円(月給58万円)の薬剤師の方が月12.6時間の残業を3年間続けた場合には、未払い残業代の金額は、以下のとおりとなります。
=205万5375円
今回は、薬剤師の残業時間や残業代について、詳しく解説しています。
具体的には、以下の流れで説明していきます。
この記事を読めば、薬剤師の残業問題についてどのように対応していけばいいかがわかるはずです。
残業時間の平均や生活、健康への影響については、以下の動画で詳しく解説しています。
目次
薬剤師の残業時間の平均は月12.6時間!
薬剤師の残業時間の平均について、dodaの「平均残業時間の少ない仕事・多い仕事は?90職種別の残業時間ランキング」によると、「薬事」の「2021年4月~6月」の3カ月の平均残業時間は、
とされています。
(出典:平均残業時間ランキング【最新版】 今の仕事の残業は少ない?多い? |転職ならdoda(デューダ))
また、厚生労働省の賃金構造基本統計調査(令和元年賃金構造基本統計調査)によると、薬剤師(男女)の平均残業時間は、
とされています。
そのため、薬剤師の残業時間の平均は、おおよそ月11時間~12.6時間程度となります。
もっとも、あくまでも薬剤師全体でみた場合の平均にすぎないため、勤務している職場によって、大きく残業時間が異なってきます。
そこで、薬剤師の残業の実態について、残業時間が多い傾向にある職場について以下の順番で説明していきます。
職場1:病院
職場2:調剤薬局
職場3:ドラッグストア
職場4:製薬会社
職場1:病院
病院勤務の薬剤師は、残業時間が多い傾向にあります。
院内処方箋の処理のみならず、病棟業務(入院患者の薬剤管理や服薬指導)があるためです。
また大きな病院では、チーム医療における会議への参加などもあります。
加えて、急性期型病院では、夜勤があります。日勤の日にも、業務終了後には、夜勤の薬剤師への引継ぎを行う必要があります。
そのため、病院勤務の薬剤師は忙しい傾向にあります。
職場2:調剤薬局
調剤薬局の薬剤師は、店舗に所属する薬剤師の人数次第では激務となる可能性があります。
店舗に薬剤師が自分一人しかおらず、1日40枚を超える処方箋を処理しなければならないような状況ですと、所定労働時間内に業務を終わらせることは難しいでしょう。
また、調剤薬局では、営業時間を門前のクリニックの営業時間と揃えて、昼に2~3時間程度の休憩時間を設けている場合があります。
そのため、事実上、薬局内に拘束されている時間が長いのに残業代の金額が少なくなってしまうことがあります。
職場3:ドラッグストア
ドラッグストア勤務の薬剤師は、残業時間が多い傾向にあります。
ドラッグストアに勤務する薬剤師は、店長として店舗の経営を任されることがよくあり、店舗のマネジメント業務があります。
また、ドラッグストアでは、医薬品だけではなく、日用品も販売していますので、一般的な商品知識が必要となります。
加えて、ドラッグストアでは、日曜日も営業をしていることが通常であるため、休日が不規則になりやすくなります。
そのため、ドラッグストア勤務の薬剤師は、店長を任された場合には激務となり、かつ、休日が不規則という特徴があります。
職場4:製薬会社
製薬会社勤務の薬剤師は、残業時間が多い傾向にあります。
商品開発に当たり、勉強会への参加、資料の作成、医師とのやり取りなどがあり、所定労働時間内のみでは、遂行が困難な業務が多いためです。
実は残業代が出る!よくある薬剤師のサービス残業
薬剤師が行う業務の中では、サービス残業が多くなっているものの、実は会社が残業代を支払わなければいけないものがいくつかあります。
例えば、以下のような業務です。
業務1:休憩時間中の業務
業務2:開店前や閉店後の業務
業務3:休日の業務
それでは、順番に説明していきます。
業務1:休憩時間中の業務
休憩時間中の業務についても、残業代を請求することができます。
休憩時間として労働時間から除外するためには、労働者が労働から解放されており、その時間を自由に利用できる必要があるためです。
