会社から退職勧奨をされたものの退職の条件などが記載された書面が交付されずに悩んでいませんか?
退職勧奨の際に退職勧奨通知書が交付されないことも珍しくありません。
なぜなら、会社が退職勧奨通知書を交付することは法律上義務づけられていませんし、退職の条件についてもあなたの考えを聞いてから決めたいと考えていることが多いためです。
会社から退職勧奨通知書が交付されない場合に、これをもらうべきかどうかは事案により異なります。例えば、以下の場合には、退職勧奨通知書をもらったほうがいいでしょう。
・条件を確認してから退職勧奨に応じるかを決めたい場合
・解雇なのか退職勧奨なのか不明確な場合
退職勧奨通知書をもらう方法は簡単です。会社に対して書面で具体的な条件を示してもらえなければ検討できないと伝えればいいのです。
ただし、退職勧奨通知書をもらう場合には、注意すべき点や確認すべき点があります。
実際、退職勧奨の際に書面の内容を確認せずに署名押印をしてしまったという相談がよくあります。あなたが内容をよく確認せずに署名押印してしまったがために、その後、退職を争うことができなくなってしまうケースもあるのです。
そのため、退職勧奨通知書の意味をよく理解して対処することが重要です。
今回は、退職勧奨通知書を「もらうメリット」や「もらい方」について解説していきます。
具体的には、以下の流れで説明していきます。
この記事を読めば退職勧奨通知書が交付されない場合にどのように対処すればいいかがわかるはずです。
目次
退職勧奨通知書とは【ひな型付き】
退職勧奨通知書とは、退職を促す旨及び退職の条件等を記載した書面です。会社が労働者に対して交付します。退職勧告通知書と呼ばれることもあります。
例えば、以下のような書面です。定型的な書式があまりないため、会社ごとに内容は異なります。
退職勧奨の理由としては、例えば、能力不足や素行不良、業務命令違反、経営上の必要などがあります。
これに対して、解雇予告通知書というものもありますが、これは退職勧奨通知書とは意味合いが大きく異なります。
解雇予告通知書は、予告期間満了をもってあなたを解雇するものであり、あなたの意思にかかわらず一方的に退職させるものです。
解雇予告通知書については、以下の記事で詳しく解説しています。
退職勧奨通知書の交付は義務ではない
退職勧奨通知書を交付することは会社の義務ではありません。
退職勧奨通知書について定めた法律上の条文はないのです。
実際、退職勧奨については口頭で行い、特に通知書は交付しない会社も多いです。退職勧奨通知書を交付しない会社に何か落ち度があるわけではありません。
会社によっては、退職日や退職理由、特別退職金については、労働者の話を聞かなければ決めることができないと考えていることがあります。この場合、まずは口頭で「退職してほしい」との意向だけが伝えられます。
これに対して、会社によっては、やり取りを明確にしておきたいと考えていることもあります。この場合、退職勧奨通知書が交付されることがあります。
そのため、退職勧奨通知書というのは、義務はないものの会社が便宜上交付しているものなのです。
退職勧奨通知書はもらった方がいい?
会社から退職勧奨通知書が交付されていない場合に、これをもらったほうがいいかどうかは事案により異なります。
あなたが会社から退職勧奨通知書をもらった方がいい場合としては、例えば以下の2つのケースがあります。
・条件を確認してから退職勧奨に応じるかを決めたい場合
・解雇なのか退職勧奨なのか不明確な場合
これに対して、退職勧奨であることが明確であり、かつ、断固としてこれに応じるつもりがないのであれば、あえて退職勧奨通知書をもらう必要はないでしょう。
執拗に退職勧奨が繰り返された場合にその証拠を残しておけば足ります。
退職勧奨が違法な場合については以下の記事で詳しく解説しています。
それでは、退職勧奨通知書をもらった方がいいケースについて、それぞれ説明していきます。
条件を確認してから退職勧奨に応じるかを決めたい場合
退職勧奨通知書をもらった方がいいケースの1つ目は、条件を確認してから退職勧奨に応じるかを決めたい場合です。
会社から口頭で退職条件について伝えられても不明確ですし、あなたの認識と会社の認識に齟齬が生じる可能性があります。
そこで、退職条件通知書をもらうことで、退職条件についてのやり取りを明確にすることができます。
実際、書面により交付を受ければ、それを持って専門家に相談することもできますし、検討する上でも便宜となります。
なお、具体的な退職の条件を確認したいという目的は、「退職合意書(案)」をもらうことでも達成することができます。
退職合意書(案)というのは、あなたが退職勧奨に応じた場合に署名押印することになる合意書の案文です。
会社が考えている退職の条件として、退職勧奨の際に交付されることがあります。
例えば、以下のようなものです。
解雇なのか退職勧奨なのか不明確な場合
退職勧奨通知書をもらった方がいいケースの2つ目は、解雇なのか退職勧奨なのか不明確な場合です。
この場合には、会社の意図を書面で明確にしてもらった方がいいでしょう。
例えば、「明日から来なくていい」などと言われた場合には、法律関係が不明確になる場合がありますので、書面により会社の意図を明らかにしてもらいましょう。
「明日から来なくていい」と言われ場合の法律関係については、以下の記事で詳しく解説しています。
退職勧奨通知書のもらい方
退職勧奨通知書をもらう方法は簡単です。
会社に対して、例えば以下のように伝えればいいのです。
例1:「書面で具体的な条件を示してもらえなければ検討できない」
例2:「やり取りを明確にするために書面で交付してほしい」
会社は書面で具体的な条件を交付することに抵抗する場合もあります。
確かに、会社は退職勧奨通知書を交付する義務はありませんので、これを交付することを強制することはできません。