忙しい場合には、十分な休憩時間をとることができずに、本来は休憩時間とされている時間帯についても、業務を行わざるを得ないことがありますよね。
例えば、薬剤師が1名しかいないような薬局では、休憩時間中であっても処方箋が持ち込まれれば対応する必要がありますので、その頻度などによっては労働時間と判断される可能性があります。
業務2:開店前や閉店後の業務
開店前や閉店後の業務についても、残業代を請求することができます。
薬局では、計測機械の準備、店舗内の清掃やミーティング(社内連絡や新規の薬の情報などの共有)、制服の着用などの作業があるため、30分~10分前には出勤する必要があります。
また、閉店後についても、在庫確認や翌日の調剤準備、分包機の清掃、営業時間中に記入しきれなかった薬歴の記入、業務報告などがある為、30分程度は帰ることが出来ません。
これらの開店前や閉店後の業務についても、労働時間に該当しますので、所定労働時間を超えている場合には残業代を支給する必要があります。
業務3:休日の業務
休日に出勤した場合の業務についても、残業代を請求することができます。
薬局によっては、門前のクリニックが営業していないような所定休日についても数時間程度の出勤を命じて、薬局を営業したことにする場合があります。
営業日を増やすことにより1日の平均処方箋取扱枚数減らすことで、配置しなければいけない薬剤師の人数を調整しようとすることがあるためです。
このように所定の休日であっても、業務を命じられる場合には、残業代を支給する必要があります。
ケース別!薬剤師の残業代
それでは、実際に薬剤師の方の残業代を計算してみましょう。
以下の4つのケースを例にして残業代の金額を紹介していきます。どの事例も月平均所定労働時間は160時間としています。
ケース1:年収700万円(月給58万円)・月10時間の残業
ケース2:年収700万円(月給58万円)・月20時間の残業
ケース3:年収600万円(月給50万円)・月10時間の残業
ケース4:年収600万円(月給50万円)・月20時間の残業
ケース1:年収700万円(月給58万円)・月10時間の残業
年収700万円(月給58万円)の方が月10時間の法定時間外残業をした場合を想定すると、1か月の残業代金額は以下のとおりとなります。
=4万5312円
そして、3年分の残業代の未払いがあるとすると、その金額は以下のとおりとなります。
=163万1232円
ケース2:年収700万円(月給58万円)・月20時間の残業
年収700万円(月給58万円)の方が月20時間の法定時間外残業をした場合を想定すると、1か月の残業代金額は以下のとおりとなります。
=9万0625円
そして、3年分の残業代の未払いがあるとすると、その金額は以下のとおりとなります。
=326万2500円
ケース3:年収600万円(月給50万円)・月10時間の残業
年収600万円(月給50万円)の方が月10時間の法定時間外残業をした場合を想定すると、1か月の残業代金額は以下のとおりとなります。
=3万9062円
そして、3年分の残業代の未払いがあるとすると、その金額は以下のとおりとなります。
=140万6232円
ケース4:年収600万円(月給50万円)・月20時間の残業
年収600万円(月給50万円)の方が月20時間の法定時間外残業をした場合を想定すると、1か月の残業代金額は以下のとおりとなります。
=7万8125円
そして、3年分の残業代の未払いがあるとすると、その金額は以下のとおりとなります。
=281万2500円
会社が薬剤師に残業代を払わない言い分3つ
会社によっては、実際には残業代を支払わなければいけない場合でも、何らかの言い分を述べて残業代の支払いを拒否することがあります。
会社が薬剤師の残業代を支払わない言い分としては、例えば、以下の3つがあります。
言い分1:店長や管理薬剤師だからとの言い分
言い分2:みなし残業代を支給しているとの言い分
言い分3:役員であるとの言い分