しかし、同様に、あなた自身が退職勧奨に応じるかどうかも自由ですので、あなたは不明確な条件では退職勧奨に応じることができないと言って、退職勧奨を断ることもできるのです。
なお、退職勧奨通知書をもらう場合に会社から署名押印を求められることがあります。
多くの場合は受領したことについての確認ですが、あなたに不利益な事項が記載されている可能性もあるため、その場で署名押印をすることはやめましょう。
あなたは、退職勧奨通知書をもらっても、受領書に署名押印をする義務はありません。
書面への署名押印が必要な場合には、一度持ち帰り弁護士に相談したいと回答するべきです。
会社から「受領を拒否するということか?」と言われたら、「署名押印が必要な場合には念のため専門家に相談したいとの趣旨です。」と答えれば足ります。
退職勧奨通知書をもらった場合の確認事項5つ
会社から退職勧奨通知書をもらった場合には、確認すべき事項がいくつかあります。
具体的には、以下の5つの事項を確認するようにしましょう。
確認事項1:退職日
確認事項2:特別退職金額
確認事項3:会社都合か自己都合か
確認事項4:有給休暇の残日数
確認事項5:未清算の債権の有無
確認事項1:退職日を確認
退職勧奨通知書をもらった場合の確認事項の1つ目は、退職日です。
あなたは、会社を退職した日以降は、会社からお給料をもらえなくなります。それを踏まえて、退職日が問題ないかを確認しましょう。
また、再就職との関係で何年間勤務していたかということが重視される場合もあります。そのため、その業界の就職事情なども考慮しましょう。
確認事項2:特別退職金額
退職勧奨通知書をもらった場合の確認事項の2つ目は、特別退職金額です。
特別退職金とは、あなたが退職勧奨に応じることにより、通常の退職金とは別に支給されるものです。
特別退職金をもらうことができれば、再就職するまでの間の生活資金とすることができます。
そのため、再就職をするまでにどのくらいの期間が必要かを踏まえて、生活資金として十分かを検討しましょう。
退職勧奨の解決金の相場については、以下の記事で詳しく解説しています。
確認事項3:会社都合か自己都合か
退職勧奨通知書をもらった場合の確認事項の3つ目は、会社都合か自己都合かです。
退職勧奨通知書に記載されていない場合も多いので会社に確認してみましょう。
まず、自己都合退職と会社都合退職では、以下のとおり、失業保険の給付日数が異なります。
また、自己都合退職では、失業保険を受給するまでに2~3か月の待機期間があり、会社都合退職に比べて、受給できるまでに時間がかかります。
そのため、会社都合退職の方が、労働者にとっては有利なことが多いです。ただし、再就職の際に退職理由の説明に困ることもありますので、それを踏まえてどちらが良いかを検討します。
退職勧奨と会社都合退職については、以下の記事で詳しく解説しています。
会社都合退職については、以下の動画でも詳しく解説しています。
確認事項4:有給休暇の残日数
退職勧奨通知書をもらった場合の確認事項の4つ目は、有給休暇の残日数です。
退職勧奨通知書には記載されていないので、自分で確認する必要があります。
労働基準法上の勤続年数と発生する有給休暇の日数は、以下のとおりです。
ただし、有給休暇には2年の消滅時効がありますので、繰り越し分も含めて最高で保有できる日数は40日までです。
会社によっては、有給の残日数に応じて手当を支給する制度が存在することもありますが、そのような会社は多くありません。
そのため、有給休暇の残日数が多い場合には、これを退職日までに消化できるかも検討しましょう。
退職時の有給休暇の買い取りについては、以下の動画でも詳しく解説しています。
確認事項5:未清算の債権の有無
退職勧奨通知書をもらった場合の確認事項の5つ目は、未清算の債権の有無です。
退職勧奨に応じる際に退職合意書を作成する場合には、会社とあなたのいずれも債権債務を有していないことを確認する旨の清算条項が入れられることが多いです。
清算条項がある場合には、あなたは会社に対して、何らかの債権を有していてもそれを請求することができなくなる可能性があります。
退職勧奨に応じる前に、例えば、会社に対して未払いの残業代債権を有していないかなどを確認しておきましょう。
以下の残業代チェッカーを活用してみてください。
退職勧奨をされた場合には弁護士に相談しよう!
退職勧奨をされた場合には、弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士に相談すれば、あなたの意向を踏まえて、どのような方針で対応するべきか助言してもらうことができます。
また、退職勧奨通知書がある場合には、それを確認した上でその条件が妥当なのかも検討してもらうことができます。
弁護士に依頼した場合には、会社との煩わしいやり取りを全て丸投げすることができます。つまり、あなたは会社との間で交渉をしなくて済むのです。
そのため、退職勧奨をされた場合には、弁護士にすることがおすすめです。
まとめ
以上のとおり、今回は、退職勧奨通知書を「もらうメリット」や「もらい方」について解説しました。
この記事の要点を簡単にまとめると以下のとおりです。
・退職勧奨通知書を交付することは会社の義務ではありません。
・あなたが会社に退職勧奨通知書をもらった方がいい場合としては、例えば①条件を確認してから退職勧奨に応じるかを決めたい場合、②解雇なのか退職勧奨なのか不明確な場合です。
・退職勧奨通知書をもらうには、「書面で具体的な条件を示してもらえなければ検討できない」又は「やり取りを明確にするために書面で交付してほしい」と回答するのがいいでしょう。
この記事が退職勧奨通知書の不交付に悩んでいる方の助けになれば幸いです。
以下の記事も参考になるはずですので読んでみてください。
退職勧奨された場合のNG行動と正しい対処法は、以下の動画でも詳しく解説しています。