それぞれの言い分が正しいのかどうか、順番に説明していきます。
言い分1:店長や管理薬剤師だからとの言い分
会社が薬剤師に残業代を支払わない場合の言い分の1つ目は、「店長だから」又は「管理薬剤師だから」というものです。
しかし、店長や管理薬剤師に対しても、原則として、残業代を支払わなければいけません。
会社が時間外残業代と休日残業代の支給をしなくてもいいのは、対象となる薬剤師の方が労働基準法上の管理監督者に該当する場合に限られるからです。
管理監督者に該当するのは、以下の条件を満たす方とされており、とくに限定されています。
・経営者との一体性
・労働時間の裁量
・対価の正当性
会社が管理職として扱っている方の多くは、実際には「名ばかり管理職」であるというのが実情です。
例えば、店長にも残業代の支払いが必要であるとした有名な裁判例として、日本マクドナルド事件(東京地判平20年1月28日労判953号10頁)があります。
この事件では、ファーストフード店の店長について、社員の採用権限や経営方針への関与がなく、労働時間についての裁量もなかったこと等を考慮して、管理監督者には当たらないとしています。
管理職の残業代については詳しくは以下の記事で説明していますので読んでみてください
管理監督者とは何かについては、以下の動画でも詳しく解説しています。
言い分2:みなし残業代を支給しているとの言い分
会社が薬剤師に残業代を支払わない場合の言い分の2つ目は、みなし残業代を支給しているとの言い分です。
みなし残業代とは、実際に残業をするかどうかにかかわらず、一定の金額を残業代として支給するものです。
みなし残業代が有効とされるためには以下の条件を満たす必要があります。
・雇用契約書や就業規則等の根拠があること
・固定残業代の金額とそれ以外の金額が明確に区分できること
また、これらの条件を満たしている場合でも、会社はみなし残業代が想定する残業時間以上の残業が行われた場合には、その差額の残業代を支給する必要があります。
言い分3:役員であるとの言い分
会社が薬剤師に残業代を支払わない場合の言い分の3つ目は、役員であるとの言い分です。
会社によっては、薬剤師を取締役として登記して、雇用契約ではないので残業代は支払わないと述べてくることがあります。
しかし、取締役であっても、それが名目的なものにすぎず、会社の指揮命令のもと業務を行っている場合には、労働者として残業代を支給しなければいけません。
具体的には以下のような事項が考慮されます。
1 ①指揮監督関係の存在
⑴ 法令上の業務執行権限の有無・内容
⑵ 取締役としての業務遂行の有無・内容
⑶ 代表取締役からの指揮監督の有無・内容
⑷ 拘束性の有無・内容
⑸ 提供する労務の内容
2 ②報酬の労務対償性
⑴ 会計上、賃金として処理されているか、役員報酬として処理されているか
⑵ 一般の従業員との異同
⑶ 取締役就任時の支給額の増額の有無・程度
3 ③労働者性の判断を補強する要素
⑴ 取締役就任経緯等
⑵ 労働保険・社会保険上の取扱い
薬剤師の残業代請求で集めたい証拠
薬剤師の残業代請求を成功させるためには、しっかりと証拠を集めたうえで臨むことが重要です。
薬局によっては、タイムカードにより労働時間を管理しておらず、労働者が残業をしていたことを認めようとしないことがあります。
例えば、薬剤師の方が残業代請求をするためには、以下のような証拠を集めておきましょう。
①タイムカード
②帰宅の際に家族に送ったメールやLINEの履歴
③薬局の営業時間が記載されたWEBページ
④開店前や閉店後の業務を記したマニュアル等
⑤労働時間のメモ
とくに薬剤師の方の残業代請求事件で準備しやすいのが②の帰宅の際に家族に送ったメールやLINEの履歴です。
薬局を出る際に「今から帰宅する」旨を家族に連絡することを習慣化するだけで強力な証拠となります。
また、調剤薬局などに勤務している方は、お昼休みに一度自宅に帰宅する方もいるでしょう。昼休みに帰宅する際にも、同様の連絡をしておくことで、休憩時間を把握することも可能となります。
薬剤師が残業代を請求する手順
残業代の請求手順は以下のとおりです。
STEP1:通知の送付
STEP2:残業代の計算
STEP3:交渉
STEP4:労働審判
STEP5:訴訟
残業代請求の方法・手順については、以下の動画でも詳しく解説しています。
STEP1:通知の送付
残業代を請求するためには、内容証明郵便により、会社に通知書を送付することになります。
理由は以下の2つです。
・時効を一時的に止めるため
・資料の開示を請求するため
具体的には、以下のような通知書を送付することが多いです。
※御通知のダウンロードはこちら
※こちらのリンクをクリックしていただくと、御通知のテンプレが表示されます。
表示されたDocumentの「ファイル」→「コピーを作成」を選択していただくと編集できるようになりますので、ぜひご活用下さい。
STEP2:残業代の計算
会社から資料が開示されたら、それをもとに残業代を計算することになります。
残業代の計算方法については、以下の記事で詳しく解説しています。
STEP3:交渉
残業代の金額を計算したら、その金額を支払うように会社との間で交渉することになります。
交渉を行う方法については、文書でやり取りする方法、電話でやり取りする方法、直接会って話をする方法など様々です。相手方の対応等を踏まえて、どの方法が適切かを判断することになります。
残業代の計算方法や金額を会社に伝えると、会社から回答があり、争点が明確になりますので、折り合いがつくかどうかを協議することになります。
STEP4:労働審判
話し合いでの解決が難しい場合には、労働審判などの裁判所を用いた手続きを検討することになります。
労働審判というのは、全3回の期日で調停を目指すものであり、調停が成立しない場合には裁判所が一時的な判断を下すものです。
労働審判を経ずに訴訟を申し立てることもできます。
労働審判とはどのような制度かについては、以下の動画でも詳しく解説しています。
STEP5:訴訟
交渉や労働審判での解決が難しい場合には、最終的に、訴訟を申し立てることになります。
訴訟は、期日の回数の制限などは特にありません。1か月に1回程度の頻度で期日が入ることになり、交互に主張を繰り返していくことになります。解決まで1年程度を要することもあります。
残業代の請求方法については、以下の記事で詳しく解説しています。
薬剤師の残業代請求はリバティ・ベル法律事務所にお任せ!
薬剤師の残業代請求は是非リバティ・ベル法律事務所にお任せください。
薬剤師の残業代請求については、その業務の実態の理解したうえで、適切に主張を行っていく必要があります。
また、残業代請求については、管理監督者性や労働時間制、みなし残業代など多数の争点が生じ、交渉力の格差が獲得金額に大きく影響してきます。
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まとめ
以上のとおり、今回は、薬剤師の残業時間や残業代について、詳しく解説しました。
この記事の要点を簡単に整理すると以下のとおりです。
・薬剤師の残業時間の平均は月12.6時間とされています。
・薬剤師が行う以下のような業務には、残業代を支払わなければいけません。
業務1:休憩時間中の業務
業務2:開店前や閉店後の業務
業務3:休日の業務
・会社が薬剤師の残業代を支払わない言い分としては、例えば、以下の3つがあります。
言い分1:店長や管理薬剤師だからとの言い分
言い分2:みなし残業代を支給しているとの言い分
言い分3:役員であるとの言い分
・薬剤師の方が残業代請求をするためには、以下のような証拠を集めておきましょう。
①タイムカード
②帰宅の際に家族に送ったメールやLINEの履歴
③薬局の営業時間が記載されたWEBページ
④開店前や閉店後の業務を記したマニュアル等
⑤労働時間のメモ
この記事が残業に悩んでいる薬剤師の方の助けになれば幸いです。
以下の記事も参考になるはずですので読んでみてください。